前話は香の戦闘に焦点を当てましたが今回はその戦闘中の錦糸綺糸屋がメインです。
ちなみにいつもサブタイトルで使ってる数は“大字”と言うそうな。気になった人とかは調べてそうですけども。
P.S 昨日投稿した第八話ですが、読み返しているときにかなりの量の抜け字に気がつきました…既に修正されてます。それから仁の武器を斬鬼と書く失敗…正しくは斬糸です、申し訳ありませんでした。
朝。襖で仕切られた部屋の外に仁がいた。
「香?起きてるか?」
襖を軽く叩くが中から返事はなかった。
「…?入るぞ?」
襖を開け、中を見る。そこには確かに香の姿はあったが、床に倒れたまま動かない香だった。
「…おい?」
恐る恐る香に触れると呼吸しているような振動があった。
「生きてるのか…」
「そりゃ生きてるわよ…」
香の影から声がする。りんねだ。
「起きたのか?」
「今の今まで寝てたわよ?でも仁の声が聞こえて目覚めたのよ。そろそろ香自身も起きるわ。」
「そうか。」
そう呟き、部屋の中を軽く見渡した時、近くにあった何枚かの羊皮紙が目に留まった。
「あんまり女の子の部屋の中を見るものじゃないわよ?」
「あぁ…すまん。」
そういいつつ、仁は1枚の羊皮紙を手に取った。紙には文字らしきものや記号らしきものが羅列されている。
「これは…なんだ?」
「それ?あ~…香の秘術、みたいなところかしらね?私もよくは知らないわ。ただ、錦糸屋事件当時から似たようなものを書いてたのは確かよ。」
「そうなのか?」
「えぇ。涼とか鈴ならよく知ってるんじゃないかしら。」
りんねがそう言った瞬間、香の方で動きがあった。
「ぅん……ふぁぁ…」
「あ、目覚めたわね?」
「うん…おはよ、りんね。」
「おはよう。お客よ?」
「ほぇ?」
香は意識がはっきりしてないような状態で仁と向き合った。そこで香の表情が昨日までのはっきりした状態に戻る。
「…あ、おはよ。」
「お、おお…おはよう。」
(変わり身速いな…)
「こんな早くから何か用?」
「あぁ、そういえば昨日から咲と柊さんの姿が見えないと思ってな…」
そう、仁は昨日起きている時に咲と柊の姿を見なかった。昼はともかく、夜もである。さらに言えば、今日はまだこの屋敷にいる鬼導隊士全員をみていない。仁の言葉を聞いて香は何度か頷いた。
「あ~……なるほど。私なら何か知っているかもと聞きに来たわけね。」
「知らないか?」
「知ってるよ。」
即答だった。
「知っているのか!?」
「うん。…っていうか、もしかして…」
香は呟きながら立ち上がろうとした。その途中で仁の方を振り向いた。
「…仁、着替えたいからちょっと外出ててくれない?」
「あ…す、すまん!」
仁は急いで部屋の外に出て、襖を閉めた。
「…一応聞くけど、今朝私が帰る前に何があった?」
「ん…あぁ…」
仁は今朝…と言っても早朝のことを思い出していた。
───早朝
「たでま…」
楽が呟くと花と涼が屋敷から出てきた。
「おかえりなさい!熱めのお風呂、わいてますよ!」
「ありがとう、花。っとその前に…」
「あ、三ノ蔵ですね?ちょっと待っててください、今灯りと鍵を持ってきますから。」
花が屋敷の中に戻って行った。
「…あれ?香は?」
涼が仁達の中に香がいないことに気が付いた。
「…あっ、香ならまだ外だな…なんか変な奴と対峙してる…」
「わっしゃ、思ったがありゃ鬼だろう…」
「へんな鬼?」
「わっしゃの食欲がそそられない。鬼にしては不自然だ。ちょうど、今の花のようにな。」
「…」
涼が何かを考えこんでいた。
「どんな姿だった?」
「む…容姿は完全に人。ただ、だまり曰く花と似たような匂いがしたらしいから恐らく鬼なんだろうな…」
「なら人への擬態…じゃなくて鬼に人が変化したのかな?」
「分からん…そうだ、鈴に香から伝言があったんだ。」
「伝言?」
涼が軽く不安げな顔をした。
「あぁ、“私は大丈夫だから”、だそうだが…」
「…そっか。香が大丈夫って言うなら大丈夫だね。鈴ー!」
涼が屋敷に向かって鈴を呼ぶと鈴が屋敷から出てきた。
「どうしました?」
「仁?」
「あ、あぁ…香から伝言、“私は大丈夫だから”だそうだ…」
それを言うと、鈴は少し不安げな顔をした。
「若女将が言うなら大丈夫なんでしょうけど…やっぱり不安ですね…」
「大丈夫だよ。香ならどんな手を使ってでも鈴の元に戻ってこようとするだろうから。」
「…はい…」
(
仁は涼のその言葉小さい違和感を覚えた。その気配に気が付いたのか、涼が仁に向きあった。
「言っておくけど、私は香の真実を知らない。どんな手を使ってでも、っていうのは私のただの勘と香の鈴に対する想いを知ってるからそう言ってるだけ。それに、鈴は真実を知ってるんだろうけど絶対に話そうとしないから聞いても無駄だよ?」
「…そうか。」
仁がそう言ったとき、花が屋敷から出てきた。
「持ってきました。行きましょう?」
「あぁ…」
仁が花に返事をした時、外で走るような音がした。
「間に合って…!」
女性の声。どことなく焦っているような声だった。
「なんだ…?」
仁が外を確認すると、そこには
「…花。いま、確かに女性の声がしたよな?」
「へ?は、はい…」
「…誰もいない。」
「は…?どういうことだ、仁…?」
「そのままの意味だ。誰もいないのに、声がした。」
その言葉に涼が驚愕の表情をした。
「今、足音もしたのに誰もいないの?」
「そうだ。…どういうことだ?」
仁が香を置いてきた方向を見ると、そこに
「…香もいない。なぜだ…?」
「若女将もいないんですか…?」
「楽、確かにあそこにいたよな?」
「あ~ん?」
楽が仁の言葉に外へと顔を出した。
「……あぁ、確かにいたはずだ。いなくなってるな。」
それを聞いた途端、涼が鈴を強く抱きしめた。
「く、苦しいです、涼!」
「大丈夫…香はきっと帰ってくるから…」
「っ…」
鈴は力が抜けたように涼に寄り掛かった。
「…ほら、早く三ノ倉行って悪鬼のエモノ片付けて来れば?」
「…あ、あぁ。楽、花、行くぞ。」
「は、はい!」
「おう…」
涼の言葉で思い出したらしい三人は三ノ倉へと向かった。
…余談だが、仁が風呂に入っている最中、花が乱入しかけたらしいのだが…それはまた別の話かもしれない。
さらに余談だが。あの後無事(?)に帰った香と鈴は一緒にお風呂に入ったそうな。同性だから問題ないといえば問題ないのだが、お互いを意識しすぎて気が休まらなかったという。
───そして今に至る
「なるほどね…そんなことがあったんだ。」
シュッっという音がして仁が振り返ると着物に身を包んだ香がいた。着物は一緒だが、いつもと髪型が違う。
「…ちょっと、案内しよっか。」
「ん?」
「ついてきて。」
香は仁の返事も聞かずに歩き出した。慌てて仁は香についていった。
「あ、そうだ。鈴からお願いされたんだが、今日は業務休んでいいからな?」
「それもう昨日のうちに言われた。今日は休んでほしいって。まぁ、心配かけちゃった私が悪いんだけどね…」
「で、どうするつもりなんだ?」
「一日中部屋の中に籠るのもアレだし、ちょっと鈴と一緒に出かけようかなって。この辺の地理まだ理解できてないし、鈴と出かけるついでに理解しておきたい。」
「あくまで本命は鈴と出かけることなんだな?」
「当然。仁だって花さんと出かけるってなって地理の理解もしておきたい時、花さんと出かけること優先するでしょ?」
「む…それを言われると…」
「でしょ?」
なんだかんだこの綺糸屋の若旦那と錦糸屋の若女将、似た者同士なのであろう。
地理を知るより年上の恋人優先の若女将と若旦那。
ちなみに、花が仁が入浴中のお風呂に乱入しかけた理由ですが、錦糸綺糸屋は錦糸屋と綺糸屋が合成された影響で綺糸屋の敷地より広がってまして。お風呂の隣にもう一つお風呂が出来上がってるんですね。で、片方は女性風呂、もう片方は男性風呂となっているわけです。まぁ、あんまりないんですがその時花が少し寝ぼけてまして。間違えて男性風呂の方に入ってしまったというのが事の真相です。…入ってるのが仁だけでよかったね、花ちゃん…その時、奇声を上げながら自分の部屋に戻ったとかなんとか(楽談)。まぁ、好きな人とはいえお風呂間違えてたの見られたら恥ずかしいよね…あと錦糸綺糸屋を拠点としているメンバーに関しては下記参照で。
次回…錦糸綺糸屋の設備とか紹介した後は香と鈴の百合デート回かな?ちょっと微妙に思考回ってないですけども。
現在の錦糸綺糸屋を拠点とするメンバー
男性陣…仁、楽、柊、暁、佐吉、灯純 計六名
女性陣…香、涼、花、鈴、咲、奏 計六名