今回の話実は一話で終わらせる事もできましたが、訳あって前編後編とに分けることにしました。
「ちっ、下らねぇ!おい、ホントにあいつがターゲットで合ってんだろうな。違ったら容赦しねぇよ?」
「はっ隊長、間違いありません!」
気づいたときには今の組織で育てられてきた。
小せぇ頃の記憶といえば最低限の衣食住に、常に死と隣合わせの訓練。
孤児院という体で活動している組織は、裏じゃ金のためならどんなこともやる。
つまるところ、任務のための駒を育てるのに都合がいいから孤児院を名乗っていただけだ。
正直、駒扱いされんのは気に入らねぇが、任務を果たせばそれ相応の報酬を回してくれるから従ってだけだし。
善悪の区別も出来やしない空っぽな俺が生きていくにはソレしかなかったから逃げようとは考えたことすらない。
特技といえば変装ぐらいなもんか。
そのまま、ただ任務を終えてはぼーっと生きていた時に一つお達しがきた。
曰く、ある男に関連施設の正体がバラされたから、組織にたどり着かれる前に消せって奴だ。
ったく、タダでさえ久々の休暇中に任務を押し付けられた時にはキレそうだったが、その上“隊長”だぁ?
気は進まないが生きていくには仕方ない。
組織が用意した情報を使って、それっぽい男を見つけて以降監視してきたが、んだよアレぁ。
ガキ相手に笑ってんぞ。
「ったく、気に入らねぇ!」
・・・・・なんで俺がイラついてんだよ?
嫉妬?
羨望?
憧憬?
どうでもいいが、アイツが笑顔で満ち足りてんのに、俺だけが振り回さんのはマジで気に入らねぇ。
「しかし、隊長!」
「ぁん?」
「どのように仕留めますか?」
はぁ?何コイツ、俺に責任押し付けようとしてんの?
どうせアレだろ、言い出した俺のせいにしようって考えてんだろ?
「んなもん、あのガキ諸共消せばいいだけ・・・・・待て」
ただ消すだけじゃつまんねぇ。
せっかくだ、ガキも利用すりゃあいいか。
「おいテメェら耳貸せ、せっかくの外だ。楽しく仕事して楽しむぞ。・・・・・いいな、ミスって俺の仕事増やすんじゃねぇぞ?」
「よろしいのでしょうか?“早急に”というのが、上からの指示なのですが」
なに文句タレてやがる、さっさと従えってのに。まぁいいや、俺が言いたいように、コイツラにも思うところがあんだろ。
「構いやしねぇよ。第一、一方的に『処理しろ』って言った割に何の情報も回さねぇんだ。そんくらい融通効いてくんなきゃやりようがねぇだろ?」
「それは・・・・そうですが」
「なら情報は自ら集めるしかねぇ。いいか?期限はねぇが、俺の我慢も長くはねぇ。わかったらさっさと集めてこい」
頷いた部下共は一斉に散っていく。今この場には俺一人だけになった。
俺の休暇を奪ったんだ、タダで楽にさせるのはつまんねえからよ。せいぜい楽しませてくれよ。
自分の口角が上がっていることに男は気づかなかった。
那澄との訓練で驚かされてから1週間ほど経過した、少し曇った日のことだった。
那澄と出会って長くはないが、まぁそれなりに経った。
最初こそ生きる意味を知らなかった彼女だが、今ではそんな印象も嘘かと思うくらい明るくなった。
(もういいんじゃないか?最初こそ放っておけなくて娘だ訓練だと接してきたが、彼女は一人でも生きていけるだろう。問題はいつ、それを伝えるかだ。出来ることなら喧嘩別れはしたくない。なるべく穏便に済ませるほうがいいだろう。それに、俺も探し物を見つけられてないしな。宛のない旅に彼女を連れて行く訳にもいかない。それに、紗奈のところに行った方が、歳が近いこともあって仲良く出来るだろう。何より、危険な事に巻き込みたくない)
テントから那澄が出てきて伸びをしながら口を開いた。
「んーぅ、ねぇお父さん、今日は何を教えてくれるの?」
「そうだな。でも訓練の前に提案があるんだ」
「何よ改まっちゃって、お父さんらしくない」
お父さん、今でこそ当たり前のように口にしてくれるが、最初の頃は酷かった。それこそ恥ずかしくて言えないなんてものではなかった。アンタ、ねぇ、ちょっと、どれも今からではまるで想像できない程に、酷いものだった。それが、時間が経つごとに照れながらも、お父さんと呼ぶようになり、今では特に気にする様子もなく呼んでくれるようになった。勿論それは喜ぶべき事だ。ようやく彼女が人を頼るということを選べるようにまで成長したのだから。
でも、だからこそ、今から告げる言葉が成長した彼女を傷つける。そう理解している。故に、この結論に至った自分の考えが許せない。
「なぁ、日本に、俺の妹に会ってみないか?」
「なぁにそれ、いきなりどうしたの?ひょっとして、次の訓練のため?」
自分の目的のために、彼女を預ける。そんな醜い俺の考えなど知る由もない那澄が笑顔で聞いてくる?
「・・・あぁ、そんなところかな」
かつてないほど言葉に詰まる。息が苦しい。他の選択肢が見つからない。那澄の顔を素直に見れない。
「いいわ、だってお父さんも一緒でしょう?だったら私は文句なんて言わないわ。それで、いつ行くの?準備だってしないとだから・・・・・・・・・」
「いや、那澄一人で、だ」
「・・・・・は?」
那澄の雰囲気が先ほどとは別のものになる。
「那澄一人だけで、日本に行ってもらう」
「じょ、冗談でしょ!?だって・・・・・」
「いいや、冗談なんかじゃないよ。そもそもの話、隠してて悪かったが、俺も用があって旅をしてる。宛もない旅だ。那澄にはキツイだろう。迷惑だってかけるし、何かあったとしても庇い切れる訳じゃない。危険な目に遭わせる事になる。それと比べれば日本はここよりも遥かに安全だ。なにより、妹なら歳も同じだから接しやすいだろう」
「・・・・」
「行き方がわからないなら、俺の伝手で安全に行けるように手配しよう。なに、皆いいやつだから困ることもないだろう」
「・・・・・んで」
「それに困ったやつ等だが、なんだかんだで頼りになる」
「・・・・・・なんで!」
那澄の声は、静かで、それでいてよく響く、そんな声だった。
立ち上がって、一枚の紙を見せる。
「なんだったら紹介状だって書いてある。ほら、これを見せれば・・・・・」
パシッと、一枚の紙が払われる。
それは今まさに、俺が那澄に渡そうとした紹介状だった。
ポツリ、ポツリと雨が降り始める。それは、何も持っていないままの自分の右手を静かに濡らしていく。
「那澄・・・・・」
顔を上げると、那澄の頬には涙が伝っていた。
「なんで泣くんだよ?安全に生活出来るんだぞ?安全に訓練できるんだよ?それなのに・・・・・」
右手に雨がどんどん振り続ける。いや、雨だけではない。那澄の涙も、彼女の頬から落ちてくる。
「降ってきたな。濡れる前にほら受け取って」
落ちた紙を拾って、もう一度彼女に差し出す。
「わからず屋!!どうして、どうしてわかってくれないの!?私は、私が本当に欲しいのは・・・・・・っ!」
しかし、彼女がそれを受け取ることはなかった。
否定し、それでいて尚自らの考えを口にしようとして、そして走っていってしまった。
「・・・那澄っ!?」
呼び止めるも、それだけだ。
彼女を追いかけようと、この体が動くことはなかった。
まるで、そんな自分を罰するかのように、雨が強くなり、この体に激しく打ち付ける。
何が間違っていたのだろう、なんて考えること自体が間違いだ。きっと彼女は自分も一緒だと思っていたのだ。それを俺は・・・。
そのまま突っ立っているとザッザッと草を踏む音聞こえてくきた。
「・・・・・・那澄?」
しかし、呼びかけに対して返ってきたのは彼女の声などではなく、ガチャガチャと無機質な音だった。
「はっ・・・・はぁ・・・・はぁっ」
どこまで走っただろう。胸が苦しい。足が重い。絡みつくように打ち付ける雨がうっとおしい。構うものか。私はそのまま森に入る。一際大きい木を見つけ、それによりかかりながら座り込む。
「どうして・・・・・あんなこと言っちゃったんだろう。もっと素直に、穏便に答えれたはずなのに」
わかってる。きっとお父さんは私に無事でいて欲しくてあぁ言ったんだ。先の見えない旅に巻き込みたくない、怪我してほしくない、そう思っての結果だったのに。それは嬉しい。だって心配だって言ってくれているのだから。・・・・・でも私は、“それでもついてきて。一緒に探してほしい”と、そう言って欲しかった。だって私にはお父さんしかいないから。生きていくための手段。安全に朝を迎えるための方法。
ふと、遠くでガサガサと草や枝を掻き分ける音が聞こえる。
困ったな、どんな顔して会えばいいのかわからないや。
「おーい、どこだー?」
声は次第に近づいてくる。
「おーい?返事を・・・・・・見つけた。良かった無事だったんだね、心配したんだよ?」
草木を掻き分け、座り込む私に手を差し伸べる。
「ぁ・・・・その・・・えっと」
まずは謝らなきゃ、そう思っていたのに、口を出たのは今にも消え入りそうな声だけだった。
「どうしたの?」
「自分で、立てるから」
いつまで素直になれない私は、謝ることすらできずにいる。
「そっか。じゃあ落ち着いて話をしよう」
急に、お父さんの雰囲気が変化した。いつまでも立とうとしない私に怒ったのか、恐る恐る顔を見上げるも、その顔は穏やかだった。
「実は、さっきまで捕まってたんだ」
何を言っているのか、理解できなかった。だってついさっきまで一緒にいたではないか。
「何、言ってるの?だって・・・・・・・」
「脱出したのは本当についさっきなんだ。というのも、ここ最近は変な奴らに狙われていてね。まぁ、原因は俺にあるんだけど。捕まったのは明け方だ。その時は君はまだ寝ていたし、連中も騒がれるのは嫌だったのか君を放置していたんだ。加えて俺が捕まったのをバレないように偽物で君を騙していたんだ」
「・・・・そんな」
「その偽物がいることすら今さっきまで知らなかった。君の身を案じて逃げ出したら、君と俺に変装した男がいたんだよ。急いで向かおうとしたんだけど、その前に君が走り出してしまったからね。後を追ってここまで来たんだ」
だからだろうか。普段のお父さんだったら決してあんなことは言わない。いつだって、私のためになることをしてくれる。つまり、さっき私を突き放したのは偽物だったから?
「でも、こうして伝えることができて良かった。さぁ行こう、偽物を消しに。手伝ってくれるかな?」
だったら、今こうして私の欲している言葉を話す方が本物なら、私が協力するべきは・・・・・。
私は立ち上がる。それを確認するとお父さんは森を出ようと歩いてく。見失わないように追いかける中で、私はふと違和感を感じた。
この森に入ってからお父さん、私のことを名前で呼んでない。普段は“那澄”って優しく呼んでくれるのに。
「ま、待って!」
「急がないと、あの偽物を始末できないからね。ゴメンよ、今だけはそれを認めることはできない」
歩くたび、私の足がテントに近づく程、お父さんの口調は厳しいものになっていく。
それほど、自分に化けていた事が許せないの?
「見えた・・・・・・ちっ!んだよぉ、もうちっと消耗させとけよなぁ。使えねぇ部下共が」
なに、今の声?まるで、いつもと全然違う。ナニカを根本から否定するかのような冷たい声。
「お、お父・・・・さん?」
「うん、どうかしたの?」
見上げても、その顔は笑顔のまま。まるで、貼り付けたかのような。
「ううん、なんでもないわ」
「そうか。・・・・・あそこに偽物がいるのは、見える?」
「えぇ」
お父さんの指し示す方に目を凝らすと、お父さんが、いや、お父さんの姿をした偽物が立っているのが確認できる。そして、その足元には同じ格好をした、ヘルメットの人が何人も倒れている。
「ねぇお父さん、あの倒れている人たちは?」
「あの人たちは、偽物を捕まえようとしていたみたいだね」
「・・・・・・・じゃあ、お父さんの仲間なの?」
「うぅん、ちょっと違うかな。あの人たちはどうやら別の所から来たんじゃないかな。調べたんだけど、あの偽物はどうやら他の国でも悪いことをしてたみたいなんだ。だからその罪を償わせようと、あのヘルメットの人たちは捕まえに来たんだけど、偽物に反撃されたようだね」
「・・・・そんな」
「そう、それは悪いことだ。で、俺の旅に出た目的はそんな悪いやつを捕まえることなんだ」
あの偽物こそが悪いやつ。お父さんの旅の目的。
「私も・・・・手伝うわ」
「・・・・いいのか?危険な事なんだよ?」
だって、アイツを捕まえることで、お父さんの目的が果たせるなら、そしてその後は再びお父さんと一緒にいることが叶うのなら・・・・・・・・
「お父さんを手伝いたいの」
「そっか。なら頼らせてもらおうかな」
「うん!」
私は喜んで、お父さんに協力するわ。
「・・・ったく、なんなんだコイツラ。
急に襲ってきたから何事かと思って、つい対応してしまった。今は動かないが、気絶しているだけだ。
正直なところ、心当たりはある。この国に来てすぐのことだ。何か探しものに関係する情報はないか、そんな気持ちで街をぶらついていた時、どうやらある組織が孤児院と称して集めた子を実験に使っている、という噂を耳にした。自分には関係のないことだ。いつものように割り切って、聞かなかったことにしよう。そう思っていたのに、ふと紗奈の顔が頭をよぎった。顔も知らない子たちが、あの日の妹のように虐げられるのかと思うと、居ても立っても居られなくなった。
すぐにその噂の詳細を聞いて、孤児院に向かった。
噂は、本当だった。人を人とも思わない扱い。倒れた子はまるで存在しないかのように扱い、残った子供だけを世話する。そして残った子たちの中でも、更に優秀だと判断した子供は、その施設の兵士として育てられていく。
見ていられなくて、放っておけなくて、それ以前にそんな行いをしていた奴らを許せなくて。その施設の正体を世に公表した。もちろん、実験されていた子どもたちを開放した上で、だ。
施設は封鎖、関わっていた奴らは捕まり、子どもたちは安全なところへ保護された。
でも、その行いをしていたのはその施設だけではなかった。他にも関連施設が存在していたのだ。しかし、それはつい最近になって知ったし、なにより那澄がいたから動くに動けなかった。
だから今、足元で気絶しているコイツ等はその関連施設が仕向けたのだろう。
こうなることはわかっていた。だからそれより先に那澄を日本に行かせようとしたのに・・・・・・・そうはならなかった。それどころか、泣かせてしまった。
「・・・・・なにやってんだか」
コイツ等みたいなのが他にもいるかもしれない。ひょっとしたら那澄を人質に取られているかもしれない。
そうなるよりも先に那澄を見つけなければ、そう思って足を動かそうとした時。正面から那澄がこっちに向かってきていた。
「那・・・・・澄?」
雨が酷いせいではっきりとは見えないが、那澄の隣に誰かがいる。あれは・・・・俺、なのか?
ちなみに前編後編に分けた理由ですが、ここだけの話、作者が後編書き終わるのが間に合わなかった・もうちょい楽したかったというのが主な理由です。というかほぼ全て(オイ)
読んでもらっている方には絶対に秘密ですよ!
それではまた次回。