一通りキラーズのパレードを見終わった私は、アデルに別れを告げて路地裏へ移動していた。
メガネをバルカンに返して髪を解き、ボレアスから通信機(仮)を受け取ってため息をつく。
いや、ないわー。
何あれ?
さっきのフランシスカって人、本当に人間なの? 実は擬人化した古龍種とかじゃなくて?
全ての龍の頂点であるこの私が、本気で命の危険を感じるとかどれだけよ。確かに私は成体になってから数年しか経ってなくて、まだまだ未熟なところがある。
それにしてもアレはない。
もしも今すぐ戦ったとしたら、勝敗は五分五分だね。
この予想もあくまでスペックだけを見ての判断だから、戦闘経験とかで負けてたら敗色濃厚。
でも逃げに徹すれば戦いは回避できそうだし、こっちにはボレアスとバルカンっていう心強い味方がいる。
3対1なら、流石にあの人にも勝てるでしょう。
……お姉ちゃん的な視点では、弟達をあんな危険な人の前に出すのはナシだけど。
ともあれ、あの人を無視するのはマズい。
確実に古龍種すら瞬殺出来るほどの力を持ってるから、フランシスカさん1人が暴れるだけでモンスターの個体数が激減する可能性もある。
下手したら絶滅危惧種まで発生するかも。
いや、今現在この世界に生きているモンスターは古龍種を除けば全部『絶滅種』なんだけど。
よし!
今からキラーズ達はこの街の近くで『狩猟』するみたいだし、かなり危険だけど見学させてもらおうかな。
「姉上。先ほどの人間は如何なさいますか? 下等生物を相手に屈辱的ですが、アレは我らの命を脅かす可能性があります」
「かなり。危険。殺す?」
「まだ手は出さないよ。向こうが殺しに来るなら別だけど、ご飯を手に入れる以外の目的で「狩り」はしないって決めてるからね」
ぶっちゃけ私達は強い。
古龍種の頂点である『禁忌』なんだから当たり前だけどね。
他の生き物と比べて圧倒的に強いから、基本的にはルールにも縛られない。暴力って手段を用いれば、それだけで大抵のことは解決できるからさ。
だからこそ無闇に力に頼るのはダメだし、この力に溺れて好き勝手やったらアウトでしょうよ。
誰にも縛られずに自由だからこそ、自分で決めたルールは絶対。
自分自身すら裏切ったら終わりだし。
……私の『妹』なら、自分の力なんだから好きに使えって言うんだろうけどね。
でも、自分のさじ加減1つで世界を滅ぼせるって怖いよ。
私が少し祖龍の力を制御に失敗するだけで、次の瞬間には何もかもが消えて無くなってるかもしれないのに。
あー、また思考が逸れた。
フランシスカさんを見てから、どうも調子が出ないな。
何でだろうね。
私ってば楽観主義の不真面目人間のくせに、いざって時には保身的な手段しか選べないんだからなー。
「うん、ウジウジするの終わり! ボレアスとバルカンは北側の門から街の外に出て、人気のないところで擬人化を解除した後は上空で待機ね」
「姉上は?」
「さっきの人が戦うみたいだから、少しだけ覗いてくる。万が一戦闘になったらすぐに離脱するから、援護はしなくて良いよ」
「仰せの通りに。行くぞボレアス! 姉上に我らの力を見せる時だ!」
「何。も。命令。され。て。ない。だろ。」
やけに張り切ったバルカンがボレアスを強引に引っ張って行くのを見送ってから、私はキラーズ達が向かった南側の門へ向かった。
〜Now loading〜
この街全体を囲む高い塀の上を疾走しながら、私は人と竜の戦場となった森を観察する。
……酷い。
心のどこかで原作ゲームの「狩り」を想像していたけど、森で行われているのはただの虐殺だった。
キラーズ達はまず森に火を放ち、炎でモンスターを炙り出す。そして姿を見せたモンスターを、5人1組のグループで討伐する。
これが基本的な戦法らしいね。
フランシスカさんの姿はまだ見えない。
多くのキラーズは森には踏み込まず、焼き払って焦土にしてから前に進むことを徹底している。
だけど塀の上を走り回って焦土になった場所を全て確認してもいなかったから、多分あの人は単独で森の奥に突っ込んだんじゃないかな。
まぁ、うん。
一目で祖龍が命の危険を感じるくらいの強さがあるなら、小細工する必要はないよね。
あの人にとって仲間の協力なんて不要だし、むしろ邪魔になるでしょ。
本当にフランシスカさんだけ世界観おかしくない?
ぶっちゃけ関わりたくないけど、それは絶対に無理。
キラーズの目的がその名の通りモンスターの殲滅なら、必ず彼らは私に辿り着く。
――竜大戦。
もしかしたら、モンハン史上で最悪のソレはもう始まっているのかもしれない。
唯一の救いは、今のところフランシスカさんほど人間をやめてるキラーズはいないことかな。
普通に5メートルくらいジャンプしてたり、鉄塊のような大剣を振り回してる時点で地球人からしたらヤバいけど、この世界の人なら納得できる範囲だし。それくらい出来ないとモンスターを殺すとか無理だしね。
それにキラーズが圧倒的に優勢って訳でもない。
ワイバーンレックスみたいに強いモンスターも何体か見たけど、彼らは逆にキラーズを殺してたし。
私の感覚もかなり麻痺してきたかも。
人間がモンスターに喰い殺されるところなんて見たら、普通はトラウマになるでしょうに。
不快感はあるけど、それよりも「自然の摂理」って思いの方が強い。
……うん。
そろそろ森の中に入ろうかな。
キラーズの平均的な実力は確認したし、そろそろ大本命の所に行かないとね。
高さ20メートルの塀から躊躇なく飛び降りる。
戦場になっている焦土は回避して、なるべく木の枝の上を走って進むようにしよう。
着地と同時に跳躍し、数百メートルを一歩で進む。
もう走るというより飛んでるような感じだけど、祖龍のスペックに毎回ツッコミを入れてたらキリがないし。
森の中に入ると、そこら中にモンスターの死骸が転がっていた。
討伐された後にそのまま放置された死体もあれば、素材を剥ぎ取られて無残な姿になってしまっているものもある。
そして、親の死体の近くで粉々にされてしまった無数のタマゴも。
……手当たり次第って感じだね。
キラーズ達は、本気でこの森に住むモンスターを皆殺しにするつもりなんだ。
少しだけ心の奥が疼く。
人を襲ったモンスターならともかく、ただ森の中で静かに生きている子まで殺さなくても良いのに。
確かに彼らはキラーズだ。
断じてハンターじゃない。
ハンターがモンスターを狩るのはあくまで自然の調和を保つため。それに対してキラーズはモンスターを殺す、ただそれだけ。
殺して、殺して、殺し尽くして、モンスターを絶滅させる。
……嫌だな。
もちろん人間側の主張も分かる。
私だって元人間なんだから、モンスターなんて危険な存在は消えて欲しいって気持ちは理解できるよ。
だけど、何て言えば良いのかな。
この世界が大好きなモンハンファンとしては、やっぱり人間とモンスターは共存して欲しい。
何が正しいかは、私にも分からないけど。
「それにしても、何でこの広い森にいるモンスターの多くがこんなに浅い所に……?」
思考を切り替えるためにわざと独り言を発する。
モンスターの死体の数が、明らかに元から森の浅い所で暮らしていた数よりも多いよね。
そもそも、狭いエリアに複数体のワイバーンレックスがいるのがおかしい。
縄張り争いをする時を除けば、大型モンスターは基本的に近くにいないのが当たり前だ。
捕食者側の最大の敵は同じ捕食者なんだから。
ちょっとした怪我が命の危険になる可能性があるから、強いモンスターでも基本的に同格との戦いを避ける。
だから縄張りが重なって、獲物の取り合いとかが発生しないようにするんだけど……。
あ、イビルジョーみたいなのは例外ね。
という私の疑問は、しばらく森の中を走っていると解決した。
森の少し開けた場所に、小さな山ができるくらいの大量の生肉が設置されている。
試しに少しだけ食べてみると、毒が盛られているのが分かった。
これは……麻痺毒かな?
こっちは普通にダメージが入るタイプの毒で、うわ、眠り薬まで仕込まれてるし。
なるほどね。
これでモンスターをおびき寄せて、しかも毒で弱らせてるんだ。
確かに褒められた行為じゃないけど、殺し合いに卑怯も何もないからね。
知恵は人間の最大の武器でもあるから、それについて否定するつもりはないよ。
感情論的には、そう簡単に割り切れないけれど。
転生前の私はそこまで自然保護に関心があった訳じゃないから、きっとこのモヤモヤした怒りはミラルーツのモノでしょうね。
と、その時だ。
――ッッオオオオオオオオオオオオオオ!!
周囲が揺れるほどの咆哮と共に、私の前方で火柱が上がる。
一瞬だけ弟達かと思ったけど、流石に古龍種のブレスほどの威力はないね。というか、今のボレアスやバルカンがブレスを撃ったらこの森が丸ごと消えるし。
だけど、かなり強いモンスターが戦っているらしい。
ここ森の中でもかなり深い所だから、浅い所で戦う事を意識している普通のキラーズはいない。
となると、答えは1つ。
限界まで気配を消して、私は火柱の方向へ進んでいく。
そして火柱まで残り後100メートルまで接近してから、茂みに隠れて様子を伺う。
――いた。
白金に輝く太刀を片手に、次々と放たれる火球ブレスを舞うように回避する黒の狩人。フランシスカさん。
それはまるで演舞のようで、戦力調査に来た私が見惚れるくらい美しかった。
フランシスカさんと戦っているモンスターは初めて見たけど、私の知識はそのモンスターを知っている。
茶褐色の甲殻に身を包み、頭部には長い角を有し、全身を鋭い棘で武装した四足歩行の竜。
クシャルダオラに似た骨格で、前脚にはかなり発達した翼がある。
シェルレウス。
『絶滅種』であり、ワイバーンレックスに匹敵する捕食者だ。
前脚の叩きつけから二連続の叩きつけ。
そこから三連火球ブレスに派生して、さらに予備動作なしの突進。
リオレウスとティガレックスを足して2で割ったような行動パターンと攻撃を、フランシスカさんは退屈そうな表情で避け続ける。
私から見てもシェルレウスにはいくつか隙があるけど、何故かフランシスカさんは反撃しない。
あの人ほどの実力者が隙を見逃すことなんて考えられないから、恐らくわざと見逃しているんでしょうね。
……え、何で?
疑問で首を傾げる私の前で、フランシスカさんはひたすら回避を続ける。
ダンスを踊るように、優雅に。
着弾した火球ブレスは周囲一帯を焼き払い、100メートルは離れた場所にいる私にまで熱が届く。
だけど至近距離で熱を浴びたはずのフランシスカさんは、何事もなかったかのように炎の海を踏破した。
最小限の動作で、シェルレウスの攻撃を紙一重で回避する。
そしてついに、一方的に攻撃していたシェルレウスの方がスタミナ切れで動きを止めてしまう。
大きなアギトから涎を垂らして息を荒げるシェルレウスを見て、フランシスカさんはつまらなさそうに言い放った。
「……何だ、貴様もこの程度か」
私の並外れた聴覚が遠距離から彼女の呟き声を聞いたのと、音もなく斬撃が走ったのは同時だった。
シェルレウスの正面にいた筈のフランシスカさんの姿がブレたかと思うと、次の瞬間には竜の後ろに現れる。
……速すぎでしょう。
私の、祖龍の動体視力でも残像を捉えるのが精一杯。
擬人化してスペックがダウンしているとは言え、祖龍に転生してから敵を目で追い切れなかったのはこれが初めてだ。
私の額から冷や汗が流れる。
それが地面に落ちると同時に、シェルレウスが真っ二つになった。
まさに一刀両断。
中心で綺麗に左右に分かれたシェルレウスが、体の中身をぶち撒けながら倒れていく。
あんまりな光景に呆然としていると、凄まじい殺気が私に向かって膨れ上がった。
咄嗟に上体を後ろに倒すと、一瞬前まで私の首があった場所に斬撃が走る。
少しだけ回避が遅れたせいで、私の前髪が数本ほど宙に舞う。
「この距離で!?」
「――ッ!」
私みたいにレーダーを展開してるわけでもないのに、約100メートル以上も離れた場所で気配まで消してた私を見つけるとか。
冗談にもならないんだけど!?
初撃を外したフランシスカさんが鋭く息を吐き、大きく右足を踏み込んだ。だけど今度は私の方が速い。
龍脈を解放すると同時に私の全身が紅雷に包まれて、限界を超えた速度でその場から移動する。
刹那の間に今度は200メートルの距離を取って離れ、木陰に隠れて能力を解除。
し、死んだかと思った……!
念のために観戦してる時から龍脈を収束してて本当に良かった。
斬撃の速度が頭おかしい。
だって音が遅れてきたんだよ?
あの人、平然と音速の壁を突破してるんですけど。
そんなデタラメな斬撃を避けられたのは、私の擬人化時の切り札の1つである『鳴動』のおかげ。
名前はまたノリで付けた。
全身に雷を纏って一体化することで、短時間だけ文字通りの雷速で動けるようになる絶対回避技。
それを使って、何とか回避出来たってわけ。
だけど……。
「何者だ?」
木々を両断しながら、フランシスカさんがゆっくりとこっちに向かって歩いてくる。
私の考えうる限りで、最悪の展開になってしまった。
次回、祖龍VSフランシスカ。
大切なものは――
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更新速度ではない、質だッ!
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質ではない、更新速度だッ!