「起きろっ!!」
その怒声に香が目をうっすらと開けると、香の視界に複数の人が映った。
「…誰…?」
「あらあら、私の顔を忘れました?」
そういいながら近づいてきたのは、香にとって見覚えのある顔だった。
「…胡蝶…しのぶさん」
「ええ。…あなた、ここに連れてこられる前に隠に要求をしていたそうですね。」
しのぶは香に顔を近づけてそう言った。
「…そういえばしましたね。“麹町の錦糸綺糸屋というお店に寄ってそこにいる人たちを全員連れてきてください”…と。」
「ここは本来秘匿されている場所なのですが……不確定である要素、それに関する情報。それを得られるならば、連れてきてもよいでしょう、というお館様の判断です。お館様に感謝してください。」
「……それは、その人によりますよ。私が信頼するにあたるかどうか。それによって私が話すか話さないかは決めます。」
香がそう言うと、しのぶが軽く香をにらんだ
「…ただし」
「…」
「今の状態ではあなたたちも私達のことが未確定すぎて警戒を緩めないでしょう。ですから、ある程度までは無条件で公開しましょう。…こちらも、いろいろと整理はできましたから。」
「……そうですか」
そういってしのぶは香から立ち上がろうとした。
「…あなたは」
「?」
「あなたはその屋敷の者達を私たちが連れてきたという情報を聞いていないのに…何故、そうも信用できるのでしょう?」
しのぶは静かにそう問いかけた。
「…まだ、完全に信用はしていません。…ですが、皆を連れてきたという事実がこの場所に存在している以上、話が分かる方々だとは思っていますから。」
「…どういう、ことです?」
「この場所から少し離れたところに、皆の気配を感じます。それもここからそう遠く離れていなく、錦糸綺糸屋の屋敷からも遠い場所。…少し彼女の反応が遠いのと、ここの屋敷内の方に懐かしいような気配があるのを除けば、皆を連れてきたことが分かっていますから。」
「……あなた、いったい…」
しのぶはまた問いかけようとしたが顔を振って立ち上がった。
「…これ以上話しているとお館様が来てしまいますね」
そう言ってしのぶは複数人の集団の中に戻っていった。
(…なんだったんだろ…)
香がそう思いつつ、あたりを見渡すと、仁と金髪の少年、猪の頭を被った少年、額に傷のある少年がいた。
(…仁の心拍は安定してる。他の三人も心拍は安定中……っていうか誰だろ…この三人…)
「おきろ!やい!」
(…そういえばさっきからずっと音を気にしないようにしてたけど…あの人ずっと傷のある男の子を起こそうとしてるよね…)
香は黒子を着た人が傷のある少年を起こそうとしているのを見てそう思った。
「いつまで寝てんださっさと起きねぇか!!」
(あ、みんな気がついたみたい)
香の思考通り、その大声で全員が目を覚ましていた。
「柱の前だぞ!!」
その少年が少し困惑している間、柱らしい人間たちはその少年をじっと見つめていた。
「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは今から裁判を受けるのですよ。竈門 炭治郎君。」
(裁判、か……そういえば私が連れてこられた主な理由って何だったんだろう。昨日は直感で出てきたまま言っただけだし……)
「裁判の必要などないだろう!鬼を庇うなど明らかな対立違反!我らのみで対処可能!鬼と鬼憑きもろとも斬首する!」
「ならば俺が派手に頸を切ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ。」
(言い分が激しいというかなんというか……というかしれっと私達巻き込まれたような…そしてあの女性は何に顔を赤くしているのかな…)
「あぁ…なんというみすぼらしい子供だ可哀想に。生まれてきたこと自体が可哀想だ。」
(あの大きな人は何か失礼なこと言ってるし…なんかボーっとしている人もいるし…)
「殺してやろう」
「うむ」
「そうだな派手にな」
(…)
香は心意の導線を仁の方へと伸ばした。
『仁、聞こえる?』
『!?』
『答えないでいいから聞いて。答え方教えてないし…とりあえず、強めの心意を薄く身体に纏っておいて。精密操作は難しいけど多分今の仁なら…』
『…』
『理由は何かここにいる人達の複数人が私達に向かって殺意を放っているから。強めの心意を薄く身体に纏っておけばひとまずある程度の攻撃は耐えられる防護壁になる。もっと詳しい心意運用方法はまた今度教えるから今はとりあえずイメージだけで何とかして。』
香の視点から仁が軽く頷くのが見えた。
『…接続を切るよ。私も少し荒く張るからそれを見てイメージは掴んで。』
そう思念を送った後、香は少し集中した。
(…これくらい荒ければ見えるかな)
その香の張り方を見て仁はなるほど、と思った。
(確かにいつもの香よりも心意の張り方が荒い。俺のためでもあるのだろうが…いや、普通に俺より荒くないからな??)
香の“荒い心意の張り方”が仁の心意の張り方よりも精密すぎて仁が少し凹んでいた。
「そんなことより冨岡はどうするのかね」
その声に全員が視線を上げた。
「拘束もしてない様に俺は頭痛がしてくるんだが。胡蝶めの話によると対立違反は冨岡も同じだろう。どう処分する、どう責任を取らせる、どんな目にあわせてやろうか。」
(…蛇?…ていうかあの人何であんなところに…)
「まぁいいじゃないですか、大人しくついて来てくれましたし。処罰はあとで考えましょう。それよりも私は坊やの方から話を聞きたいですよ。」
しのぶがそう言うと、少年…炭治郎が言葉を発そうとしてせき込んだ。
(気がついてなかったけどここに捉えられている中で私と仁以外重傷…っていうかよく仁、軽傷で済んだね…)
軽く感心しながらいると、しのぶが炭治郎に近づいて小さな瓢箪の中に入ってる水を飲ませていた。
「怪我が治ったわけではないので無理はいけませんよ。」
しのぶがそう言うと、炭治郎は自身の妹が鬼になったこと、人を喰らったことはないこと、今までもこれからも人を傷つけることは絶対にしないといった。
(絶対…か…)
それに対して木の上に乗っている人物がその言葉を信用しないということ、大きな人物が鬼にとり憑かれているから殺して解き放つと言った。
(あの~……それ私達にすっごい刺さるんだけど…)
さらに炭治郎は妹、禰豆子を治すために剣士になったこと、禰豆子が鬼になったのは二年以上前だとも明かした。
(……気になる。鬼らしき気配一つと鈴の気配。そして…人間の気配。こっちに近づいてる。)
少し警戒をしながらいると、先程の派手な人間がそれを証明して見せろと言った。
「あのぉ…でも疑問があるんですけど…お館様がこのことを把握してないとは思えないです。勝手に処分しちゃっていいんでしょうか?いらっしゃるまでとりあえず待った方が…」
(…あの人初めて喋った?よね?)
「妹は俺と一緒に戦えます!鬼殺隊として人を守るために戦えるんです!だから…」
その時、足音と共に声が聞こえた。
「オイオイ、何だか面白いことになってるなァ」
その声を聴いた途端、香は凄まじい嫌悪感を感じた。
「困ります、
(…女鬼!?)
その声がした方向を香が見ると、傷だらけの男が四角い箱と白い髪の鬼の腕を掴んでこちらに来ていた。
「鬼を連れてた馬鹿隊員と鬼に憑かれることを許容し一緒にいた馬鹿っていうのはそいつらかぃィ」
香が鬼の方を見ていると、鬼がその視線に気がついたのか視線を上げた。
「…若女将っ!」
「鈴っ!!」
「一体全体どういうつもりだァ?」
その言葉を発した直後、香がその不死川と呼ばれた人物をにらみ上げた。
…ところで。
伊之助であるが。
ここにきて目覚めてからというもの、ずっと危険な気配を感じ取っていた。
それは紛れもない強者の気配。自分が勝つことができないと感覚のみでわかってしまうほどの気配。
それは紛れもなく、香の方から発せられていた。
そして、鬼を連れた柱が現れたと同時に、その気配は肥大した。
喉が潰れているために声がうまく出せないが、もし出せていたとしてもいつもの威勢を張ることができたか怪しいレベルの気配であった。
そして善逸。
りんねがしのぶを導いたためにその毒の進行が軽かった彼であるが、動きはやはり悪い。
だが彼の異常聴覚は健在で、不死川がいなかったときはまだ穏やかだった香の音が
さらにそこにいた不死川と鈴を含まない全員。
全員が、
まぁ、要するに。
───香が、軽くではあるが、怒り状態に移行した。
「胡蝶様申し訳ありません…」
「不死川さん、勝手なことをしないでください」
「はっ」
不死川と言われた剣士は箱を放り投げてから鈴を引き寄せた。
「あっ!」
「鈴っ!…鈴を離せっ!!」
「あァ?」
「もう一度言う……鈴を離せ!」
不死川は鼻で笑った。
「離すわけねェだろうがよォ…日光が大丈夫な鬼だ。これから先何があるかわからねェ。脅威になるような奴はよォ…」
不死川は剣を抜いた。それを見て、かなり濃くなった殺気の中で仁は思った。
(…あ、こいつ終わったな。…香の逆鱗に触れる。この殺気の強さはそれだ。)
同時に、りんねは思った。
(…こいつ、終わったわね。香の最大レベルの逆鱗……“大切なものに危害を加える”を実行するなんて。)
「殺しておくべきだよなぁッ!!」
不死川が剣を鈴に刺そうとしたとき、香が鈴とりんねに思念を送った。
『りんね、分離して私の着物の中に!鈴、防護魔法出力全開!!』
『は、はい!』/『了解』
鈴に不死川の剣先が触れる直前、ガンッという音と共に剣が阻まれ、バンッという音と共に香と不死川の姿がその場から消えた。
「え…し、不死川様!?」
黒子を着た人物が不死川を呼んだ直後、柱達の背後でドゴンッ!という音がした。
「か…はっ」
「し、不死川様!?」
そこには壁に叩き付けられた不死川とどこからか取り出した剣を壁に突き刺している香の姿があった。
「「「「「「「っ…!」」」」」」」
柱達が仲裁に入ろうとしたが香から放たれる重く濃い殺気に圧倒され、声を発することができなかった。
ところで何が起こったのか。少し時間を戻して検証してみよう。
まず、香は思念を送った後、即座に加速を開始した。
加速後0.001秒レベルで
跳びあがっている中で
その後柱達の背後へと降り、壁に向かって不死川を思いっきり叩き付けたのである。
不死川と香には
「…その辺にしなさい、香。」
りんねの声がその場に響くと、香は不死川に顔を近づけた。
「…次やったら、容赦しない。死なない程度に傷つける。」
そう低く呟いた後、さらに顔を近づけた。
「…これは警告だ。」
ドスの効いた低い声で呟いて剣を引き抜き、不死川を元の場所へと戻し、その時に鈴も回収して仁の近くへと戻った。ついでにりんねも香に憑き、影に戻った。
「はっ…ははっ…」
香の殺気が収まったと思うと、不死川が軽く笑った。
「鬼が…鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ…?そんなことはなァ…」
不死川は近くにあった箱を掴んだ。
「ありえねぇんだよ馬鹿がァ!!」
不死川は自身の刀を箱に突き入れた。
その箱から漏れ出た血を見た瞬間、炭治郎の気配が少し変わった。
(…屑か)
香から少し殺気が漏れ出ており、同時に炭治郎が飛び出した。
「俺の妹を傷つける奴は柱だろうが何だろうが許さない!!」
「ハハハハ!!そうかいよかったなァ!」
不死川がそう言った直後、羽織の模様が左右で違う人物が口を開いた。
「やめろ!!もうすぐお館様がいらっしゃるぞ!」
「!!」
その言葉で不死川にできたほんの少しの隙を、炭治郎は見逃さなかった。
地面をけって自身の身体を浮きあげたと思うと頭突きを入れたのである。
「ブフッ」
誰かが吹き出した音が聞こえ、香がその方向を見ると、しのぶではない女性が顔を押さえていた。
「すみません」
(頭突きって…まぁ笑えるかもだけども。)
そして頭突きで場所が入れ替わったときに、その炭治郎の近くには箱があった。
「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないのなら柱なんてやめてしまえ!!」
(言うなぁ…)
一瞬で音速を越えて傷がつかないように加工したうえでしばらく不死川を滅多打ちにした香が思うことではない気がする。
「てめェェ…ぶっ殺してやる!!」
不死川が起き上がろうとした時だった。
「お館様のお成りです!」
屋敷の方にいた子供がそう叫ぶと、奥の方から一人の人物が現れた。
「よく来たね、私の可愛い剣士たち。そして、私の剣士たちではないお客さんたち。」
その人物は、来た直後にそう言った。
昨日組み上げましたけど…次の話がいつになるかは分かりません。なんとなく構成はあるのですが形にしにくいのです。
ではでは。
香の秘密を話す時期はいつがいいですか?
-
無限列車直後
-
遊郭前
-
刀鍛冶の里前
-
刀鍛冶の里直後