天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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第9.5話の後半です。
サブタイトルが紛らわしくて申し訳ありません。

【人気古龍種ランキングアンケート 中間結果】

1位 バルファルク

2位 シャガルマガラ

3位 キリン

特にバルファルクとシャガルマガラが多かったですね。
やったね、出番増加確定だよ!


第9.5話 龍の試練②

 人類未踏の『魔境』バテュバドム樹海北方。

 特級の危険地帯とされる『蛇の湖』は、本来の主であるタイラントサーペントではなく、空から舞い降りた白龍によって支配されていた。

 

「中佐殿! 大丈夫ですか、ヒルデブラント中佐!」

 

「う……?」

 

 若い女の金切り声に鼓膜を揺さぶられ、フーゴは後頭部の痛みに呻きながらゆっくりと目を開けた。

 すると、涙を流しながらも安堵の表情を浮かべる部下の顔が目に入る。

 

「アレクシア? ……っ、オレはどのくらい気絶してた!?」

 

「ほんの数分です。申し訳ありません、私が中佐殿の足を引っ張ったせいで……」

 

「気にすんな。空から空想の怪物が降ってくることを予想できる奴はいねぇよ」

 

 庇われたことを気にかけるアレクシアの頭を軽く撫で、フーゴは墜落時の痛みに耐えながら上体を起こす。

 そこには、デキの悪い怪獣映画のような光景があった。

 ダーヴィットの命令で歩兵達が怪物に銃を乱射するが、放たれた鉛玉は全て純白の龍に届いていない。

 それに対して龍の攻撃は圧倒的だ。

 翼を軽く動かすだけで暴風が放たれ、屈強な部下達がまるで落ち葉のように吹き飛んでいく。あれだけの高さから無様に背中から墜落してよく気絶だけで済んだと、フーゴは自分の体の頑丈さに感謝しながら立ち上がった。

 

「中佐殿、急に動かれてはいけません! 後頭部と背中を強打しているのですよ!?」

 

「オレは石頭だ」

 

「そういう問題ではありませんが!? 頭部から出血していますし、まずは衛生兵と合流を……」

 

「オレより部下達の命だ。早く撤退命令を出さんと全滅しちまう。若者の未来が失われることだけは阻止しねぇとな」

 

「中佐殿、せめて止血だけでも……!」

 

 引き止めようとするアレクシアの手を振り払い、フーゴは純白の龍の元へと駆け出した。

 勝機はもはやない。

 残存戦力を全て用いても、あの龍を仕留めるのは不可能だろう。

 それどころか自分達がまだ壊滅していないのが不思議なくらいだ。優秀な指揮官ならともかく、金で成り上がったダーヴィットが何とか出来るほどあの怪物は甘くない。

 恐らく、あの龍はまだ本気でこちらに攻撃していない。

 人間を本気を出すまでもない格下だと侮っているのか、それとも初めて見る鉄の兵器を警戒しているのか。

 理由はいくつか考えられるが、とにかく龍はまだ「様子見」のレベルだ。

 龍が手加減している今こそが最大にして最後のチャンスだ。これを逃せば、撤退する機会は永遠に失われるだろう。

 

(ちくしょうが! ダーヴィットの野郎も生態観測隊の連中もクソくらえ! これでオレの部下達が全滅してみろ、龍に喰われるより先にオレが殺してやる!)

 

 フーゴが激情を押し殺しながら疾走し、ようやく戦場が近づいてきたと思ったその瞬間だった。

 純白の龍から離れていたことで無事だった戦車が、恐らくはダーヴィットの指示で一斉に砲撃する。城砦すら一撃で破壊する威力の砲撃が全て龍に命中し、あの怪物も流石に無傷では済まずに態勢を崩した。

 

「やった!?」

 

「まだだ! あの馬鹿野郎、余計なことをしやがって!」

 

 後ろを走っていたアレクシアが爆炎に包まれた龍を見て歓声を上げるが、反対にフーゴは悪態をつく。

 今の砲撃は確かにダメージを与えられたが、龍の命には届いていない。

 むしろ中途半端に傷を与えて怒らせたら、それこそ龍が本気になってしまう。

 もはや一刻の猶予もない、早く全部隊を撤退させなければ――

 

 

「「グルオオオオオオアアアアアアアアアッ!!」」

 

 

 『魔境』が、震えた。

 衝撃波でバテュバドム樹海が誇る千年大樹が小枝のように折れ、巨大な湖が割れる。

 これほどの現象がただの「咆哮」で引き起こされたものだとフーゴが理解したのは、耳を塞いで蹲っている自分に気付いた時だ。

 鼓膜がやられて無音になった世界でフーゴが顔を上げれば、そこには絶望があった。

 

 さらに、2体。

 真紅と漆黒の龍が、その全身に炎を纏って空を舞っているのだ。

 

 ――『新種』は常に3体一緒に行動している。

 

 事前に聞いていたその情報を思い出した時には、天空から紅蓮の炎が落ちていた。

 真紅と漆黒の龍のアギトから放たれた巨大な火球。

 それが展開していた部隊の中心に叩き込まれ、雲まで届くほどの火柱が生まれる。

 

「――――……」

 

 もはや言葉も出なかった。

 部下の命が、消えていく。

 彼らの命を預かっている上官の自分だけが、無様にも生き延びて。

 

 そして、フーゴ・ヒルデブラントは今日という日を永遠に後悔するのだ。

 この業火の裁きを止められなかったことではなく、その衝撃で動きを止めてしまった自分の無力さを。

 どうして足を止めてしまったのだろう。

 どうして生き残った部隊とすぐに合流しようとしなかったのだろう。

 どうしてパニックになった部下達の行動を諫めることが出来なかったのだろう。

 恐怖で錯乱した部下達が、何故か消火活動を始めた漆黒の龍の背中に砲身を向ける。

 あの純白の龍だけは、絶対に怒らせてはいけなかったのに。

 砲撃を止めることは、出来なかった。

 

 放たれる砲弾。

 不意打ちを受けて転倒する黒龍。

 そして。

 

「ざまぁみろ、化物を一体仕留めてや」

 

 戦車の横で歓声を上げたその若い軍人が、最後まで言葉を発することはなかった。

 

 

「――ぶ、――……ふ、ふ……っ!?」

 

 

 

 世界が消し飛んだ。

 フーゴの視界が真っ白に染まり、全身に伝わる浮遊感でとにかく自分がまた吹き飛ばされたことだけは理解する。

 それ以外は、何も分からなかったが。

 

 ゴミのように地面に打ち付けられ、水切りの石のように何度もバウンドしてフーゴはようやく止まった。

 全身を駆け巡る激痛。視界は真っ白なままで、聴覚は未だに機能せず無音のまま。

 前後左右どころか上下もはっきりしないまま、それでも立ち上がれたのは、フーゴという軍人が並外れて強かったからだろう。

 

「うぶっ、……は、ぁ」

 

 喉奥から込み上げた血を吐き出す。

 肋骨が折れて肺に刺さったのかもしれない。

 まともに呼吸することが出来ず、全身に力が入らない。

 手探りでまだ折れずに残っていた木を見つけて支えとし、何とか視界が回復するのを待つ。

 数十秒経って、ようやく白色以外のものが見えた。

 

 怪物(モンスター)が、いた。

 真紅の雷を全身に纏い、純白の体毛が光を発して逆立っている。

 神々しくも禍々しいその姿は見た者全てに畏怖を与え、我こそが生態系の頂点だと主張していた。

 恐れ、敬え、彼の存在こそが祖なるもの。

 後世にて全ての龍の始祖とされ、古龍種の長と謳われる王である。

 

「……お前ら」

 

 一瞬前まで最新式の戦車がズラリと並んでいた場所には、何も無かった。

 鉄の兵器も、人間も。

 底が見えないほど深いクレーターが、ただ何か凄まじい力で蹂躙されたのだと語っている。

 

「アレクシア、アレクシア!? 生きてるなら返事しろ、おい!」

 

 考えずとも本能で分かる。

 部隊は壊滅した。

 6000人で編成されていた旅団はもう存在しない。

 あそこで戦っていた部下達は消えてしまった。

 

 しかし、アレクシアは?

 フーゴと一緒に初手で遠くまで吹き飛ばされた部下達ならどうだ?

 まだ生きている可能性がある。

 この旅団で最も身体能力が高いフーゴよりも早く戦場に戻っている部下より、まだ遠くに残っている部下の方が多いはずだ。

 助けられる。まだ救いはある。

 100人、いや、10人でも構わない。

 1人でも多くこの『魔境』から助け出す。

 それが部下の命を預かっているフーゴの責任だ。

 戦場に残っている部下はもう助からない。怒れる白龍に外敵と判断された彼らは、見捨てる他ない。

 その代わりに、戦場から離れた場所で生きている部下を見つけるべくフーゴは走り出した。

 

「オオオオオオオオッ!!」

 

 そして、蹂躙が始まった。

 運良く生き残った兵士は次々と天空から降り注ぐ雷で消し飛ばされ、戦車は尾の一振りでスクラップと化す。

 残存する人間達もまだ破壊されていない僅かな兵器で反撃するが、あらゆる抵抗が無駄だ。

 岩盤すら貫く高威力のバリスタは、龍の鱗に阻まれてへし折れる。

 旧式だが強大な破壊力を秘める大砲から放たれた砲弾は、龍が纏う真紅の雷によって着弾前に迎撃される。

 小さな村なら一瞬で吹き飛ばされるほどの爆弾は、翼から放たれた爆風に阻まれて届かない。

 

 祖龍ミラルーツ。

 その存在が持つ絶大な力を抑えていた優しい『彼女』は今はいない。

 『彼女』という理性(セーフティ)が外れた以上、祖龍はただ本能のままにその力を解放する。

 『彼女』が「祖龍の限界を超える」という目的のために行っていた龍脈干渉のトレーニング。

 その成果によって、今の黒龍と紅龍では制御することも出来ない莫大な量の龍脈エネルギーが、祖龍の頭上で収束されていく。

 そこに集められた圧倒的な力は、同格の力を有するミラボレアスとミラバルカンが怯えて震えるほどに桁外れだ。

 

 祖龍が有する切り札の1つ。

 『彼女』が封印していたその力。

 MH4Gで追加された新規モーションにして、二足歩行モードの時のみに扱う大技。

 チャージブレス。

 収束された莫大な力の余波で『魔境』が真紅の光に包まれて、膨大な量の龍脈によって空間すらが捻じ曲がる。

 そして、口内で渦巻いていた雷エネルギーが解放された。

 

 それはまるで、超新星の如き光の渦。

 紅の雷が既に壊滅状態だった軍にトドメを刺すように炸裂し、湖の周囲一帯を丸ごと薙ぎ払った。

 この星に循環する全ての龍脈が祖龍に反応して活性化し、世界中の『魔境』に生きる命へ注ぎ込まれていく。

 祖龍の力はあらゆる生物に進化の可能性を与える一方で、慈悲を踏みにじった愚かな人間達に鉄槌を下した。

 『魔境』が完全に消滅しなかったのは、龍の本能と憤怒に呑み込まれてもまだ僅かに残されていた『彼女』の良心による手心か。

 

 ただ、純然たる事実は1つだけ。

 軍の英雄フーゴ・ヒルデブラントは、数人の部下を助け出した上で、祖龍の鉄槌を潜り抜けたということだ。

 

 

 

 

 

 

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 ――レポート。

 古代暦1584年。

 シュレイド王国軍第4独立混成旅団壊滅。

 生還者はフーゴ・ヒルデブラント中佐、アレクシア・ディートリンデ中尉、ダーウィット・アルマロイ少将、その他数名。

大切なものは――

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