大魔王ゾーマ「バーバラを何とかしてやれ、ルビス」 作:Amur
今回、最後にアンケートがあります。投票いただければ幸いです。
DQ5といえば結婚イベントですが、残念ながらそのアンケートではありません。
少年期
古代の遺跡――
倒れて動かない二人の子供。
傍には気絶したベビーパンサーもいる。
「こっ、これはいったい! リュカ! ヘンリー王子!」
その場に駆けつけたのは一人の男。
皮の腰巻に一振りの剣だけという軽装だが、見るからに歴戦の戦士といった威圧感がある。
「ほっほっほっ、あなたですね。私のかわいい部下たちをやっつけてくれたのは……」
相対するはおぞましき魔物。
青い肌に紫のローブがいかにも邪悪な魔道士を思わせる。
「む? お前は!? その姿はどこかで……そうか、ゲマだな!」
「おや? 少しは私のことをご存じのようですね。ほっほっほっほっ。ならば、なおさら私たち光の教団の素晴らしさをお教えしておかなくては……」
ゲマは両腕を高く掲げ、大声でしもべを呼びつけた。
「出でよ、ジャミ! ゴンズ!」
「む!」
魔物の援軍が来ると察したパパスは周囲を探ったが、どこにも気配を感じない。
「……?」
「……何をしているのですか! ジャミ!! ゴンズ!!!」
しかしだれもこなかった。
「な……なぜ……!?」
「ハッ!」
「ぐぅ!?」
配下が姿を見せないことに困惑するゲマの隙をついて斬りつける。
そして倒れた子供たちを背にかばうような位置をとった。
これにより人質にされないように先手を取ったのだ。
「邪教の使徒ゲマ! 我が妻マーサをさらった魔界の手の者よ! このパパスが打ち倒して妻の行方を聞き出してやる!」
「……ほお? マーサの夫とは。なるほど……ではあなたがグランバニア王ですか」
「そうだ」
「ほっほっほっほっ。妻を想う夫の気持ちはいいものですね。ですが、いけませんねえ。国王ともあろう者が私事で世界を放浪するなど」
「国は信頼する弟に任せてある。それに、そもそもの原因はお前たち魔界の者がマーサを誘拐したからであろうが」
「ほっほっほっ、それは否定できませんね」
問答は終わりだとばかりにパパスが剣を構える。
「少しは腕に覚えがあるようですが、私には勝てませんよ。世の中には絶対に敵わない相手がいることを教えてあげましょう」
「いくぞ!!」
戦いは熾烈を極めた。
パパスは人間とは思えないような動きで、ひと呼吸の間に二回もの斬撃を放つ。
対するゲマは火炎のブレスや火球呪文で攻撃する。しかし、なかなかとどめが刺せない状況に苛立ち、やけつく息で麻痺を狙う。
だが、パパスはこれを跳ね除ける。
流石のゲマもこれには驚愕した。見たところ、特別な装備やアイテムもない。つまり、この戦士は肉体の頑健さと驚異的な根性だけでやけつく息を耐えたのだ。
徐々に追い詰められていくゲマ。ローブはボロボロになり、愛用の死神の鎌は叩き折られて転がっている。
だが、パパスも不死身ではない。度重なる激しい攻撃を回復呪文で癒すが、ついにはMPが切れる。
「かああああああああっ!!!」
大きく消耗するがゆえに、ゲマが滅多に使わない吹雪のブレスを吐きかける。
邪教の使徒の切り札をまともに受けたパパスはついに倒れた。
ゲマの方も満身創痍といった姿で全身に斬撃の痕があり、肩で息をしている。
だが、かろうじて立ってはいるようだ。
勝敗を分けたのは高位魔族としての膨大な体力か。
あと一手――パパス側に何か有利な点があれば結果は変わっていたかもしれない。
しかし、この場において勝ったのはゲマであった。
「はあっはあっ……! て、手こずらされましたが、ここまでです!」
「リュカ! リュカ! 我が息子よ、気がついているかっ!? はあはあ……」
息も絶え絶えなパパスが倒れる子供に叫ぶ。
「これだけはお前に言っておかねば……実はお前の母さんはまだ生きているはず……」
ゲマがとどめを刺そうと魔力を集中しているが、消耗が激しく、時間がかかっている。
「母さんは……マーサは魔界にいるはずだ! わしに代わってマーサを魔界の王の手から解放してくれ!」
ゲマは右手を高く掲げた。巨大な火球が生み出される。
「リュカよ! 後は……頼んだぞーーー!!!」
「メラゾーマッ!!」
大火球がパパスを飲み込み、すべてを灰へと変える。
「ぬわーーーーっっ!!」
断末魔の叫びを上げて偉大なる戦士は命を落とした。
ーーーー
時間は少し前の魔界に戻る――
【謎の洞窟】
魔界最深部にある洞窟。
魔界の王ミルドラースの居城であるエビルマウンテンから南下したところに入り口がある。
そこには魔界でも最上級の魔物が跋扈し、最奥には古の魔王が眠っている。
「グゴゴゴゴオオオオオーーー!!!」
その謎の洞窟にて身の毛もよだつ咆哮が響き渡っていた。
この声の主こそ、古の魔王にして地獄の帝王エスタークである。
かの魔王にこれほどの叫び声を上げさせるとはいったいどのような相手なのか――
「ひゃっほう! お先に失礼!」
「今回の最下位はエスタークだな」
ゾーマと愉快な仲間たちは謎のすごろく場で遊んでいた。
参加者はゾーマ、スラリン、エスターク、プチタークの四人。
「まさかこの私が一番負けとは……」
「悪いね~、親父殿」
プチタークが軽い感じで父親に勝ち誇っている。
彼は“エスタークの息子”を自称しているが、エスターク本人は過去の記憶を失っているので真偽のほどは分からない。
とはいえ、見た目や名前からも関係していることは明白なので、周りは普通にエスタークの子として扱っている。
「そういえば最近、私の周囲をウロチョロしている者たちがいてな。あれだ、ミル……何とかいうやつの配下のようだ」
「ミルドラースですね」
うろ覚えのエスタークにスラリンが補足してくれる。
「そなたが永き眠りから目覚めたので偵察を出したか」
「面倒だな。あちらから手を出してこなければ、私からは何もせぬというのに」
「ここと連中の拠点であるエビルマウンテンは目と鼻の先だからな。そなたの動向は気になるのだろう」
「しかし、私が寝ている間に連中が拠点を作ったのだぞ? 後から来てそう言われても困る」
先住権で揉める一般人のようなことを言って困惑する地獄の帝王。
「おそらく、そなたの存在をマスタードラゴンをはじめとする神々への牽制としていたのだろうな。ミルドラース一派としては、エスタークには寝ていてもらえばそれでよかったわけだ」
「勝手な話だ」
「親父殿。ミルドラースにガツンと言いに行きましょうか?」
「いまはまだよい。動くのは直接、接触してきてからだ」
「そうですか。ゾーマ様はどうされますか?」
プチタークが大魔王にも方針を確認する。
「基本的にわしは中立だからな。勢力争いには関わらぬ」
「なるほど」
「ところで、エグチキ(エッグラ&チキーラ)に聞いたのだが、近年ではトロッコが最高にクールなエンターテイメントらしい」
「トロッコ? 遠い昔の記憶で見たような……」
この時代にはレールを走る乗り物が存在しない為、エスタークの記憶とは滅びた超古代文明のものかもしれない。
「魔界一のエンターテイナーのわしとしてはそう聞いては黙ってはおれぬ。地上にはそのトロッコが残っている遺跡があるらしい。次はそこに行こうと考えている」
「へえー。面白そうですね」
スラリンは乗り気だ。
「オイラもついて行きますよ! 親父殿はどうしますか?」
「ふむ……。たまには外出するのも良かろう。私も行こう」
「決まりだな」
ちなみにある程度以上の格を持つ存在は、魔界と地上の間にあるマスタードラゴンの結界に阻まれて自由な行き来が出来ない。
これをクリアするには二つの手段がある。
一つ目はエルヘブンの民が管理する門を通る方法。
二つ目はマスタードラゴン以上の魔力を持ち、強引に結界を突破する方法である。
大魔王ゾーマは当然の如く、二つ目の条件をクリアしており、同伴者(スラリン、エスターク、プチターク)と共に魔界から地上に移動した。
ーーーー
【トロッコ洞窟】
巨大な湖の中央に入り口のある洞窟。
同じ湖の中にはかつて世界の空を統治した天空城が沈んでいる。
ギュン!
「イイイイヤッホオオオオオオオウウウウッッッ!!!」
ご機嫌でトロッコを乗りこなすのは一人の男。
一見、人間のバーテンダーに見えるが、多くの魔物が闊歩するこの洞窟でトロッコを満喫しているなど明らかに普通の人間ではない。
「――ふううう。ここにいると浮世のしがらみを忘れられていいですなあ。あまりに楽しくて10年くらい居座ってしまいました」
男が至福の表情でおかしなことを独白していると、轟音がトロッコ洞窟に響き渡った。
「うおおお! 山が噴火!? い、いや……洞窟の外壁が崩壊したのか?」
轟音が段々と近づいてきている。
まるで道も壁も関係なく、ひたすら直進してきているかのようだ。
「え、え、えええ!?」
ズガアアアアンッ!
男が狼狽えている間に侵入者は目の前までやって来た。
暗がりのため、姿は見えないが、全身から発せられる威圧感を彼は知っていた。
忘れようもない。
かつては世界の命運をかけて戦った相手なのだから。
「が!?……ぎ……あががが……!??」
巨人族のような巨体。全身は茶色であり、二本の巨大な剣を携えている。
「グゴゴゴゴ……貴様がこの洞窟のぬしか」
「エスエスエスエスエスターク……!!!」
地獄の帝王エスタークがトロッコ洞窟に降臨した。
「ちょうどプサンもいるな」
「やっほー、プサンさん」
「ほー。この方がマスタードラゴンの仮初の姿ですか」
続けてゾーマと愉快な仲間たちもやってくる。
当然ながら、洞窟内に生息する魔物たちは危なすぎるメンバーを見てすぐさま逃げ出した。
「ゾーマにスラリン! それとミニエスターク!?」
「おしい。オイラはプチターク。タークって呼んでくれ」
「相変わらずここで遊んでいるようだな」
「うるさいですよ!」
同様に遊びまくっている大魔王には言われたくないのかもしれない。
「神とはいえ癒しは必要。私は心身をここで慰めていたわけです。――そ、そんなことより……」
プサンはエスタークの方をチラッと見る。
「グゴ……」
当のエスタークは少し寝そうになっている。
「(どういうつもりですか、ゾーマ! あなた中立なんじゃなかったんですか!)」
「その通りだ。エスタークのことなら安心しろ。暴れるために地上に出てきたわけではない。それに、そなたのことも覚えていないようだ」
「そ、そうですか……。それでは何故ここに?」
「それはもちろん、トロッコをやりにきたのだ。エッグラたちも勧めていたのでな」
「あ、あのタマゴ男、余計なことを……」
「ところでプサンよ。天空城が湖に沈んでいるようだが良いのか?」
「もちろん良くありません。ですが、厄介なミルドラースは魔界に封じ込めていますからね。そう焦らずともボチボチ浮上させれば大丈夫です」
のんきな考えのプサンことマスタードラゴン。
ちなみにこの時点でゲマやイブールの地上での暗躍がかなり進んでおり、光の教団の規模は年々拡大している。
「そうか。まあわしが口を出すこともないか」
「仮にミルドラが結界を突破して地上に攻めてきても返り討ちにしてやりますがね」
「ほお? 天空人の援護があったとはいえかつてはエスタークに勝っただけはあるな。ずいぶんな自信だ」
話題のエスタークは手持ち無沙汰になったので、すでにそのへんで眠っている。
「私とスラリンがいれば余裕の勝利といったところです」
「え? ぼく?」
急に名前を上げられて困惑気味のスライムの神。
「私がミルドラースを抑えている間にスラリンが幹部どもを片付ける。そして残ったミルドラースを二対一で葬るというわけです。勝ちましたね」
「はあ……(めちゃくちゃアテにされてる)」
「ミルドラース配下の幹部は魔王級や準魔王級が揃っていなかったか?」
「イブール、ゲマ、ラマダ、ジャミ、ゴンズぐらいですかね」
「え……それ全部ボクの担当なんですか?」
「スラリンならいけますよ」
無茶振りが過ぎるプサン。
「ええ~(駄目だこの竜神……早く何とかしないと……。少しずつ敵の戦力を削っていくしかないか)」
優しいスラリンは一応、協力してあげるようだ。
「ところで、タークさん。せっかくなのであなたも手伝ってくれませんか?」
「オイラが? う~ん、どうしようかな。修行にはなるけど……」
さらりと帝王の息子を取り込もうと画策する竜の神。策士である。
「他に戦力としてルビス――っ!?」
「……」
ゾーマは無言でプサンを見ている。
「あ、いえ、何でもありません。戦力はこれで十分ですね、うん」
「……ああ、プサンよ。一つ言っておくことがあった。わしらが強引に結界を抜けてきたから綻びが出来ているかもしれん。一応、確認しておいた方がいいぞ」
「ファッ!? な、なな何てことしてくれるんですか!」
プサンは大慌てで飛び出していったが、ゾーマたちは気にせずにトロッコを確認し始めた。
「トロッコが小さくてエスタークが入らないな」
「ZZZ……」
エスタークは眠っている。
「親父殿が入る大きさに改造するしかないですね」
「せっかくだ。レールも含めて大改造といこうではないか」
「ずいぶんと大掛かりな工事になりますね」
「あ、プサンさんが戻ってきましたよ。ずいぶんと速いですね」
スラリンが入り口の方に目を向けると、息を切らせたプサンが戻ってくる姿がある。
この短時間で結界の確認を終わらせてきたらしい。
「はあはあはあはあ……。よかった……結界は大丈夫でした」
「お疲れ様です、プサンさん」
「ありがとうございます。労ってくれるのはスラリンだけですよ……」
馬車馬のように働いた空気を出しているが、この10年はトロッコで遊んでいただけである。
「ゾーマ様たちの方針として、レールを含めて大規模な改造をすることになったそうです」
「ああ……そんな……私の癒しのトロッコが」
自身の憩いの場所が大魔王テイストに変わると知って嘆く竜の神。
「好きに改造されるのが嫌ならそなたも手伝うか? マスタートロッコ」
「マスタードラゴンです!」
その日からトロッコ洞窟の大改造が始まった。
後にこの洞窟がオラクルベリーを超える大遊技場となるのであった。
【アンケート】
DQ5において、どいつを最も懲らしめるべき?
DQ5において、どいつを最も懲らしめるべき?
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外道な魔物の代表にしてパパスの仇! ゲマ
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光の教団教祖でSFCは中ボス! イブール
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全ての黒幕にして魔界の王! ミルドラース
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小物だが悲劇の元凶! ラインハット太后
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20年不在で世界混乱! マスタードラゴン