ちなみに前回は文字数が少なかったので、今回はその分多めにしたのは内緒の話(決してバレてはいけないという、自分との約束)
それは多分、3年ぐらい前のこと。
偶々、庭を通りかかった時だった。
「ねぇ、お兄ちゃん。これ、どうやれば倒せるの?」
ある時、模擬戦用の人形を指し示して、年が10も離れた妹がそう聞いてきた事があった。
「それかぁ、どうやってたかなぁ。思い出せないから他の人に聞いてよ」
「いーやー!これ倒すのぉ!これがいいのっ!」
「だから他に聞きなって」
「お兄ちゃんじゃなきゃ、やなのぉ!」
“面倒くさい”、その一心で断ろうとしていた。
当時の自分は、大抵の事は何でも出来たから、特定の悩みだとか、そんなのとは縁がなかった。
だからかな、人が悩んでいるのを見ても、特に何とも思わなかったんだ。
それは、相手が妹でも変わらない。
その日も、いつもと同じように断ろうとした。
それなのに、その妹はこっちの事情もお構いなしに、いつもあとを付いてきて同じことをしたがって、それでいつも聞いてきていた。
「・・・・他に聞きなっての」
うちには何人か門下生たちがいたから、いつもみたいに押し付けようと考えていた・・・・のだが。
「いーやーなーのっ!」
「・・・・・」
「やーなーのー!・・・・うっ、うぅ・・・ぐすっ、ひっく」
この日はそれが特に酷くて、流石に自分も限界だった。
「・・・何でいつもついてくるのさ。何で、俺なの」
ふと、そんな言葉が口をついて出た。
「・・・えっ、うぁっ!?ぐすっ・・・・ひぐっ」
それでも泣き続ける妹に、僕はその理由を尋ねた。
「・・・・だって、だってぇ。お兄ちゃん、いつも一人でっ・・・・つまんなそうで」
「・・・・」
「だから・・・わたしが・・・ぐす、いれば笑って・・・ぐす、くれるかなって」
不器用な・・・・・いやそれは僕の方か。
彼女は自分より10も年下なのだ。
そんな子に“察しろ”は無理というものだろう。
「じゃあ・・・・一回、やってるトコ見せてよ」
「・・・・・ふぇ?」
「教えるにはまず紗奈がやってるところ見ないとわかんないでしょ。だから見せてよ」
「・・・うん!」
紗奈は笑顔でそう答えると、すぐに木刀を構えて人形に向き直った。
ここで1つ説明しよう。
確かに“模擬戦用”とは言ったが、実はうちの庭にある人形、七星剣舞祭に出場した選手の動きをトレースして行動するハイテクマシンなのである。
数秒間一定の範囲に居続けると戦闘態勢に入るのである。
一体誰がそんなキツイ設定にしたかは知らないけど、唯一の救いは難易度設定ができることだろう。
「えいっ!・・・・・ぐあっ!?」
紗奈は下から斬り上げを狙うも容易に打ち返されてしまう。
「せいっ!・・・・・あっ!?」
しかし紗奈も打ち返された勢いを利用してそのまま一回転し再び斬りかかる・・・・が、これは避けられてしまった。
「たぁっ!・・・・・・わきゃっ!?」
あれから暫く経つも一向に変わる様子は見られない。
むしろ、紗奈が押されっぱなしとなっている。
おかしい。
紗奈の年齢・訓練レベルなら『易しい・普通・ちょいムズ・ムズい・激ムズ』の5段階で易しい〜普通位だろう。
しかも紗奈が“見てほしい”と言うなら、設定はちょいムズが妥当だろう。
そこでふと思ったことがある。
“本当に設定レベルが適切なのか”と。
杞憂なら別に構わないが、もし違ったなら最悪命に関わる。
なにせ、激ムズはエリアから出ない限り、延々と攻めてくる様になっているのだから。
「・・・紗奈、ちょいストップ。一旦エリアから出て」
「せあぁっ!・・・・ふぇ?で、でもまだ・・・・」
「約束は守るから、だから今はエリアから出て。早く!」
「ぅ・・・・・うん」
最初は戸惑っていた紗奈だったが、なんとか聞き入れてくれた。
そして、紗奈がエリアから出たことで、人形はようやく止まった。
人形が止まったのを確認した俺は、人形の背中にある設定レベルを確認する。
設定レベルは激ムズ。
つまり、俺の勘は当たっていた事になる。
「・・・・ねぇ紗奈、これ誰に設定してもらった?」
「ふぇ?兄弟子たちだけど・・・・・それがどうかしたの?」
その言葉を聞い途端、俺の足はとっくに動いていた。
「・・・ホントごめん。絶対に約束守るから、明日にでも」
「お兄ちゃんっ・・・・・!?」
向かった先は道場の外。
そこでは、二人の門下生が笑っていた。
『しかし、オメェはよくやるよなぁ・・・・あんなガキに』
『だってよぉ、生意気じゃねぇか。俺達よりも年下のくせして、先に上手くなろうなんて』
『だけどよ、何も最高難易度にしなくてもいいんじゃねぇか?ありゃあ、ガキの命に関わるって』
『おいおい、今更なに言ってやがる。第一お前、この前の練習で終始押されっぱなしで、師匠に絞られてイラついてたじゃねぇかよ』
『は、はぁ!?アレは・・・・えっと、そうハンデ!ハンデくれてやったんだよ!?』
『だから、その仕返ししてやったんじゃん?それに、もしアイツが仮に怪我でもしたら、師匠に怒られんのはアイツ。それで凹んでくれりゃあ、多少は気が済むってモンだろ?』
『っハハハ!ちげぇねぇ!』
そうあの門下生たちは紗奈が訓練を始めてやる前から入門していた。
が、マトモに訓練することもなく、普段ダラダラとしているだけで、そのくせ、紗奈が少しでも上達すると僻んで難癖をつけるのだ。
しかも、つい先日、調子に乗ってハンデつけて紗奈につ指導という名目で勝負を吹っかけたが、ボロボロに負け、
つまるところ、今回のことはあの二人の憂さ晴らしというヤツだろう。
「・・・・くだらない」
そう言い捨てて、俺は二人に近づいた。
『あぁ?ったく誰だって・・・・・おおっとこれは春澄坊っちゃんじゃあないかスか。俺らに何かご用でも?』
『おいおい、もう坊っちゃんはやめといてやれよ。もうそんな年齢じゃねぇだろう』
『おおっとぉ!そういやぁそうでしたね』
そうは言いつつも、笑っている。
アンタらホントに僕よりも年上なのかよ。
「・・・・アンタらか」
『はぁ!?よく聞こえませんねぇ』
『もっと声張って言ってもらっていいすかぁ?』
「アンタらがアレを設定したのかって、そう聞いてんの。別に訓練のために厳しくすんのは構いやしないけどさ、真面目に取り組んでる奴をストレス発散の為だけに潰すのは違うって、そう言ってんの。負けたのだってアンタらの練習不足とアイツの練習の成果が現れた結果だろうに」
『はぁ?とんだ言いがかりは止してくれよ』
『そうそう。第一俺らはずっとここにいたっての』
まだ言うか。
しかし、こいつらは“言いがかり”といったのだ。
特に言及した訳でもないのに、だ。
つまり、それは自分がやったと言っている様なものだ。
「さっき“何かご用でも”って、そう言ったよな?」
『はぁ?んだよ急に話変えやがって。いや、確かに言ったけどよぉ』
『まさか、俺たちに何か頼むつもりだったんスかぁ?』
『ハハッ!?だったら、頼み方ってモンがあるよなぁ?』
「別に頼むって程じゃない。ちょっとした憂さ晴らしに付き合ってもらうって話さ」
『はぁ?訳わかんねえっつの』
『まぁまぁ、きっとそういうお年頃なんだろうよ。何も言わず付き合ってやるのも、年上の余裕ってやつだろ』
『ハッハァ!物好きなやつだな。って訳だ坊っちゃん、その話乗ってやるよ。んで、俺ら二人に何頼もうってんだよ?』
この反応は少し予想外だったが、まぁいいか。
どのみち乗ってもらうつもりだったわけだから。
「内容は至ってシンプル。俺と対戦して欲しい」
『はぁ!?』
「憂さ晴らしだよ。アンタらはこの前紗奈にやられたときの八つ当たりになる。ほら、簡単でしょ?」
その言葉を聞いた二人の雰囲気は少し変わった。
『ほっほぉ!?』
『嬉しい提案だけどよ。俺らにもメリットとかないんじゃやる気も出ねぇっての。そこんところ、もうちっと考え足らんくね?』
「あっれぇ!?もしかして、自信ないんですかぁ?なるほどなるほどぉ年下相手に怖じ気ついてるんですね。でもそれはバレたくないから文句言ってる、と」
『・・・・・オイ』
『流石に言い過ぎじゃねぇの?もし今撤回したらやり過ぎないでいてやるよ』
「あぁ、ハンデ付けるの忘れてました。いやぁスンマセン。ハンデはそうだなぁ・・・・俺は徒手でやるってどうです?勿論兄弟子たちは二人同時にどうぞ。あ、木刀も忘れないで下さいね」
『・・・・・ッ!』
『ざけんなよ!』
「あ、今からスタートですからね。道場に上がるのも面倒なんで、このままココでやりましょうか」
こうして俺の憂さ晴らしは始まった。
『うらぁ!』
『・・・・・ッ!』
「・・・・・・・・」
頭を狙った大振りと、腹部を狙った突き。ダラダラしているとはいえ、流石に訓練しているだけあって鋭いが、捌けない程じゃあないから、左右にステップして躱す。
『ってめ!』
『・・・・ナメんなッ!』
次は横からの斬りつけと、斜め下からの斬り上げ。
これはバックステップで避ける。
結果として、二本の木刀は互いに空を切る事となった。
開始から二十分後。
『ぜぇ・・・ぜぇ・・くっ・・・・そっ!』
『・・・・はぁ、はぁ・・・・』
「もう終わり・・・ですか?」
息の上がっている二人とは対象的に物足りさを感じる自分。
「まぁ準備運動にはなったんでソコは有り難いですかね。じゃあ、今度は僕から行きますよっと!」
この二人も気は済んだだろう。
今度はこっちの憂さ晴らしに付き合ってよね。
『も、もういいだろ!?悪かったって!』
『だから、な!?もう勘弁してくれよ!ホントに悪かったって!もう絡まないからよぉ!?』
さっきよりも激しく息を切らせて、その上、座り込んでいた。
「・・・・・約束、守って下さいね?」
憂さ晴らしを終えた時、太陽は沈みかけていた。
悔しそうに座り込む二人を尻目に、俺はその場を離れた。
「・・・・・」
流石にもういないだろう。
面倒だけど、明日にでも紗奈のところに向かうか。
そう思っていると。
「・・・・・くぅ」
縁側で座りながら寝ていた。
ずっと待っていたのだろう、既にうたた寝というレベルではなかった。
静かに隣に座り前に倒れそうになっている頭を自分の肩に乗せる。
「・・・・・ったく、頼んでもないのに待たれてて、そんで怪我されても困るっての」
「・・・・ぅ」
起こしたか、そう思って顔を覗くも、まだ起きてはいなかった。
周りは自分よりも年上で、唯一の年が近い奴と言えば、俺だけ。
しかし、その僕も普段は訓練に出ることはない。
となれば、自分だけで訓練する他ないだろう。
「年下ってだけで甘く見られない様にするには、そりゃあ必死に訓練して示すしかない・・・・・よなぁ」
それから更に時間が経って。
辺りはすっかり暗くなっていた。
さて、そろそろ起こすか。
「・・・・んで、いつまで寝たフリしてるつもりでいんの?」
「・・・なんのこと?」
「返事した時点で自覚してんじゃん?」
そう返すと、紗奈はむくりと体を起こした。
「ふわぁ・・・・それじゃ、今からお願いね」
「マジか・・・・まぁ、待たせた訳だからな」
そう言って、紗奈は木刀を構えて、人形の前に立った。
「んじゃ、設定するから。あ、難易度はどうすんの?」
「さっきと同じがいい」
「・・・つまり、激ムズか」
「そうなの!」
「背伸びし過ぎだっつの・・・・ほい、普通ね」
「・・・ぷぅ」
「文句なら普通レベルに圧勝してからな・・・・ほいよ、スタートっと」
拗ねる紗奈を尻目に俺は人形を起動した。
「・・・もう!」
膨れながら紗奈は右方向からの袈裟斬りを仕掛けた。設定レベルが違うから人形は今度は受けに入った。
「なっ!?」
「受けられたらどうするか考える。避けられたらそのまま動けるけど、受けられたら一旦動きが止まるんだから、その状態で何か出来ることに繋げるの」
「ちょっ、いきなり、そんなに!?」
驚いた紗奈は人形から離れた。
「力押しで行けるならベストだけど、まぁそんなに上手くいけば苦労はしないよ。それと、さっきも思ったけど、紗奈って踏み込みというか初撃が速いの。それは武器になるからもう少し活かしやすい得物を使ってみなよ。ほらコレ」
距離を取ったのをいいことに、偶々持っていたナイフ型の木刀を投げた。
「あと、手首柔らかいだろ。なんならそれも活かせば楽できるよ。見にくい角度から攻めたりとかね。敢えて下から攻め込むことで相手の対応を少しでも遅れさせるの。人って自分に対する斜め下からの動きに、なかなか対応出来ないからソレを狙うのは有効かな」
「え・・・・えぇっ!?」
「もう・・・・無理」
「は〜い、終〜了〜」
開始から一時間くらい経った頃だろうか。
紗奈はギブアップを宣言したのを確認して人形を停止させた。
「最初は全然だったけど、最後ら辺には何回か成功してるから、まぁいいんじゃないかな。ただ闇雲に打ち込むよりもこんな感じで自分の特性を活かして訓練する方が遥かに効率がいいよ。・・・・・とはいえ、そう滅多に自分じゃ気付けないから早く気づくためには誰かに見てもらうしかないけどね。あ、今日のは気まぐれだから」
「・・・・つっかれたぁ」
「普段と違う動き方すれば、そりゃあそうなるよね」
「ねぇお兄ちゃん」
「・・・・ん」
「お兄ちゃんはあの人形で訓練とか、しないの?」
「するも何も、アレ最高難易度終わってるし」
「・・・・・」
「・・・・くぅ」
「まぁ大抵の事は出来るからね仕方ないね。人には得手不得手があんだから、そんなに悔しがる事ないぞ」
「・・・・泣くよ?」
「ご自由に・・・・存外タフだね」
そう言って俺は自分の部屋に戻るために足を動かした。
「・・・・あ、そだ。俺、暫くこの家出るから」
「・・・・・え?」
「自分に欠けてるモノ、今確信した。ちょいと捜し物に出かけるから」
「・・・・」
呆然と立ち尽くす紗奈を置いて、部屋に戻った。
回想はもう少し続きますので、よろしくおねがいします。
それではまた、次回。
・・・・・・明けましておめでとうございます。(なお、現在は2月下旬だということを忘れたわけではないです)
新年初投稿だから間違ってはいないでしょう(暴論)