結論から言うと、引越しは大成功だった。
どうやら湖には初日にボレアスとバルカンが倒した大蛇がいっぱい生息しているらしく、ご飯には全く困らない。
ちょっと湖面ギリギリを飛んで挑発すれば、怒った大蛇が自分から出てきてくれる。後は私が雷を落としても良いし、ボレアス達が炎で倒しても良い。
小さい個体でも体長20メートルを超える大蛇は、一体倒すだけで1日分の食料になるからね。
毎日が蛇肉パーティだったよ。
十分以上に栄養も摂取できて、ついに体は成体と言えるサイズまで大きくなった。
しかも、ただ大きくなった訳じゃない。
その他にもいろいろと成長しましたとも。
まずは角、両翼、両前脚、後脚、胸部、尻尾の各所に、バッテリーのような器官ができた。
これが凄い。めっちゃ便利で有能。
今までは能力を使うたびに龍脈を汲み上げてから体内で電撃に変換する必要だったけれど、バッテリーを使えばこれをスキップできる。
仕組みは、あらかじめ龍脈から雷を生成してバッテリーに溜める。これだけ。
常に電撃を蓄えておけば、予備動作なしで放電してくる初見殺しなモンスターに早変わりするって訳よ。
しかもバッテリーの凄い機能はこれだけじゃない。
全ての箇所のバッテリーがフルチャージされていれば、ノーモーションで最初に生み出した『帯電状態』になれる。
ジンオウガで例えるなら、雷光虫を集めるモーションをしなくても一瞬で超帯電状態になる感じ。
うん、ハンターからしたら最悪だよね。
私ならゲームの電源オフにするわ。
そして私はミラルーツ。
私の『帯電状態』と、ジンオウガのソレとは威力が比較にならない。
成体になったことで電撃の威力も上がり、帯電状態の私に近づくとそれだけでスリップダメージが入るらしいね。継続ダメージなので恐らくネコのド根性はゴミになるでしょう。
しかも帯電状態の私に体当たりした大蛇が痙攣して動かなくなったから、麻痺判定もあるかもしれない。
お食事スキルは雷耐性かおまけ術を選ぶことをオススメするね。
剣士は泣いていい。
でもガンナーだから有利になるってこともないかな。
飛んでくる弾丸も、鉄製なら電気から派生した磁力とかで軌道を逸らすことくらい出来そうだし。
それに帯電状態の出力を上げたら擬似的なバリアみたいになるから、飛んでくる弾丸は私の体に当たる前に電撃で撃ち落とされると思う。
やっぱり雷属性の汎用性やばいわー。
もっと繊細な制御が出来るようになったら、スマホとかパソコンの充電だってやれそうだよ。
モンハン世界にスマホなんて無いけど。
無いよね?
……凄く科学が発展してたらしい古代文明なら、それっぽいアイテムはありそうで困る。
核兵器とかは流石にないよね?
核は流石に怖い。いくらミラルーツでも無事じゃ済まないかもだし。
まぁ、現在の文明レベルについてはいつか調べよう。
現代日本もびっくりなくらい発展してたら、これから勃発する竜大戦の時に大変なことになりそうだからね。
私のせいで歴史が狂って、モンスターか人間のどちらかが全滅とかなったら全世界のモンハンプレイヤーに土下座しないといけない。
それはともかく。
成長したのは私だけじゃないよ。
バルカンとボレアスも後1週間くらいで成体に届きそうだし、彼らも原作通りの存在じゃなくなってる。
戦う時に使うのがゲームの攻撃モーションだけだと隙が多すぎるからね。
ゲームのモンスター達はあくまで敵役だから、ハンターが倒せるよう意図的に隙がある行動パターンを入力されてるし。
良いところだけ貰って、隙のある行動パターンは全て潰さないといけない。
そこで役立つのが、私の元モンハン廃人としての知識。
これでも全シリーズをプレイするくらいモンハンにどっぷりだったからね。ハンターがやられて嫌なことは幾らでも思いつく。
もし弟達がリオレウスだったら、私は間違いなく地上には降りず空から永遠に火球ブレスで狙撃するよう教えてたね。
だけど、何もかも順調って訳じゃない。
かなり問題もある。
まず最初に、昨日から急に大蛇が顔を見せなくなった。
どれだけ水面ギリギリを飛行して挑発しても出てこないし、思い切って湖の中心に雷を落としてもリアクションはなし。
どうやら完全に湖の底に引き籠ったらしい。
いや、ないわー。
最初はあれだけ喧嘩を仕掛けてきたのに、いきなり逃げて籠城とか困るって。
大蛇を主食にしてたから、あなた達が隠れちゃうだけで食糧難に陥るんだよ。
成長した今のボレアスとバルカンなら、ブレスとかで湖を丸ごと蒸発させることも簡単に出来るでしょう。雷属性の私でも最大出力のチャージブレスを放てば、一撃で湖を消し飛ばせるし。
だけど、それをやるのはちょっとなー。
自然界の一員として、それは良くないと思う。
私達は他の生物よりずっと強い力を持ってるんだから、それを悪用して暴れるのはダメだよね。
自然は大事に。
そうなると、残る手段は1つ。
森で暮らす生き物達の中から、ご飯になりそうな獲物を探すしかない。
そこで私はいつもお世話になってるレーダーさんを起動して、森の中の生体反応をスキャン。
それなりの数の生き物が私達にビビって逃げちゃう中、私はそれでも森に留まる存在を見つけた。
ソレは、森の中の開けた場所で寝そべっていた。
私はソレからかなり離れた所で身を潜めてるけど、祖龍のデタラメな視力はしっかりと相手を補足できる。
強靭な後脚と、それに比べて随分と小さい前脚。
頭部が極端に大きいせいか二足歩行かつ前傾姿勢だけど、尻尾でバランスを取っているらしい。
まるでトカゲを無理やり大きくしたようなその生き物を一言で例えるのなら。
……ティラノサウルスやん?
いや、うん、そりゃあね?
ここら辺の支配者だった大蛇を簡単に捕食するような存在が3体も現れたら、弱い生き物は逃げるよね。
それは分かる。
だけど、このティラノサウルスもどきしか残ってないなんて……。
本当はもうちょっと弱そうな相手を獲物にしようと思ったけど、他に選択肢はないからなぁ。
腹を括って、あのトカゲを狩るしかない。
味は諦めた。
厳しい世界で生き延びたいなら、好き嫌いするべきじゃない!
既にボレアスとバルカンも、ティラノサウルスを挟んで反対側の茂みで潜伏してるし。
そう、断じてこのティラノサウルスを逃すわけにはいかない。
私達は成長した。
当然、必要なご飯の量は増える。
あの大蛇がもう食べられない以上、一回の狩りでお腹を満たすためにはあれくらい大きな生き物を狩るしかないのだ。
逃したら餓死ルートだから、確実に仕留めないと。
既に私達はヤツを包囲してる。
気づかれないようにジリジリと我慢強く包囲網を縮めた甲斐があって、私達は姿を隠したまま射程範囲まで巨大なトカゲに接近できた。
後は私がゴーサインを出して、ボレアス達と一緒に襲撃するだけ。
能力を使っての全力攻撃だ。
ティラノサウルスくんには古龍種の中でも最強と名高いミラ3種の同時攻撃を受けてもらう事になるけど、許せサスケ。手加減できるほど余裕じゃないのよ。空腹的に。
――バッテリー、起動。
胸部のバッテリーに蓄積してある電撃を口元に収束させ、雷球ブレスの準備を開始。
バッテリーを使ってるから速射できるけど、せっかくの奇襲チャンスだし。今回は速さよりも、威力の調整に力を入れよう。
私がブレスの用意を始めると同時に、前方の2箇所に龍脈が収束していく。
これも私達の強みだね。
龍脈の流れを常に意識していれば、ボレアスとバルカンがどの辺りにいるのか感知できる。
向こうも龍脈の動きで私の感知してるから、声を出さずとも私のブレスが合図になるわけだ。
準備よし。
照準よし。
ボレアス、バルカン、共に龍脈の収束に問題なし。
一撃で決める。
――発射!
真紅の雷球が凄まじい速度で放たれ、木々の合間を通り抜けてティラノサウルスもどきに突き刺さる。
発射のタイミングが同時でも、雷と炎じゃ速度が違う。
弟達のブレスと比べても、私の雷球ブレスは最速を誇るからね。
真っ先に着弾した私のブレスは強力な電撃で獲物の動きを止め、僅かに遅れて着弾した2つの火球ブレスがトドメを刺す。
ミラ3種による渾身の奇襲を受けたティラノサウルスもどきは、私達の攻撃に反応することも出来ずに絶命した。
やった、成功!
私もボレアス達もブレスの発射タイミングから命中精度まで文句なしの、完璧な狩りだったね。
いやー、これで当面の食糧は大丈夫かな。
このティラノサウルスもどきは体長こそ大蛇に負けてるけど、その分ガッシリしてるし。
3人で分けてもそれなりの量になるはず。
人間ならスキップするくらい上機嫌で私が今日のご飯に駆け寄ると、ボレアスとバルカンもやって来た。
ほら、そんなにくっつかなくても褒めてあげるって。
2人ともよく出来ました。
偉いぞー!
顔を擦り付けて甘えてくる弟達を尻尾で撫でながら、私は全力で褒める。
だってこの子達の方が私より難易度高いからね。
雷属性の私は問題ないけど、火属性であるボレアス達は周囲の木々を燃やさないように気をつけないといけない。
離れた位置から木々の合間を縫って、正確に獲物だけを狙うのは難しかったでしょうね。
それを見事に成功させるとは、本当に優秀だわ。
私ってばドジだから、最初は間違いなく失敗するね。
雷属性で良かったわ。
そんなことを考えながら、爪でティラノサウルスのお肉を切り分ける。
あ、もう食べて良いよ。
三等分にしてる途中で、ボレアス達が涎を垂らしながらお肉と私を交互に見ていることに気づいて私は苦笑しながら許可を出す。
私がオッケーした瞬間、凄い勢いでお肉に齧り付いた。
うん、お腹減ってたもんね。昨日はご飯食べてないし。
私もいただきまーす。
あ、意外と美味しい。
鶏肉みたいな味がする。
ティラノサウルスもどき、この見た目でまさか美味しいとは。
また見つけたら積極的に狙おう。
この時の私は、油断していたのだと思う。
順調に成長して、狩りも成功ばかりだったから。
だから、忘れていた。
この世界にはまだモンスターはいないけど、私達の天敵は既に存在していることに。
その天敵は爪も牙も持たず、力も弱い。けれど知能という極めて優れた武器を持ち、この地上を支配する生態系の頂点に立つ。
龍と対等に渡り合える、唯一の存在。
その名を人間。
弱者であるからこそ知恵を使いこなし、文明の利器を用いて、大自然を蹂躙する者たち。
私達と大蛇の戦いを観測していた1人の女性の要請によって、鋼鉄の兵器群がこの湖畔に向けて侵攻していた。
大切なものは――
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更新速度ではない、質だッ!
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質ではない、更新速度だッ!