幼馴染がVTuber始めたら友人Aちゃんと呼ばれるようになった件 作:すばう
きっかけはなんて事ない、些細なことだった。
小夜はデビュー配信開始から、順風満帆にVTuberの道を進んで行った。
やはり名が売れている事務所なだけあり、スタート時点からあれよあれよとチャンネル登録者数を増やし、どんどん有名になって行った。
明るく元気な全力系少女、鈴科リン。高校生、快活で周りからも人気が高いコミュ力お化け…と言った感じの、王道系VTuberだ。
それが恐ろしいほど小夜の型にハマり、1期生、2期生にも引けを取らない存在感を放っていた。
そんな彼女の配信の話題に、私の名前が出たのはいつだったか……。
「今日はマシュマロを食べていく配信ネ!いやぁ、皆たくさん送ってくれてありがとう☆でもクソマロは遠慮願うね!」
コメント 読まれて欲しい
コメント センシティブなの多かったんやろな…
コメント こんな清楚で明るい子にセンシティブなんてそんな
コメント お前が犯人か↑
マシュマロ……ラジオで言うふつおたみたいなものだ。ネットに匿名希望でその人が開設してる所にメッセージを送れる場所。
今やVTuberの鉄板配信ネタと言っても過言ではない。
リスナーから送られてくる様々な質問を読上げ、それに答えていく。
リンの回答にリスナーは面白おかしくコメントし、リンも楽しく反応し、雑談をおりまぜていく。
ふとそんな時、あるひとつのマシュマロが読まれた……そう、読まれてしまった……。
「こんリン!リンちゃんは2次スタ内の方達以外に仲のいい友達はいますか?中々学生生活の話題など聞かないので、おじちゃん心配です…と」
コメント 確かにリンちゃんから学生生活の話題とか、友達の話題聞かないね
コメント リアル学生ってのはわかってはいたが確かに
コメント 中の人はいない、良いね?
コメント アッハイ
「あー、そうだね…確かに話題に出したことは無かったね☆じゃあこれを機に話してもいいかなぁ…んー…あ、ちょっとごめんね!」
リンはそう言ってゴソゴソしだし、BGMを垂れ流しにしたまま声がなくなってしまった、ミュートをしたのだろう。
運営に許可取りにでも行ったのだろうか。だがそんな話題に許可は必要なのだろうか?
リアルな話をガッツリ話題に出してる2次スタライバーもいるし、何より小夜がそんなやばい素行であるわけでもなしーー
「は……?」
横に置いていたスマホの着信が鳴る…正確にはLINEだが…表示を確認すれば相手は絶賛配信中のあの馬鹿からであった。嫌な予感しかしない……。
何を考えてるんだこいつはと思いながら、仕方なく私は通話に出てやる。
自意識過剰かもしれないが、今待たせている数千の人達の楽しい時間を再開させるのは、私の手にかかっているかもしれない。
「……もしもし?あんた配信中でしょ、何やってんの」
「もしもし!あは、やっぱり今日も見ててくれた、あーちゃんさっすが!」
「あーはいはい流石流石…とりあえず要件を言いなさい。私は数千の人達を待たせてる事実に吐きそうよ」
「あーちゃんそんなにメンタルクソ雑魚だったっけ?」
「あんたVTuberやってから口悪くなったな???」
幼馴染の口からそんな言葉は聞きとうなかった…く、これもリスナーのせいだ、いい意味でも悪い意味でも染まりやすい子だから…信じてVTuberに送り出した幼馴染が染まってしまったってタイトルありそう。
「んで、用件は?」
「あーちゃんのお話していいっ?」
「あんたそんなもんに許可いると思ってんの?」
「だって学校で友達って言ったらあーちゃんしか居ないもん!てかあーちゃんのお話したい!」
「いや勝手にしなさいよ…私は構わないけど、運営さんに止められたらやめるでいいじゃない」
「あ、そっかっ。じゃあ話題に出しちゃおう!」
ぶつっ……そう言って通話がきれ、数十秒後、配信画面から声が聞こえてきた。
コメント欄を見れば心配した声や、親フラしたのかみたいな話が飛び交っていた。
「んーんー!ちょっとね、許可取ってたー☆」
コメント 運営に?
コメント 許可制だったっけ、2次スタ
コメント 今までそんなこと無かったような
コメント 許可制だったら十六夜ちゃんの話とか絶対許可おりんやろ
コメント せやな
「運営さんじゃなく、私の幼馴染にだよ!」
コメント 何を許可取りに言ったんでしょうねぇ…
コメント まさか彼氏……?
コメント 炎上不可避
コメント まてまて、彼女かもしれないだろ?
コメント キマシタワー
「か、かか、彼女じゃないよー!女の子なのは間違いないけど…うん、1番の親友にね、話題に出していいか許可取ったんダ☆」
コメントも頭にハテナが浮いている状態に。そらそうよ…何故友達の話題に本人から許可が必要なのか甚だ疑問だろう。
誰だってそう思う、私だってそう思う。
「うへへへ…友達のAちゃんはね、とっても優しくて可愛い子なんだよ〜☆私が2次スタに受かった時、真っ先に報告しちゃったっ」
未だ疑問の渦中にいるリスナー達を置き去りにして、リンは話を進める。
「初めてできた友達でねっ、いつも私に何かあったりしたらすぐ気づいてくれるんだヨっ」
コメント 未だこんなに嬉しそうに話すリンちゃんを見た事があっただろうか
コメント キマシ?
コメント 多分キマシ
コメント 声から分かる、めちゃくちゃ好きなんやろな
「うん!Aちゃん大好きっ、お母さんよりお母さんぽくて、何かあったら親より先に叱られちゃったりするけド…うへへ…」
コメント リンちゃんやらかしエピソード豊富だからなぁ
桃江梓 この前コラボ開始直前に飲み物こぼしたり忘れ物してたよ(ボソ)
コメント 同期からのタレコミww
コメント モモアズもよう見とる
「あ!それ言っちゃダメ!もー…Aちゃんも見てるんだからバレたらまた怒られちゃう〜…」
ほ〜…そんな事があったのか。
いや、この年で流石にそれはどうかとは思うが、常日頃から気をつけなさいとは注意してるのに、どうして直らないんだか…。
ってか、私の話めちゃくちゃ尺取ってない?
「本当はね、前からAちゃんの話題出したかったんだけど、出したら迷惑かなって思って出さなかったんだ…でもやっぱり話したかったから、本人に許可取ったノ☆」
コメント リンちゃんええ子や…
コメント 本人に許可貰えてよかったね
コメント 配信見てるって言ってたし、今も見てるんじゃないかな
コメント Aちゃんみってるー??
おい呼ぶな。私はROM専なんだ、コメントするよか聞いている方が有意義な時間を過ごせる人種なんだ、ほっとけほっとけ。
とまぁ、これを機に私の名前…と言うか、鈴科リンとしての友人、友人Aちゃんと呼ばれる者ができ、鈴科リンの雑談やトークで出るワードナンバーワンとなった瞬間であった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふあぁ〜……クリアの道のり、遠い…遠イー…」
コメント ふにゃふにゃリンちゃん助かる
コメント 耐久だけどもう休んで
コメント ぶっ通しで30時間オーバーはやばい(やばい)
コメント 何回か枠閉じてから小休憩挟んで再開してるが、限度あるわ
コメント 寝て(寝て)
学校がちょうど長期休みとなった時だ。
とあるシリーズ物の耐久枠を取った時だ。1.2.3をぶっ通しでクリアすると言う訳の分からない企画を立て、現在3の中間までクリアした所。
流石の体力お化けな小夜も、疲労困憊で眠気もピークだろう。
かく言う私も、心配で全部聞き流ししながらチラ見しており、時たま寝落ちしかけてはモンエナをキメるという馬鹿なことをしていた。
「……………………………………」
ふと、リンの声が一切聞こえないことに気づき、画面を見る。プレイ画面も中途半端に止まったまま動かず、キャラが棒立ち状態になってしまっている。
あぁ…ついに寝落ちたのかあいつ…如何に体力お化けでも、限界はあろう。
45時間、約2日寝ずにゲームを続けていれば、嫌でも寝落ちるだろう。
私も限界だが…はてさてどうしたものか…。
画面からは着信の音が鳴り響き、コメント欄は寝落ちたなと確信を持ったコメントで溢れかえっていた。
着信の相手はたぶん運営だろう。流石の運営も、45時間ぶっ続け耐久するなど考えても居なかっただろう。あの馬鹿め、サイレントにはしていないが一向に起きる気配がない。
仕方ない、幼馴染兼保護者として、いっちょ一肌脱いでやろう。
眠気ピークは私も同じ、手元にあるモンエナを飲み干して部屋をあとにする。
へ……へへ…小夜ん家が徒歩圏内で助かった…これで自転車じゃないときついとこにいたら、私は奴を見捨てていただろう。
数分もすればお目当ての場所までつき、ポケットからゴソゴソと、小夜ママから預かっている合鍵で、小夜の家に入る。
この時間帯は小夜ママも小夜パパも仕事でいない、出入り自由と小夜の親公認なので気にせず入る。
慣れた足取りで小夜の部屋に向かい、ゆっくりとドアを開ける。
案の定、チェアに腰掛け、机に突っ伏しながら寝落ちている小夜を発見。
ゆっくり近づいて揺さぶってみるが、くぐもった声を漏らすだけで起きる気配はない。
コメント おや、起きたか?
コメント 鬼電でようやく起きた可能性
コメント 寝息聞こえない、助からない
コメント 寝息ニキ成仏してクレンメス
ふとコメント欄を見ると、とりあえずリンが起きるまで待機してる組がコメントを賑わせてる様だ。
うへ……こんな爆速コメ見ながらいつも配信してるのか…私なら確実に追いかけられないし読む暇すらない、なんなら酔う自信まであるレベルだ。
んー……勝手に配信終わらせていいものやら……一般人の私が運営に折り返すのもあれだろうし…仕方ない。
カタカタと主コメに書き込んでいき、エンターを押し投稿。
『初めまして、友人AことAちゃんです』
コメント おや?
コメント Aちゃん?ま??
コメント 何故Aちゃん??
コメント 本物か?
うげ……爆速コメがさらに加速した…思わず声が漏れそうになったが、ぐっと堪えてなおも書き込みを続ける。
『配信ずっとロムって見てました、寝落ちた為様子見にきたら案の定でした』
コメント ぶっ通し見てたって事?
コメント 類は友を呼ぶとはこの事
コメント ずっと部屋にいたとかではなく?
コメント リンちゃんが約2日もAちゃんと会話しないでゲーム出来るわけないだろ
コメント た し か に
『とりあえず、配信は終わらせます。この子は起きたら叱っときます』
コメント リンちゃんぇ…
コメント 起きたら地獄だにぇ…
コメント 骨は拾ってあげよう…
コメント ロムって見ててこの時間で家にこられるとか、ご近所さんかな?
『終わり方分からない、助けて』
書き込みしながら終了ボタン探すが見当たらない。色々カーソル合わせてみるが、どれも違う。
あぁクソ…配信とか専門外なんだこちとら。目の前でグースカ寝てるこいつをはたいてやりたい衝動を抑えつつ、リスナーに助けを求む。
コメント 可愛いww
コメント Aちゃん、枠上にタブあるのわかる?
コメント 枠上タブ開いて
コメント 枠上枠上
コメントの指示に従い、枠上のタブを開く。そこには配信開始を知らせるツイートボタンや、音量ボタンがあり、最後に終了ボタンがあった。
『ありがとうございます、見つかりました。リンの事見守っててくれて助かった、次も見てあげて』
コメント てぇてぇ
コメント 噂に違わぬバブみ
コメント Aちゃんはやはりリンちゃんのママだった…?
コメント Aちゃんママ
誰がママじゃい。こんな大型犬を擬人化したような娘を持った覚えはない。
問答無用で終了ボタンを押し、画面に配信終了の文字が流れる。
ふぅ……思わずため息が漏れる…とりあえずこいつをベッドに投げ飛ばそう…。
しかし悲しいかな、こいつと私とじゃ体格差があるのでできる訳もなく。
とりあえずキャスター付きのチェアーだった事もあり、ベッドの近くまで押していき、そのまま転がしてベッドに寝かせてやった。
「あ……体力の限界……」
ベッドに寝かせた瞬間、ふ…っと力が抜け、小夜のベッドに横たわる。
あぁ、ダメだ…眠くて敵わない…起きたら…こいつ…殴る…。すやぁ……。
その日眠っている間、Twitterのトレンドにリンの名と、友人Aの名前がトレンド入りするなど、誰が予想しただろうか。
後日談と言うか、今回のオチ。
小夜はマネージャーにこってり絞られ、その後私にも絞られた。
そりゃまあ運営の注意すら振り切った挙句の寝落ちなわけだ、運営もハラハラしただろう。
「えーん……!ごめんなさーいぃっ」
「全く…反省してんの?」
「してます、してますぅ…」
「次は計画的にやんなさい、良い?」
「はーい!」
調子がいいやつ…あん、何だその顔は。じろじろと私を見…てくるのはいつも通りか……。
しかし何か言いたげな表情は珍しいな。
「何、なんか言いたいことあんの?」
「はひ……っ!い、いやぁ…そのぉ…」
「んー?」
「…な、何もない!」
「あら、そ…」
私がこいつの事で外すわけはない。多分言い難いことか、言いづらいことでもあるのだろう。
ま、無理に聞き出すのは柄じゃないので、そんな事はしない…とりあえずまあ……。
「……こーれどすっかなぁ…」
Twitterでエゴサすれば、出てくる出てくる、あの時の配信の切り抜きや、私の正体を知りたがる輩。
果たして本物だったのか、リンエーてぇてぇ、コラボしないかな等と言った呟きが、まあ仰山出てくる出てくる……。
「初バズりだね、あーちゃん!」
「やっぱ反省してない?ん??」
「ぐへぇ…っあーちゃん、ぎぶ、ぎぶ…」
コメカミを拳でグリグリと刺激してやる。誰のせいだと思ってんだ。
お陰で何故か私はリンのマネージャー説やスタッフ説まで出る始末。
人の噂も七十五日とよく言うが……そんな長い期間噂されたくないわ。
はー…まあ、当の本人は嬉しそうにしてるし、今の所害があるわけじゃないし、考えるのやめよ。
最初に言った30時間ぶっ通し配信とはまた別のお話。