天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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第15話 祖龍とフランシスカ

「……何者だ?」

 

 抜き身の太刀を片手に、フランシスカさんがゆっくりと私の方へと歩いてくる。

 その全身からは凄まじい殺気とプレッシャーが放たれていて、普通の人ならこの威圧感だけで心臓麻痺しそう。

 あーはー、マジで笑えない。

 冷静に考えたらこの状況ってば絶対におかしいよこれ。

 だってモンスターは私だよ?

 何で凶悪なドラゴンの方が怯えながら隠れていて、反対に人間の女性が殺気バリバリで向かってくるのさ。

 逆でしょうこれ。

 

 マジでどうしよう。

 本来の姿ならともかく、力が制限される擬人化状態じゃ勝ち目はない。

 ……このまま戦闘を始めるより、時間稼ぎと情報収集を兼ねて対話を試みる方が良いかな。

 覚悟は決まった。

 私は両手を上げて、フランシスカさんの前へ姿を現す。

 

「て、敵じゃないですよ? 私はこの森で迷ってて、凄い音が聞こえたからこっちの方に……」

 

「──面白い。人のカタチをした怪物か」

 

「……っ」

 

「まさか本当にただの迷い人で通るとでも思っていたのか、モンスター? この私の太刀を2度も避けた貴様が、そこらの町娘な訳ないだろう。人間の町娘に化けるつもりなら、そのような衣装はやめておけ。その容姿ではまるで高貴な家系の令嬢だ。多数の竜が巣食う森で彷徨うような人物ではないな」

 

 マジかー、頭も回るタイプかー。

 ド正論すぎて何も反論できねー。

 擬人化してるからワンチャンいけると思ったんだけど、まさか一瞬でバレるとはね。

 見た目に騙されてくれるなら、奇襲で怯ませてから逃げようと思ったのに。全く隙がないんだもん。

 小細工は通じそうにないし……仕方ないか。

 

 ――龍脈収束。

 地面から一気に龍脈を汲み上げて、いつでも戦えるように力を漲らせていく。

 私が臨戦態勢になったことに気付いたフランシスカさんが凶悪な笑みを浮かべた。

 

「貴様もやる気になったようで何よりだ。今すぐにでも殺し合おう……と言いたいところなのだが、その前に1つ聞きたいことがある。今まで人語を解するモンスターとは会ったことがなくてな。竜と話せる機会は貴重だろう?」

 

「敵の質問に親切に答えてあげると思う?」

 

「答えたくなければ無視しろ。貴様、少し前から私の戦いを見ていただろう? 私が先ほど殺した竜はモンスターの中でも強い方か? それとも弱い方か?」

 

 ……?

 てっきりモンスターの生態とか弱点とかを聞くと思ってたのに、予想外の質問が飛んできたね。

 うーん。

 答えた方が良いのか。それともスルーした方が良いのか。

 この人に情報を渡しても何のメリットもないけど、別に絶対に答える訳にはいかないって質問ではないし。

 というか、私が嘘をつく可能性とか考えてるのかな?

 もしかしてこの人……。

 私も仕掛けてみようか。

 

「じゃあ、交換条件ってのはどう? 私の質問に答えてくれたら、私もあなたの質問に答えてあげる」

 

「構わん、言ってみろ」

 

 即答ですか。

 あっさりと取り引きが成立しちゃったけど、これは私にも好都合だね。

 キラーズの情報が手に入るし。

 

「私にキラーズの総数を教えて欲しいな。それと、あなたと同じくらいの強さのキラーズが存在するのかも」

 

「キラーズの総数なんぞは私にも分からんが、キャロルの奴が世界中の国々から集めると言っていた。それなりの数はいるだろうな。そして次の質問だが、私に匹敵するほどのキラーズは1人しか知らん。むしろ私と同格の力があるキラーズなど、こっちが教えて欲しいくらいだよ。だが私には届かんが、なかなか見所がある奴らは数人ほどいるぞ?」

 

 うわぁ……。

 フランシスカさんと同格が1人と、この人が見所があるって言うほどの実力者が数人とか。

 あなた達から一斉に襲撃を受けたら、弟達と協力しても勝敗は五分五分になっちゃうじゃん。

 キラーズ怖い。

 やっぱりモンスターの最大の敵は人間ってことか。

 いよいよモンスターハンターらしくなってきたね……。ハンターじゃなくてキラーズが敵だけど。

 

「さて、私は質問に答えたぞ? 次は貴様の番だな」

 

「……そうだね、確かにさっきのモンスターは強い方だよ。この森の生態系の頂点の一種じゃないかな。だけど最強格じゃない」

 

「ほう、ではアレより上は存在しているのだな? 貴様のような強者が」

 

「もちろん。他のモンスターとは一線を画す力を持った、古龍種がね」

 

「モンスターの限界はこの程度ではないということか。……素晴らしい、まだ退屈せずに済みそうだ」

 

 そう呟くフランシスカさんの表情は狂喜。

 圧倒的な殺意とプレッシャーの中で、いっそ見惚れるほどの微笑を浮かべる彼女は凄く歪だ。

 私の中で、とある予想がいよいよ確信に変わっていく。

 

「交換条件を提示した私が言うのもアレだけど、敵にキラーズのことを話して良かったの?」

 

「口を滑らせたのはお互い様だろう? そもそも私は他のキラーズ達に仲間意識など抱いておらんのでな。雑魚共が死のうがどうでも良い。私が興味を抱くのは、私を殺せるほどの強者だけだよ」

 

「見所がある人はいるのに?」

 

「だが私とぶつかる前にそこらのモンスターに殺されたのなら、所詮はその程度だ。有象無象と変わらんな」

 

 うん、確信した。

 この人はバーサーカーだ。

 ただ自分に匹敵する力を持つ相手と戦うことにしか興味がない。

 

「では、そろそろお楽しみの時間といこうか」

 

「私はこのままお開きでも良いけど?」

 

「ほざけ」

 

 この会話を最後に、私達はお喋りをやめた。

 フランシスカさんは言葉の代わりに太刀を構えて、私は人間の姿を捨てて龍の姿へと戻る。

 大地が抉れるほどの踏み込みと共に、白金の太刀が下から上へ振るわれた。狙いは私の首。その威力は言わずもがな、いくら祖龍の龍鱗でも無傷とはいかないでしょう。

 

 バッテリーを励起させ、紅雷を纏わせた尻尾で太刀を迎え撃つ。

 真上から尻尾を叩きつけられたフランシスカさんが吹き飛び、私の尻尾から少量の血が飛び散った。

 この程度の傷なら問題ない。龍脈で細胞を活性化させて再生力を高めれば、ほんの数秒で完治する。

 私は力負けしたフランシスカさんが吹っ飛んだ方向に向けて、雷球ブレスを3連続でぶっ放す。雷球ブレスは着弾と同時に周辺にスパークを撒き散らして爆発し、着弾地点には巨大なクレーターが空いた。

 手応え、ない。

 

 ……上か!

 

 レーダーが凄まじい速度で移動する生体反応を感知する。

 私は視界を上に向けることもせず、即座に“鳴動”を発動して最高速度でその場から離脱した。

 直後、私がいた空間が真っ二つに斬り裂かれる。

 斬撃のあまりの威力に大地が割れ、フランシスカさんの足元に谷が生まれた。

 雷球ブレスが着弾するより早く、周囲の木の枝を足場に私の頭上まで一気に移動したの?

 ホント、身体能力どうなってんのよ!

 

 舌打ちしながら、フランシスカさんが着地した瞬間を狙って雷を落とす。

 だけど人間離れした超反応で、黒の狩人は真上から迫る私の紅雷を両断した。

 サラッと雷を斬るな!

 今の私の落雷は、あの大蛇がいた湖に撃てば丸ごと蒸発するくらいの威力があるんですけど!?

 

 もちろん擬人化を解除した私の言葉は届かない。

 雷を両断した勢いのまま、前傾姿勢になったフランシスカさんが再び大地を踏む。

 そして疾走。

 残像すらも残らない速度で、私の左側へと回り込んだ。

 だけど、甘い!

 

「――ッオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 咆哮。

 普通のモンスターがすればただの威嚇だけど、私が全力で咆哮すれば立派な攻撃となる。

 ワイバーンレックスのソレを上回る威力の衝撃波が突き抜け、私の左翼を斬り落とそうとしていたフランシスカさんを迎撃した。

 迫る爆音と衝撃波に、超人は一瞬で攻撃から防御へと切り替える。 

 

「――ッ!」

 

 裂帛の気合いと共に太刀が振り下ろされ、不可視の衝撃波があっさりと切断される。

 残された爆音と衝撃波が周囲の木々をへし折り、大地を抉って遥か遠くまで突き抜けたけど、フランシスカさんがいた場所だけ何の変化もない。

 平然と跳躍して、私の左翼を斬り落とそうと太刀を振る。

 今度は真一文字に振るわれた斬撃を、私は体を捻ってギリギリで回避。翼のバッテリーを励起させて放電し、カウンターでフランシスカさんを吹き飛ばした。

 流石に翼から放電するとは思わないよね。

 それでも咄嗟に鞘を盾にして直撃を避けたのは流石だけど。

 

 だけど、また距離が生まれた。

 フランシスカさんの攻撃手段は恐らく太刀による斬撃だけ、遠距離ならば私が有利だ。

 龍脈、展開!

 大量の龍脈を汲み上げて放出し、この森全体を覆うほどの雷雲を作り出す。そして大量のランダム落雷をフェイントに、フランシスカさんを狙ったホーミング落雷を放つ。

 紅の光が次々と地面を穿ち、雷が落ちた場所には底が見えない大穴が出来上がる。

 フランシスカさんも(多分)人間だ。

 どれだけ身体能力が突き抜けていても、この落雷を1つでも直撃すれば即死は免れない。

 

 だけど。

 

「ふ、はーっはははははははッ! 良いぞモンスター! そうだ、このくらい派手でなければ面白くない!」

 

 心底楽しそうに笑いながら、フランシスカさんが狂気で瞳を輝かせて落雷の雨を駆け抜ける。

 第六感でも働いているのか、落雷を一瞬だけ早く察知しては紙一重の回避を繰り返す。

 しかもこれはランダム落雷の方で、正確にターゲットを狙うホーミング落雷を走りながら斬り裂いて潜り抜けた。

 本当に規格外だよ。

 

 だからこそ、私も手加減なしでいく。

 全バッテリー励起。

 最大出力(オーバーフロー)

 私の全身を紅雷が包み、私は帯電状態へと移行した。

 これでフランシスカさんが私に接近すれば、たとえ攻撃に成功してもスパークを浴びて必ず被弾する。

 体力の削り合いなら、モンスターである私の方に天秤は傾くでしょう。

 

「……!」

 

 フランシスカさんも私の狙いに気づいたのか、凄絶に笑う。

 これで怯むあなたじゃないよね。

 落雷の雨を走破するのも、帯電状態を見ても怯まないのも予想済みよ。

 この2つは次の大技を放つ為の時間稼ぎが役目なんだから、通用しなくても問題はない。

 ……チャージブレス、充填完了。

 MH4Gで追加された完全新規モーションで、二足歩行の時の私の切り札。私もその破壊力を考慮して今まで使わなかったけど、フランシスカさん相手に手加減する余裕なんてない。

 

 

 ──本人こそ気づいていないが、このブレスは今よりも未熟だった3年前に『蛇の湖』とシュレイド王国軍約六千を纏めて吹き飛ばした実績を持つ、正真正銘の大技だ。

 

 

 体内を循環する全ての龍脈が、私の胸元から口内へと収束。

 そして純粋なエネルギーである龍脈は祖龍の力によって雷撃に変換されて、チャージブレスの準備が整う。

 さぁ、躱せるかなフランシスカさん。

 2種類の落雷を回避しながら、祖龍ミラルーツの切り札を!

 

「来い! 貴様の一撃、真正面から斬り伏せてくれる!」

 

 大地を消し飛ばす落雷の雨の中、フランシスカさんの全身から最大級の殺気が膨れ上がる。

 しっかりと太刀を握り直し、私の正面で構えた。

 濃密な『死』の予感が私に迫ってくる。

 このブレスを放てば、もうお互いに様子見は終わる。ここから先は、本気で殺し合いになるでしょうね。

 腹を括って、私はブレスのモーションに入った。

 

 そして、互いに渾身の一撃を繰り出し――

 

「撃てぇっ!!」

 

 ここで、知らない第三者の声が響く。

 咄嗟にブレスのモーションをキャンセルして、私は身体を捻りながらその場を離脱した。

 どこからか飛来した砲弾が私が立っていた地面を吹き飛ばすのを見ながら、私は落雷の雨をストップして一瞬で晴天となった空へと飛び上がる。

 最後にもう一度だけフランシスカさんと視線を合わせて、雲の上まで一気に飛翔した。

 

 は、は、はぁ……。

 助かった。

 生きてる? 私本当に生きてる?

 どこの誰かは知らないけど、最高のタイミングで横槍を入れてくれてありがとう!

 あーめっちゃ怖かった。

 ぶっちゃけ涙目よ。

 

 最後に見たフランシスカさんの殺気を思い出してブルブル震えていると、私の元にボレアスとバルカンがすっ飛んできた。

 まぁ、アレだけ派手にやれば気づくよね。

 

『姉上、ご無事ですか!? 何やら凄まじい勢いで龍脈が動いたかと思えば、我らですら怖気を感じるほどの殺気が放たれたので……』

 

 ギリギリ無事だよ。

 あのまま全力で攻撃し合ってたら、間違いなく無事じゃ済まなかった。

 たとえ勝ったとしても大ダメージは免れないだろうし、最悪の場合は私の命が消えてたでしょうね。

 私もフランシスカさんもまだ様子見だったから、ダメージは尻尾がちょっと斬れただけで済んだけどさ。

 

 それにしても、私に大砲を撃った人やばくない?

 私の落雷の雨を潜り抜けたってことだよね?

 落雷系の最大技である『全体落雷』ほどじゃないにしても、被弾すれば即死の攻撃を乱打する大技なんだけど。

 もしかして、フランシスカさんの言ってた「見所のある」キラーズがいたとか?

 何それやっば。

 砲撃でフランシスカさんの気が逸れた瞬間を狙って離脱して成功だったわ。

 

 ……このままじゃダメだ。

 フランシスカさんを筆頭に強力なキラーズ数人と、まだ姿を見せない残りの『禁忌』モンスター。

 これらの強敵を相手に、私はまだ確実には勝てない。

 もっと、強くならないと。

 

 ボレアスとバルカンを率いてこの場から離れながら、私は決意を新たにした。

大切なものは――

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