……はぁ、やっと落ち着けたね。
フランシスカさんの隙をついて何とか戦線離脱した私は、弟達と一緒に孤島に降り立った。
孤島と言っても、原作ゲームに出てくる島じゃなさそうだけどね。空から島を見下ろしても、暗記してあるマップとは全く一致しなかったし。
この島の中央には活火山があって、その他はジャングルに覆われてる。ざっと見て回ったけど、強いモンスターはいなかったから堂々と私達で占領した。
今は活火山の一角にある崖の上で、精神的に休憩中。
ボレアスとバルカンは寝ちゃったから、私は1人で龍脈に干渉しながら特訓してる。
うーん、眠れない。
フランシスカさんと戦った後から何故か落ち着かない。
こう首筋がチリチリするというか、どうも嫌な感じがするんだよねー。でもレーダーには敵対反応はないし、龍の本能も警鐘を鳴らしてない。
あー、モヤモヤする!
本当にもう鬱陶しいな、ストーカーするくらいならさっさと喧嘩売ってこいよ!
……?
今、私はどうして誰かにストーカーされてると思った?
敵を感知するレーダーには、何の反応もないのに?
私が自分自身の思考に疑問を抱いたその瞬間、空の彼方で膨大な量の龍脈が渦巻く。
ゾッッッ、と。
まるで背中に冷水を浴びせられたみたいに、極大な悪寒がした。
咄嗟にすぐ後ろで爆睡してるボレアスとバルカンを引っ掴み、鳴動を発動してその場から移動する。
次の瞬間、私達がいた活火山が丸ごと凍りついた。
は、はあああああ!?
信じられない光景に思わず絶句する私の前で、追い討ちするように落雷と火球が飛来する。
咄嗟に旋回して落雷と火球を躱せば、着弾した地面がゴッソリと吹き飛んだ。
刹那の間に孤島の地形が変化して、凍った活火山が
平和だった孤島が地獄へ変貌する様子を呆然と眺めていると、いつの間にか目を覚ましていたバルカンが叫んだ。
『姉上、左です!』
そこに現れたのは、漆黒の天馬だった。
ソレは私達と同格に位置する『禁忌』の一角にして、公式が唯一最強と呼称したモンスター。
漆黒の太陽、闇夜を照らす幽冥の星、暗黒の王、黒き光を放つ神など、無数の異名を持つ“神をも恐れさせる最強の古龍”。
その体は触れるもの全てを引き裂く「逆鱗」で覆われており、その逆鱗が重なり合って形成される「逆殻」は受けた衝撃を跳ね返す不可視の鎧。
頭部には無数の角が束ねられて作られた1本の角が天を貫くように伸び、背部に備わった巨大な翼が空を覆う。
容易く大地を穿つ鋭い爪を携えた四肢を持ち、逆立つ鱗と棘を有する尻尾がゆらりと揺れる。
煌黒龍アルバトリオン。
空欄だった『禁忌』の4番目が、私の目の前に降臨した。
『おのれ、不敬な真似を!』
『殺す。』
奇襲を察知出来ず私に庇われたことに気付いたボレアスとバルカンが激怒し、アルバトリオンに向かって牙を剥いた。
2人とも下がって!
アレの狙いは私だよ、あなた達は高度を上げて暗雲の上で待機していなさい。
『しかし……いえ、姉上がそう仰るのなら。行くぞボレアス!』
『ルー姉。負け。たら。ゆる。さない。』
バルカンはしばらく私とアルバトリオンを交互に見た後、私に一礼して上昇していく。
ボレアスの激励に尻尾を振って応えてから、私は改めてアルバトリオンと対面する。
ぶっちゃけ3対1の方が勝機はあった。
さっき言った通りアルバトリオンの敵意が私だけに向けられていることから、相手の狙いはやっぱり私だけみたいだね。
ご丁寧に奇襲を仕掛けてきた相手の要望を叶えてあげる必要はないけれど、下手して3人纏めて負けるのは論外。
ボレアスとバルカンまで脱落したら、フランシスカさんを止める戦力が完全に潰えるからさ。
私達の全滅はそのままモンスターの絶滅に繋がっちゃう。
まだまだやる事は残っているのに、ここで終わるなんて絶対にできない。
何より、私はもっと強くならないといけない。
他の『禁忌』に余裕を持って勝てるくらいに、あのフランシスカさんに勝てるくらいに。
アルバトリオンは間違いなく強敵だ。
だけど、この程度で止まるわけにはいかない。
負けるつもりはない、必ず勝つ。
龍脈を循環させて全てのバッテリーを励起。意識を切り替え、極限まで集中して戦闘態勢になる。
何かに縛られて生きるのは前世だけで十分だ。
今度こそ自由に生きて、私は自分がやりたいことをやり遂げる。
大好きなモンスターハンターの、人と竜が共存するあの世界を築き上げたい。
それが私の願いだ。
覚悟は決まった。
さぁ――やろうか、アルバトリオン。
私は全ての龍の王にして始祖。起源にして頂点。
祖龍ミラルーツ。
この私に牙を剥くことは、王に対する叛逆と知れ。
「「――ッッグルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」
私とアルバトリオンが同時に咆哮し、衝突した爆音と衝撃波が拡散して孤島を吹き飛ばす。
海が荒れ狂い、空を覆う暗雲に穴が空き、世界に私とアルバトリオンだけが取り残された。
互いの視線が交差し、共に牙を剥き、翼を羽ばたかせて飛翔する。
一瞬でトップスピードに乗り、同じく全力で加速したアルバトリオンと正面から激突……衝撃。
全身に凄まじい負荷が掛かり、骨格が悲鳴を上げる。
それでも全力で龍脈を循環させて身体能力をドーピングし、力比べに挑む。
アルバトリオンの逆鱗は触れるだけで私の体を切り裂く。
純白の体が赤く染まり、鋭い痛みが全身を駆け抜けて私の意識を鈍らせる。
だけど、ダメージを受けているのは私だけじゃない。
「帯電状態」と化した私の紅雷を浴び、アルバトリオンの逆鱗が焼け焦げる。
力比べは互角。
必然的に膠着状態になるけど、私はこのまま我慢比べをするつもりはない。
尻尾を伸ばしてアルバトリオンの首に巻き付け、翼を動かして体を左にズラす。拮抗状態が崩れたアルバトリオンが前に倒れ、その勢いを利用して私は尾に力を入れて振り回した。
アルバトリオンも全力で翼を広げて抵抗していたけど、遂にその姿勢が崩れる。
……ここ、だっ!
中空で体を横回転させ、遠心力も乗せて尻尾を振り抜いてアルバトリオンをぶん投げた。
一直線にアルバトリオンが飛び、孤島へと落下する。
――激震があった。
煌黒龍の巨大が叩きつけられた大地が揺れ、大量の土砂が巻き上げられて孤島にクレーターが生まれる。
だけど、このくらいで倒れるアルバトリオンじゃない。
翼を動かして砂塵を吹き散らすと、クレーターの中心から上空の私に向けて火球ブレスを放つ。
それを旋回して回避し、反撃の3連雷球ブレス。
即座にアルバトリオンは身を翻してこれを避けるけど、私の雷球ブレスは着弾地点にしばらく電撃を滞留させる。
直撃こそ避けたアルバトリオンだったけど、大地を駆け抜けた電撃を浴びて苦悶の声を上げた。
アルバトリオンは2つの形態を持っている。
1つ目は火属性と龍属性を司る火龍モード。
2つ目は氷属性と雷属性を司る氷雷モード。
今のアルバトリオンは逆鱗の合間から赤黒い光を放ち、口からは少量の火炎を発している状態。
つまり火龍モードだ。
この状態のアルバトリオンには雷属性はほぼ通らない。
通らないけど――
「――ッ!」
紅雷を浴びたアルバトリオンは次の攻撃に移れず大きく怯む。
雷属性は通らない?
それはあくまでハンターが扱う武器の話であって、この私の紅雷には関係ない。
龍の始祖である私が雷属性しか有していないのは、これ1つで全ての外敵を打ち倒せるからだ!
龍脈を解放して、強力な雷撃を浴びたダメージと痺れで動きの鈍い煌黒龍に次々と雷を落とす。
アルバトリオンは周囲に火柱を生み出して迎撃し、雷と炎がそれぞれ拡散してジャングルが完全に焦土と化した。
完全に平地となった孤島へ向かって急降下し、前回転してアルバトリオンの真上から尻尾を叩きつける。
頭部を強打されたアルバトリオンの巨体が傾き、しかし完全に転倒する前に至近距離で爆発ブレスを放った。
咄嗟に体を捻って避けると、私の背後が爆炎で包まれた。
……っ!
直撃こそ避けたけど凄まじい熱に煽られて、軽い火傷をしたようにジリジリとした痛みに襲われる。
流石はアルバトリオン。
全属性を備えているけど、決して器用貧乏じゃない。
完璧なオールラウンダーだ。
火属性に特化してるボレアスやバルカンにも匹敵する火球ブレスもだけど、何より能力の出が速い。
私と同じくほぼノーモーションで能力を発動させてる。
そこにいるだけで無数の天災を発生させ、他の生き物が住めない煉獄を作り出す力は本物だ。
龍脈の出力を一段階上げる。
同時にアルバトリオンに収束する龍脈の量も増大した。
私の全身を真紅のスパークが包み、アルバトリオンが赤黒いスパークと炎を纏う。
――ぶっ倒す!
鳴動を発動させ、今の私が出せる最大速度で移動する。
私の巨体が音を遥かに置き去りにする雷速で移動したことで衝撃波が発生し、周囲が纏めて吹き飛んだ。
だけど、大地が抉れるほどの被害も所詮は副次的なもの。
本命は背後に回り込んでから放つ、紅雷を纏った爪撃だ。しかしアルバトリオンが逆鱗と棘で武装された尻尾で受け止める。
「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
アルバトリオンが咆哮した。
衝撃波がドーム状に発生して、孤島の地表が半球状に抉れる。
だけど、今さらアルバトリオンがただの咆哮で私にダメージを与えられるとは思っていないでしょう。
大都市を消滅させる威力を秘める煌黒龍の咆哮も、帯電状態の私のスパークで相殺されてお終いだからね。
アルバトリオンは奇襲のつもりの攻撃なんだろうけど、私には通じない。
元モンハンプレイヤーである私は、この後に起きる攻撃を知っている。
鳴動をもう1度使用。
私が即座にアルバトリオンから離れた瞬間に、煌黒龍の周囲に3つの火柱が発生した。
赤黒の本流が荒れ狂い、火柱から岩すら沸騰する熱波が放たれる。
その熱波を翼を動かした風圧で相殺したけど、私の足元がまるで溶岩のように沸騰し始めた。
うわ、あっつい。
これもうマグマの中に立ってるようなものじゃん。
原作をプレイした経験から、アルバトリオンの咆哮後にはランダムで火柱が3つ発生するのは知ってたよ。
フレーム回避が使えるゲームなら避けるのは余裕だけど、現実でフレーム回避は使えない。だから大袈裟に距離を取ったのは正解だったけど、熱波だけでこれだけの威力があるとは予想外だったね。
咄嗟に翼で風圧を生み出して相殺したのは我ながら良い判断だった。
マグマと化した大地を蹴って、私は再び空へ舞い戻る。
アルバトリオンも私を追って飛翔し、私達は最初と同じように空中で睨み合う。
挨拶代わりの第1ラウンドはこれで終了。
お互いに相手の実力は把握した。
ここから先は、本気で潰し合う第2ラウンドだ。
現段階の孤島の被害。
・活火山凍結及び粉砕
・ジャングル全焼
・地表が全て焦土となった後にクレーター化
・大地が沸騰してマグマに
祖龍「挨拶は終わった! こっから本番だ!」
孤島「他所でやれ!」
前回の森「クレーターだけで済んでマジで良かった」
大切なものは――
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更新速度ではない、質だッ!
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質ではない、更新速度だッ!