夜。香達が鬼狩りに出かける前、全員が台所に集合した。
「あ、だまり。ちょっといいかしら?」
「…む。」
一番最後に来たのは仁で、りんねがだまりの姿を見つけると二体だけで台所を出ていった。
「……何があったんだろ?」
「さぁ……とりあえずだまりたちが戻ってくるまで待つとしよう。」
全員がそのまま待っていると、少ししてだまりとりんねが戻ってきた。
「ごめんなさい、今戻ったわ。」
「いや、気にしないで?…でも、何かあったの?」
「ええ…先にその話からしましょうか。」
りんねは香の近くにたどり着いたと共にだまりの方を見た。
「だまり。」
「おぉ。」
その声と共にだまりが溶けた。
「おい、だま…り!?」
「「「「!?」」」」
そこで全員が変化に気がついた。溶けているというのに、仁の傷が開く様子がない。
「……仁、キサマの人間本来の治癒能力が戻り、わっしゃの補助なしでも自由に動けるようになった。大きな怪我をしない限りはもう大丈夫だろう。」
「そうか……」
仁が自身の手を見つめていた。そこでだまりが表情を曇らせる。
「…問題は、わっしゃと仁が離れる方法だが…」
「…俺の術とは違う方法で外さないといけない。融合された方法が違うらしいからな…」
「…それが問題か……」
仁達が悩んでいるとりんねがを不思議そうな顔をした。
「…香、あの事まだ言ってないのかしら?」
「……なんかそれ前にも聞いた気がする。…気のせいかな」
「気のせいじゃないかしら?で、言いなさいよ。」
いつの間にか香に全員の視線が注がれていた。それに香はため息をついて袖のところから一つの石がついた紐を出した。
「これ、仁に。」
「石?変な形だが…」
「首からかけて」
その言葉に仁が首からその石をかけると、香が呟いた。
「製作者権限指示。“人鬼分離”術式を起動せよ。」
「は…?」
仁がそう呟いた直後、石が強く光を放った。
「っ…なん…だ!?」
光が収まると、そこには仁と仁の影から外れただまりがいた。仁とだまりは、それぞれ首から石の付いた紐をかけている。
「…ぬお!?」
「なっ!?」
「製作者権限指示。“人鬼融合”術式を起動せよ。」
今度は両方の石が光り、その光が収まったと思うと仁と仁の影と繋がっただまりがいた。
「これは……」
香はそれを見て軽く頷いた。
「成功だね。…ならあとは…管理者権限。所有者権限による変更を有効化。並びに製作者権限、管理者権限を完全破棄。」
その言葉が響いたと同時に微かに石から音が鳴った。
「……なぁ、香。これは何だ?」
「それは仁とだまりさんの融合・分離を補助する魔道具。さっきの二種類の魔法が刻まれてるの。流石に私とは色々違うみたいだからこうやって魔法化するしかなかった…」
「そうか……すまない。」
「ううん…あ、それとこれは全員に報告です。」
香がそう言うと全員が香の方を向いた。
「まだ実際には試していないのですけど、この世界に来てから…いえ、それ以前から開発していた魔法がようやく形になりました。」
その言葉に灯純が反応した。
「おい、それは……本当に、出来たのか?」
香はその言葉に力強く頷いた。
「りんね。」
「私?」
「うん。分離、お願いできる?」
その言葉でりんねが香から分離した。
「…で、どうすればいいのよ?」
「…魔法陣展開。」
香がそう呟くと香が持っていた和紙から複雑な記号が書かれた円が浮かび上がった。
「拡大。刻印」
香がそう呟くと香の目の前に二畳ほどの大きさの円形の陣が刻まれた。
「…りんね、この中心に立ってくれる?」
「…なんだか怖いわね。でもやるわよ。」
そう言ってりんねがその陣の中心に立った。それを見て全員が陣から離れた。
「…うん。効果展開。術式解放……魔力回線接続確認、妖力回線接続確認…呪力回線接続確認、アバターモードチェンジシステム……回路接続を確認。エラーなし、起動環境良好……起動。凝縮回転」
香がそこまで呟いた時、陣が浮かび上がり、強い光を放ってりんねを包み込んだ。
「何が起こってるの!?」
「…」
暫くして光が収まると、そこには陣とりんねの姿はなく、
「…一体なんだったっていうのよ……」
「「「「「!?」」」」」
その少女が発した声は
「…うん、成功だね。
「人間化…?どういうことよ?」
香はりんねの問いに答えずに手鏡を向けた。
「…誰よ、こ…れ?」
りんねの声が小さくなっていくと同時に少女が自分の顔を触った。次いで少女が香を見つめた。
「……まさか……香。これ……私、なの?」
「…うん。そうだよ、りんね。」
「……嘘、でしょう?」
「ほんと。人間化の術…その名の通り、人ならざるものを人の姿にする術。調整次第では完全に人間と同じ性質になれるよ。」
「…………これが、香の作っていたものなのね?」
「うん。…って、流石にその姿のままじゃ寒いだろうから着替えてきて?」
香の言う通り、そのりんねの服装はかなり薄かった。
「え、えぇ……」
りんねが立ち上がると香がむっとした表情になった。
「りんねの人間体…私より背が高い…」
「…え。」
「もしも人間としてこの世に生まれたなら、っていう予測を使って発生しているから私より背が高いのは確実だったみたい……年齢は…見たところ14歳くらいかな?」
「…そう。とりあえず、着替えてきちゃうわね。」
「行ってらっしゃい~」
りんねはそう言って台所から消えた。
「さて、次はだまりさんですよ。」
「お、おぉ……手柔らかに頼むぞ」
香が頷いてりんねの時と同じ手順を行うと、今度は黒髪の少年が現れた。黒髪の少年があたりを見回しているところに香が手鏡を渡した。
「……これが、わっしゃか?」
「…だまり、なのか?」
仁が恐る恐るといったように聞いた。
「……わっしゃの名前はだまり。鬼喰いの鬼……仁と共に在ったもの…」
「…合ってるな。」
仁がそう言ったとき、りんねが戻ってきた。
「香の部屋にあった使った様子の無い服使わせてもらったけど良かったかしら?」
「うん?いいけど…」
そのりんねは黒地に花模様が入った着物を着ていた。
「……これ、私にぴったりね。予測でもしていたのかしら?」
「あ~…それお母様が作って私の部屋に置いていたやつだ…」
「あ……ごめんなさい、すぐに脱ぐわ」
「いや、それ使ってていいよ」
「え」
「だってそれ私には大きいし。というかここで脱がないでね?明らか女の子なんだし。」
りんねはその言葉に詰まったような声を出してから少し悩んで口を開いた。
「…でも、今度何か選んでちょうだい。流石に香がお母さんから貰ったものをずっと使ってられる気はしないわ。」
「そっか…じゃあ、この後選んであげるね。」
「お願い。」
「…さてと。」
香は仁とだまりの方を見た。
「じゃあ、名前を決めましょうか。」
「「「「「名前?」」」」」
仁達が同時に聞いた。
「人間としての名前。流石にその姿で生活することが多くなるでしょうからあった方がいいでしょう?」
「む……」
「…そういえば、もしも香と融合するときなんかはどうするのよ?」
「それに関しては大丈夫。心の中で元の姿に戻りたいって念じれば戻れるようになってるから。」
「そ、そうなのね…」
「逆に人間の姿になりたいときは人間の姿になりたいって念じればなれるからね。そういう術式を組んだし。」
「……む、聞きたいことの先手を打たれたか。」
「俺は香から聞いてはいたが、本当に完成させるとは…」
灯純がそう呟いた。
「…仁。わっしゃの名、お主に決めてもらってもよいか?」
「香。私の名前、あなたが決めてくれる?」
「俺?」/「私?」
だまりとりんねは同時に頷いた。
「なんだかんだお主とは長い付き合いだからな。」
「戦友、っていうか。貴女のくれた名前だったらいいなって。」
「「……」」
香と仁はそこで悩んだ。
「……
「
仁と香は香の持っていた紙に筆で文字を書いて見せた。
「…うむ。気に入った。ではわっしゃのこの姿での名はこれから“綺糸 雫鞠”だ!!」
「私も気に入ったわ。“錦糸 凛音”…凛とする音、ね…ふふっ」
二体、いや、二人は気に入ったようで笑っていた。
「…さ、これでやりたかったことは終わり。仁、鬼狩り行こっか。」
「あ、あぁ…」
「…と、その前に凛音は私についてきて。行く前に服選んじゃうから。」
そう言って香が立ち上がった時、台所の窓を強く叩く音が聞こえた。
「…?」
香が窓の方を見ると一羽の鴉が。
「ん?…あ、日継。」
「カァァ、カァァ、伝令、伝令!!明後日、蝶屋敷ヘト迎エ!!機能回復訓練開始二ツキ那田蜘蛛山デ戦ッタ一般隊士全員招集!!」
「…だそうだ。」
「…分かった。」
香はため息をついてから凛音と共に一ノ蔵へと向かった。