天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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あの人が再登場。


第15.5話 人類最強と魔境還り

 ――フランシスカ・スレイヤーは天才だ。

 挑戦して失敗したことなど1つもなく、目標に届かずに挫折したことも無い。

 これだけ聞けば、大抵の人々はあらゆる才能に恵まれたフランシスカを羨むだろう。全ての物事で成功する彼女に嫉妬するだろう。

 だが、人間とは失敗を乗り越えることで成長する生き物だ。苦しみに耐え、不安に立ち向かい、後悔しながら前に進む。

 

 では、たった1度の失敗も挫折もない人生はどうだろうか?

 RPGゲームで例えるなら、プレイ開始と同時に全てのステータスとレベルがカンストしているようなものだ。

 あらゆるボスキャラが『ひのきのぼう』の通常攻撃で即死し、まるで作業のようにボタンを連打し続けるだけ。

 モンハンで例えるならば、あらゆるモンスターがキック1発で討伐できるといったところか。相手の行動パターンを覚える必要も、有効な武器を担ぐ必要も、どのアイテムを持ち込むか悩む必要もない。

 

 そんな人生(ゲーム)、楽しいだろうか?

 これではもう生きている(プレイしている)とは言えない、ただ生命活動を維持するだけの作業だ。

 勉学に始まり、美術、音楽、運動……その全てがあまりに簡単すぎる。その分野の頂点のプロなど、フランシスカならば数日で追い抜ける。

 それだけフランシスカは隔絶していた。

 生きることに楽しみを見出せず、全てに絶望した彼女は7歳の時点で自殺すら考えるようになってしまう。

 

 ……とある少年がそんなフランシスカの命を繋ぎ止めたのだが、それはまた別の話だ。

 

 そして、3年前を境にフランシスカの人生に『希望』の光が灯った。

 その『希望』こそがモンスター。

 人智を超えた力を有し、一瞬でそれまでの生態系を打ち崩した怪物達だ。

 

 世捨て人になって剣術に没頭していたフランシスカの前に、自分を殺せる力を持った相手が現れたのは奇跡とすら言える。

 そしてただ強敵を求めて、彼女はキラーズになったのだ。

 ここで敵であるモンスター側よりも、一応は味方であるキラーズ側の方が強者が多いという誤算もあったのだが。

 残念なことに、キラーズ同士の殺し合いは禁止である。

 別に法律や世間体など気にしないので、犯罪覚悟で喧嘩をふっかけようともしたが、相手が応じてくれないのでは意味がない。

 

 ――紅雷を纏う純白の龍と出会ったのは、そんな時だった。

 

 最初は人の姿に化けていたが、街で視線が合った瞬間に『怪物』だと確信した。今まで見た有象無象とは格の違う、正真正銘のモンスター。

 常勝不敗のフランシスカ・スレイヤーが視線を合わせただけで『死』を感じるほどの相手。

 向こうも自分に興味を持ち、自分を追って森の中までやって来たと分かった時の喜び!

 この程度では死ぬなよという期待を込めて奇襲すれば、フランシスカの斬撃を2度も躱す! 真正面から向かい合って、よーいドンで攻撃した訳ではない。

 このフランシスカの不意打ちを、無傷で回避したのだ。

 まだお互いに様子見で本気では無かったが、それでもフランシスカを1度も接近させない戦闘能力。

 最後にあの龍が放とうとしていたブレスには、初めて『恐怖』を抱いたほど。

 今まで生きていた中で最高の時間だった。

 初めてこの世界に産まれたことを感謝したほどの至福だった。

 

 それなのに。

 

「この私の戦いを邪魔したのだ、楽に死ねると思うなよ……!」

 

 殺気が爆発した。

 フランシスカの黒瞳に本気の殺意が宿り、横槍を入れた乱入者を睨み付ける。

 常人であれば、それだけでフランシスカの迫力に負けてショック死しただろう。

 今の彼女からは、それほど膨大な殺気が迸っている。

 

「邪魔をしたとは心外だな、むしろ感謝して欲しいくらいだぜ」

 

 龍すら怯えるフランシスカの殺気を、その男は真正面から受け止めた。

 恐怖で心臓麻痺を引き起こすどころか、葉巻をくゆらせながらニヒルな笑いすら浮かべる。

 オールバックにした白髪交じりの茶髪に、極限まで鍛え上げられた肉体。大小様々な傷痕で埋め尽くされた丸太のような両腕。

 頬には大きな火傷跡を持つ、眼帯を付けた隻眼の男。

 

 その姿を視界に入れたフランシスカは、躊躇なく白金の太刀を向けた。

 

「感謝だと? 笑わせてくれる、貴様にくれてやるのは「惨殺」のみだ。今度は帰れぬよう、本当に地獄へ送ってやろう――『魔境還り』!」

 

 フランシスカの右足が大地を踏み、直撃すれば祖龍の命すら刈り取る必殺の斬撃が繰り出される。

 

 ――直前に。

 

 隻眼の男の背後から、フランシスカの額を狙って銃弾が放たれた。正確無比なその狙撃に、流石のフランシスカも攻撃を中断して防御を行う。

 フランシスカは飛来する弾丸の軌道に刃を合わせることで、弾丸を容易く両断した。

 その絶技に隻眼の男は冷や汗を流しながら苦笑して、黒の狩人は舌打ちして苛立ちを露わにする。

 

「相変わらず化け物だな。あの白龍を相手に正面から戦えるのはやはりお前だけだろう」

 

「……待て。まさか貴様、今のモンスターを知っているのか?」

 

「ええ、勿論よ。だって3年前に『蛇の湖』で第4独立混成旅団を壊滅させ、私と中佐殿を『魔境』に堕としたのはあの龍だもの」

 

 隻眼の男に代わり、フランシスカの問いに答えを返したのは榛色の髪を腰まで伸ばした美女だ。

 身の丈ほどもある巨大なライフルを肩に担いだその美女は、隻眼の男の後ろに立つ。まるでその場所こそが、自分の定位置であると示すように。

 

「オレに聞きたいことが色々と出て来ただろ、人類最強?」

 

 かつて『蛇の湖』で祖龍ミラルーツの怒りを潜り抜け、生存した少数の部下を守り抜いて1年前に王都へ帰還した軍隊の大英雄。

 祖龍の力によって次々とモンスターが現れ始めた地獄のような『魔境』を約2年間も彷徨い、そして踏破して祖龍の情報を持ち帰った男。

 その偉業から『魔境還り』の異名を与えられたフーゴ・ヒルデブラントが、ようやく怒りを収めた人類最強にそう問いかけた。

 

 

 

 

 

 

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「さて、早速あの龍について話してもらおうか? 自分とその女の命が惜しければ包み隠さず知っていること全てを話せ」

 

「分かってるよ。言わなきゃ今度こそ首を刎ねられそうだしな」

 

 王都に戻る自動四輪車の隣に座るフランシスカに睨まれて、フーゴはズボンのポケットから紙切れを取り出す。

 それは1年前に『魔境』を踏破して王都に帰還した時に、竜種観測隊のキャロルに提出した報告書のコピーだ。

 

「先に釘を刺しておくが、キャロルには俺が喋ったって言うなよ」

 

「おい、キャロルもあの龍のことを知っていたのか?」

 

「当然だろ。この世界でアイツよりモンスターに詳しい奴はいねぇよ。初めてあの龍を発見したのもキャロルの嬢ちゃんだし、その後『蛇の湖』にいる龍の討伐を軍隊に依頼したのもキャロルの嬢ちゃんだ」

 

「アイツ、私に隠していたな……!」

 

「そりゃあ隠すだろうよ。アンタにあの龍のことを教えれば、任務も何も放り出して探しに行くだろ。それで人類最大の戦力を失ったら終わりだ」

 

「私1人が死んだくらいで終わる貴様らが脆弱なのだろう。前置きはもう十分だ。早くあの龍のことを話せ」

 

 その気になれば自分の首などあっさりと斬り落とす女だと分かってはいるが、白龍を思い浮かべて頬を紅潮させる今のフランシスカはまるで恋する乙女だ。

 初めて見る人類最強のそんな姿に笑みを溢しつつ、フーゴは口を開く。

 

「アレの名は祖龍ミラルーツ。今から3年前にバテュバドム樹海で観測された、あらゆる竜の始祖とされるモンスターだ」

 

「祖龍……ミラルーツ……」

 

「ああ。実際に小競り合いしたお前も知ってる通り、ヤツの能力は紅の雷だ」

 

 そこでフーゴは一度言葉を切り、3年前の地獄を思い浮かべる。

 『魔境還り』。

 その異名の通り、フーゴは「危険な場所を踏破する」スペシャリストだ。この一点に於いてはフランシスカにも引けを取らないとフーゴは自負している。

 だからこそ祖龍の「落雷の雨」を潜り抜けて、祖龍とフランシスカの超常の戦いに割り込めたのだ。

 実際に邪魔をしたのはフーゴの指示で砲撃したアレクシアだが。

 彼女もまた『魔境』を踏破して竜との戦闘経験を積んだことで、キラーズの中でも上位の実力者となっている。

 

「ここからが本題だ。お前に感謝しろと言った理由だな」

 

「ただの戯言では無かったのか?」

 

「人類最強を戯言で挑発する訳ないだろ。下手したら首が飛ぶっつーのに」

 

 平気なフリをしていたが、フランシスカの殺気を正面から浴びた時はかなりヤバかった。

 『魔境』を踏破する前なら失禁して気絶していた自信がある。

 因みにフーゴの後ろで待機していたアレクシアも殺気の余波を浴びたのだが、どうなったのかは彼女だけの秘密だ。

 墓場まで持っていくつもりだが、1つ言えるのは着替えを用意していて良かったということだけである。

 これ以上の詮索はない。

 

「フランシスカ、お前の望みは強敵と戦うことだろう?」

 

「そうだ。この私を殺せるほどの相手と全力で戦うこと。それだけが私の生きる意味だ」

 

「シャルロットの坊主がまた泣くな。……それはともかく、その望みを本当に叶えたいなら祖龍と戦うのはまだやめておけ」

 

 

「……どういう意味だ?」

 

「約3年前にオレは祖龍を見たと言っただろ。その時ヤツは仲間を攻撃された怒りで暴れ回った。『蛇の湖』の周囲一帯を丸ごと消し飛ばすほどな」

 

「仲間だと?」

 

「そっちは後だ。ここで注目するべきなのは、3年前に見た時よりヤツの体がデカくなってたことだ」

 

「――ッ!」

 

 ゾワリッと。

 フランシスカが狂喜の表情を浮かべ、その全身から凄まじい戦意が放たれた。

 

「アレはまだ成長途中だぜ。祖龍はこれから更に強くなる。本当にお前が強敵と戦うつもりなら、分かるよな?」

 

「……ふっ、今回の愚行は見逃してやる。それとキャロルにも伝えておけ。もう少しだけ雑魚狩りに付き合ってやるとな」

 

「そこは今回みたいな無茶はしねぇと言って欲しかったがな」

 

 そう言い返し、フーゴは安堵する。

 ここでフランシスカの暴走を許せば、彼女は本当に祖龍と死ぬまで殺し合うことしか興味を示さなくなるだろう。

 それはダメなのだ。

 対古龍(・・)兵器であるイコールドラゴンウェポンの製作には、竜の素材がまだまだ不足しているのだから。

 フランシスカが竜狩りをやめるだけで、素材の回収作業は大幅に遅れてしまう。

 

(全く、嫌な仕事ばかり回ってきやがる)

 

 自分にフランシスカの監視を任せたキャロルに舌打ちし、フーゴは視線を車の外へ向ける。

 祖龍の「落雷の雨」でズタボロになった広大な森。

 フランシスカ曰く「様子見」だったらしいが、それだけで地形をここまで破壊してしまうなど、やはり祖龍は規格外だ。

 

(祖龍が完全に覚醒する前に、イコールドラゴンウェポンとやらが完成すれば良いんだがな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――少しずつ、竜大戦の幕開けが近づいてくる。

大切なものは――

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