天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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第13話 禁忌とキラーズ

 結論から言うと、私はモンハン世界の古代文明をちょっと舐めてた。

 ナンバリングに登場する「古塔」とか、フロンティアの「天廊」を基準に想像してたから、所詮は中世ヨーロッパの文明よりちょっと凄いくらいかなーって。

 そう思ってた訳ですよ。

 

「いや、ホント、何これすっご……」

 

 まずは街全体を囲っているらしい、高さ20メートルはある巨大な塀。材質は恐らく石で、例えるなら進◯の巨人の『壁』を少し小さくした感じ。

 その塀の上にはズラリと大砲とかバリスタが備わっているのは、普通にモンハンらしい。だけどそれらと一緒に、当たり前のようにガトリングガンなどの近代兵器が並んでいる。

 戦車が存在してる時点で予想してたけど、完全に現代の地球に匹敵するレベルだよね……。

 どこまでモンスター……特に古龍種に通用するかは分からないけどさ。

 

 そして塀の後ろには、高層ビルも顔負けなデカい建物がズラリ。

 うん、完全に大都会やね。

 日本にあるどっかの地方都市ですって言われてこの街の写真見せられたら、普通に納得しそうだわ。でもコンクリートはないらしいから、全部石造りなのが凄い違和感ある。

 地震とか来たらあの巨大な石のビルは全部倒壊しちゃうんだろうなぁ。

 耐震工事とかやって無さそうだし。

 あーでも、日本ほど頻繁に地震なんて起きないか。地球でも日本はかなり地震が多い国だしね。

 超大型モンスターが近くを歩いたら、それだけで地震が発生するけど。その辺りの対策はしてないのかな?

 

 で、だ。

 私は茂みの中に隠れて塀の外から街を観察してるんだけど、そろそろ中に入って街並みを見たい。

 その為には門の前にいる2人の兵隊さんを何とかしないと。

 

「うーん、普通に入れるのかな? 通行証みたいなのが必要ならアウトだよね」

 

「姉上、先ほどからどうして奴らの巣に入らないので? あの見張りが邪魔であるなら、我が殺してきますが」

 

「俺。も。殺す。」

 

「殺しちゃダメ。あの人達に気づかれないように入ろうとしてるから」

 

「であれば、普通に跳躍して塀を越えては?」

 

「あの高さの塀から人が飛び降りてきたらパニックだよ。飛び降り自殺かと思われるし。人間は20メートルの高さから落ちたら普通に死ぬんだよ」

 

「なんと脆弱な。所詮は下等生物ですな」

 

 そう言ってバルカンが小馬鹿にしたように鼻で笑うけど、生き物としては確実に古龍種の方がぶっ飛んでるからね。

 それに、天空山の高所から飛び降りても平気なハンターいうバケモノも存在するから。

 あれ?

 ハンター基準で考えたら、20メートルの高さから落下しても無傷なんて普通だったりする?

 ……この世界の人間ってちょっとおかしいわ。

 

 うーん、古代人の身体能力の基準が分からない。

 文明はかなり発達してるから、平均的な身体能力はそこまで高くない可能性はある。むしろ文明が後退してる現代モンハン世界の方が、人間は屈強かもしれないよね。

 でも私が最初にいた森には「大蛇」とか「巨大狼」がいたし、絶滅種だっているし。自然だって負けてないから、地球の先進国の人達よりは平均的な身体能力は高いかも……って。

 ダメだ、すぐに思考が変な方向に逸れるのは私の悪いクセだよ。

 

 とにかく、少しでも穏便にあの門を潜り抜ける。

 その方法は……

 

「暗殺だね!」

 

「やはり殺すのですね! 行くぞボレアス、マンハントの時間だ!」

 

「殺す。」

 

「ストーップ! 今のはお姉ちゃんの言い方が悪かった! 殺さないから待ってぇ!」

 

 もの凄く嬉しそうな顔で飛び出そうとするボレアスとバルカンを慌てて制止して、ここで待ってるように指示して私1人で門に向かう。

 その時に弟達はオモチャを取り上げられた子供のような顔をしていたけど、流石に攻撃してきた訳でもない相手に殺人許可は出せないよね。

 ノリで暗殺とか言わなきゃ良かったよ。

 まぁ、今からやるのは殺さないけど似たようなコトだけど。

 

 よし、ゴー!

 一気に茂みから飛び出して、私は必死の表情で門に向かって走り出す。

 もちろん兵隊さん達はすぐに気付いて、手に持った武器を構えながら叫んだ。

 

「そこのお前、止まれ!」

 

「お願いします助けてください! 森の中で見たこともない怪物に襲われて、私……っ!」

 

 切羽詰まった声を出しながら、私は嘘泣きして右側の兵隊さんにすがりつく。

 気分はホラー映画のヒロインだ。

 もちろん、恐怖で震える演技も忘れない。

 

「なに!? またモンスターか!?」

 

「もう大丈夫だお嬢さん。ちょうどこの街には凄腕のキラーズが来ている! すぐにモンスターは討伐される!」

 

 ……キラーズ?

 ハンターとかじゃなくて?

 初めて聞くワードに反応しそうになるけど、すぐに不安そうな表情を作って演技を再開する。

 

「ほ、本当ですか……?」

 

「勿論だとも! それで、その怪物はどこに?」

 

「あなたの目の前に」

 

「は……ぁ!?」

 

 密着状態からゼロ距離で電撃を浴びた兵隊さんが崩れ落ちる。

 意識消失(スタンガン)

 接触した状態で弱い電流を流すことで、短時間だけ相手を気絶させられる技だよ。

 みねうちでござる。

 

「な――」

 

「ごめんね」

 

 相方が急に気絶して硬直するもう1人にも素早く接近して、軽く首筋に触れて電流を流す。

 こっちもすぐに気絶して、その場に倒れ込んだ。

 

 よーし、我ながら完璧。

 今の出来栄えならB級のスパイ映画にも出られるな!

 

 そんなバカなことを考えながら、私は兵隊さん達の持ち物を漁る。

 うわ、色々と持ってるね。

 これは……もしかしてトランシーバー? 電源を入れてみないと分からないけど、見た目は完全に通信機じゃん。

 こんな物まであるんだ。

 他には兵士である証明書とか、大型ナイフ、これは笛? 警報用かな?

 

 そうだ、もしかしてもう1人も通信機(仮)を持ってるかも。

 うーんと……あ、あった。

 思ったよりも優しかった兵隊さん達には悪いけど、性能調査のサンプルとして通信機は盗ませて貰います。

 紛失して弁償とかなったらごめんよ。

 

「ボレアス、バルカン、もう出てきても良いよー」

 

 持ち物検査も終わったので、私は茂みの中で待機していた弟達に合図を出して呼び寄せた。

 すぐに駆け寄ってきたボレアスにトランシーバーを手渡す。

 

「何。これ。」

 

「戦利品。後でそれ使うから、大切に持っといて。後バルカンはメガネ貸して」

 

「もちろん構いませんが……」

 

 不思議そうにしながらもバルカンはメガネを渡してくれ……は?

 

「バルカン、メガネ外したら更にイケメンとか漫画の世界じゃないんだからさぁ」

 

「は、え?」

 

「ないわー。メガネを付けたら理知的なクールイケメンで、外したら爽やか系イケメンとか。少女漫画かよー」

 

 この子絶対にモテるわ。

 街を歩いてたらバルカンだけ逆ナンパされそうなんですけど。

 人間の女の子に集られて嫌そうな顔をするバルカンが目に浮かぶわー。

 

 美形な弟に八つ当たりしながら、バルカンのメガネをかけて髪型をポニーテールに変える。

 兵隊さん達はすぐに目を覚さないだろうし、起きても記憶が混濁してるから問題ないとは思うけど、万が一の為の簡単な変装だね。

 それでもヤバそうならバルカンの赤ローブで顔も隠そう。

 

「よし、2人とも行くよー」

 

「仰せの通りに」

 

「ん。」

 

 ようやく本来の目的通り、私達は門を潜って塀の内側へ!

 意気揚々と街の中に侵入して、細い一本道を通り抜けて大通りに抜けたその瞬間に。

 綺麗に舗装された石畳の上を、もの凄い量の排気ガスをばら撒いて車が横切った。

 大量の排気ガスに私は思わず咳き込んでしまう。

 

「……いや、車とかないわー」

 

「何だ今のは! 姉上に汚らわしいガスを浴びせた挙句に、一礼もせずに御前を横断するとは! ひっ捕らえて喰い殺してくれる!」

 

「バルカン落ち着いて、大丈夫だから。それと今のは生き物じゃないから食べられないから。お腹壊すよ」

 

「……? あのような速さで動く植物などあり得ませんし、生き物の類では?」

 

 ああ、うん。

 そりゃあ今まで人里に接近しなかったし、戦車を見た時も説明しなかったもんね。機械とか分からないか。

 でもバルカンのせいで車にツッコミを入れるタイミングを見失っちゃったでしょうが。

 不機嫌な表情ながらも、興味深そうに再び目の前を横切る車を観察するバルカン。意外と人間が作った物には興味あるのかな?

 

 それはともかく。

 車だ。

 現代で使われている車とはビジュアルが大きく違うけど、間違いなく自動で動く四輪車だ。

 屋根がなくて全体的にゴツくて、無数の鉄パイプからガスを排出してるけどね。他に呼び方がないから、正式名称が分かるまでの仮称は車で問題ないでしょう。

 地球であんなの乗り回したら環境問題的に1発アウトなのは間違いない。

 

 道を走る車の数はかなり少ないけど、明らかに車道と歩道に分かれているから、それなりの台数はあるのでしょうね。

 まだあまり普及してなくて、お金持ちの人しか持ってないのかも。

 市民の服装は女性がワンピースで、男の人はマ◯オみたいなオーバーオールを着ている人が多い。

 やっぱり私達ってば浮いてるわー。

 あまり目立ちたくないんだけど。

 

「チッ、下等生物共め。先ほどからチラチラと我を見て煩わしい……!」

 

 やっぱりモテてるじゃないかこの野郎。

 普通の男の子は女の子が赤い顔して自分を見てたら喜ぶじゃん。ほらバンザイして喜びなさいよ。

 だけどお姉ちゃんが許可した女の子以外とのお付き合いはダメだからね。可愛い弟をどこぞの馬の骨に渡せるもんか。

 バルカンが欲しければ、私を倒してからにしてもらおう。

 いや、でも、バルカン視点だと完全に異種属か。

 猿にモテて喜ぶ人間がいないのと同じ感じなのかもしれない。

 

「ルー姉。ここ。臭い。うざい。」

 

 それは私もちょっと思ってた。

 道脇には普通にゴミが落ちてるし、車のせいで空気が悪い。

 衛生観念とかどうなってるんだろう。

 ……普通に道端に排泄物を捨ててた地球の中世文明よりはマシだから、この文明はこれでも凄い方だと思う。

 それでも鼻が良い私達からしたら辛いよね。

 嗅覚の出力を下げて我慢するしかない。

 

 それにしても、凄いな。

 近代都市と中世文明が中途半端に融合したら、こんな感じになるかもね。

 公共施設らしい建物もかなり見つかるし、娯楽も発展してる。さっき映画館みたいなのもあった。

 門番をしてた兵隊さんと同じ服装の人が巡回してるから、治安もかなり良いのかも。

 もちろん、兵隊さんが接近してきたら離れてる。

 

 ――結論。

 古代文明マジヤバい。

 未だに科学力の底が見えないわ。

 

「姉上、思案中に失礼いたします」

 

「ん? どうしたのバルカン」

 

「どうやら人間達が1つの方向に向かっているようで」

 

 バルカンが指差す方向に目を向けると、確かに多くの人が集まってる。

 ちょっと覗いてみようか。

 ボレアスとバルカンの手を引いて、私は無駄にヒラヒラする白いドレスに苦戦しながらも喧騒が聞こえてくる方向へ。

 

「やはり煩わしい。下等生物のオス共め、チラチラと姉上を見て……!」

 

「バル兄。殺す?」

 

「すぐにでも始末したいが、姉上の許可なく狩りをするのは許されん。今は耐え、向こうから手を出すのを待つのだ」

 

「2人とも何か言った? 喧騒が凄くて良く聞こえないんだけど」

 

「「何も」」

 

 ……?

 お姉ちゃんだけ仲間外れにされてないよね?

 もしそうなら泣くよ?

 

 龍の腕力でちょっと強引に人混みを掻き分けながら、何とか騒ぎの中心地に。

 どうやら、一番大きな車道を使ってパレードみたいなことをしてるらしい。

 交通規制でもしてるのか車モドキは全く走っていなくて、代わりに巨大な武器を背負った人達が堂々と道を歩いてる。

 彼らに共通しているのは、体のどこかに必ず「龍の上で剣と槍が交差しているシンボル」を身につけていること。

 いや、あの龍のマーク私達じゃない?

 完全にミラ種だよね?

 というか、あの人達って絶対にハンターじゃん。

 古代文明にハンターって存在してたの?

 

 ダメだ、情報量が多すぎて整理できない。

 とにかく明らかに私達モンスターと敵対していそうな、あのハンターモドキから調べよう。

 えーっと、近くに(私の肉体年齢と)同い年くらいの女の子を発見。

 あの子に聞いてみよう。

 

「ね、ちょっと良い?」

 

「あっ、はい、何でしょうか?」

 

 社長令嬢時代にひたすら鏡の前で練習した渾身の笑顔で、出来るだけ好意的に話しかける。

 向こうも人見知りじゃなかったみたいで、微笑を浮かべて応じてくれた。

 

「いきなりで悪いんだけど、あの武器を持った人達って何か教えてくれない?」

 

「え?」

 

 マズい、質問をミスったかも。

 凄く驚いたような顔で、その女の子は首を傾げた。

 

「あの、あの方々はキラーズですよ? 悪いモンスター達を退治する専門職って聞いたことありませんか? 最近ではかなり有名ですけど」

 

「そうなんだ。私ってあまり家から出ないから、全く知らなかったよ」

 

「あぁ……なるほど」

 

 ん?

 なるほどって何が?

 私を改めて見てから急に納得したような表情をされたら、それはそれで怖いんですけど。

 引きこもりニートとか思われたのかな。

 数年間ずっと山頂に隠れてたから、引きこもりってのはあながち間違いじゃないんだけどさ。

 

「実はこの街の近くにも、モンスターが現れるようになったんです。四輪車が襲われて交易が滞っているので、ノーリッジ伯爵様がキラーズに依頼を出したんですよ」

 

「へー。あ、まだ自己紹介してなかったね。私はアンセス。よろしく」

 

「はい! 私はアーデルハイトって言います。アデルって呼んでください! えーっと、そちらの方々はアンセスさんのお連れですか?」

 

「そうだよー。2人とも私の弟。背の高いこの子がバルカンで、こっちが末弟のボレアス」

 

「わ、可愛い!」

 

 バルカンに会釈した後、ボレアスを見たアデルはパッと笑顔を浮かべて軽く頭を撫でた。

 苦手な人間にいきなり頭を撫でられたボレアスが一気に不機嫌になるけど、アデルはそれに気づかずに撫で回し続ける。

 うわぁ……。

 恐らくこれから先も含めて、ボレアスの頭を笑顔で撫でた人間はアデルだけでしょうね。

 悲報! 伝説の黒龍、街の少女に愛でられる。

 ようやく解放されたボレアスはこれ以上は我慢できないと私の後ろに隠れるが、その行動は余計にアデルを興奮させるだけだった。

 耐え抜いたボレアスには後で何かご褒美をあげよう。

 

「あ! アンセスさん、あそこを見てください。キラーズ最強と言われている剣士、フランシスカ様ですよ!」

 

 私達の天敵となるキラーズの最強。

 そんなアデルの言葉に惹かれて、私は彼女が指差す方向へと視線を向けた。

 

 艶やかな黒髪を一房の三つ編みにし、薄手の生地で作られた露出の強い衣装を完璧に着こなす美女だ。

 スリットスカートを穿いて片足を露出しているのは、恐らく軸足の動きを衣服に阻害されない為でしょう。

 そして腰には、何故か私と似た力を纏う太刀を装備している。

 

 ――その瞬間。

 退屈そうに歩いていたフランシスカさんと、私の視線が交差する。

 

「「――――ッ!!」」

 

 祖龍の本能が今までで最大級の警鐘を鳴らした。

 他のキラーズと、明らかに格が違う。

 さっき空気が悪いという理由で嗅覚の出力を下げたのに、それでもはっきりと分かるほど濃密な死と血の臭いがする。

 ……強い。

 私が全力を出しても、勝率は五分五分くらいだ。

 本気を出しても勝てないと心の底から思ったのは、祖龍になってから初めてだった。

 

 そして、私を見たフランシスカさんの黒い瞳も大きく見開かれる。

 退屈そうだった黒い狩人は一瞬だけ微笑を浮かべると、私から視線を外して歩いていく。

 

 

 

 

 

 ――後に『竜大戦』の勝敗を分ける、祖龍とフランシスカ。

 彼女達の初めての邂逅は一瞬であったが、龍の最強と人の最強はお互いを確実に認識した。

 コイツは間違いなく自分を殺せる存在だ、と。

大切なものは――

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