「ごめんください」
虹架のもとに、唐突に誰かが訪ねてきた。
「はい?…ごめんね、
「あ、はい…」
雪乃と呼ばれた少女は構えていた刀を納め、その場に座った。それを確認した虹架は玄関の方に向かった。
「どちらさま……って。」
玄関にいたのは一人の女性だった。その女性が一礼すると、虹架は頭を押さえた。
「…夜分遅くに申し訳ありません。」
「…どうぞ。お上がりください。」
「…失礼します。」
女性は虹架に連れられ屋敷内の部屋に通された。その部屋には雪乃がいたが、虹架と一緒にいる女性を見た時、少し怯えの表情になった。
「大丈夫、この人は安全だから。」
「そう…なのですか?」
「うん。私が保証する。怖いならみんなのもとにいていいよ?」
「は、はい……失礼します……」
そう言って雪乃は退出し、その部屋には女性と虹架の二人だけになった。
「…どうぞ、お座りください」
「失礼します…」
女性が部屋にある座布団に座ると、虹架はいつものようにお茶を3つ用意した。
「…粗茶ですが。」
「あの、これは…」
「…姿を現してください?そこに隠れている方。」
虹架がそう言うと、少し不機嫌な少年が現れた。
「…何故分かった。」
「空間の歪み方。」
「…やはり、貴女は凄いですね。
「…そちらこそ、何の御用ですか?…
珠世。そう呼ばれた女性は軽く微笑んだ。
「覚えていてくださったのですね。」
「えぇ、まぁ。最後に会ったのは467年前ですか。今は宝暦13年(1763年)、お互い永い時を生きてますね…」
「私は呪いを外すのに時間がかかりましたが…虹架さんはそうでもないのでしょう?」
「まぁ…私の意識が戻った時、呪いは外れたみたいなので。最後に会ってから、私は呪いを外したようなものです。」
「…そうですか…」
その言葉の後、その場に沈黙が降りた。
「…それで、何の御用ですか?」
「…虹架さん。貴女の血を、調べさせてはくれませんか?」
「血を?」
「貴女は人を喰らわずに今まで生きています。日も克服しているようですから、調べてみる価値はあると思いまして。」
珠世はそう言って虹架を見つめた。
「…珠世さん、貴女は一つ勘違いしています。」
「え…?」
「私は
「……そう、なのですか…」
「…でも、太陽の光を克服する鬼が出るというのはいい予測だと思いますよ。いずれ、太陽の光を克服する鬼は出るでしょう。」
「…それでも、調べさせてはくれませんか。貴女の血鬼術に興味があります。」
「…いいですよ」
「感謝します…」
虹架が手を出すと、愈史郎はそこから小刀を使って血を抜き取った。
「…そういえば、珠世さんって私の血鬼術知ってるんですか?」
「属性を操るものではないのですか?」
「いや、それはそうなんですけど…私の血鬼術の本質はそこじゃないんですよ。」
そう言って虹架は手の先に小さい炎を生み出した。
「まず、知っての通り血鬼術“属性”。これは世界に存在する属性を操ることができるようになるものです。」
「それは、以前から持っていましたし、見たこともあるのですが…他にもあるのですか?」
虹架が頷くと、その炎が大きくなった。
「これが私のもう一つの血鬼術にして私の術の本質…血鬼術“増強”。」
「増…強」
「力でも、術でも、属性でも。
「…確かに、危険ですね。」
「この血鬼術の有用性が奴に知られなくてよかった。そう思うことが多かったです。」
「…」
その後、少しの間沈黙が続いたかと思うと、唐突に襖の開く音がした。
「?」
「…すみません、虹架さん…聞こえてしまいました。」
「別にいいよ?えっと…」
虹架が襖を開けた少年の名を思い出そうとしていると、少年が口を開いた。
「炭次です。“
「あぁ、炭次くん…どうかした?」
「…虹架さんに見せるか迷っていたものがあります。見てもらっても、いいですか?…その、そこの…珠世さんという方も一緒に。」
「「??」」
炭次といった少年は外に出て、刀を構えた。
「ゴォォォォ」
「っ、その、呼吸法は」
「縁壱さんの……!!」
「“ヒノカミ神楽 日輪神楽舞”」
虹架が以前、“日輪神楽舞”と名付けた日の呼吸 拾参ノ型。それが、そこには在った。その拾参ノ型を終えると、刀を納めて虹架達に向き直った。
「……これは、僕の家系に代々伝わる神楽なんです。僕は次男なんで、本来継承はないんですが…父さんにお願いしたら、兄と一緒に見せてくれまして。それが、この“ヒノカミ神楽”です。」
「…」
「この神楽なんですが、見せてくれた時に父さんがこんなことを言ってたんです。“この神楽は、祖先から繋いできたものだ。とある剣士と、そしてその剣士の友人のとある鬼の少女が紡いだ歴史の証。剣士の名は縁壱。少女の名は、虹架といった。詳しいことは、家にある伝承を読むといいだろう。”って。その伝承に、僕の祖先を救ってくれた剣士である継国 縁壱という名前、縁壱という方の友人である鬼縫 虹架という名前、縁壱という方が助けたという珠世という方の名前がありました。」
「…そうですか」
「その記述の中に、虹架という方と珠世という方は鬼ということが書かれていたので、もしかしたら今でも生きているかと思い、探していたのです。…数年前、鬼に襲われていた時に虹架さんに救われ、鬼殺隊の門をたたいた時。同じ名前を聞いて驚愕したものです。…すみません、今まで話せずに。決心がつきませんでした。」
「……あなたは」
虹架は沈黙ののちに口を開いた。
「あなたは……ううん、あなた達は縁壱くんの技を、ちゃんと継いでいってくれてたんだね。」
「…えぇ。」
「…ありがとう。私はそれが心残りだった。縁壱くんから継いだということは聞いてたけど。本当に継げているのか、私にはわからなかったから。…ありがとう。いずれそれは何かの鍵になる。」
「…私からもお礼を言わせてください。恩人の方の技を、もう一度この目で見ることができるなんて。」
珠世と虹架の感謝の言葉に炭次は首を横に振った。
「いえ……さっきも言いましたが僕は
「…そっか。…珠世さん。」
「…なんでしょう。」
「私の血鬼術である“属性”と“増強”。私の血だけで使うことができるようにするので…誰かのために、使ってあげてくれませんか。」
そう言って虹架は爪で肌をひっかき、近くにあった瓶に血を入れた。ビンの中には、血の赤色と共にきらきら煌めく虹の色が見えた。
「…はい。必ず。」
「ありがとうございます。…炭次くん。」
「はい」
「ここ最近、虹の継承者は現れてない。多分、虹の継承者は炭次くんが最後。」
そう言って虹架は刀を手に持ち、呼気音を発した。
「完成した。…弐拾壱の型。」
「…これで、おわりですか?」
「拾壱の型が完成すれば、恐らく。…でも、完成するかな?」
「…わたしはそろそろ、お暇しますね。」
「はい。ありがとうございました。」
「…こちらこそ。」
「ふん。」
そう言って珠世と愈史郎は帰っていった。
「……炭次くん。」
「はい。」
「あと、お願いね。」
「…いかれるのですか?あの場所に。」
「うん…」
虹架の脳裏には、あの音が響いていた。
「呼んでる。縁壱くんのはずがないけど…でも。呼んでいるなら、こちらから向かわなくては失礼に値する。でしょ?」
「…そうですね。お気をつけて。」
「うん。」
炭次とそんな会話をした後、虹架はあの森にいた。
「……共鳴音は、こっちかな。」
虹架は高い音のする方へと歩いていく。すると一つの人影が見えた。
「…こんにちは。良い夜ですね?」
「!?」
人影は声のした方を見た。六つ目の、刀を帯刀する者で、真ん中の左眼に“上弦”、右眼に“壱”と書かれた者だった。
「…こんにちは、
「貴女は……虹架殿っ!?」
巌勝と呼ばれた者は驚愕の表情をして虹架を見つめていた。
「なぜ…生きて…!?貴女は人間のはずだ、この時まで姿も変わらず生きていられるわけがない!!」
「なんで、か…」
虹架はそこでため息をついた。
「理由はただ一つ。私は
「───っ!」
「変に思わなかったの?貴方が鬼になる二年前と貴方が鬼になった時。
「それは……」
「まったく…今の今まで気がつかなかったのね。」
「……」
「…で?ここに来たのは何か理由が?」
「…あのお方に…鬼がいるという…この森を…調べてこいと…言われた…」
「…そう。それで?」
「あのお方は…日の克服を望んでいる……ゆえに……貴女を…連れ帰る…」
「…ふ~ん。いやだ、っていったら?」
「…力づくでも。」
「…そう。」
その言葉に虹架は刀を構えた。それに対して巌勝も刀を構える。
「…」
「ホォォォォォ」
「……」
「“月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾”」
「“虹の呼吸 漆の型
横薙ぎの一閃と無数の紫色の刺突が交差する。その刺突の一部が、巌勝を掠った。
「っ…やはり……一筋縄では……いかぬ…」
「それはどうも!!“虹の呼吸 玖の型
「なっ!?」
虹架が叫びと共に乱撃を始めると、周囲に蒼い彼岸花が乱れ舞った。巌勝がその彼岸花に触れると、その彼岸花が爆発を起こした。
「ぐっ!?」
「今の…無惨はまだ青い彼岸花を探してるの?こっちはもうとっくに見つけてるっての!!」
「なに…!?」
「教えないけどね!!“虹の呼吸 参拾陸の型
一瞬で放たれた力強い二撃。それを受けた時、巌勝は気がついた。
「…虹架殿………
「呼の呼吸の奥義は“無呼吸”にある…属性使いでも難しいこの無呼吸は私以外習得できるものはいなかった!!」
「なんと、無茶苦茶な!」
「巌勝くんが言うか!!」
どことなく怒りながら戦っている虹架と焦りながら戦っている巌勝であった。
「“月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月”」
「…“虹の呼吸 伍拾玖の型───」
虹架がそう言った途端、森がブレた。
「な…!?」
「───
二人はいつの間にか花畑の中に立っていた。しかし、花畑の周りは炎で囲まれ、空は血のように紅く、太陽も姿を隠していた。
「なん…だ、これは…!?」
「……できた」
「なん…!?」
巌勝の驚愕の原因は、花畑を囲っていた炎。それが、巌勝に向かって襲いかかったのだ。
「ホォォォォ…」
それを、巌勝は剣技で迎え撃った。
「う…」
迎え撃った時、虹架に異変が起こる。具体的には、胸を押さえてふらついた。
「………行け!!」
しかし虹架は刀を使って体勢を直し、その虹架が一言叫ぶと周囲の花達が急成長し、巌勝に襲いかかった。
「ぬぅぅ…!!」
「ぐ…」
花が斬られると虹架の表情が辛そうになる。しかし花達は成長することをやめず、どんどん襲いかかる。その間に、虹架は刀に手を添えていた。
「…いける…いける…」
暗示のように呟きながら、居合の構え。
「シィィィィ……スーーーーー…シィィィィ……スーーーーー…」
独特な呼吸音。呼気は虹の呼吸のものだが、吸気は虹の呼吸のものではない。
「……“
巌勝は、虹架のしようとしていることに気付いている様子はなかった。
「……霹靂……一閃”!!」
そう叫ぶと、青い光と共に巌勝との間合いを一瞬で詰め、高速の居合が放たれた。
「ぬ!?」
「ヒュゥゥゥゥ……スーーーーー…ヒュゥゥゥゥ……スーーーーー…」
「それは…水の呼吸の!?」
「“
「蒼の、呼吸?」
「水面斬り”!!」
そう言い放った虹架の刀からは水が吹き出していた。
「ぐ…なんだ、それは…!!」
「ゴォォォォ……シューーーーー…ゴォォォォ……シューーーーー……」
「まさか」
「“
日の呼吸の肆ノ型。それを、虹架は明るい火を纏って放った。巌勝は、それを飛ぶことで回避していた。
「射程範囲内…“虹の呼吸 弐拾漆の型 三稜鏡幻惑之肆・歪空”!!」
虹架がそう叫ぶと、巌勝の周囲に空間の歪みが発生し、巌勝の姿をその場からかき消した。
「この森から…出てけ…」
そう呟き、虹架が膝をつくと、周囲の景色が森に戻り、目の前にいたはずの巌勝の姿もなかった。
「おわった……でも……まだ……やることがある……」
そう呟き、その場から立ち上がってフラフラしながらある場所まで歩いた。
「…ついた……活動拠点…」
たどり着いた場所は虹架の活動拠点。かつて、縁壱や雄哉と言葉を交わした場所。
「…製作記録は…これだ」
その机代わりの切り株の上に、三冊の本があった。一つは“七色の呼吸製作記録”、もう一つは“虹の呼吸指南書”。そして、“色彩の呼吸について”という名前の本。虹架は製作記録を手に取り、本を開いて書き込んだ。
「…これで、終わり。あとは…」
指南書を手に取り、そこに書き込んだ。
「……これで、よし。あの場所に、行かなきゃ」
瓶のような材質で作った膜に“色彩の呼吸について”という本をつつみ、三冊の本をもってフラフラしながら森の中を歩いた。その虹架を梟と鴉が追っていた。
愈史郎さんがいた理由は、原作15話で“二百年以上かかって鬼にできたのは愈史郎ただ一人ですから”という記述があるので、虹架がいなくなる150年くらい前なら普通にいるだろうと。まぁ空気でしたけどね。
で…流石に気になるでしょうから“三稜鏡幻惑之肆・歪空”について。
弐拾漆の型
概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。4つ目であるこの技“歪空”は光の屈折と属性、そして空間を操る力を利用して空間に不可視の歪みを発生させる技。殺傷力はないが見えているその空間がどの空間に繋がっているのがが分からない恐怖感がある。
まぁ、つまりは空間と空間を繋げる技なのです。それこそが、迷いの森の本質。空間を繋げ続けて永遠に迷わせる。