六十四話、時間は1915/11/24から。音に合わさる剣舞……さて、この言葉だけで分かる人はいるのでしょうか?
夜。蝶屋敷の縁側で、香が夜空を見上げていた。
「……お店を空け始めてから1ヵ月……こっちに悪鬼たちは出ないし、どうしたらいいかな……」
香達が蝶屋敷に来てから、既に1ヵ月が経過していた。香と仁は既に課せられた訓練を終了しており、鈴と花も既に終了間近になっている。問題は咲と奏の方で、炭治郎達と同じようなペースで進んでいるのだ。
「凛音や雫鞠さんにも色々教えてるけど…やっぱり仁の成長速度早いんだよね……はぁ……」
ため息をついた香は、手を振って青い板を出した。
「……久しぶりに、あれをやろうかな」
そう呟き、香が青い板の上で指を滑らせると、香の足元に二振りの片手直剣が現れた。片方は緑、もう片方は白だ。
「…久しぶりに、よろしくね。」
香はその剣を手に持ち、軽く構えた。
「…──────── ────♪…」
そして、香は歌い始める。周囲一帯に響く高音で、しかし声量は小さく。とある魔法を起動させたまま、歌の律動を───リズムを読み取り、自身の動きに反映させる。
───少しして、蝶屋敷内
「…ん」
カナエが、ふと目を覚ました。
「…夜、か……以前だったらこの時間は鬼と戦ってたと思うんだけど……戻さないと……」
カナエがそう呟いた時、カナエの耳が何かをとらえた。
「…?何か、聞こえる?」
「……─」
「これは……まさか、鬼?」
カナエはベッドから降り、置いてあった刀を持って音のする方へと向かった。
「…─…───」
「……歌声?」
途切れ途切れだが確かに聞こえるその声。それは、かなり高音で、しかし声が小さい歌だった。
「…場所は縁側、かな?そういえば、善逸君が寝てる間にたまに綺麗な声がする、って言ってたけど…もしかしてこれのこと?」
カナエは警戒しながら縁側へと歩を進めていく。もしも鬼で、話も通じないようだった場合は即座に頸を斬れるように。
「─── ────♪ ──── ───────♪…」
「…聞いたことない言葉…そして、あそこにいるの…香さん?」
縁側が見える場所に来たカナエが見たのは、二振りの剣を自由自在に操る香の姿だった。
「──────── ───…」
その時に香がカナエの方を見た、気がした。
「─────…」
「?」
「────」
「っ!?」
その言葉が香が緩やかに笑って紡がれた瞬間、カナエの背筋に冷たいものが走り、その場に崩れ落ちた。
「なに、いま、の……」
冬であるために肌寒いのは事実だが、問題はそれではない。
「……こわ、い」
恐怖。
「香さんって…いったい、なにもの…なの…?」
1ヵ月前、カナエは香に治療してもらい、暫くの休養を経て今の状態まで戻った。確かに1年以上の鬼狩りとしての休養期間があったとはいえ、先日任務でしのぶと共に
「……震えが、収まらない。なんで……香さんは、危険じゃないはずでしょ……!?」
この時、カナエは知らなかった。
その震えが、香が無意識に発動させた“音に関係する魔法”から来るものであると。そして香はその魔法が得意魔法であると。……さらに、今蝶屋敷にいる中で、
そして、香自身も気づいていなかった。
その魔法の範囲内に、カナエを巻き込んでいたことを。魔法の出力調整を間違えて“歌詞の感情”が範囲内の存在に流れるようになっていたことを。そしてなにより、
感情を伝える音の魔法と感情を伝える歌声。その二つが重なり、カナエに対し強い恐怖の感情を与えていた。もしも片方だけならば、カナエはここまで恐怖しなかったかもしれない。
「……ぁ。収まってきた…」
暫くするとカナエの震えが収まり、その場で立ち上がった。
「……まだ少し怖いけど……」
カナエは歌を止めて剣を振っている香に近づいた。香は気がついた様子もなく剣を振り続け、振っている最中に香がカナエの方を向いた時、その眼をカナエは見た。
「…えっ?」
「見間違い、じゃないよね…」
そう言っている間に香はカナエから視線を外し、元の方向を向いて剣を振り抜いた状態で停止した。その後、気力が切れたように腕を下に向けたのを見て、カナエは手を叩いた。
「っ…」
香は肩を震わせてからカナエの方を向いた。
「…カナエ、さん。」
「こんばんは。…つい、貴女の剣舞が綺麗だったから。」
「…いつから、そこに?」
「少し前から、かな?」
「…そう、ですか」
そう言って地面に二振りの剣を突き刺し、縁側に座った。
「…何か、ご用ですか?」
「ううん、別に……ただ、起きたら声が聞こえてきたから。その場所に向かったら香さんがいただけ…かな?」
「そうですか…」
香はため息をついて夜空に浮かぶ月を見上げた。カナエはその香の隣に座る。それに気がついた香がカナエの方を見るが、すぐに月を見上げた。そしてカナエは、その香の眼が両方とも黒色であることを確認していた。
(…目の色の変化…気になるけど、教えてくれるものなのかな…?)
そう思いながら香を見つめていると、その視線に気がついたのか香がカナエの方を向いた。
「…何か、聞きたいことでも?」
「あ…っと…」
カナエは言葉に詰まり、やっと出たのは次の言葉だった。
「さっき歌ってたの……あれなんていう歌なの?」
「え…あぁ、あの歌ですか…あれは…」
そこまで言って香は言葉を止めた。カナエが首を傾げると、香は頭を振って申し訳なさそうな顔で言葉を発した。
「すみません、教えられません…」
「え…」
「
「未来……?」
香はその聞き返しに頷いて立ち上がった。
「あ、どこかいくの?」
「剣を持ってくるだけです。」
香はそう言って地面に刺さっていた二振りの剣を抜いて縁側に戻ってきた。
「…ね。さっき、何してたの?」
「え…あぁ、音を斬ってたんです。」
「音…」
「歌や音に合わせて流れる譜面。それを正確に切断していたんです。」
香がそう言うと、カナエがきょとんとしてからクスリと笑った。
「香さん、宇随くんと同じようなことを言うのね。」
「宇随…?」
「宇随くん……音柱の。」
「音柱…あぁ、あの派手な人ですか?」
「派手な人って……いや、その通りだけど。」
宇随に対しての印象が何だかなぁ、と思うカナエであるが香からしてみれば本当にその程度の印象しかないのである。
「…それで、その宇随さん?がどうしたのですか?」
「宇随くんね…“譜面”っていう独自の戦闘計算式を持ってるのよ。少し教えてもらったけど…敵の攻撃動作の律動を読んで音に変換、それで癖や死角も分かる…んだとか。」
「…なるほど」
「ね。もしかして、香さん…」
「話を遮るようで悪いのですが、その香さんっていうのやめてもらえませんか」
「……じゃあ、香ちゃんで。香ちゃんって、宇随くんと合うんじゃないかな?」
カナエがそう言うと、香は少し考えこむような表情になった。
「…宇随さんという方の戦い方を見たことがないので何とも言えませんが……確かに気になる気はしますね。ちなみにさっきのはただただ遊んでただけですよ」
「……え、あれ遊びなの?凄い激しかったけど」
「あれで遊びです。」
そう言って香は剣の片方の柄をカナエに向けた。
「やってみます?」
「でも…私は宇随くんみたいに譜面の戦闘計算式は持ってないよ?」
「別に持ってなくても出来る奴ですけど…」
「…じゃあ、やってみようかな?おすすめのある?」
「あるといえばありますけど……難しいですよ?」
「なんでもいいよ。」
カナエは香から剣を受け取った。
「隣で私も同じのやってますからね」
そう言って香は柵の方を向き、剣を構えた。慌ててカナエも立ち上がり、柵の方を向いて剣を構える
「…じゃあ、始めますよ」
4分後
そこには汗をかいて地面に倒れかけているカナエとそれを苦笑いしながら見ている香がいた。
「……難しい」
「あ、あはは……流石に初見Grievousはあれだったかな……?」
香が小声でつぶやいていたが、それはカナエの耳には入らなかった。
「なんであんな譜面をあんな楽しそうにできるのっ!?同じ難しさだよね!?」
「慣れてますから…」
「うそでしょ……」
カナエが脱力してそのまま地面に倒れる…寸前に香がカナエを受け止め、縁側に寝かせた。
「とりあえず休んでおいてくださいな。流石に初心者にやらせる難易度じゃなかった…」
そう言って香はカナエの使っていた剣を回収し、再び二刀流で剣を振り始めた。
「…ん、起動」
香がそう呟くと剣が光を帯び、それを構えたまま足で地面を三回たたいた。
「強くなれる理由を知った 僕を連れて進め」
「凄い…」
香の乱舞を見て、カナエはそう呟いた。
「…なれるかな?誰かを守れる人に、もう一度…」
「泥だらけの走馬灯に酔う こわばる心」
「…香ちゃんは、なんであんなに強いんだろう。他の人とは違う力があるっていうだけでそれ以外はただの十三歳の女の子のはずなのに。」
カナエの疑問はもっともである。異世界人であり、他の人とは違う力があるということを除けば香でもただの少女に過ぎない。自分に違う力があることを知り、それを完全に制御できているのなら。ならば、香は強く在る必要はなかったはずだ。
「震える手は掴みたいものがある それだけさ」
「…聞いて、みようかな。この歌が終わったら。」
「夜の匂いに(I’ll spend all thirty nights) 空睨んでも(Staring into the sky)」
「…それにしても、歌い方すごくない?…っていうか、声がどんどん変わってる」
カナエの呟いたとおりだ。女性に近い声から男性に近い声。カナエは知らないが日本語文と英語文で声を瞬時に切り替えている。
「…すごいなぁ」
大体4分後
香が剣を切り払って地面に突き刺した。
「…これで終わり、かな。」
「すごかった…」
「ありがとうございます」
香はそう言って剣を消した。
「…ねぇ、香ちゃん」
「はい?」
「なんで香ちゃんは、そんなに強いの?」
「…」
その質問に香はため息をついた。
「私は強くありませんよ。」
「嘘だよ。香ちゃんは強いよ。」
その言葉に香は首を横に振った。
「私より強い人はいくらでもいます。恐らく仁は私が本調子の状態でも勝つことができるほどまで成長するでしょうし。」
「…でも、かなり強いのは変わらないでしょ?」
「…………はぁ。」
香が間を置いてからため息をついた。
「……何が聞きたいんですか?」
「う~ん…香ちゃんが強く在る意味?かな?」
「私が…強く在る意味?」
「理由、って言った方がいいかもしれないけど。」
「…強く在る理由、ですか。」
そう呟いた時、香は空に輝く月を見上げた。
「…そうですね。必要に迫られて、でしょうか?」
「必要に迫られて?」
「…はい。私は……を護るために、……を教えるために、力を持たなければならなかった。」
「え?」
「……何でもありません」
カナエが見た香の表情は、酷く辛そうな表情だった。
「香ちゃん……貴女って本当に、何者なの…?」
「…私が何者か、ですか。」
「さっきの歌といい、さっきの譜面といい。異世界人っていうことは知ってるけど……それだけじゃ、ない……よね?」
カナエは香をまっすぐと見つめてそう聞いた。その言葉に香がため息をついた。
「……さすがに、隠し通せないですかね?」
「いくらなんでも不自然すぎるよ。咲ちゃんや奏ちゃんに聞いたけど、貴女達のいた世界は文化がこことほとんど一緒……ううん、言ってしまえばこの世界よりも前の時間なんでしょ?」
「…」
「香ちゃんは、私が来た時に聞いてた曲のことをいう時に、“未来”って言った。それは、この世界の結末を知っているってこと。“
「……なるほど。」
「…ねぇ。香ちゃんは何者なの?」
その言葉に香は深くため息をついた。
「…まず、一つ訂正です。」
「え?」
「確かに、私は“未来”を知っています。ですが、
「…どういうこと?」
「…その前に、一つ約束してください。」
香がカナエの目をまっすぐに見つめた。
「絶対に、この話を誰にもしないこと。私にとってこの話は、あまり他人に話したくないものなのです。そしてこの話は、本来なら私が覚悟できた時点で鬼殺隊の皆さんに明かすつもりだった話。ここでもすべてを話すつもりはないですが、貴女の疑問に答える点だけ、お話しします。理由は、長引いて他の人に聞かれるのが嫌だからです。…いいですか?」
「…わかった。それで、何者なの?」
「…簡単な話ですよ。私は、この世界でも、
「え…」
香が言ったその言葉にカナエは言葉を失った。
「じゃあ、香ちゃんのご家族は…灯純さんは!?」
カナエの治療ができてから、灯純が蝶屋敷を訪れたことはある。香が“お父様”と呼んでいたため、父なのだと思っていたのだ。
「お父様は…灯純さんは、あの世界に落ちた私を拾ってくれた方です。…私の本当の家族は遠く離れた場所にいます。この世界にも、あの世界にも私の本当の家族は……いません。」
「…鈴ちゃんは?」
そう聞かれた時、香は頭をガクッと落とした。
「いや、あの……付き合っているとはいえ結婚も何もしてないんですよ!?それで本当の家族……姓も同じ家族だと言えますか!!」
「あ、そっか…でも、もしも…香ちゃんが元々いた世界に帰ることになったら鈴ちゃんはどうするの?」
「あぁ…既に鈴には、全てを話してあります。その上で鈴は、私と共に世界を越えると。例えどんな世界であったとしても、私とならどこまでもついていくと。そう、言ってくれました。」
「そっか…」
「ほんと、私にはもったいないほどの恋人ですよ……」
「…幸せにね。」
「…まぁ、幸せにしますけど…」
「…顔、真っ赤だけど」
「誰のせいですか。…この話はこれで終わりです。続きを聞きたいなら私が話す覚悟ができてからにしてください。」
そう言って香は蝶屋敷内に入っていこうとした。
「あ、まって!」
「…なんですか」
「1ヵ月前は声が掠れて上手く伝えられなかったけど……改めて言わせて。…ありがとう。この恩は、いつか必ず返すよ。」
「……私は私のやれることをした。ただそれだけです。」
そう言って香は蝶屋敷内に姿を消した。
香がやっていたのは聞いたことがある人も多いでしょう、“Beat Saber”です。私はやったことありませんがやってみたいと思ってるVRゲームです。
ちなみにプレイしていた曲ですが…ほとんど使用楽曲として許可されないものばかりでしたので曲名とちょっとした説明を。
トラベルナ(モンスターハンターの言語ver:フル){モンスターハンターXより。原曲キー}
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バラライカ(フル){実はカナエが目覚める前に歌ってた。原曲よりキー高め。断じて“ヤラナイカ”ではない}
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撥条少女時計(フル){#コンパス 戦闘摂理解析システムより。ちなみに読みは“ぜんまいしょうじょどけい”。原曲キー}
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Grievous Lady(フル){Arcaeaより。カナエがプレイしたのはこの曲。ちなみに大本のゲームとほぼ同じ譜面。もちろん難易度は最高でプレイ。読み方は“グリーヴァスレディ”。ちなみに作者はGrievous Ladyまでたどり着けません}
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紅蓮華(フル){お馴染み鬼滅の刃OP。日本語の場所は原曲キー、英語の場所は低音キー}
この5曲です。ここで一つ疑問点、何故2年前───香の元居た世界は現実と同じ時間が流れているので2018年───から自分が元居た世界から離れていたのにごく最近の曲である鬼滅の刃OP曲、“紅蓮華”を香が知っているのか。その理由は香が出す青い板にあります。