天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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第12話 ワイバーンレックスVS禁忌

 強靭な前脚と一体化した小さな翼と、大地を深々と抉る発達した鉤爪。全身を覆う灰色の鱗。頭部に後方へ伸びた2本の角と、周囲の木々が小さく見えるほどの巨体。

 前世で設定資料集を読んでいる時にイラストを見たことがある、古代世界の支配者。

 『絶滅種』。

 ソレが今、私の目の前に姿を現す。

 

「ワイバーンレックス!? マジで!?」

 

「――ッオオオオオオオオオオ!」

 

 私が驚愕の声を上げるのと、ワイバーンレックスが牙を剥いて襲い掛かってくるのは同時だった。

 ワイバーンレックスの強靭な前脚が振り上げられ、私は咄嗟に両腕をクロスさせて防御の姿勢に。

 直後、衝撃。

 交差させた腕の上から前脚が叩きつけられ、擬人化してて戦闘能力がダウンしている私は攻撃の威力に負けてぶっ飛んだ。

 

「姉上!?」

 

「ルー姉!」

 

 私を呼ぶ弟達の声が一瞬で遠くなり、かなりの速さで周囲の光景が前へ流れていく。

 思ったよりも痛い!

 うぅ、両腕がちょっとジンジンする……。

 単純に身体能力がダウンしているのもあるけど、今まで私を守ってくれていた鱗が無くなったのが大きいね。

 擬人化状態の柔肌じゃ、流石の祖龍でもモンスターの攻撃を完全に防ぐことは出来ないか。弱いモンスターが相手ならそれでもノーダメージだろうけど、ワイバーンレックスって普通に強敵だし。

 

「街に入りたかったのに、絶滅種に襲撃されるなんてツイてないなぁ」

 

 だけど見逃してくれる気は無さそうだし、自衛のためにも戦うしかないか。

 両手のひらから後ろに雷撃を放って勢いを殺し、近くにあった木の幹を足場にして跳躍。

 吹き飛ばされた時を超える速度で、一気にワイバーンレックスの元まで帰還する。

 

「姉上、ご無事ですか!? もちろん姉上があの程度で傷を負う訳がないとは理解していますが、今の姉上は仮初のお姿なので……!」

 

「私じゃなくて敵を見て!」

 

「心得ております、姉上」

 

 思い切り背中を向けて私の元へ駆け寄るバルカンを狙って、ワイバーンレックスが再び前脚を振り上げた。

 私が慌てて警告を飛ばすけど、バルカンは相手に背中を向けたまま右腕を掲げる。そして、振り下ろされた巨大な鉤爪をバルカンは掲げた右手で受け止めた。

 轟音が鳴り響いて、バルカンが膝上まで地面に埋まる。

 

 うわぁ、めっちゃシュールな光景なんですけど。

 1メートルはある巨大な鉤爪を、メガネを掛けた細身の青年が膝上まで地面に埋まりながらも片手で受け止めてるとか。

 事情が分からない人が見たら、ツッコミどころが多すぎてフリーズしちゃうわ。

 ワイバーンレックスも何が起きたのか分からずに混乱してるし。

 

 私達が雑魚じゃないと理解したのかワイバーンレックスはバックジャンプして距離を取る。

 そのまま撤退してくれたら楽だったけど、やっぱり引き下がるつもりはないみたいだね。

 

「ルー姉。どう。する。殺す。?」

 

「やりたくはないけど、喧嘩を売られたら無視できないよね。このまま人間の街に行ったら、ワイバーンレックスを引き連れて行くことになっちゃうし。……戦うよ。ただし元の姿になると目立つから、擬人化したまま素早く終わらせる」

 

「了解。」

 

 私がゴーサインを出した瞬間、ボレアスから膨大な殺気が放たれた。

 前髪の奥で黄金の双眸を輝かせ、獰猛な笑みを浮かべてワイバーンレックスと向かい合う。

 その隣ではバルカンも好戦的な表情で拳を握っている。

 

 ……私がやるって言えば良かったかも。

 山頂に籠もってた数年間は全く戦闘とかなかったから、ボレアスとバルカンの性格を忘れてたよ。2人とも私の前では甘えん坊の弟だけど、獲物を前にすると生来の凶悪な性格が全開になるからなー。

 でも擬人化状態での戦闘経験を積む絶好のチャンスだし、絶滅種の力を確認する良い機会でもあるよね。

 ちょっと卑怯だけど、3対1でやらせてもらおう。

 

「念押しするけど、2人とも派手なことは禁止だからね」

 

「もちろんです姉上。格下を相手にする時は、最低限の力で制圧するという教えは忘れておりません」

 

 ……慢心しろって意味に捉えてなければ良いけど。

 

 私達が臨戦態勢に入ったことにワイバーンレックスを気づいたのか、姿勢を低くして威嚇するように唸り声を上げる。

 数秒間の睨み合い。

 最初に痺れを切らしたのは、この中で恐らく最も戦闘狂なボレアスだ。

 足元にクレーターが生まれるほどの力で踏み込み、ボレアスがワイバーンレックスに真っ正面から突っ込む。

 

「死ね。」

 

 どうかと思うくらい端的な殺害予告と共に、ボレアスが敵の頭部を狙って蹴りを放った。

 速度は十分。

 威力も大木を簡単にへし折るくらい。

 今まで相手にしてきた大蛇や恐竜モドキなら、被弾すれば間違いなく大ダメージを受けるでしょう。

 だけどモンスターには……ワイバーンレックスには、この程度の攻撃は通用しない。

 

「ッアアアアアアア!」

 

 ボレアスの蹴りを頭に受けながら、ワイバーンレックスは怯むことなく反撃に出た。

 ゲームに登場する轟竜ティガレックスも使用する、その場で一回転して前脚と尻尾で全方位を薙ぎ払う技。

 しなる尻尾がカウンターを放ち、ボレアスはそれを後ろに跳んだギリギリで回避する。

 

「力。出ない。?」

 

「馬鹿者、手加減のし過ぎだ! 我らは仮初の姿なのだ、その状態でいつも通りの感覚で手加減すればそうなるわ!」

 

「この。姿。めんど。」

 

「それもあるけど、今回の敵は今までの相手とは比較にならないくらい強いからね!」

 

 慣れない人の姿にボレアスが頬を膨らませる。

 やっぱり生粋のモンスターであるボレアスとバルカンには、擬人化状態での戦闘は難しいのかも。

 私は元人間だからどっちの姿でもそれなりには動けるけどね。

 後は、2人とも「モンスターを知らない」っていうのが大きい。

 今まで私達が遭遇した敵の中で、一番強かったのは湖にいたあの大蛇だから。

 古龍種ほどじゃないとしても、飛竜種の先祖であるワイバーンレックスは『絶滅種』の中でもかなりの強敵だ。

 大木をへし折る程度の蹴りじゃ、まともなダメージは与えられない。

 

 ここは、お姉ちゃんである私がお手本を見せないとね。

 ――モンスターの、狩り方を。

 

「ボレアスとバルカンは一旦待機! 私が擬人化状態での戦い方っていうのを教えてあげるよ!」

 

 回転攻撃を終えたばかりのワイバーンレックスに、私は足元に落ちていた石ころを投げつける。

 私の腕力で投げられた石ころはメジャーリーガーも空振りする速度だけど、もちろんダメージには繋がらない。

 でも、私の狙いはダメージじゃないから問題ないよ。

 これはゲームで言うところの、タゲ取りだから。

 

「――ッ!!」

 

 私の予想通り、石ころをぶつけられたワイバーンレックスが私を睨む。

 うわ、改めて向かい合うと凄い迫力。

 普段からボレアスとバルカンを見てなかったら、普通にビビって動けなかったかもしれないレベル。

 擬人化して体が縮んでるせいでワイバーンレックスが余計に大きく見えるから、それが原因かもしれないけど。

 

 そんな事を考えている私に向かって、ワイバーンレックスが突進してきた。

 まるで地震のように大地を震わせ、最初の咆哮で倒壊した木々を踏み砕きながらワイバーンレックスが私に迫る。

 よし、女は度胸。

 行け、私!

 

 拳を握りしめて私もまたワイバーンレックスに向かって疾走する。

 私とワイバーンレックスの間にあった距離が刹那の間に潰れて、私の視界を巨大なアギトが埋め尽くす。

 このタイミング!

 ワイバーンレックスの下顎と地面の隙間に、スライディングの要領で滑り込む。

 いきなり目前にいた私が消えてワイバーンレックスは困惑し、私は狙い通りお腹の下に潜り込むことに成功した。

 

「さっきの叩きつけの、お返しだよ!」

 

 右足に雷撃を纏わせて、思い切り頭上にあるワイバーンレックスのお腹を蹴り上げた。

 竜の巨体が私の蹴りで浮かび、雷撃が追加のダメージを与える。

 

「ッアアアアアアアア!?」

 

 まさか自分よりも小さい相手が、こんなに強烈な一撃を放つなんて思わないよね。

 だけど、見た目に惑わされずに相手の実力を見抜くのは自然界で生きていくには大切な能力だからさ。

 さっきのボレアスの攻撃が良いフェイントになった。

 アレがこっちの攻撃力だと勘違いしてくれてたのかもね。

 

 しかし、このくらいじゃワイバーンレックスは倒れてくれない。

 当然だね。

 ティガレックス希少種よりも大きな図体してるんだから、スタミナも体力も膨大でしょう。

 ボレアスのように手加減してなかったとは言え、私だって弱体化してる。擬人化状態の蹴り一発で、ワイバーンレックスを倒すのは無理でしょう。

 

 攻撃を受けて激怒したワイバーンレックスの猛攻が始まる。

 叩きつけ右、左、回転攻撃、突進、ドリフトしてから2度目の突進。

 まるで暴走機関車だね。

 私が倒れるまで永遠に攻撃を繰り返してやると言わんばかりの、怒涛の連続攻撃だ。

 嵐のような破壊を小さくなった体を活かしてくぐり抜けながら、私はひたすらワイバーンレックスの行動パターンを暗記する。

 

「なるほど、体が小さいと回避がしやすいというメリットがあるのか」

 

「けど。当たる。と。痛い。」

 

 流石は最強格のモンスター。

 私の戦いを少し見ただけで、バルカンは擬人化のメリットを。ボレアスはデメリットを正確に理解した。

 やっぱり戦闘のセンスは一流だね。

 

 さて、私も行動パターンの解析に集中しよう。

 叩きつけは単発から最大で3連続。

 突進攻撃は1回で終わることが多くて、その後は高確率で回転攻撃を行う。突進の後の回転攻撃は方向転換も兼ね備えていて、連続突進の場合はこの回転攻撃でターゲットの方向を向く。

 稀に突進の後に回転攻撃じゃなくて噛み付きに派生することあり。このパターンの場合は、噛み付きの後に叩きつけが来る。

 

 これがゲームでの私のやり方。

 初見が相手の時は無理せずにタイムアップすら視野に入れて、敵の全攻撃を覚える。

 そして行動パターンを見切ってから、後は隙を突いて一方的にボコる。

 

「オオオオオオオオッ!」

 

 ……っ!

 ワイバーンレックスが新しい動きを見せる。

 チッ、まだ攻撃モーションを隠してるのか。

 

「――ッオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 爆音。

 最初の奇襲の時とは比較にならないほどの咆哮が放たれ、本能が小さいけど警鐘を鳴らすほどの衝撃波が迫ってくる。

 私は両手から電撃を放出して相殺し、ボレアスとバルカンは足元にクレーターを作って、それに入ることで回避した。

 うむ、優秀な弟達だね。

 観戦してる時にいきなり攻撃が来ても、すぐに対応できてる。

 才能だけで見たら私より上かもしれん。

 

 と、優秀な弟達の評価はともかく。

 まだ現実世界のティガレックスを見たことが無いから断言は出来ないけど、希少種や二つ名よりもワイバーンレックスの方が強いと思う。

 サイズは希少種よりも大きいし、何よりスタミナ切れしない。

 もしかして古龍種かと思うくらい、連続攻撃が途切れないんだよ。

 ゲームにこんなの出てきたらクソモンスター確定だわ。まともにやり合うのは論外だし、確実に閃光玉でハメするね。

 

 ……ん?

 閃光玉?

 光?

 

 ……いけるかも。

 龍脈を操作。

 応用すれば磁力だって発生させられたし、もしかしたら閃光玉を能力で再現出来るかも。

 手の中で真紅のスパークを生み出し、威力はゼロにして規模だけ大きくする。

 直後、強烈な光が私の手の中から放たれた。

 

「……!」

 

「ぬぅ!」

 

 それは近くにいたボレアスとバルカンが怯むくらいの光量で。

 本来なら閃光玉が効かないボレアス達にすら効果が現れるソレを至近距離で浴びたワイバーンレックスは、私を見失って全く違う方法に攻撃を始める。

 どうやら視力が麻痺したらしい。

 

「一気に畳み掛ける!」

 

 電撃を纏って全身の筋肉を刺激し、無理やり身体能力を上昇。

 これやると反動で筋肉痛になるからあんまり使いたくないんだけど、あまり長期戦をする訳にもいかないからね。

 プチ帯電状態になり、私に背中を向けているワイバーンレックスの尻尾を掴んで放り投げる。

 

「今だよ、2人とも!」

 

 私が合図を出すと、いつでも戦えるように準備していたボレアスとバルカンが龍脈を解放。

 擬人化して規模は落ちてるけど、それでも追撃ダメージとしては申し分ない威力の火球ブレスがワイバーンレックスに叩き込まれた。

 

「やはり姉上ほど上手く力を制御できんか……!」

 

「力。の。加減。むずい。」

 

 いやいや、十分だよ。

 突然の私の合図にすぐ反応して援護するとか、普通に凄いことだからね?

 やたらと自分に厳しい弟達に苦笑しつつ、私はワイバーンレックスに止めを刺すために龍脈を収束させる。

 MH4Gで追加で猛威を振るった、ミラルーツの切り札の1つ。

 

 全体落雷。

 自分は空高く飛んで天上に避難して、そこから一方的にフィールド全体へランダムの落雷と、3発の追尾式落雷を放つ最大規模の一撃。

 

 弟達に派手なことするなと言った通り、本当にこの技を使うのは論外。

 めっちゃ目立つし。

 そもそも今は擬人化してて力が制限されてるから、本気の全体落雷は使えない。

 だから私は落雷を1発に限定する代わりに、ホーミング機能を追加して必中かつ高威力にしたオリジナル技。

 

「……天雷!」

 

 特に技名は考えてなかったらその場のノリで命名して、私は収束していた龍脈を解き放つ。

 私の手から莫大な電力が解放され、一条の落雷となってワイバーンレックスに突き刺さった。

 その一撃は大きなクレーターを作り、ボレアスとバルカンの攻撃で消耗していたワイバーンレックスを骨も残さずに消滅させる。

 本当は死体を残して食べた方が良いんだけど、これから街に侵入しないといけないからね。

 火葬の意味を込めて、私は吹き飛ばすことを選択した。

 

「お見事です、姉上。人の姿となって力を制限されてもこの威力、感服いたしました」

 

「俺。トドメ。さした。かった。のに。」

 

 バルカンが私をべた褒めしてくれて、ボレアスは少し不満そうに頬を膨らませる。

 ショタコンのお姉ちゃんなら1発なくらい可愛いけど、私はブラコンなので関係ない。既にボレアスにはメロメロだし。

 なんやかんやで私のスカートの裾を握ってるあたり、ボレアスは可愛い。

 

「はい、ぎゅーっ 」

 

「や。やめ。やめろ。」

 

 そんな可愛い弟を抱きしめると、ボレアスが顔を真っ赤にしてバタバタと暴れる。

 

「......ボレアス、不敬だぞ。すぐに離れろ、今すぐ離れろ、速やかに離れろ」

 

「嫉妬しないの。バルカンもよく出来ました」

 

「いえ、その、姉上 自分はそういった意味で言ったのでは...... 」

 

 私からボレアスを引き離そうとするバルカンの苦笑しつつ、私は背伸びしてバルカンの頭を撫でてあげる。

 うーん、やっぱりこの身長差はやだなぁ。

 私がお姉ちゃんなのに、年上のお兄ちゃんを慰めてる妹みたいに見える気がするし。

 さて、何はともあれこれで邪魔者はいなくなった。

 いざ人間の街へ!

大切なものは――

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