天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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第9話 鉄の試練

 祖龍の感覚機能は人間のソレとは比較にならない。

 視力は雲の高さからでも地上をはっきりと視認可能であるし、嗅覚も地球の犬やクマを遥かに上回る。味覚はそこまで必要ではないので常識の範疇だけれど、聴覚はとても優秀だ。

 だから、熟睡していても私はすぐに気付くことが出来た。

 

 ――天敵の襲撃を。

 

 ……っ!

 森の木々が焼け落ちる音と、生き物が燃える臭いを感知して私は慌てて飛び起きる。

 時刻は真夜中。

 いつもなら静寂に包まれている暗い森は、真っ赤な光を放っていた。

 

 な、なにこれ!?

 山火事!?

 だけど私は雷を落としたりしてないし、もちろんボレアスとバルカンも無罪だ。

 弟達はずっと私の側にいたから、私が知らない時に炎を使ったという可能性もない。だって同格の古龍種が近くで龍脈に大きく干渉してたら、流石に私が気付く。

 

 残る可能性は自然発火だけど、これも無いと思う。

 山火事の原因は主に落雷や火山の噴火。

 けれど最近はずっと晴天だったし、そもそもこの樹海には活火山がないからね。

 あ、でも、ごく稀に枯れ葉同士が風で擦れ合って、その摩擦で発火することもあるって何かで見たことあるかも。

 原因はこれなのかしら……?

 

 いや、違う。

 今、微かに変な音が聞こえた。

 この音は……金属音?

 まさか!?

 

 嫌な予感がする。

 すぐに翼を広げて飛び上がり、湖の上を突っ切って炎上している対岸へ向かう。そこで私が見たのは、自然を容赦なく蹂躙する鋼鉄の兵器群だった。

 戦争映画でしか見たことのない本物の戦車が。迷彩柄の服を着た人間が。そして彼らが持つ無骨な重火器が。

 熟睡していて逃げ遅れた生き物達の命を、まるで作業のように刈り取っていく。

 

 人間、それも軍隊!?

 待って、待って、落ち着け。

 パニックになるな。冷静に考えろ。必死で頭を回せ。

 

 まず、軍隊だ。

 モンハンじゃない。ハンターじゃない。近代兵器だ。

 つまり私の予想は当たっていたんでしょう。

 ここはモンスターが誕生する以前の太古のモンハン世界ということ。だから近代兵器みたいなものがある。

 昔の文明は現代よりずっと発展してたって原作も明言してる。おかしくない。

 

 次に、急にこの森に人間が現れた理由は?

 人間が森を開拓するのは別におかしくない。地球だって環境保護運動が活発になるくらい自然を切り拓いて人間は発展してきた。

 でも、それって軍隊がやること?

 詳しくないから断言出来ないけど、軍隊の職務には森の開拓なんてないでしょう。

 地球でも日本でもないこの世界の常識とか分からないけど!

 

 それじゃあ、どうして軍隊が森を焼くの?

 ……国家最大の武力を出さないと、排除できないような脅威がこの森にあるから。

 それ以外の理由は私には思い浮かばない。

 この理由が正しいと仮定した時、軍隊が顔を出すくらいの脅威ってなに? ……簡単だよ、私達だ。

 いつ?

 どこで?

 どのタイミングで人間に観測された?

 分からない。

 

 常に私を中心に半径約100メートル範囲はレーダーで索敵してた。そこに人間と思われる反応はなかった。

 望遠鏡とかを使っても、ここは深い森の中。木が邪魔でそんなに遠くから観測するのは無理なはず。

 いや、空は?

 現代のモンハンだって飛行船くらいはあった。

 太古の時代なら、飛行船以上の航空機があるんじゃ……?

 

 くっそ、油断した。

 流石に私のレーダーも上空までは索敵できない。

 上空からなら、私の索敵を掻い潜って観測できる。

 

 どうする?

 逃げる?

 

 空から見る限り、軍隊の規模はかなり大きい。

 レーダーで調べたら1000人以上の反応があったし。

 ということは……えーっと、もう、戦争モノの漫画とかもっと読めばよかった。

 軍隊の組織図とか分かんないよ!

 でも大隊規模じゃないよね。もっと上……連隊、旅団?

 連隊は……知らない。スキップ。

 旅団は確か1500から6000名?

 旅団って戦車とかの騎兵科含まれてたっけ!?

 

 あー、もう、敵の戦力とか考えるの無理だこれ。

 そもそもこの世界の軍隊の編成が地球と同じな訳ないじゃん。

 かなりテンパってるな私。

 頭の中ぐるぐるだ。

 

 とにかく戦うか逃げるか決めないと。

 ゲームでも大砲は大型モンスターに有効的だったし、出来れば戦車の砲撃は浴びたくない。

 一発や二発程度なら祖龍のスペック的にも耐えられそうだけど、何十発も連続で受けたら?

 流石に大ダメージを受けるかもしれない。

 そもそも生まれてから今まで大怪我とかしたことないから、どのくらいの威力でダメージを受けるか分からない。

 

 そして戦力的な問題以前に、私は元人間だ。

 殺人、できるの?

 いくらミラルーツに転生したからって、私は人を殺せるの!?

 

 じゃあ逃げる?

 そう考えた瞬間、私の中で『祖龍』が荒れ狂った。

 龍の本能が爆発する。

 縄張りを荒らした下等生物を、あらゆる手段を用いて殺せと本能が叫ぶ。

 それを人間の理性で無理やり心の奥底へと押しやった。

 

 現代兵器と戦うのは怖い。

 人間を殺すのも嫌だ。

 でもこの森が焼かれて生き物が虐殺されてるのは私達が原因なのに、その私が尻尾を巻いて逃げるの?

 ――『祖龍』が荒れる。

 人間(ザコ)を相手に逃げるなど、王のプライドが許さないと。

 

 ああ、もう、私は二重人格か!?

 分かったよ、逃げなきゃ良いんでしょう!?

 

 こうなったら残る選択肢は1つ。

 人間は攻撃しない。

 彼らが持ってる重火器と戦車だけを破壊して、強制的に撤退してもらおう。人間は強いけど、その強さは兵器による。

 武器を失ったら、軍隊は逃げ帰るしかないでしょう。

 

 腹を括る。

 覚悟は決まった。

 

 私は滞空するのをやめ、今まさに砲撃しようとしている戦車を狙って急降下する。

 今は壊せない。中には人がいるはず。

 それなら……!

 戦車のすぐ横に着地して、翼の風圧で近くにいた人達をまとめて吹き飛ばす。

 骨折くらいするかもだけど、命は取らないから許して!

 呆然としたまま飛んでいく軍人達に心の中で軽く謝罪して、私は戦車の砲身を牙で噛み砕く。

 うわ、脆い。

 ポ◯キーだってもうちょっと歯応えあるでしょ。

 

「――例の新種だ、捕獲しろ!」

 

 ……捕獲(・・)

 

 軍人さんの発言が少し気になったけど、聞こえてきた言葉に疑問を持つ暇もない。

 きっと軍隊の中でも偉い人なのでしょう。

 中年のおじさんが指示を出すと同時に、私に吹き飛ばされずに残っていた人達が一斉に発砲。

 無数の銃弾が私を襲うけど、それらは私に届く前に消滅する。

 

「何をしている!? 撃て、撃たんか、貴様ら!」

 

「あ、当りません! 全弾が着弾前に消滅しています!」

 

「ふざけるな! 貴様、あのバケモノがバリアでも張ってるとでも言うのか!?」

 

 それ正解。

 全バッテリーを励起させて『帯電状態』になってる私は、発砲された瞬間だけ電撃の出力を上げてバリアを張ってる。

 だからどれだけ撃っても、普通の鉄製の弾丸は私には届かないよ。

 大量の銃弾を浴びたはずなのに、全く傷を受けない私を見ておじさんが凄い声で叫んだ。

 慌てて部下の人達が発砲を続けるけど、全て私には届かない。

 そして必死に銃を撃っていた人達は私が翼を動かすと、最初と同じように遠くへと吹っ飛んでいく。

 

 よし、これなら完封勝利できる!

 近くに人がいないなら、私はさらに大胆に動ける。

 尻尾を振り回して戦車を横転させ、その中にいた人達が脱出したのを確認してから雷を落として完全に破壊。

 これで、戦車は残り半分!

 

「撃てーーーッ!」

 

 遠くから聞こえる金切り声。

 それと同時に、私から離れた場所で展開していた戦車が一斉に火を吹いた。

 ……あぐっ!?

 流石に人を殺さないようわざと出力を落とした『帯電状態』じゃ、戦車の砲撃は防げない。

 十数発の同時砲撃は、かなり効いた。

 火属性が弱点なのもあるのか、砲撃の威力に押された私は僅かに揺れる。

 

「馬鹿な、これほどの砲撃を受けて無傷だと!? タイラントサーペントすら瀕死に追い込む我が国の主力兵器だぞ!?」

 

「次弾装填急げ!」

 

「少しずつ森に後退しろ! 湖には近づくな!」

 

「砲撃しながら奴をおびき寄せろ!」

 

 お約束の作戦筒抜けお疲れ様。

 でも、どうして湖に注意するの?

 あそこにいるのは、今あなた達が捕まえようとしてる私より弱い大蛇くらいだけど?

 まぁ、いいや。

 湖に近づきたくないのなら、私が湖に案内してあげよう。

 戦いは相手が嫌がることをやる、これ基本ね。

 

 私がそう考えた、その時だった。

 

「「グルオオオオオオアアアアアアアアアッ!!」」

 

 湖面が割れるほどの爆音と衝撃波を伴う2つの咆哮。

 怒りに満ちたそれは人間達の鼓膜を破壊すると同時に、火炎を軍隊の中央に叩き込んだ。

 ボレアス、バルカン!?

 思わず空を仰げば、完全にブチ切れて全身に炎を纏う弟達の姿が。

 

 マズい、最悪の展開だ。

 私と違ってボレアスとバルカンは人間相手に手加減なんてしない。むしろ私が砲撃を受けたところを見てたっぽいから、容赦なく殺しにかかるでしょう。

 ――竜大戦。

 ――黒龍によるシュレイド王国滅亡。

 そんな嫌なワードが浮かぶ。

 人間と龍の戦争なんて、私は絶対にお断りだ。

 

 ボレアス、バルカン、人間の相手は私がやる!

 あなた達は森の消火活動をお願い!

 

 不満そうにしながらも、私が必死で懇願すると翼や尻尾で土を巻き上げて消火を始めてくれるボレアス達。

 だけど、もう手遅れだった。

 どれだけ私が見ないようにしてても、その「事実」は覆らない。

 私を守るために放たれた2つの火炎ブレスが、多くの人間達の命を奪っていたのだから。

 

「――――ッ!」

 

 その時、軍隊を指揮していた人がなんて言ったのか私は憶えていない。

 分かることはただ1つ。

 戦っても死人を出さなかった私よりも、一瞬で多くの死者を出した弟達に銃口が向くのは当たり前ということ。

 再び戦車が火を吐く。

 無数の爆弾が投げつけられる。

 その矛先は、末弟のボレアスで。

 

 ボレアスは私と違って炎に対する耐性が高い。

 だから、私でも耐えられた砲撃を受けても命に危険はない。

 そう頭は理解していたのに。

 

 不意打ちを受けて転倒したボレアスの姿を見た瞬間に、私の心から手加減という言葉が消えた。

 カチンッと、何かのスイッチが入る。

 同時に視界からは色が抜け落ちて、普段は主格となっている人間の『私』の意識が消える。

 そして私の意識を、完全に『祖龍』が支配した。

 

 

 ――我が慈悲に対してのその無礼。

 もはや容赦はせんぞ、身の程を弁えぬ下等生物風情が!!




皆様の一番好きな古龍種(禁忌モンスターを除く)を教えてください。
アンケートの回答は感想ではダメなので、お手数ですが活動報告の方でお願いします。
今後の展開の参考とします。

大切なものは――

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  • 質ではない、更新速度だッ!
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