不死川の方から血の匂いがした瞬間、香は凄まじい嫌悪感…否、嘔吐感に襲われた。即座に心意の流れを操作して感覚を保護したものの、顔色は優れていない。
「実弥…」
「…大丈夫ですか?若女将…」
「…うん。大丈夫…」
(何この感覚…心意の流れの制御で感覚から遠ざけたけど多分あのまま対策しなかったら吐いてた…)
香は今でも軽く襲ってくる嘔吐感に耐えながら、不死川の方を見た。
「オイ鬼!!飯の時間だぞ喰らいつけ!!」
「メシだと!?」
「お前じゃないぞだまり。」
何故かだまりが反応し、仁に軽く止められていた。その間に不死川は血を禰豆子の入った箱にかけていた。
「………すみません、その方からもっと離れてもいいですか」
「……顔色が悪いね。少し香を実弥から遠いところに移動させてあげなさい。」
「はっ」
近くの隠が香を少し遠ざけると、花、仁、鈴も香の側まで来た。
「大丈夫か?」
「…多分。」
「……香、お主…血の匂いに弱いのか?」
「そういうわけじゃないんですけどね…」
香が不死川の方を見ると口の方に包帯のようなものを巻いている人が声を発そうとしていた。
「不死川、日なたでは駄目だ。日陰に行かねば鬼は出て来ない。」
「お館様、失礼仕る。」
不死川はそう言うと、その場から勢いよく跳び出し、耀哉の背後の方へと回った。
(…おっそい)
香の感想が酷いが、そもそも一瞬で音速越えられるような奴にそんなことを言っても無駄である。
「禰豆子ォ!!」
不死川の方は刀を構えていた。
「やめろーーーーっ!!!」
炭治郎が動くよりも前に、包帯のようなものを巻いた人が炭治郎の背に向けて肘を振り下ろした。
「…っ!」
(あれ痛いんじゃないかな…?)
そんなことを思っていると不死川の方に動きがあった。刀を箱に三度、突き刺したのである。
(……)
「……香、切れかけてないか?」
「うん?いや、そうでもない…と思うけど」
それを聞いて仁は思った。
(……今一瞬、香の背後に赤い二本角の巨体の姿が見えたのは幻か…)
「出て来い鬼ィィ、お前の大好きな人間の血だァ!!」
不死川はそう言って箱の蓋を破壊した。
(……あとで修繕しようか、あれ。)
そう思った香であった。中にいた禰豆子はというと、箱を開けられてのっそり起き上がった。軽く、呼吸が荒い。
「…香、何か感じるか?」
「いや…嘔吐感以外は特に…」
「…仁…わしゃ腹減ったぞ…」
「お前今この状況下でそれ言うか?」
「鈴と花さんは…?」
「私は別に…」
「わ、私も大丈夫です…」
錦糸綺糸屋勢の方に血は効いていないようだ。強いて言うなら異常としては香が嘔吐感を感じていることくらいか。
「伊黒さん強く押さえすぎです。少し弛めてください。」
しのぶが炭治郎を押さえつけている人にそう言った。
「動こうとするから押さえているだけだが?」
「…竈門君、肺を圧迫されている状態で呼吸を使うと血管が破裂しますよ。」
それを聞いた派手な人が反応した。
「血管が破裂!!いいな響き派手で!!よし行け破裂しろ!」
「可哀想に…何と弱く哀れな子供。南無阿弥陀仏…」
それに構わず炭治郎は力を込めた。
(……)
「竈門君!」
あぶないと思ったのかしのぶが声を張り上げた時ブチブチッという音と共に炭治郎の拘束が外れた。
(いや……力強すぎでしょ。魔力強化とかしてないのに…)
香はそう思い、灯純はこう思った。
(あの力の強さ……普通の人間が出せるもんじゃねぇ。なるほど、あれが“全集中の呼吸”か。……まぁ、香は普通にあれくらい出せそうなのが怖いんだが。いや、あの化け物と比較しちゃならんか。まぁちゃんと一人の娘として触れ合うけどな。根本は人間なんだし。)
義父から何気に化け物扱いされている香であった。炭治郎はというと、拘束が解けた後せき込みながら屋敷の方へと近づいた。
「禰豆子!!」
屋敷のふちに捕まったところで禰豆子を呼ぶと、それに気づいた禰豆子の気配が少し落ち着いたのに香が気付いた。
(気配の荒れ方が元に戻った…鬼と化するぎりぎりだったかな)
その後、禰豆子は不死川の腕から目を逸らした。
「…ふむ。実弥に三回刺され、目の前に血塗れの腕を突き出されても我慢して噛まなかったのか。」
耀哉がその状態を見て軽く頷いた。
「これで、禰豆子が人を襲わないことの証明ができたね。」
「「!!」」
その後、伊黒が自分の腕を振って拘束をほどいた。
「何のつもりだ?冨岡…」
「……」
冨岡は答えなかった。
「炭治郎。それでもまだ禰豆子のことを快く思わない者もいるだろう。」
その声を聴いた炭治郎が屋敷のふちから離れ頭を下げた。
「証明しなければならない。これから、炭治郎と禰豆子が鬼殺隊として戦えること、役に立てること。」
(…あの人の声、少し特殊だね。)
そんなことを思いつつ香はまた少し強めの心意で嘔吐感を紛らわせた。
「十二鬼月を倒しておいで。そうしたらみんなに認められる。炭治郎の言葉の重みが変わってくる。」
(力あるものが認められる、か。嫌いじゃないけど…力のみが全て、っていうのは私は嫌いだね。)
「俺は…俺と禰豆子は鬼舞辻無惨を倒します!!俺と禰豆子が必ず!!悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!!」
炭治郎はそう強く宣言した。
「今の炭治郎にはできないからまず十二鬼月を一人倒そうね。」
「はい」
炭治郎の顔が赤くなっていた。同時に何名か笑いをこらえていた。
「あの…すみません、質問いいでしょうか。」
「なんだい?」
「十二鬼月ってそんなに強いのですか?」
香がそう聞くと、全員の視線が集まった。
「…ふむ。鬼の中の精鋭達、といえば伝わりやすいかな?それぞれ上弦と下弦で六体ずつ、計十二体の鬼舞辻直属の鬼達だ。特徴は目に文字があることだね。」
「…目に、文字。」
「君達がいた山で戦っていた鬼は下弦の伍だけれど……何か、知っているのかい?」
「………あの、それは左眼に“下肆”と書いてある方でしょうか。」
「「「「「「「「「「…………………は?」」」」」」」」」」
全員が疑問の声を上げた。
「それは…下弦の肆だね。それがどうかしたのかい?」
「あの…私先日その方と戦ったのですが…」
「…え」
「そういえばあなたは私が見つけた時何やら巨大な鬼と戦っていましたが……あれがその、下弦の肆なのですか?」
しのぶが軽く声を震わせながら聞いた。香は控え目気味に頷いた。
「倒しきる前に逃げられてしまったのですが…その方の左眼に、確かに“下肆”と…」
「…貴女…化け物ですか。」
「そうだぞ、香は化け物だぞ。戦闘能力がな。」
「お父様酷いです…まぁそれは私も理解してますから別にいいのですが…」
「いいのかい…それで…」
「事実ですし。」
そんな会話があり、少し微妙な空間になってしまった。
「…まぁ、彼女はともかく、鬼殺隊の柱たちは当然抜きん出た才能がある。血を吐くような鍛錬で自らを叩き上げて死線をくぐり、十二鬼月をも倒している。だからこそ柱は尊敬され優遇されるんだよ。炭治郎も口の利き方には気をつけるように。」
「は…はい。」
「それから実弥、小芭内。あまり下の子に意地悪をしないこと。」
「……御意」
「御意…」
耀哉はそう言った後、香に視線を向けた。
「これで炭治郎の話は終わりだ。下がっていい…と言いたいところだけど香達の話も聞いておいてほしい。それから香」
「はい。」
「女性にこんなことを聞くのは失礼かもだけど…君、一体いくつだい?」
「もうすぐ14ですが。」
「13歳か……無一郎よりも年下なのか。」
「…というか私ここにいる人達誰なのか知らないのですが。」
「…ふむ。なら、香達の話に入る前にそれぞれの紹介から行こうか。」
耀哉はそう言った。
ということで証明が終わりました…次からは香達の話に入っていきます。
ちなみに年齢の答え方はあやしやの方の答え方にしています。
香の秘密を話す時期はいつがいいですか?
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無限列車直後
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遊郭前
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刀鍛冶の里前
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刀鍛冶の里直後