ということで第六話です。
今回はちょっと長いですよ?原作キャラも登場します。
翌朝……と言うか翌昼───
「……朝か…というか昼。」
「あ、若旦那起きました?」
「花…?」
仁が目を覚まし、体を起こした。
「よぉ、起きたか。仁。」
佐吉が顔を出し、仁に声をかける。
「とりあえず、楽に言って今日は綺糸屋は臨時休業ってことにしてもらった。早く準備しないとこっちの営業開始に遅れんぞ。」
「…っ!すまん、花!すぐ用意してくれ!」
「は、はいっ!」
「やれやれ…」
佐吉が呆れたように首を振っていた。
「わっしゃの影響とはいえ、これはひどいと思うが…」
「ま、しゃあねぇよ。だまりが憑いているのもまぁまぁ久しぶりなんだろ?それに今の環境に体がまだ慣れてないんじゃねえのか?」
「わっしゃも慣れておらんがな。だがまぁ、わっしゃ達が知らん世界があるとは思いもしなかったから、何とも言えんのだが…」
仁はそんな言葉を聞きながら、昨晩の話を思い出していた
───昨晩
仁と香は錦糸綺糸屋に着き、門をくぐった。
「楽!花のこと、分かったか?」
「涼!鈴のことわかった?」
「お前ら帰ってきて真っ先に聞くのは花と鈴のことかよ……」
「鈴ちゃんも花ちゃんも愛されてるんだね。」
「「あわわ……///」」
楽が呆れ、奏が呟いたことに花と鈴が顔を赤くした。
「で、鈴と…花さんのことだっけ。一応わかったよ?」
「同じく。」
「本当か?」
「あぁ。」
楽がそう言ってうなずき、涼が楽に1枚の紙を渡した。
「まず、花と鈴が鬼神族の娘に戻っているのは間違いないようだった。ただ、持ってる能力が違う。」
「持ってる能力?不老不死じゃないのか?」
「あぁ。持ってる能力は“無限再生”と“堅牢防御”。一見不老不死と似てるんだが、全く違うもん…というのが涼の話だった。」
「不老不死と無限再生の違い、香なら説明できるよね?」
話を振られた香は軽くうなずいて口を開いた。
「不老不死はその名の通り“不老”と“不死”───老いないから寿命が無くて死なないのに対して、無限再生は“無限”に“再生”するだけ。死なないわけじゃない。不死とは違って寿命が存在するし、無限とはいえ再生できる条件には限界があるから必ず“終わり”が来る───そうでしょ?」
「そう。必ず終わりがある再生。それが無限再生。じゃあ堅牢防御は?」
「堅牢防御は凄まじく堅いだけ。完全な防御じゃないから壊すことができる。攻撃を通さないんじゃなくて攻撃を防げるだけ。」
「そ。さすが香。」
「いや…なんでそれがわかる!?」
仁が香の言葉を聞いててそう叫んだ。
「ちょっと…ね。今は話したくない…かな。」
香は困ったような顔をしてそう答えた。
「……いつか…いつか、話さないといけない時が来たら。その時は話してあげる。」
それまで秘密。と言葉を使わずにその場にいた全員に伝えた。
「…わかった。それまで待とう。楽も花もいいな?」
「ん?おぉ。」
「はい…」
「…ごめんね、涼。まだ話せなくて。」
「分かってるから。気にしないで?」
香は軽くうなずいた。
「それで、封印を解く方法っていうのは?」
仁が楽に問いかけた。
「その方法より先に言うが、花と鈴の能力は別だ。花が持つのが無限再生、鈴が持つのが堅牢防御。ただ、どうやら謎の力で花と鈴が繋がっているらしくてな。花が無限再生を使えない状況になったら鈴が無限再生を発現する、って感じになるそうでよ。」
「そして、それは逆もしかり。鈴が堅牢防御を使えない状況になったら花さんが堅牢防御を発現するらしいの。もちろん、使えない状況から脱したらその力の発言は解除されるらしいんだけど。」
「鈴と花さんは“一対存在”ってこと?」
香がそう呟いた。
「う~ん……香の表現が正しいのかもね。」
「それから仁が気にしてた封印の解除方法だが、残念ながら不明なんだ。」
「何?」
「俺と涼も結構細かく調べたんだがな…封印解除方法の部分だけ全く情報がなかったんだ。」
「多分、前までの鬼神族の少女達の封印解除方法とは違うものになってる…って私たちは考えるけど。」
「事実、仁が起きる前、花が仁に抱き着いてたが、瞼が開くような気配はなかったしな。」
「ら、楽っ!?///」
楽の唐突なカミングアウトで花と仁が顔を赤くした。
「は、花、そんなことしてたのか……///」
「ひゃ、ひゃい……///」
「…純情というかなんというか。」
「だね。」
「………///」
鈴がなぜか顔を赤くしていたのが印象的だった。
───そして今に至る
仁が思い出して顔を赤くすると、花も同じように顔を赤くしていた。
「はい、できました、若旦那…」
「あ、あぁ……」
「…仁、花、おぬしらシャキッとせんかい!」
「だまり、影役ちゃんと頼むな。」
「ぬ…」
「仁ー!準備できた~?」
仁と花がいる部屋の外から香の声がする。ちなみに佐吉はすでに部屋にはいなかった。
「すまん、今準備終わった!」
「あ、そっか。入っても大丈夫?」
「俺はいいが…」
「私も大丈夫です。」
「だそうだ。」
「ん、じゃあ入るね。」
その言葉の後、障子を開けて香が部屋に入ってきた。
「やっぱり赤なんだ。仁って。」
「あぁ…綺糸屋事件の後からは統一してるんだ。そっちこそ、青なんだな?」
「うん、まぁね…私も錦糸屋事件からはね…お母様が仕立ててくれたものだし。」
「そうか…ところで、何か用があったんじゃないのか?」
仁が香に問うと、香は軽くうなずいた。
「りんね」
「はいはいっと…」
香の言葉によって香からりんねが離れる。
「花さん、ちょっとこちらに。」
「は、はい…」
「目をつむっててください…って癖で言っちゃったけど目つむったままなんだっけ。」
そういいつつ、香が花の頭に手をかざした。
「spell act:system.id stand up hiding…」
香の手が一瞬光ったかと思うと、香が花から手を退けた。
「ん、これで大丈夫ですよ。」
「何をした…って花?角…」
「へ?…あれっ!?角がありません!?」
花が頭を触ってそう叫んだ。ちなみに香は血を流し始めている。
「昼の…ここの敷地内だけは角を隠すような術を使いました。この屋敷から出なければ角は見えません。」
「ていうか香、お前もう…」
「りんね…」
「あ~…はいはい…」
りんねが答えるとともに香に憑き、急速に血が引いていく。
「それにしても角を隠す術?そんなのあったのか?」
「一応、ですけどね。昨晩、この屋敷全体に結界を張ったので結界と術が共鳴する場所でのみ有効な術です。鈴にもかけてありますよ?」
「そうか…というか敬語…」
「あ…さ、開店準備始めましょう?」
「あ、そうだな。」
仁がそう答え、その場にいた全員が店表のほうへと向かった。
「しかし仁よ。ひとつ言ってよいか?」
「どうした?」
「花だが、どうも見ても食欲が沸かん。美味そうな匂いがしない、というか…」
「幽鬼か、幻術だと?」
「そうは言っとらん。花は生きた鬼、これは間違いない。だが、以前のような芳しい香りがせんのだ…」
「…なんでだ?」
「知らぬわ。」
仁とだまりの会話を聞いていた香がりんねを見つめた。
「…そういえば、りんねも同じようなこと言ってたよね。」
「そういえば言ったわね。悪鬼は普通に美味しそうな匂いしたのだけど…なんでかしら?」
そんなことを言っている間に、店表に着いた。
「お、やっと来たな仁。」
「楽、店を開けてくれ。開店だ。」
「おう。これでいいんだよな?」
楽が持っていたのは錦と綺が丸で囲まれて書かれた暖簾だった。
「まるで最初から分かってたみたいに用意されてたんだよね…なんでだろ。」
涼がそう呟き、暖簾を見つめた。
「蔵の鍵が6本…四の蔵~六の蔵はまだ開けてないんだよね。」
「はい…」
「…さ、開店しよっか。」
結構適当に話を止めて開店準備が終わった。ちなみに花と鈴は覆いをかぶっている。
「お客さん来ますかね…」
「そんな早くは来ないと思うが……」
「ごめんください。」
「「「「「「来たっ!?」」」」」」
一人の女性が店内に入ってきた。
「ここは…呉服屋さんで間違いないですか?」
「はい、間違いありませんが…」
「商品を見ていっても?」
「かまいませんよ。」
女性が商品を見るために近づいた時、香の近くからガンッと音がした。
「「!?」」
香は驚いたような顔をしており、仁は声を失っていた。
「……」
女性はしばらく香を見つめていたがやがて興味を失ったように商品に目を落とした。
「…仁」
「なんだ」
「私を残してお店の奥に」
「は?」
「早く」
仁は香の真剣な目に圧され、花達4人を店の奥へと連れて行った。
「…きれいな生地ですね。それにきれいな仕立て…」
「そうですね。染色師、仕立師の方の腕が良いので。」
女性がいる間、何度もガンッという音がしているが、気にしていないように話を続けていた。
(さっきから私の体にかけておいた防護壁に攻撃されてる…それも早い。りんねが憑いている状態の私じゃ視認ができない…それに、防ぐごとに攻撃力が上がってきてる…)
香は女性から視線を外さないようにしてそんな思考を回していた。
(この小娘……先程から私の攻撃を悉く防いでくる……いったい何者だ?それに先程一撃入れた時、危険を察したのか自分以外をこの私から隠した……刀も何も持っていないようだから鬼狩りの可能性は低そうだが……)
((どちらにせよ……強いっ!))
どちらも似たようなことを考えつつ、女性は一つの櫛を手に取った。
「これ、いただけますか?」
「はい。ええと…9円60銭になります。」
香が料金受けと顧客名簿を用意した。
「それと、こちらにお名前をお願いします。」
「分かりました。」
女性は付近にあった筆をとり、さらさらと名前を書いた。
「“
「はい。またよらせていただきますね?」
代金を料金受けに置き、入口の方へと向かった。
「またのお越しをお待ちしております。」
香は深くお辞儀をして黒百合と名乗った女性を見送った。
side 黒百合
私は呉服屋を出て、近くの路地に入った。
(…あの小娘。私の攻撃が全く効かなかった。何者だ?)
路地の奥の暗い中、壁に体を預けて考えていた。
「…いるか。」
「はい、なんでございましょう?」
私は隣に現れた2体の鬼に話しかけた。
「あの呉服屋にいる黒い着物に青い長襦袢を着た黒髪の娘を見張れ。可能なら首を取ってこい。」
「「承知しました、
2体の鬼は高く跳躍してそこからいなくなった。
side normal
香は黒百合と名乗った女性を見送った後、少し考えこんでいた。
(あの人…攻撃力が高かった…
「香…?」
仁が顔だけを出して香に声をかけた。
「ん…?あ、ごめん、仁。もう出てきて大丈夫だと思う。」
「そうか…何があった?」
「秘密。」
会話が終わり、静寂が訪れる。
「ごめんください。」
「あ、いらっしゃいませ。」
今度は小柄な女性が入店した。それを見て香が微妙な表情をした。
(花…藤の花の匂い…だけどそれと同時に強い殺意…ううん、
「すみません、これください。」
「え、あ、はい!」
そう言って女性が示したのは蝶の羽を模した櫛と紫色の蝶が描かれた着物だった。
「えっと、着物と櫛、合わせて25円と50銭になります。それと、こちらにお名前をお願いします。」
「分かりました…それと、申し訳ないのですが蝶が止まっているような
「簪…ですか?」
香は仁と顔を見合わせた。
「少々お待ちくださいませ。只今在庫を調べてきます。」
仁がそう言い、店の奥へと向かった。
「すみません、お手数かけまして…」
「いえ、大丈夫ですよ?お客様の要望にはできるだけ応えたいですから。」
香がそう答えると、その場にまた静寂が舞い降りる。
「…あの…」
「どうしました?」
「踏み入ったことをお聞きする様で申し訳ないのですが…」
「?」
女性が香の言葉に首をかしげる。
「お客様、もしかして…大事な方を亡くされていたりしませんか?」
「…!」
「その反応は当たりですね?」
「…何故?」
女性が怪訝そうな顔で香に問うた。
「お客様から藤の花の香りと微かな血の匂い、それと強い憎悪の気配を感じましたので…」
「…貴女、一体何者?」
女性から殺気が飛ぶが香は別に気にしないような顔をしていた。
「名も名乗らず失礼しました、私は呉服“錦糸綺糸屋”三代目当主の片割れ、香と申します。貴女様は?」
「…鬼殺隊蟲柱、“胡蝶 しのぶ”です。」
その言葉を聞いた途端、香に軽く寒気が走ったがそれを見せずに応対を続けた。
「…はて、“きさつたい”…とは?」
「…」
女性はそのまま口を噤んでしまった。その時、店の奥から足音が聞こえ、仁が顔を出した。
「お客様、お待たせいたしました。お客様が所望したような商品が在庫内にありましたのでお持ちしました。」
仁が持っていたのは紫色の蝶が飾られた簪だった。
「あ、ありがとうございます。」
「香、いくらになる?」
香は近くにあったそろばんを弾いて値段を計算した。
「すべて合わせて267円になります。」
「ではこれでお願いします。」
料金受けに置かれたのは270円だった。
「270円お預かりで3円のお釣りになります。お買い上げありがとうございました。」
香がそう言うとしのぶと名乗った女性は足早に店を出て行った。
「…もう夕方。仁、閉店作業しちゃって。」
「あ、あぁ。」
仁が外に出て、閉店作業を始めた。その間、香は顧客名簿に目を落とした。
月衣 黒百合
胡蝶 しのぶ
(“月衣 黒百合”さんと“胡蝶 しのぶ”さん、ね…)
要注意人物、と小声でつぶやきながら顧客名簿を元の場所へと戻した。
はい、香の謎がいくつか出てきましたね。魔法、鋭い勘、感情察知能力。これらは後々話すことになると思います。
それと、この作品を投稿してるころには時間が無くてまだ書けないのですが、私の活動報告の方で少し報告的なものがあります。後書きで言うのもあれなので詳細は省きますが、簡単に言えば投稿スピードが確実に落ちます。
あ、ちなみに今回の無惨様の姿はパワハラ会議…って言いましたっけ、あの時の姿です。wikipediaとかで調べましたけど名前が見当たらなかったので適当に命名しました。正式名称あったら教えてください。
ではでは。誤字報告等もあればお待ちしております。