無理矢理仕上げたのでひどいです。
朝ご飯の後、香は自分の部屋へと戻っていた。
「えーっと…どこ置いたっけ、出かける用の着物…」
「また着替えるのかしら?」
「うん、まぁね…」
「そう…」
「…ん、これがいいかな。」
「あら?柄有りなのね?」
りんねの言うとおり、香が手に持っていた着物はいつもの黒無地とは違い、青生地に淡い紫で花の柄が入っていた。
「実際いつもの着物は仕事着だからね…商品を引き立てるために黒で統一してるだけで、仕事以外とかは別に自由だから。」
「そうなのね…そういえば、香の好きな色って何なのかしら?」
「ん~…特に嫌いな色とかなかったりするからどれが好きっていうのはあまりないけど…」
そうだなぁ…と呟きつつ、香は部屋の中にあった箪笥を開け、白いリボンを取り出した。
「…強いて言うなら白、かな?思い入れがある色だし。」
「そういえば鈴の髪色は白ね。」
「いや、鈴の髪はどちらかと言えば銀色なんだけど…」
「そうなの?」
「そうなの。白に限りなく近い銀なの、あれ。」
(…と言っても、ほんと銀が薄すぎて言ってしまえばパールホワイトとかその辺な気がするんだけどさ…)
そんなことを思いながら、近くにあった羊皮紙を手に取った。
「そういえばその羊皮紙に書かれているのって何なのよ?」
「これ?いろんな術式。まぁ、いつかはなしてあげる。」
「そう…」
そんな会話をしていると、襖を叩く音がした。
「若女将…準備できてますか?」
「あ、うん。ちょっと待って?」
香は持っていた羊皮紙をこれまた近くにあった箱の中にしまい、部屋の外へと出た。
「ごめん、遅くなっちゃった。」
「いえ、私が早かっただけなので…」
「…」
「若女将?どうしました?」
「あ、いや…それ、使ってくれてるんだ、って思って…」
香が指さしたのは鈴が髪に着けている水色のリボンだった。
「あぁ…結構好きだったので。若女将こそ、その着物着てくれてるんですね。」
「うん…まぁ、鈴の前じゃないと着ないけどね…」
「……私も若女将の前以外ではつけてないです」
鈴と香が軽くではあるが顔を赤くした。
(こいつら末永く爆発しなさいよ…)
りんねはそんなことを思いながら声を発さなかった。
「…あ、鈴。出かける前にちょっと仁に言うことあったんだけど───」
「あれ?香、今から出かけるの?」
言葉を発してる最中に涼が香の部屋の前を通りかかった。
「…涼、いいところに。」
「うん?」
「仁に伝えておいてほしいの。“月衣 黒百合さんに気を付けて”、って。」
「月衣黒百合さん…?」
「昨日の営業時間中に最初に来た人のことね。」
「…ん、一応話しておくね。」
そう言うと涼は店表の方へと駆けて行った。
「…さ、行こっか。」
「は、はい…」
「あ、そうだ、鈴。念のため魔力を自分の身体に回しておいて?」
「あ、わかりました…」
そんな話をしつつ、香と鈴は手をつないで屋敷の外に出た。
「若女将…」
「ん~?」
「今日はどこに行くんですか?」
「今日は…海とかあるといいんだけど、あるかわからないしとりあえず近くの散策になるかな?」
「な、なるほど…」
「一応営業終了時間までには帰るつもりだけど…間に合わなかったらその時はその時で。」
「いいんですか?それ…」
「多分?奏さんたちにも手伝ってもらうよう頼んでおいたし多分大丈夫でしょ。」
「そういえばさっき頼んでましたね。」
鈴の言うさっき、というのは朝ご飯の時のことである。
「うん。…さ、行こ?それと手、離さないでね?屋敷から出た後は結界干渉がなくなるから…」
「は、はい!」
香と鈴は歩調を合わせながら歩き始めた。
「…あ、本屋さんだ。」
「へ!?あ、ほんとです…」
「…入ってみる?確か鈴って本好きだったよね?」
「あ、はい…」
そんな会話をしながら香と鈴は本屋の中に入っていった。
side 胡蝶しのぶ
(さて、どうしましょう…)
先程あの呉服屋に行ってみたところ、あそこは昼から夕方までの営業だという。現在はまだ朝に近い。店の前で待っているというのもアレだし、付近をうろついていようと思う。
(…あら?)
そう思ったとき、視界にちらと映った姿があった。白い髪の少女と、その少女と手を繋ぐ黒髪の少女。
(あれは…今朝の。)
白い髪の少女は知らないが、黒い髪の少女の方は身に纏う着物は違うが、ほぼ間違いないだろう。その二人は近くの本屋へと入っていった。
(…追って、情報を得ましょうか。)
声をかける前に相手の情報を知る。相手は2つ以上の血気術を持つ鬼を狩った謎の民間人。警戒しておくに越したことはないだろう。
side normal
鈴と香が本屋の中で本を見ている間、香が一瞬顔を曇らせた。
(…見られてる。数は3つ。敵性に近いのが1つ、中立が1つ、善性が1つ…それぞれ属性は警戒・観察、興味…あとこれは…守護?)
香は顔にも出さず、自分と鈴に強く刺さる視線を分析していた。
(…何か仕掛けてくるようなら対処を考えないとかな?)
「────み」
(まぁ負ける気はほとんどないけど。それでも何が起こるかわからないし。)
「─女将」
(気になるのは守護、かな?善性の視線から放たれてるやつだけど。)
「若女将!」
「ひゃい!?」
いつのまにか香の目の前に鈴の顔があった。
「どうしました…?何か考え込んでたみたいですけど。」
「あ、ごめん…ちょっとね。何か欲しいのあった?」
「あ、はい。これなんですけど…」
今更だが、鈴は目を開いていない。その割に平面が見えるのは香か使った術の影響である。
「なるほどね…」
香は会計所の方へと行き、本と会計所の近くにあった地図と新聞を会計に出した。
「いくらになりますか?」
「全部で125円40銭です。」
「うわ、結構高いね…」
そう言いつつ、香は125円40銭丁度を渡した。
「お買い上げありがとうございます。」
「わ、わ!若女将!?」
「ごめん、少し急ぐよ」
香は商品を受け取って店員の言葉を聞いてすぐに少し強引に店を出た。
「走れる?」
「は、はい…」
香と鈴は人通りが多い道を走り抜けた。
しばらく走り続け、香が諦めたかのように止まった。
(…っ…撒けてないのか。下駄だから走る速度遅いのはわかってたけど…)
「わ、若、女将…早い、です…」
「あ、ごめん…ちょっと休もうか」
「はい…」
香と鈴は近くにあった茶屋の椅子に腰かけた。
「すみません、お団子2つとお茶2つ。」
「はいよ!」
香が注文し、鈴は少しうつむいていた。
「何かあった?」
「あ、いえ…すこし、疲れちゃって…」
「あ…いきなり走らせちゃったもんね…」
「はい…ごめんなさい、心配かけてしまって…」
「鈴ってスタミナなかったもんね…ごめん、いきなり走らせちゃって。」
「い、いえ…」
「はい、お待ちどうさま。」
話しているうちに注文した品が届いた。団子4つと、お茶2つ。
「あれ、おばあさん?私、2つずつしか頼んでないんですけど…」
「いいのよ。今日の私は機嫌がいいの。昨日主人が無事に帰ってきたから。お団子とお茶は私からの特典とでも思っておきなさい♪」
「は、はぁ…ではお言葉に甘えて…?」
香と鈴は2本ずつお団子を食べた。
「そういえばおばあさま、ご主人が無事に帰ってきた、というのは?」
鈴が聞くと、団子屋のおばさんは少し微妙な顔をした。
「あ~…言っても信じてもらえるか分からないのだけど…」
「「?」」
「この町…麹町にはね?昔から鬼が出ると言われているの。」
「鬼…ですか?」
香と鈴は顔を見合わせた。
「えぇ。夜、日が暮れてあたりが暗くなると門が現れ、そこから人を喰らう鬼が現れるの。」
(それって鬼門…?)
「で、昔から鬼斬り様がその鬼を退治してくれているのよ。」
「「鬼斬り様?」」
初めて聞く単語に香と鈴が声をそろえた。
「私も詳しくは知らないけれど…一振りの太刀を持ち、ただ一人で戦う女性、だと聞いたことがあるわ。」
「そうなんですか…」
「鬼と出会ってしまったとき、鬼斬り様と出会えば守ってくれるのよ。」
「ということはご主人は鬼斬り様と出会ったってことなんですね?」
香がそう聞くと、おばさんは首をひねった。
「うーん…伝えられてる話と主人の話が違うのよね。主人の話だと黒い髪の男の子と赤い髪の男の子だった、って。ちょうど黒髪の貴女と同じくらいじゃないかしら。」
その言葉に香と鈴が顔を見合わせた。
「…ありがとうございました。またよらせていただきますね。っと、お代…」
「いいわよいいわよ、ちょっと長い話にも付き合ってもらっちゃったし。」
「ありがとうございます…よろしければ今度、呉服“錦糸綺糸屋”の方へ来てくださいませんか?」
「え?いいわよ?」
「ありがとうございます。」
そう言って香と鈴はその茶屋を離れた。
「…鈴、さっきの話に出てきた男の子って…」
「多分、若女将の予想道理ですね…」
「…だよね」
「あれって仁さんと楽さんですよね…」
意外なところで見られているものである。
「そういえば昨日…3体目かな?狩ってた時に誰かいたなぁ…」
「7体狩ったんでしたっけ」
「そうそう…っと、もうそろそろ夕方なの?」
香の言う通り、すでに日が傾き始めていた。
「…帰りましょうか」
「そうだね。帰ろっか」
香はそう言いつつ、細い路地に入った。
「…りんね」
声はなかったが、りんねが香から離れた。
「ごめん、少し手荒っぽくなるよ」
「へ?は、はい…」
香はそう言うと、鈴をお姫様抱っこして塀の上へと跳んだ。
side 胡蝶しのぶ
(跳んだ…!?)
かなりの速度で跳び続け、あっという間に彼女たちは見えなくなった。
「あの子…やっぱり私の存在に気がついていたのかしら。」
今日追うことはもう無理だと判断して明日また呉服屋に行くことにした。
ギリギリ+無理矢理締めました。視線は3つ、視点を合わせられたのは1人。さて、最後の二人は誰でしょう。