大魔王ゾーマ「バーバラを何とかしてやれ、ルビス」 作:Amur
これにて最終話となります。
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ルビスの城――
「グゴゴゴゴ……到着したか」
「へえー、ここが精霊さんの城か」
見るからに強そうな魔族とマッチョな覆面男がルビスの城に入って来た。
魔族は巨大な二本角に三つの目、全身は茶色で両手に大剣を持っている。
彼の名はエスターク。『地獄の帝王』の異名を持つ魔族の王だ。
覆面男はあらくれ。
レイドック地方にて『賭博王』とも呼ばれる荒くれ者たちのボスだ。
「!??」
唐突な化け物たちの来訪に声が出ない精霊ルビス。
「戻ったぞ、ルビスよ。今日は我が友、エスタークとあらくれを連れてきた」
友達を家に連れてくる感覚で帰宅したのは、ルビスの夫の大魔王ゾーマだ。
「唐突な訪問ですまぬな。今日はよろしくたのむぞ」
見た目の割には礼儀を守っている地獄の帝王。
「大将の嫁さんはあの有名な精霊と同じ名前だと思ってたけど、本人だったんだな。いやー、驚いたぜ~」
あまり驚いてない感じの賭博王。
「が……ぎがが……」
「なにを面白い顔をしている、ルビス」
そのゾーマの感想にルビスの頭からブチッと何かが切れる音がした。
「――なにをやってるんですかっ!?」
「いきなりどうした」
「いきなりどうした……? それはこっちの台詞です! いつもいつもおかしな連中を拾ってきて! また私がマスドラたちに睨まれるんですよ!」
ギャーギャーと怒るルビス。
大魔王を叱る精霊というこれも、最近のルビスの城ではよく見られる光景だった.
ーーーー
「……ん」
ルビスは自室のベッドにて目を覚ました。
「……夢……ですか」
むくりと起き上がったルビスは先程の光景がただの夢だったと察する。
「そう……ですよね。あのお騒がせ大魔王はまだ戻っていないのですから……」
「ルビス様、お目覚めですか。ちょうど良かったです」
ルビスの兵が来客を告げに来た。
「勇者レック一行が、ルビス様にダークドレアムについて話を聞きたいとのことです」
「なるほど、分かりました。支度をしますので、彼らには少しお待ちいただいてください」
「ははっ」
ーーーー
勇者一行はルビスの城からの帰りの船の中で情報を整理していた。
「ルビス様に話を聞きに行った甲斐がありましたね。やはり世界は危機から脱したようです」
「そうね。グランマーズおばあちゃんに良い報告が出来るわ」
チャモロとミレーユが上機嫌に話す。
「ルビス様、なんだか元気なかったね」
「そうだね。事情は説明してくれたけど、どことなく上の空というか」
バーバラとレックは前に会った時と様子が違っていた精霊を心配する。
「あのゾーマさんはルビス様の城に住んでたって聞くし、やっぱりそういうことなのかしら」
「そういうことってどういうことなんだ?」
「それくらい察しなさいよ。そんなんだから結婚もできないのよ」
まったく理解していないハッサンにバーバラが鋭く突っ込む。
「こ、この魔女っ娘め。自分がレックと結婚したからって……」
「ふふん♪」
「おいィ! レック! お前の嫁が仲間に辛辣だぞ! 何とかしてくれ!」
たまらずハッサンが相棒たる勇者に抗議する。
「バ、バーバラ。もう少し柔らかく言ってあげて欲しいな」
「ん~。レックが言うんじゃ、しょうがないなあ」
「ありがとう。やっぱり君は優しいね、バーバラ」
「いやいや、それほどでも♡」
「こいつら……人目もはばからず、いちゃつきやがって。……まあ、しゃあねえか」
二人の新婚ぶりに呆れるハッサンだが、互いの事情も分かっているので仕方ない、と苦笑するにとどめた。
ーーーー
グランマーズの館――
「……そうか。紅衣の悪夢団の姿が見えなくなったことから、そうだろうとは考えていたが、ダークドレアムの復活は完全に防がれたか。かの精霊ルビスが言うなら間違いあるまい」
彼らは一年前のゾーマとダークドレアムの死闘を水晶玉を通して見ていた。
だが、戦いが激しさを増すにつれ、映像が乱れていき、最後には何も映らなくなった。
「ダークドレアムを倒したのはいいけど、ゾーマさんはまだルビス様の城に戻ってないらしいよ」
神妙な顔をしながらグランマーズに告げるバーバラ。
「……であるならば、相打ちだったのかもしれぬな。あの魔神を相手に一対一で引き分けたというだけでも信じられない偉業ではある」
「ドレアムってのは別世界から来たらしいが、ゾーマの旦那もそうなんだろうか?」
「神界や魔界は一つではなく、数多に存在するという。あのゾーマという魔族もいずこかの魔界の支配者かもしれん。そして、精霊ルビスに協力しているということは悪ではないのじゃろう」
ちなみに精霊としてのパブリックイメージを保つためと、単純に話がややこしくなるので、ルビスからはゾーマがいにしえの大魔王であることをレック一行に告げていない。
「数多の魔界……じゃあ魔王って無茶苦茶いるんですか!?」
アモスが勘弁してくれといった顔をしている。
「そうじゃ。とはいえ真の支配者は各魔界に一体しかおらぬ。複数の魔界が同時に攻めてくるという事態はまずないので、デスタムーアが倒れた今、この世界はしばらく安泰じゃろう」
「ほっ……それを聞いて安心しました」
「でも、おばあちゃん。逆に言えば遠い未来……百年後や千年後には脅威があるかもしれないわけね?」
「そうじゃな……。デスタムーアの魔界で後継者が成長しての再侵攻、もしくはまた異なる魔界が侵攻してくる可能性などは十分にあるな」
「そんな先のことどうすりゃいいんだよ?」
「簡単じゃよ。子孫に託せばよい」
「ええ? それでいいのかよ」
グランマーズの未来に丸投げとも言える言葉に、納得がいかないハッサン。
「本来はその時代のことはその時代の者に任せるのが一番じゃ」
「まあ、そうだけどよ……」
「じゃが、お主たちにも出来ることはあるぞ。特に重要なのがレックとバーバラじゃ」
「ボクと……」
「あたし?」
「そう。勇者と大魔女の血を残さねばならん。バーバラよ、強き子をたくさん産むがよい。その子らが未来への希望じゃ」
「なっ!」
真っ赤になるバーバラ。
「ひゃっひゃっひゃ!」
ーーーー
ルビスの城――
「……ふう」
精霊ルビスは玉座に座りながら、物憂げなため息をついていた。
それを見ているルビスの兵たちはコソコソと相談する。
「最近のルビス様はどうも元気がないようだ」
「やっぱりアレか? あのお方が戻らないからか」
「うむ……そうだろうな」
「かつては不倶戴天の敵だったと聞くが、ずいぶんと関係が変わったものだな」
「そういうお前だって“あのお方”とか呼んでるだろうが」
「いやあ……。しばらくこの城に客分として滞在されていたからな。その間に特に問題も起こさなかったし、さすがに呼び捨てには出来んよ」
ゾーマが連れてきたニズゼルファが邪神という事実は兵士たちに伏せられている。
「――!? ――!??」
入り口の方から誰かが叫ぶ声が聞こえてきた。
「なんだ? ここはルビス様の玉座の間だぞ。誰が近くで騒いでいるんだ」
騒ぎは段々と、玉座の間に近づいてきているようだ。
ルビスの城で騒動が起こることは滅多にない。
あの魔王グラコスが海で暴れているときもここは平和そのものだった。
そう、それこそあの大魔王が乗り込んできたときくらいしか――
「――お待ちください! 道を、道を通ってくだされ!」
兵士が必死に制止する声が聞こえる。
道を通らないフリーダム過ぎる存在が玉座の間に向かっているようだ。
ガアアアアン!
玉座の間の壁を吹き飛ばし、悠然とそれは現れた。
全身から立ち昇る闇の衣。無尽蔵の魔力が生み出す冷気は歩くだけで周囲を凍結させていく。
かつて地下世界アレフガルドを完全に征服した大魔王の中の大魔王――に酷似しているが、その背丈は非常に小さく、人間の子供程度しかなかった。
とある夢世界では『ゾーマズデビル』と呼ばれる形態での登場だった。
「ゾーマ殿! 道を通ってくだされ! なぜわざわざ壊して進むのですか!」
「道をわしが進むのではない。わしが進むところが道なのだ」
「ええ……」
後を追ってきた兵士がゾーマの謎の主義にコメントしようがなく困惑する。
それらを目を見開いて凝視する精霊ルビス。
ゾーマ(ゾーマズデビル)は気にせず、気軽な感じでルビスに近寄っていく。
「久しぶりだな、ルビスよ」
話を聞いていないのか、ルビスは無言だ。
「一応、ダークドレアムとの戦いのことを話しておこうか。あやつに致命的なダメージを与えたと確信はしたが、わしの身体も相応に崩壊していてな」
まだルビスは無言だ。
「これはダメかもしれんな、と考えたときに何故か
生き残ったはいいが、ほぼチカラを使い果たした状態では異次元からの帰還が出来ず、ある程度回復するまで戻ってこれなかった……とまで説明したところで精霊がバッと立ち上がった。
「ゾーマッ!!!」
駆け寄ったルビスが、思わずその小さな体を抱きしめた。
後ろでは盟友ー! と空気を読まないニズゼルファが喜びのダンスを踊っている。
ーーーー
英雄たちのその後を少し語ろう。
レックとバーバラは結婚後、レイドック王国を継いだ。
グランマーズの言葉に従ったのか、バーバラはたくさんの子を産み、頑張らされたレックはしばらくはげっそりとした状態が続いていた。
その子孫たちが勇者の血族として後の世まで続いていく。
中には人間以外と婚姻し、悲劇が生まれることもあろうが、血筋が絶やされることはなかった。
ハッサンはサンマリーノの実家の大工を継ぎ、各国の城も手掛けるほどの名親方に成長する。家が近いミレーユとはたびたび、会っているようだ。
ミレーユはグランマーズの後継者になるべく、夢占い師として修業を始めた。
結婚をしたかはわかっていないが、もしかすれば仲間の誰かと子供を作っているかもしれない。
チャモロはゲントの村に戻り、いずれ長老になるべく研鑽を続けている。
その類まれな癒しのチカラは今後も多くの人々の助けになるだろう。
アモスはレンジャーの職に就く前に、魔物マスター職を極めていたが、その中で魔物と心を通わせる術を身に着けていた。今日も新たな魔物の友を求めて世界をさすらっている。
テリーは世界が平和になった後も強さを求めて旅を続ける。
旅の中で、デスタムーア以上の魔王や邪神と出会うこともあるが、ここでは詳細は省くこととする。
あらくれは紅衣の悪夢団の暗躍で世が乱れる中、上手く立ち回り、ひと財産築くことに成功する。彼はその資金を元手に事業を起こし、後にカジノやコロシアムで賑わう町を作ることになる。その町は組織の名を取って『エンドール』と名付けられ、遠い未来には世界一の大国となる。
スラリンはやがてスライムとしての寿命を終える。
だが、そのあまりの強さに全スライム族の信仰を一身に集めた結果、スライム族の神へと転生を果たすのだった。
邪神ニズゼルファは長い年月をかけて、ようやく往年の姿を取り戻す。
勇者イレブンたちへの復讐には興味がないようで、この世界に留まっている。世界を闇に閉ざさなくとも、深海では日の光が届かず、一日中真っ暗ということに気が付いた彼は、海底の暗闇の中でゆらゆらと揺れる毎日を過ごすことになる。本人としてはそれで幸せのようだ。
そして大魔王ゾーマと精霊ルビスは――
ーーーー
数百年後
ルビスの城――
「今日は山の幸をふんだんに使ったシチューですよ」
ルビスさん家の今日の晩御飯はシチューらしい。
最近、料理に凝っているルビスは配下に任せるのではなく、自分で作っている。
「……うむ。悪くない。腕を上げたな」
絶望をすすり、憎しみを食らい、悲しみの涙で喉を潤す大魔王だが、精霊お手製のシチューも食べる。
「そこは素直に“おいしい”と言ってくれてよいのですよ?」
そう言いながらもどことなく嬉し気な精霊ルビス。
「最近は平和ですね~。実に良いことです」
食後のお茶を飲みながら、のほほんと話す精霊ルビス。
ゾーマがときどき、異世界や別の時間軸から化け物を拾ってくるというアクシデントはあるが、それに目をつぶれば概ね世界は平和であった。
ゾーマズデビル形態のときにも色々とやらかしていた大魔王だが、現在では消耗から回復――いや、それどころかダークドレアムとの死闘を乗り越えたゾーマは全盛期すら超えるチカラを手にしていた。
穏やかなひと時に幸せを感じるルビスだが、ゾーマが何かを思い出したように告げる。
「そうだ、ルビスよ」
「なんですか? ゾーマ」
「幻魔王デスタムーアが滅んでからもう数百年になるか」
「それくらいですね」
それがどうしたのですか、と首をかしげるルビス。
「光ある限り闇もまたある。わしには見えるのだ……そろそろ時期のようだな」
「え?」
「来るぞ。次なる『闇』がな」
「え? え??」
大魔王ゾーマの予言により、精霊ルビスの胃の休憩時間は終わるのだった。
To be continued to DRAGON QUEST IV
Good Luck and Thank You!
ル「なんとかしてくださいよー!」
ゾ「無粋な横槍はしない主義だ」
ル「あなたの●の私がお願いしてるんですよ!?」
ゾ「それはそれ、これはこれだ」
※ ●に入る言葉はご想像にお任せします……が、せっかくなのでアンケートにご協力いただければ幸いです。番外編などで反映されるかもしれません。
【アンケート】
ルビス様のセリフの『●』に入る言葉とは?
ルビス様のセリフの『●』に入る言葉とは?
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