でも嫌いなものを混ぜれば絶対に不味くなる。
マイナスとマイナスをかけてもプラスにはならないのです。
ではどうぞ。
平成26年1月8日15:16
3学期。始業式や大掃除、普通に授業を終えて教室を出る。周りの奴らはまだ正月気分が抜けていないのか、普段よりも騒がしい。
そんな調子で部活なんてやって怪我でもしようものなら、アホすぎて目も当てられない……ま、俺に迷惑がかからなければどうでもいいのだが。
「そんじゃ、また明日な!」
「ああ」
俺の後に教室を出て軽く走っていくムロを見送り、俺も部室へと向かうことにする。その時、同じく部室へと向かおうとしていたと思われる溜井と遭遇してしまった。
「久しぶりね、ムロ君」
「そうだな」
年賀状が何故か来ていたし、新年の挨拶はいらないか。
「これから部室でしょう?」
「それ以外に行く場所もないしな」
「そう。なら行きましょう」
「……あぁ」
別に言われなくても行くのだが、言ったところで意味はない。どうせ部室には向かうんだし、だったらおとなしくしていよう。
そうして溜井と並んで歩き、2学期ぶりの部室へと向かうのであった。
「そういえば、冬休みの宿題は手伝わなくてよかったの?」
ムロの宿題の事を言っているのだろう。溜井が歩きながら問いかけてくる。
「量はないからな。自由課題もないし」
「そう。なら……春休みの分も手伝わなくて大丈夫そうね」
「普通なら冬休みの分よりもさらに少ないはずだしな」
「そうね。多いということは無いでしょう」
「ああ」
まぁ万が一がないわけでも……いや、あり得ないか。日数少ないのに宿題の量が夏より多いとか鬼か。鬼なのか? そんな学校は無いと思うけどまっぴらごめんだ。
「でも、もしもの事があれば言ってちょうだい。手伝うから」
「無いとは思うけどな」
「まあそうね……あ、そう言えば」
「ん?」
何かを思い出したのか溜井が立ち止る。それに伴って俺も立ち止まった。
「3学期って学年末テストしかなかったはずだけれど、どうするの?」
「あー……それか」
溜井の質問に天井を見上げる。これについては避けては通れないのだが、中学の時から非常に頭を悩ませる問題である。
どうにもこうにも、中間がないために自発的に危機感が出辛い。だから危機感が出るのを促してやらないといけないのだ。しかし、それでもギリギリになるのでテスト対策の期間は前日とテストの日だけ。かなり余裕はない。
だから色々と面倒くさいのだ。
「……とりあえずはムロの危機感を出してやらないといけない。まずはそこからだ」
「大変ね……でも危機感を出すって言ってもどうするつもり?」
「幸い……と言っていいのかわからないが、高校には留年があるからな。そこから促していくのがいいんじゃないか思ってる」
「確かに、それがよさそうね」
効果のほどは分からないが、アプローチとしては間違っていないだろう。試してみる価値はある。駄目だったらその時はその時だ。
「まぁ、流石にまだ先の話だから今思い悩むことでもないけどな。悩むだけ無駄だし」
「そうね。今促したところで危機感は出ないでしょう」
「その通りだ」
同意して、俺達は再び部室へと歩き始めた。
平成26年1月8日16:40
「明日、鍋をやる」
部室について特に何があるわけでもなく、暫くの間ゲームをして時間をつぶしていた俺の耳に入ってきた言葉は、鍋の誘いだった。
「鍋、ですか?」
「鍋だ」
「いいねー、冬と言えば鍋の季節よねー」
呑気な船井さん。今回の内容は別に危険視するようなものでもないから別にいいけど。
「けど、どこでやるんですか?」
「ここでやる」
「部室で鍋をしても大丈夫なのですか?」
「IHなら問題ない」
「そういう問題ですか……」
まぁ、鍋ごときを今更問題視するのもどうかとは思うけど……部室でやるもんじゃないよなぁ。それにIHなら良いというものではない。確かに火の使用の有無は大事だけどさ、そこじゃないんだよ。
無駄だろうからもういいけど。
「設備はそろってるからね。食材さえあればいつでも鍋くらいならできるよ……ほら」
言いながら、津出さんは目の前のテーブルの下に手を入れて何かを取り出す。それを天板の中央に置くと、天板の一部が正方形に繰り抜かれてソレにくっついて持ち上げられた。
中にはIHが埋め込まれている。
「うわ、こんなところにIHが……」
「全部のテーブルにあるのよー。便利よねー」
「そうなのですか……では、食材はどうするのですか?」
「全て買っておく」
「では、私たちが準備しておくものはない、ということですね」
「ああ」
「あー、でもお昼は少し少なくした方が良いかも」
「そうですね。分かりました」
こうして明日の部活時間の予定が決まり、俺はまたゲームへと戻る。
……にしても明日は部室で鍋か。非常識ではあるが、火を使わない辺りはそれでもマシだろう……まぁ、鍋自体が奇想天外と言う可能性が無いとも限らないが、食べさせる気はあるようなので大丈夫だと思う事にする。
なので、とりあえずは明日母さんに弁当を少なめにしてもらうように頼んでおかないとな。
「……」
いや、でも念の為に普通の量にしておこう。予防線はしっかり張っておかないと、何かが起こってからでは遅いのだ。仮に弁当を食べきらなくても、夕飯で食べればいいだけだ。うん、そうと決まればそうしよう。
そして、この日は普通に終わった。
平成26年1月9日15:28
「全員居るな。鍋を始める」
普段は船井さんや吹田さんがよく座っている側のテーブルの周りに、全部員が座っている。壁側出口から津出さん・吹田さん・船井さん。それに向かい合うように菅さん・俺・溜井と言う順で。
しかし器や箸、IHは既に出ているが、鍋はまだ出ていない。
「1年。これを1人1回まわせ」
「これは……ルーレット、ですね」
「どうみてもルーレットだな」
吹田さんが言って取り出したのは1~6の番号がふられたルーレット。これが何を示すのか分からないが、いきなり嫌な予感がしてきた。
「……とりあえず回しましょう」
溜井がルーレットを回し、勢いよく回転を始める。そうしてそれは次第に遅くなっていき、最終的には5番を指し示した。
「次は俺か」
同様に俺が回すと、ルーレットは2番で止まる。
「あの……これは何のルーレットだったのでしょうか?」
吹田さんに溜井が問いかける。
「スープだ。2種類混ぜる」
「適当に混ぜて大丈夫なんですか?」
「問題ない。闇鍋だから」
「……闇鍋?」
「闇鍋だ。準備してくる」
「え、ちょっ――」
声をかける間もなく吹田さんは向こうの部屋に行ってしまった。
……一体、何のスープとスープが混ざってしまったのか。現実的な組み合わせだといいのだが……いや、具材も合わせて食べられるものだといいのだが……。
「私、闇鍋って初めてなのよねー」
「まぁ家でやる機会も無いからね」
「家でなくても無いですよ……食べられるものは来るんですか?」
この人たちはどうしてこう、呑気なのか。こっちは何を食べさせられるのかと思うと頭も痛くなるというのに。
「だいじょーぶだと思うよ? みんなの好きなものを混ぜるって言ってたし」
「好きなもの、ですか?」
「『好きなものを混ぜれば美味しくなる』って言ってたからね」
「いや、ならないですよ」
物にもよるけど、この人数の好きなものを混ぜて美味しくなるわけがない。1人変なものが好きなだけで大惨事になるぞ……。
「……ねぇモリツネ君」
そんな中で溜井が耳打ちをしてくる。
「ん?」
「聞きたいのだけれど……入部して少しした頃にアンケートを書いたでしょ」
「そんなこともあったな」
「そのアンケートの『好きな食べ物3つ』の場所に何て書いた?」
「……ああ」
なるほど……何で昔のアンケートの話をしてきたのかと思っていたが、そういう事か。確かにアレぐらいしか俺たちの好きなものを知る機会なんてなかったはずだ。
と言うことは……
「カップ焼きそばときくらげ、かっぱ巻きだな……」
「……鍋には合わないけれど、それならまだ大丈夫そうね」
溜井の言うとおり、そこまで味の強いものは無い。カップ焼きそばのソースを入れるのかが気がかりではあるが……。
「お前は……?」
「……あんパンとエネルギーメイトとキャラメル」
「……」
「……」
「……麺・ご飯・パンで穀物3種か」
「そうね……」
エネルギーメイトは良いとしても、キャラメルとあんパンは大丈夫なのか? キャラメルは絶対に溶けるし、ゲテモノスープを吸ったあんパンとか想像したくも無い。
しかもこれに加えてさらに4人分の好物が入るという……。
「……覚悟を決めるしかないのか」
「……そうね。毒は入っていないでしょうから……」
こうして死刑執行の時を静かに待つ。もはや来たるべき災厄に対してできることなど、気持ちを強く持つことだけだった。
「電気を消す」
待つこと暫く。
向こうの部屋から吹田さんが出てきてそう言うと、部室内の照明がすべて消えて一気に暗くなる。それでもかろうじてIHの光で真っ暗と言うことは無い。
「鍋を持ってくる」
暗闇の中に吹田さんが動いている音のみが聞こえる。一度遠のいた足音が、次第にこちらへと近づいてくるのが分かった。
そして鍋が置かれる音と共に、今までに嗅いだ事の無い異臭が辺りに漂い始める。
「う……」
「凄い臭いね……」
「闇鍋って感じの臭いよねー」
「料理下手なキャラの作った料理ってこんな感じなのかもね」
「ああ……何となく分かります」
なんか紫色だったり、沸騰してもいないのにゴポゴポしているようなやつの事だろう。どうやったらこの食材でこんなものができるんだって感じの。
ようするに、おおよそ食べ物として成り立っていない劇物。もしくは毒物、薬物、廃棄物。どう間違っても人の食べるものではないという……今回の場合は食べ物を茹でただけだし、そこまでではないと信じたいが。
「すでに茹でてあるから食べられる」
「おっけー。なら順番的に俺から反時計回りかな」
「ああ」
つまりは「津出さん→吹田さん→船井さん→溜井→俺→菅さん」か。どうせ食べるのだから順番なんて意味があって無いようなものだけどな……。
「じゃあ取るよ……っと」
暗くてよく分からないが、スープが滴る音とわずかな光で津出さんが何かしらを取ったことが分かる。
まともなものだといいけどな……いや、他の人がまともなものを取ると俺がゲテモノを引く可能性が増えるのか。だったらゲテモノを……しかし既に全体的にゲテモノだし、どれをとっても一緒だろうか。
「それじゃ、いただきます」
津出さんが食べるのを無言で待つ。食べても大丈夫な味だと良いんだけどな……。
「……うん。何か麺みたいのと甘いのが絡まってるけど、普通に肉かな」
「あ、甘いもの、ですか」
「うん」
「……」
もしかしてキャラメルとカップ焼きそばの麺が絡まっていたんだろうか。いやでも、キャラメルは跡形も無く溶けていそうなもんなんだけど……もしかして別の何かがあるのか? それともあんパンの餡が漏れ出た……? どちらにしても想像したくも無いな。
「次は俺か」
そう言って吹田さんが箸を鍋に入れて何かを持ち上げたのが、僅かな光で分かる。すると先ほどよりも明らかに大量のスープが滴る音がした。つまり先程の肉よりも水分を含んだものだろうか?
……もしかしてあんパンを引いた?
「パンか」
どうやらパン類であるらしい。あんパンかどうかは分からないが……。
「次は私ねー」
船井さんが橋を入れて持ち上げるが、あまり音はしない。少なくともパンではないな。
「んー……少し甘くて中途半端な触感ー」
「ぬれせんべいみたいな感じ?」
「あーそうそう、そんな感じかもねー。ブヨブヨしてるみたいなー」
「何なんですかそれは……」
甘くてブヨブヨ……? グミか何かだろうか。もしくはキャラメルを纏った脂っぽい豚皮とか……それならグミの方がマシだな。水分も吸わなそうだし、味の変化はあまりなさそうだ。でもグミも溶けそうなんだけどなぁ。
「……次は私、ね」
隣から緊張した声が聞こえる。
これが終われば次は俺だし、心を決めないとな……。
「……」
箸を入れて何かを持ち上げる。滴る水分量からしてパンではなさそうだ。そして小さめで丸いシルエット。葡萄の粒に見えなくもないか……?
「いただきます――――――あっつ!」
そして丸い何かを口にした溜井が慌てて器を置き、口元を押さえ悶えだす。
……どうやらゲテモノとは別の爆弾を引いたらしい。気の毒に。
「大丈夫ー?」
「だ、大丈夫、です……ゴフッ」
とても大丈夫には見えないが……まぁ、いいや。
そんなことよりも次は俺の番か……。
未だにむせている溜井を横目に、箸を鍋の中に入れて何かをはさむ。
「……うん?」
何か……はさんだは良いけど、でかくないか? これは一体……。
疑問は持ちながらも、とりあえず器に入れて確保する。そして僅かな光を頼りに見るとなにやら玉ねぎのようなリンゴのような物体が……何だこれ。
「……」
よく分からないが食べないわけにもいかないので、恐る恐る噛んでみようとする。が、
「マズ……なんだ、これ」
非常に不味い。スープの味とか関係なく苦いし渋い。ふやけてたおかげで齧れたけど食べるものではないな……柑橘系の皮を間違えて食べた時に近い感じ。
一気に口に広がる不快感に顔をしかめながら、食べるのを止めて訊ねる。
「あの……なんですかコレ? 苦すぎて食べ物とは思えないのですが……果物の皮みたいな」
「形は」
「何か……玉ねぎみたいな林檎みたいなやつです。何なんですかコレ……」
「ザクロだ」
「おー、珍しいのを引いたね」
「ザ、ザクロ? それって皮ごと食べるもんなんですか……?」
聞いたことはあるけど食べるのは初めてだ……見るのも初めてかもしれない。でも、とてもじゃないが皮ごと食べるべきものとは思えないんだが。
「いえ、確か食べるのは中身だけのはずよ」
「そうそう。皮をむいてー、中身の粒々を食べるのよー」
「でっぱり付近に切れ込みを入れてある。そこから剥けるはずだ」
「……なるほど」
最初から剥いておいてくれればいいのにと思わないでもないが、とりあえず言われたとおりに切れ込みを探す。
そして確かに切り込みがあったのでそこに指を入れて開いてみると、中には粒々としたものが多量にあるのが見えた。恐らくだがこれを食べるのだろう。
「……」
手を拭いて箸を持ち直す。
これに関しては果物だし味が酷いということは無いだろう……未知数ではあるが、大丈夫なはずだ。
手始めに一粒、口に運ぶ。
「……少し甘酸っぱいですね」
「美味しいよねー」
「いえ、この状態で美味しいかと言われても……」
茹でてあるうえに色々なものが溶けて表現のしづらいスープ。これで美味しいかと言われると美味しいわけも無く、初めて食べるザクロが美味しいかなんてわからない。
……でもまぁ、食べれないものではないな。今は種に気を付けて完食を目指そう。
こうして完食を目指している間に無言で菅さんが食べ終え、2週目に突入。さらに3周目を無事に乗り切り4週目の最後、菅さんが全てを平らげて闇鍋は終了した。
ちなみに、鍋のスープは豆乳と豚骨を合わせたもの――プラス焼きそばのソース。具材はアセロラ・干し芋・ガム(フルーツ系)・豚肉・ザクロ・トマト・骨付き肉・ドライフルーツ・ガム(ハーブ系)・カニ・レバー・レモン・カップ焼きそば・きくらげ・かっぱ巻き・あんパン・エネルギーメイト・キャラメルだったそうだ。
これらを難なく食べきった菅さんの胃は一体どうなっているのか……
……それはともかく、片付けも終わった現在の俺はと言えば、
「……」
ゲームをする気力も無く机に突っ伏している。
何と言えばいいのか……お腹はいっぱいじゃないけど、いっぱいいっぱいだ。こう……腹の具合的な問題と気分的な問題で。おかげで何もする気が起きない。
原因はきっとフルーツ系のガムを纏ったキャラメルレバーのせいだろう。食べた瞬間に気持ち悪さが口の中に広がり、今も胃の中に残っている。元々好きではないのも大きな原因だろう。あのザラザラ感がなぁ……どうにも。
「大丈夫?」
「大丈夫なわけはないな……」
溜井が心配してくるが、心配するなら胃薬をくれ。なるべく即効性のある奴を。
「……今日はもう帰って休んだらどう?」
「いや……いつもの時間まではいる」
「そう。それなら水とかが欲しかったら言って。持ってくるから」
溜井はそう言って勉強道具を取り出した。
……被害の少なかったやつは良いな。そう思いつつも、このことは溜井のせいではないので恨むのは筋違いだろう。俺の運が無かったのだ……仕方がない。
その後、無事に部活時間を乗り切った俺は家に帰ってゆっくりと休んだ。しかし胃のダメージは抜け切れておらず、夕飯に影響が出たのは言うまでもない。
……ホントに今日は散々だった。
第28話 好きなものを混ぜればおいしくなる法則 完。
実際にはやっているわけがないが、きっと不味くなると信じている。
ではキャラ紹介。
・性別……女性。
・誕生日……11月12日。
・血液型……A型。
・利き手……右。
・身長……溜井よりは少し大きいくらい。
・髪は長い。
・家族構成……弟がいる。
・所属……2年2組28番。調査解決部副部長。保健委員。
・特技……死んだふり。特殊メイク。
・血糊、マジックナイフ常備。日によって他にもいろいろ所持。
・好物……肉・ザクロ・トマト。
・趣味……スプラッタ写真や映画の観賞。
・好きな教科……生物・保健・美術。
・嫌いな教科……道徳。
・成績は平均70前後。
・家には輸血パックがある。
・虫なんかも平気。食べるのも。
・被害者役(死ぬの限定)を率先してやりたがる。その演技だけはうまい。
・無意識に気を使って脈や心臓を止めることができている。
・虫なんかも平気。
・廉都とは中学からの付き合い。補佐役、たまに指揮を執る。
・オカルト好きで霊感のある弟がいる。
主要キャラの紹介はこれで終わりです。
ではまた次回、投稿出来たら。