幾多の戦争と紛争の中で、誰に知られる事無く戦う者達が居た。
光輝く恒星の周りで、消えて行く星屑の様に・・・
その名残の記憶。
何にも考えていないです。
スペースコロニーの内部空間での清潔で清んだ空気とは違う、少し淀んだ宇宙船の内部循環システムが作り出す空調に慣れ始めた自分。
目的地で在るインダストリアル7に向かう偽装貨物船ガランシュールの客員船室から、外部視察窓に見える漆黒の空間に瞬く星々を見る。悠久の流れの中で瞬き、そして消えてゆく光が。自分の運命を暗示している様で、心の奥底に仕舞い込んだ不安が駆け上がってきていた。
耐圧強化ガラスに映り込む、自分の鮮やかな金髪が鬱陶しく感じて、気分を変える様に首を振って髪の流れを整える。
其処で微かな振動を感じる。先程までの巡航速度とはあきらかに違う加速と微かな進路の変更を、幼少の頃から培ってきたスペースノイドとしての感覚が捉えていた。そして、その事が意味する事も………
漆黒の宇宙空間に、長い光芒を引いて進む船があった。光の大きさで分かる様にかなりの速度を目指して加速していた。そして大きな放熱版が特長的な長方形ブロックの多層構造の船体から紅い光軸が煌めき、この船が何かに向けて襲撃行動に入っている事を教えていた。
分厚い装甲で周りを覆われた船殻の中心。薄暗い明かりの中、様々な操作板と情報ディスプレイに囲われた半没式のブロックの中で様々なやり取りが行われていた。
『識別不明船、増速しました!加速度、エンジン光量からして登録されたリバコーナ貨物のデータではあり得ないものです』
『当たりだ…やはり袖付きの偽装貨物船だったな。特務も少しは仕事をするもんだ。機関、最大戦速!主砲!照準入り次第斉射!拿捕が目的だ、直撃は避けろよ!』
『一番砲塔、二番砲塔。諸元入力…斉射!』
『識別不明船、進路変更25度、プラス方向15度!暗礁宙域に向かう様です!』
『不味いな…ヤツの方が速い。識別不明船をアルファ1とする。モビルスーツ隊行けるな?』
密閉された戦闘ブリッジで艦長席から指揮を取るノーマルスーツに包まれた男から、野太い声で指示が飛ぶ。
『タンゴ1。感度良好!試験兵器を届けにきただけなのに、なんで臨時小隊のトップが俺なんだよ?』
ノーマルスーツに内蔵された通信機が、艦内リンク機構を中継したパイロットの声を響かせていた。
『がなるなよ!特戦仕様のジェガンを一番上手く扱えるのは、テストパイロットだったタカハシ、お前だ!其れに、部下達が可愛くないのか?せいぜい給料分の働きをして来い!』
『あのなぁ?オレはもう退役して、今じゃアナハイムの社員なんだけど?一年戦争からの付き合いとは言え、管轄違くないか?』
『退役したのは一ヶ月前だ。現役とさして変わらんだろ?艦長権限で臨時に連邦特務部隊ロンド・ベルの軍属扱いにしてやったぞ?おめでとう!これで星屑になっても弔慰金が出るぞ!』
『ウチの会社の退職金の3割にもならねぇじゃねぇか?まぁ良い、貸一つだ!グリアス技術主任、壊しても恨み言はロンド・ベルにお願いしますよ?………システムチェック…火器管制をテストファイルに更新…バズーカ、テスト用肩部ミサイル、胸部バルカンポッド、頭部バルカン、腰部グレネードラックにテスト機材…腕部ビームサーベル…腰部背後マウントラッチにビームライフル…』
『タンゴ2、3。チェック終了!発進準備完了!』
『急かされてるぞ?タンゴ1?』
『ウルセェなぁ?コチとらフル装備なんだよ!しかも、テスト兵器も積んでるし………バーウィックに、コンドウ!グリプス戦役から面倒見て来たのに恩知らず共!』
『どうです?古巣に戻って来た感想は?』
『隊長が思ってるより、結構楽しい職場ですよ』
『一年戦争から従軍して十七年だぞ?やっと良い職場からお声がかかればこの様だ?だいたい、お前ら…小隊長になっていてもおかしくないだろう?MPに喧嘩売るのも大概にしろ!戯言はいい、タンゴ小隊。征くぞ!』
壮年の隊長の掛け声とともに、連邦カラーである淡いクリームグリーンに塗装された機体が、クラップ級キャロットのMSデッキから移動し、カタパルトに脚部を載せる。
『タンゴ1。発艦準備完了!』
『タカハシ操縦員。データCPUである頭部は残してくださいね?あと、テスト機材は使用してデーターをお願いします』
パイロットスーツから、無慈悲なグリアス技術主任の声が響く。其れに応えようと考えている内に発着士官の管制が入る。
『カタパルト、充電完了。タンゴ1。どうぞ!』
『タンゴ1。出るぞ!』
十分な電力を与えられたカタパルトが、全備重量70トンに迫るスターク・ジェガンを宇宙へと押し出してゆく。補助スラスターだけで加速していたスターク・ジェガンが、発艦と同時にメイン・バーニアを吹かして虚空の一点へと変化する。
『タンゴ1。機体良好。タンゴ2・3、キャロット前方10kmでトライアングル・フォーメション。アルファ1の追撃に移る』
機体を無駄のない操作で合流ポイントに向ける。やれやれ・・・パイロットに未練があったから操縦員を募集しているアナハイムに就職できたのに・・またぞろ、古巣に逆戻り。加えて、実戦ときたもんだ?どこで運命の女神が機嫌を損ねたのやら・・
データリンクされたキャロットからの情報に目を走らせ、自然と機体を動かす自分の経験と操縦技術に嫌気を感じながら、腹の底に溜まる気合の様なモノを全身に漲らせ始めるのだった。