IS学園を卒業して、私は更識の屋敷で仕事に追われていた。学生気分で居たいと思ってしまうのは何故なのだろう……
「…様! 楯無様!」
来る日も来る日も仕事に追われる毎日、学園で生徒会長をやってた時とさほど変わらないが、大きく違うのは私はもう学生では無く完全に更識の当主だという事だ。
「もう、一夏様!」
「ん?」
「何度もお呼びしてるのに、全然気付かないんですから!」
「スマン……まだ慣れてないからな」
IS学園在学中に、俺は刀奈と入籍した。俺が十八になった途端ロシアから一時帰国してきて、生徒会長の机に差し出してきたのが婚姻届だったのだ。
「私もまだ『楯無様』とお呼びするのに慣れてませんが、ご本人なんですからいい加減なれてくださいよ」
「そうは言ってもな、美紀……気を抜けば一人称だって『俺』になってしまうからな」
「困りますよ。一夏様は既に更識のトップとして世界中に知られているんですから」
「暗部組織のトップが世界的に知られてると言うのは如何なんだ?」
亡国企業との戦いのあと、普通に学園生活を送り卒業した。一年の時のような騒動は起こる事は無く、平穏無事に終わったのだった。
一つだけ問題があったとすれば、あの駄ウサギが再び俺の秘密を暴露したくらいだろう。
「更識は今は表の世界ではIS業界を牽引する企業ですからね。その社長である楯無様が有名でもおかしくは無いのでは?」
「二人きりの時は一夏で良い。楯無って呼ばれるのはまだ抵抗があるからな」
「そんな事仰られましても、一夏様は正式に十八代目楯無を襲名なさったのですから」
結婚してすぐ、刀奈は俺に楯無の名を譲り自分はロシア代表に専念すると言ってきた。拠点をロシアにしてるので、最近はろくに会えていない。
「更識が造るISは世界中から人気が高いですからね」
「アメリカに出来た第二IS学園で使われてる訓練機の全ては更識製だからな」
「楯無様がお造りになられたコアは他の企業が造ったコアとは発揮できる性能に差がありますからね。今度イギリスに造られる第三IS学園からも注文が来てますからね」
「セシリアも面倒な事を……」
今度出来るIS学園の創設者はセシリア=オルコットだ。結局イギリス代表にはサラ先輩がなり、セシリアはそのまま競技者から引退した。だが後継者を育てる為には教育機関が必要だと訴え、第三IS学園が近年中にイギリスに完成するとメールが届いたのだ。
「簪ちゃんも日本代表ですものね」
「それは順当だと思うが、まさか篠ノ乃がその次の代表候補になるとはな」
あの戦いの後、篠ノ乃は亡国企業から頂いたISを使いメキメキと実力を付けていった。そして卒業する前には日本政府から代表候補生の打診が来て、篠ノ乃もそれを受け入れた。
「ですが、楯無様がお造りになった専用機のおかげでもあるのではないですか?」
「倉持技研を潰したのは俺だからな……仕方ないと言えばそれまでなんだが」
日本政府御用達だった倉持技研は亡国企業に関わっていたとして完全に潰れたのだ。その後は日本代表候補生の専用機製造などは更識企業が受け持っていたのだが、篠ノ乃の専用機だけは何故だか俺が造る事になってしまったのだ。
「あの亡国企業のリーダーが使っていたISのコアを篠ノ乃さんの専用機に使用するとは思いませんでしたよ」
「織斑千冬が使っていたISのコアだったからな。駄ウサギがそれを使えって五月蝿かったんだよ」
篠ノ乃束が最初に製造したIS、白騎士に使われていたコアをそのまま篠ノ乃箒の専用機のコアとして使ったのだ。何だかんだ言ってもあの人もなかなかのシスコンだからな……
「でもまさか、スコールさんとオータムさんがアメリカに出来た第二IS学園の校長と先生になるとは思いませんでしたよ」
「いろいろと問題はあったが、リーダーだった小林ジークムント隆俊と大幹部だった織斑万秋と織斑千春を捕まえた功績は大きかったんだろう。後継者を育成する事であの二人の行った犯罪行為は清算されるんだから、いくらスコールやオータムでも引き受けるしかなかったんだろうな」
「そのアメリカ代表はティナさんに決まったようですよ」
「そうか……まぁティナなら出来るだろ。あの鈴と互角にまで成長したんだから」
「その鈴さんは中国代表になられましたしね」
「ムラッ気が無ければ鈴だってかなりの実力者だからな」
同級生たちが代表なり候補生になってるのに、俺はこうして屋敷の中で書類整理をしなければならない立場に……別に代表にはなりたくないが自由にはなりたいと思う今日この頃……刀奈の気持ちが少し分かり始めたのかもしれないな。
「サラ先輩もですが、エイミィちゃんも凄いですよね」
「あれはイギリス政府とイタリア政府の力技だろ。まぁ俺としてはバレた以上隠すつもりも無かったしな」
駄ウサギが俺もコアを造れると暴露した翌日、イギリス政府とイタリア政府から確認の電話がIS学園に入ったのだ。内容は学園所属とした専用機のコアは、本当に篠ノ乃束が造ったものかという事だった。
「そのまま専用機として国に持って帰るなんて思ってもみませんでしたよ」
「元々二人の専用として造ったISだからな。返還されても解体するしかなかったし」
白椿と黒椿は今、あの二人個人が所有している事になっている。つまりは無所属のコアのままなのだ。
「ドイツ政府が猛抗議してきましたがね」
「仕方ないだろ。イギリスとイタリアが急激に成長するきっかけになりかねなかったんだからな」
「フランス政府は何も言って来ませんでしたがね」
「シャルの所為で散々迷惑かけたと思ってたんだろ? 未だに大人しいから」
「ラウラさんがドイツ政府と交渉してくれなければ戦争になってたかも知れませんけどね」
「ISは条約で戦争には使えないんだ。俺と駄姉が居たから戦争でも良かったんだが」
そうすれば一日かからずに問題解決になっただろうに。
「楯無様、何時まで織斑先生を『駄姉』とお呼びになるのですか? さらに立派になられましたのに」
「だけどな……相変わらず山田先生から愚痴メールが届くんだよな」
「偉くなっても山田先生は大変なんですね」
俺が三年生になった年に、轡木校長が引退し後継に織斑千冬を指名した。つまり駄姉は今IS学園の校長なのだが、生活態度は相変わらずらしいのだ。
「学年主任になった山田先生が校長の生活を支えてるって、前にナターシャから聞いたし」
「ナターシャ先生もそのままIS学園に残りましたからね」
「アメリカに行くか迷ったらしいが、傍に居たかったらしい」
「新婚ですものね」
刀奈と結婚し、IS学園を卒業してから、簪、虚、本音、ナターシャ、碧とも籍を入れた。だが全員忙しくろくに新婚生活は過ごしていない。
「楯無様の跡を継いだ生徒会長は優秀だとこの間碧さんから聞きましたよ」
「アイツは兄貴と違って優秀だからな。中学でも生徒会長やってたくらいだし」
「女子しか居ないのに大人気らしいですね」
「やっぱあの学園はそう言った女子が多いのか?」
俺の跡を継いだのは、宣言通りIS学園に入学してきた蘭だ。実力も申し分ないし、日本代表候補生にもと言われているくらいの実力は有している。
「そのお兄さんは必死に勉強したらしいじゃないですか」
「榊原先生に捨てられないように頑張ったんだと。食堂を継ぐのかは兎に角として、一応は大学は出ておいたほうが良いだろうからって」
「継ぐんですかね?」
「さぁ? 厳さんが何時まで元気かにもよるんだろうがな」
未だに現役で鍋を振っている厳さん。もしかしたら俺たちがくたばるのが先かもしれないと、高校卒業前に弾や数馬とふざけて話してたっけか。
「そろそろ会社に顔を出されるお時間です」
「もうか? まだ終わりが見えないんだが……」
「夜には虚さんも戻って来ますし、その時に続きをすればよろしいのではないでしょうか?」
「そうだな……増えてなきゃ良いが」
席を外してる間にも、仕事が増える時があるのだ。あの事件からまだ二年ちょっとだが、更識の信用は既に回復しており、それどころかIS関連企業のトップクラスにまで躍り出ているのだ。まぁその所為で俺が忙しくなったんだがな……
「社長、お疲れ様です」
「しゃちょ~だ~!」
「……社長は止めてくれ。虚も本音もご苦労様」
更識の企業代表を務める虚と本音は、そのまま更識企業に就職し代表を続けている。
「では楯無様とお呼びしましょうか?」
「一夏で良い。周りに人が居なければな」
「おりむ~今度のモンド・グロッソには企業代表も出れるようになったよ~」
「本音、一夏さんはもう『織斑』じゃないのよ」
「かまわないさ。呼び方は別に気にしなくて良い。だがそうか……企業代表も参加出来るようになったか」
「これでラウラウやシャルルンたちとも戦えるね~」
「嬉しそうですね、本音ちゃん」
卒業前に全員で戦ってみて、最終的な勝者は本音になったのだが、どうも遺恨が残ってるらしいのだ。まぁ本人たちはIS抜きで会えば友達なんだと言ってるが……
「となると優勝候補が増えるな。虚だって刀奈には何回に一回かは勝てるんだろ?」
「そうですね。ですがやはり筆頭はお嬢様かと」
「かんちゃんも優勝候補に名前があるしね~」
「二人共、頑張ってくださいね」
「更識所属が多い大会になりそうだな」
刀奈のISも、簪のISも整備は更識で行っている……というか俺がやってるんだが……サラ先輩やエイミィの機体も、定期的に俺がメンテナンスしているのだ。
「それでおりむ~、大会は何処で開催される事になりそうなの?」
「最終候補として残ったのが日本とロシアだ。優勝候補が居る国で開くべきだと国際IS委員会が騒いだらしいからな」
「一夏さんが誘拐された事件の後、久しぶりの大会ですからね」
「俺の所為にするな……勝手に開催しなかっただけだろうが」
亡国企業問題が片付くまで国際大会は開かなかったのは分かるが、問題が片付いた後二年開かなかったのは俺には関係無い事だろうが。
「何処の国も今は合宿ですからね」
「刀奈様やかんちゃんが帰ってくるのは何時になるのかな~?」
「さぁな。それより虚、仕事がまた凄い事になってるんだが……」
「一夏さんは忙しいですからね……学生の時のようには行きませんか」
「スマン……昨日もイタリアにエイミィの機体のメンテナンスに行ってたからな……合宿中じゃなければ向こうが来てくれるんだが」
「分かりました。練習が終わったら手伝います」
「頑張ってねおね~ちゃん。布仏の当主なんだから~」
本音が継ぐのも悪く無いとか刀奈が言ってたが、結局は虚が布仏の当主に落ち着いた。それが一番だと更識内全員が思ってたからだ。
「あっ、一夏君……じゃなかった、社長」
「ご無沙汰しております、社長」
「香澄、静寂……今は社長って呼ぶな。IS学園のOGしか居ないし、俺の本名を知ってる人間しかいないからな」
IS学園を卒業し、香澄と静寂はこの更識企業へと就職した。だが本音とは違い普通の社員としてだが。
「まさか一夏君が社長とはね……何時かはなるかもって思ってたけど卒業してすぐとは……」
「でもおかげで仕事はやりやすいかな。堅苦しい社長とかだといろいろと面倒だっただろうしね」
「一応仕事はちゃんとしてくれよ? いくら同級生とはいえ庇う事は出来ないから」
「分かってるよ。一夏君のおかげで落ちこぼれだった私がIS関連でトップだって言われてる企業に就職出来たんだから」
「香澄さんだって二年、三年と成績上位者だったじゃないですか」
「一夏君に勉強見てもらってたから」
虚が卒業し、刀奈が卒業していった三年の時の勉強会は悲惨だったな……教師役が二人も減ったから……
「まぁ顔出しただけだが二人共仕事は順調に出来てるようだな、安心した」
「楯無様、重役たちがお待ちですので」
「重役って言ってもなぁ……ゴマすりしてくるだけの連中だし……」
正直面倒でしか無いのだが、顔を出さない訳にも行かないのでこうやって会社に顔を出してるのだがな……余計な仕事を増やさなければ基本的には自由にして良いって言ってるんだが、どうしてもと確認をさせたがるんだよな……
日本で開催される事になった第三回モンド・グロッソは、前評判通りに事が進んでいる。
「次勝てばベストエイトね」
「お姉ちゃん、決勝まで負けないでよ」
「簪ちゃんこそ」
既に虚ちゃんと本音はベストエイト入りを果たしている。私の次の相手はドイツ代表のラウラちゃんか……今までとは違う手応えを期待したいわね。
「私は鈴と」
「同級生対決ね」
IS学園出身者が多い今大会は、スポンサーとしてIS学園も関係してるのだ。だからなのかもしれないけど、解説は織斑先生と山田先生が担当している。
「ご無沙汰しています、生徒会長」
「もう私は生徒会長じゃないんだぞ? 普通の更識刀奈よ。真剣に勝負しましょう、ラウラ・ボーデヴィッヒちゃん」
「私は貴女に勝つ!」
意気込んできたラウラちゃんだったけども、一夏君が調整してくれたこの子と私のペアには敵わなかったみたいね。良い線は行ってるけども私にはまだまだ敵わないわよ。
「これで次はサラちゃんか……久しぶりだな」
サラちゃんとは卒業してから顔を合わせた記憶が無い。代表同士たまに顔を合わせる事もあるはずなのに、サラちゃんとはホントに会わなかったな~。
「まさか準々決勝で当たるとはね、サラちゃん」
「久しぶりね、楯無」
「あっ、私もう楯無じゃないから。それは一夏君に譲って今は刀奈なのよ?」
「そうなのか……そういえば結婚したんだってね。おめでとう」
「ありがとう。この大会が終わったら子作りに励む予定よ」
「そんな予定は聞きたくなかったわね……」
だってせっかく結婚したのに一夏君は当主の引継ぎやらお仕事やらで忙しく、私はロシアの代表としてモンド・グロッソに照準を合わせた訓練で忙しくてまともに夫婦生活が出来てないのよね~。これが終わったらみんなでのんびりするって計画してるのよね。
「一夏君が造った白椿、相手に不足は無いわね」
「IS学園最強の称号を持ってた女を相手にするなんて思って無かったわ」
「実は一夏君の方がずっと強かったんだけどね~」
「知ってるわよそんな事。公然の秘密だったじゃない」
一夏君が会長になりたく無かったのと、私に仕事をさせるためにそのままだったけども、実際は一夏君が最強の看板を三年間背負ってたのよね。
「残り三枠が更識関係者なんだから、最後の一枠くらいは私が取る!」
意気込んでたサラちゃんだったけども、結局は機体の差……では無く経験の差で私が勝った。機体だけならサラちゃんの方が上だったかもね。
「次は本音か……ちょっとやり難いな」
「勝負ですよ~!」
「相変わらずね、本音は」
「ほえ? ここまで来たら最後まで勝ちたいですから~!」
本音との準決勝、これまでで一番苦戦した試合だった。もちろん最後は私が勝ったけども、途中本音の方が有利な場面が幾つもあったのは否めないのよね……やっぱり本音も成長してるのね。
「やっぱり最後は簪ちゃんになったのね……」
「お姉ちゃん、あの約束は覚えてるよね?」
「もちろんよ。だから最後も負けてあげるわけにはいかないの」
「私だって。いくらお姉ちゃんでもあれだけは譲れない」
「姉妹で決着つけましょうか」
意気込んでアリーナに出ると、見知った女の子が審判をやっていた。
「マドカちゃん? 大会運営委員だったの?」
「学園から派遣されたの。姉さんと山田先生が解説で、私が審判」
「そうだったんだ……先生は忙しい?」
「それなりに。もうおしゃべりはお終い」
マドカちゃんの表情が変わり、私と簪ちゃんはそれぞれ開始位置に移動した。この大会の前に取り決めた約束事、それは誰が一番最初に一夏君と子作りをするかという事だ。三位決定戦で戦ってる虚ちゃんと本音も、その順番を決める為に必死になってるだろう。
「お姉ちゃん……」
「簪ちゃん……」
開始のブザーが鳴ると同時に、私たちは互いに突っ込んだ。
「「いざ勝負!」」
この結果は最強の称号『ブリュンヒルデ』を賭けた勝負では無く一夏君との子作りの順番を賭けた勝負。誰もが欲する『ブリュンヒルデ』の称号は私たちにとってはオマケでしか無いのだ。
「どっちも頑張ってくださいねー!」
客席から須佐乃男の声が聞こえた。あの子は今学園で訓練機たちの気持ちを生徒に伝える仕事をしているのだ。一夏君の専用機である事には変わり無いけども、一夏君がISを動かす事は滅多に無いので自分で稼いでるんだとか言ってたわね。
「お姉ちゃん、覚悟!」
「残念、それは水の残像よ」
「そんな……」
簪ちゃんの隙を突いて一気にエネルギーをゼロにする。これで一夏君と最初に子作り出来るのは私ね。
大会は私が優勝、簪ちゃんが準優勝、虚ちゃんが三位と言う結果に終わり、私たちは更識の屋敷へと帰ってきた。
「いや、俺はその話し知らないんだが……」
さっそく子作りしようと一夏君に迫ったけど、一夏君に話しを通しておくのを忘れてた為にそんな事を言われてしまった……
「お姉ちゃん、自分で言っとくって……」
「何の為に頑張ったんですか私たちは……」
「おりむ~の赤ちゃん欲しかったな~……」
みんなガッカリしてるけども、一番ガッカリなのは私なんだけど……せっかく優勝したのにこのオチなんだから……
「でもまぁ、仕事も無いし、四人が欲しいなら俺はかまわないぞ」
「「「「本当!?」」」」
「あ、あぁ……」
一夏君の許可も出たし、後はみんなで仲良く子作りするだけね!
別作品のIFルートのように、続きを妄想で楽しめるような終わらせ方にしました。皆様、一年とちょっとでしたがお付き合いいただきまことにありがとうございます。その内またISで作品を作るかも知れませんので、その時はまた読んでいただけると嬉しいです。
重ねまして、本当にお付き合いいただきありがとうございました。