香が意識を失ってから少しした後。
りんねは山の中の状況の変化を察知していた。
「…鬼の気配が少なくなってるわね。鬼狩り様って言われている存在ではないはずだから……鬼殺隊かしら。」
りんねは少し目を閉じて感覚を研ぎ澄ませ、察知用の感覚を広げた。
「…仁とだまりはこことは反対側ね。この山の中で一番強い鬼の気配はまだ消えてない……それから人と共にいる悪鬼ともこの世界にいる鬼とも違う鬼の気配。……どっちみち、香が目覚める前に状況は終わるかしら。」
広げた感覚から得られた情報を整理しながら呟く。その後、少し表情が歪んだ。
「……少し前から感じたことのある気配があるわね。……確実に、こっちに向かってる。香の意識がない状況下でどこまでできるかしら…っ!」
そう呟いた直後、りんねの顔のあった場所をクナイに近いものが通過していた。
「……危ないわねぇ。挨拶もなしに攻撃なんて。……ねぇ?“胡蝶 しのぶ”?」
りんねがそう言って背後を見ると、以前から香が何度か会っていた鬼殺隊員───蟲柱“胡蝶 しのぶ”の姿があった。
「……あなたにその名を呼ばれる理由はないはずですよ。」
「冷たいわねぇ……さて、言い訳を聞こうかしら?」
「なにがです?」
「決まってるじゃない?……何故、私を狙ったの?」
“何故私を狙ったのか。”りんねはそう質問したが、当然りんねも自分と香、だまりと仁の状態が鬼殺隊に受け入れられないものであろうということは理解している。だが、しかし───その上で、りんねは聞きたかったのだ。“自分達の推測”ではなく、“
「…あなたが」
「私が?」
「あなたが、その子に害を成していると判断したからです。」
「…」
「鬼そのものが人の体にとり憑いているなど、聞いたこともありません。ですからその子には何かしら悪影響があるのでしょう。……単刀直入に言います。即刻その子から離れなさい。」
りんねはその言葉を聞いて軽く笑った。
「…何がおかしいのです。」
「何がおかしいか、ね……貴女。私と彼女の事情を知らないで、よくそんなことが言えるわね?」
「…では、あなた方には何か事情があると?」
「えぇ。まぁ、信用してくれるかどうかは分からないけれどね。……あぁ、そうそう。さっきの回答だけど───断固拒否させてもらうわ。」
「…なら、力づくでも!」
しのぶがそこから抜刀し、りんねに襲い掛かる…その一瞬。
「…ごめんなさい。」
りんねがそう小さく呟くと同時に、りんねの姿がしのぶの視界から掻き消えた。
「!?」
しのぶは驚いてその場を見渡し、気づいた。
「あの子は…!?」
りんねと同時に、香の姿までもが消滅していることに。
「どこに…!」
「…私ならここにいるわよ。」
上の方からりんねの声が聞こえ、そちらの方を見ると木の枝の上に香の───
(違う……あれは……一体っ!?)
しのぶの見たことのある香の姿ではなく、
「……やはり……あなたは…!」
「…勘違いしないでほしいわ。香は今、意識を失っている。そして、そこに香を置いたまま攻防を続けていたら香にまで被害が行くわ。…貴女、そこまで考えてたのかしら?」
「……ですが、ではなぜ、移動させた今も彼女から離れないのです?」
「言っておくけれど、私は今、単体では戦えないわ。必ず誰かの力を借りないと戦えないのよ。…少し心は痛むけれど、香の力を借りさせてもらうわ。」
「…」
「それと、意識を失っている今はともかく、体の主導権はほとんど香にあるわ。意識が戻ったら香の意思で動けるから何とも言えないわね。」
「……それは、意識のないうちに入り込んで自由にすることができるということでは?」
「…さぁね。細かいことは香が起きてから聞きなさいよ。」
りんねはそう呟いて木の枝から降り、斬想鬼から引き抜いた桜色の片手直剣を構えた。
「…斬り技、ですか。」
「…さぁ、ね。私が使うのは初めてよ。」
「…っ」
初手はしのぶ。距離を詰めてまず一撃。りんねはそれを軽く避ける。
「速い…けれど、香の比じゃないわね。」
「!?」
それを聞いた直後、しのぶの姿がブレた。
「“蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ”」
高速の複数回の突き。基本的にあまり見えないのだが───
「…」
りんねはそれを全て見切り、片手剣の腹で刺突の方向をずらした。
「…速いですね。たいていの鬼は反応しきれないのですが。」
「貴女が遅い、ってわけでもないでしょうから…多分、香の動体視力の異常さよ?これは。」
「…では、これはどうでしょう。」
「…?」
「“蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き”」
不意打ち気味に撃たれた刺突。先程の複数突きを越える速度、ではあるのだが───
「…」
りんねは無言で避けた。
「確かに早い、けれど一応反応できる感じかしら……前から思ってたけど香の体のスペックって軽く化け物クラスよね……まぁ、剣を折るわけにもいかないし避けるか受け流ししかできないわね。」
避けた後、りんねはそう呟いていた。
「これですら、避けてしまうのですか…」
「香自身が化け物レベルなのよ。」
「……」
りんねのその言葉にしのぶは軽くため息をついた。
「…ところで、あなた方の事情とは何なのです?」
「…聞いてくれるのかしら?」
「信用するかどうかは後回しです、ですがその間も攻撃は止めませんので。」
「…いや、話聞くなら攻撃止めなさいよ……」
「拒否します。」
そう言うとしのぶは戯れよりも少し遅い刺突を連続で撃ち始めた。
「はぁ…あまり香の体に負荷をかけたくないのよね……」
「いいから話してください。」
「…はいはい。」
りんねは軽くため息をつくと、自身が鬼喰いの鬼であること、香の怪我が治っていない状態で自身が離れると暫くすると香が死に至ること、そして自分達と同じ境遇の存在はもう一組いるということを話した。
「もう一組…ですか。」
「そう。私だけじゃなくて、もう一組…人鬼一体の存在がいるわ。」
「……」
しのぶは刺突を続けながら考え事を始めた。
「……ぅ」
小さい声が聞こえたかと思うと、香の方の目が少し動き始めた。
「……うぅ」
「あ、やっと気がついた?」
「………状況は?」
香は覚醒直後に起きていることで少し困惑しながらりんねに説明を求めた。
「蟲柱と遭遇、私の姿を見て戦闘開始、私は融合状態第二段階を使って応戦中。以上。」
「…把握。りんね、動作代わるよ?」
「お願い。私じゃ十分に生かせないわ。」
そんな会話が聞こえた直後、香が一瞬で跳び退いた。
「…!?」
「…はぁ……少し面倒なことになってますね…」
「…香さん…ですか?」
「…えぇ、そうですよ。…なにか、言いたそうですね。」
刺突が止んでいるところで香がしのぶに声をかけた。
「…貴女は、その状態を受け入れているのですか?」
「ええ。」
「…即答、ですか。何故です?」
「…」
理由を聞かれた香はしのぶをじっと見つめた。
「…なぜ、ですか。最初は仕方なしに受け入れるしかなかっただけですが……今となっては、りんねは大事な仲間ですから。それと…」
香はそこで一度言葉を切って、りんねが融合している部分の方へと目を向けた。
「香の体は私が維持し、私の魂は香が維持する。忌々しい……とはもう思ってないけれど、私と香は死にかけ同志で一蓮托生。香が私のメシを狩らないと私は力尽いて、私が消滅すれば香は死のみ。今も、そんな状態なのよ。」
「…私はまだ、死ねません。目的の鬼を倒すまで。それまでは、たとえ鬼の力であろうと受け入れ、使うことに決めたんです。……一年ほど前に。」
「…一年…ですか」
しのぶは香の姿をじっと見つめた。
「…一つ、お聞きします。」
「なんでしょう。」
「…貴女は……いえ、貴女方は何人、人間を殺しましたか?」
その問いに、香は表情を曇らせた。
「……二十人以上」
「え……ちょっと、聞いてないわよ!?」
香の回答にりんねが声を荒げた。
「知らなくても無理はないよ。…一人目はりんねと会う前、二十人近くは錦糸屋のみんな、最後の一人は……お父様だし。」
「お父様…って……あいつは貴女が殺したんじゃないでしょ!?」
「…私が殺したも同然だよ。…確かに、私が直接手は下してはないけれど。二人とも、私が原因で死んだんだから。」
「っ……」
香の少し泣きそうな表情に、りんねが黙った。
「…先程から聞いていると、全てあなたが直接手を下したわけではないのですね?」
「…ええ。」
「……その真実を確かめる方法はありますか?」
「……」
香は目を逸らした。そして、少し小さく呟いた。
「…同じ剣士なのです、剣で知ればよいのでは?」
「…なるほど」
その言葉を聞いて、しのぶは自身の刀を構えた。
「…鬼は、平気で嘘をつきます。自分の身を守るためなら。ですから、それが真実だと断定できなくては私も信用することができません。」
「…そうですか」
「……いきます」
しのぶはその位置から強く踏み込んだ。
「“蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞 百足蛇腹”」
その言葉を聞いた瞬間、香が嫌そうな顔をした。
「…私は虫が嫌いなのです」
そう呟いた直後、振り向いて剣を剣の腹を見るように立てた。
バキッ
そんな嫌な音と共に香の剣が折れた。
「あ…」
香はそれを見て軽く驚いていたが、すぐに持ち直して剣を持っていない方の手を握った。
「“閃打”」
香の手が光ったと思うと、地面が少し揺れ、香の姿がしのぶとは離れた場所にあった。
「…!一体何が…!」
「地面を叩いてその時に発生した反発力でここまで跳んだだけですが…」
香はそう言いつつ、折れた剣を納めてから斬想鬼を閉じた。
「…“剣式・両手刀・桜花・贋作”」
そう呟いてから香は斬想鬼を開き、桜色の刀を抜刀した。
「…その刀は、以前の。ということは…やはり。」
「……えぇ。あの時、貴女が見たという謎の黒髪の剣士。それは、私のことです。…流石に、そんなことをしていると気がつかれたら、鬼殺隊のあなたは黙っていないでしょう?」
「…そう、ですね」
「…さて、次はこちらですか。」
香はその場から一気に踏み込み、しのぶの眼前まで接近した。
「は、速い!?」
「“桜花一閃”」
「くっ…!?」
しのぶはその技の範囲外に間一髪で到達し、攻撃を喰らうことを免れた。
「…!?ど、どこに───」
「ここです」
香の姿を見失ったしのぶの背後から声がした。
「“桜花一閃・一分咲”」
その不意打ち気味の一撃に、しのぶは対応することができずに直撃し、吹き飛ばされた。
「…っ!」
しのぶは木に激突し、痛みで空気を吐き出した。
「……」
香には追撃する気配はない。じっと見つめて、ただただ立っている。さらに、しのぶはそこで自身の体に違和感を覚えた。
「……?斬られた傷が…ない?」
香は確かに、しのぶのことを斬った。それなのに、
「……どういう、ことです?」
「……私のこの武器は“斬りたいと思ったもののみを斬ることができる”のです。…私は、貴女を斬りたいとは思っていません。」
「斬りたいと…思ったもののみ。」
「私は。人を……斬りたくはありません。」
その香の眼差しに、しのぶは香が本心を言っていると感じた。
「……貴女は、なぜ鬼を狩るのですか?」
気がつくと、しのぶは以前に香にしていた質問と同じ質問をしていた。
「……りんねが生きていられるため。私が強くなるため。………大切な人たちを、もう二度と…失わないために。」
香はそう、答えた。
「……もう一つ、お聞きしましょう。貴方達以外にもう一組、同じ状況の存在がいると言いましたね。その方たちの容姿は?」
「…なぜ、それを?」
香はその言葉を聞いて警戒を強めた。
「…貴女からは悪い気配はしません。貴女が言うもう一人の存在の容姿を知り、実際に見ることで最終判断をしようかと思いまして。」
「……仁に危害を加えたら許しませんから。」
「状況によります。」
その言葉を聞いて、ため息をついてから仁の容姿とだまりの容姿を軽く説明した。
「……鴉さん」
聞いたのち、しのぶは立ち上がって自身の鴉を呼んだ。
「ナン、ダ!」
「全鎹鴉に伝えてくださいますか。“黒い鬼が憑いた黒髪の黒い着物の下に赤い長襦袢を着た少年を保護せよ”と。持ち物は“赤い武器”…」
「カー?…ソレハ、ソコニイル女ガ持ツ武器ト同ジ武器カ?」
「…?えぇ。」
「……ソレナラバ、オ館様ヨリ捕獲命令ガ出テイルゾ」
「……」
「……」
「「え?」」/「え?」
二人と一体の声が見事に重なった。
「既ニ、全鎹鴉ニ通達サレテイル!ごむマリノ、ヨウナ存在ト、共ニイル男ト、女ヲ、捕獲シ、連行セヨ!」
「誰がゴムまりよ!!」
「ソウイワレテモ、困ル!」
「…何故、私達には通達がなかったのでしょう。」
「通達サレタノハツイサッキダ!」
「…」
しのぶは頭を押さえた。
「…ともかく、任せていいんですね?」
「アア!」
「では、よろしくお願いします。」
しのぶがそう言ったとき、背後でドサッという音がした。
「…!?ちょっと!?」
香が倒れていたのを見て、すぐに駆け寄った。
「…心配しないでいいわよ。気力が切れて気絶しただけだから。」
りんねがそう呟いた。
「なぜ…」
「…もともと、ここに来てからあなたと会うまでに結構消耗してたのよ。そんなところであなたが来て、恐らく騒音で気がついたのでしょうね…結構ぎりぎりの気力で戦ってたはずよ?」
「…」
「それが、今になって切れた。体力も気力もなくなってるから、しばらくはこのままだと思うわ。」
「…悪いことをしましたね。」
「…ほら、行きなさい?鬼はまだいる。」
「…危害は、加えませんね?」
「えぇ。…というか、私も結構疲れたから眠らせてもらうわ。」
そういってりんねは香の影となった。
「……鬼喰いの鬼、ですか…」
しのぶはそう呟いて鬼の気配がする方へと走り去っていった。
誰かfont:71のフォント名教えてくれませんか……鎹鴉の言葉に使っていたフォントなんですけどフォント名が分からずに設定できないのです…(解決済み+フォント間違えてました)
…ところで、全く関係ないのですが、香さんの身長、とあるゲームの主人公とほぼ同じ身長なんですよね…ちなみにそのゲームの主人公の身長は137cmだそうで。
香の秘密を話す時期はいつがいいですか?
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無限列車直後
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遊郭前
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刀鍛冶の里前
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刀鍛冶の里直後