天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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第18.5話 イコールドラゴンウェポン

 シュレイド王国・王都。

 その中央にコの字を描いて並び建つ3つの巨大な建物は、そのどれもが僅か数年前に建てられたばかりである。

 まず中央にあるのが『キラーズギルド本部』。

 世界中に散らばっているキラーズの管理や任務の発令などを担い、対竜戦線の総司令部としても機能する人類最後の砦だ。

 

 その左側が『対竜種兵器開発研究所』。

 名前の通りキラーズが討伐した竜の素材から武具を生産したり、竜種に有効なアイテムや兵器を開発している。

 当初は新兵器開発に苦戦していたが、1年前にテオス・ウェルトーと名乗る老人が所長に就任した直後から、次々と成果を挙げているらしい。

 事実、キラーズに支給される武具の性能は飛躍的に上昇していた。

 

 そしてキラーズギルドの右側、兵器研究所の対面にあるのが『竜種観測隊本部』。

 生態観測隊が再編成されて生まれた組織であり、あらゆる手段でモンスターの情報を収集するのが主な業務だ。

 また竜種の弱点や習性を解析し、有効な情報をキラーズギルドや兵器研究所に提供するという非常に重要な任務も担っている。

 

 人類がモンスターを絶滅させる為に築き上げた3つの牙城。

 その背後に悠然と聳え立つシュレイド城の回廊を、2人の女性が歩いていた。

 

「古龍種……? フランシスカ、どこからその情報を得たのですか?」

 

「ノースタウン近郊の森で遭遇したモンスターから聞いた。奴の言葉の真偽を確かめる為に貴様に聞いたのだが……ふん、どうやらあの龍は正直者だったらしいな」

 

「な……!?」

 

 “古龍種”。

 それは天災に匹敵する力を持ち、単体で国を1つ滅ぼしてしまうほどの力を持つ真なる怪物達の総称だ。

 その力に反比例して個体数は非常に少ないので、古龍の調査に全霊を注いでいる竜種観測隊ですら目撃情報が入るのは稀である。

 もちろん古龍種の存在を公に公表すれば、国民達は恐怖で混乱するだろう。最悪の場合は大パニックが起きてしまう。

 だからこそ古龍種の情報は極秘にされており、キャロルを筆頭に少数の人間しか知らない存在なのだ。

 

 そんな極秘情報を入手しているだけでも驚愕に値するのに、フランシスカが平然と「モンスターから聞いた」などと言い放ったのを聞いてキャロルは卒倒しそうになった。

 それを何とか堪えて、キャロルは勢いよくフランシスカの肩を掴む。

 

「念のために確認しますが、それはモンスターと会話したということですか? 冗談や嘘ではなく、本当に!?」

 

「私は嘘はつかん。というか、貴様は人の姿に化けられるモンスターを知らなかったのか? 私の言葉を理解して、普通に返事したぞ」

 

 あまりの情報にキャロルは思わず壁に手をついた。

 モンスターが人の言葉を理解して、さらに会話に応じたと? 

 つまりそれは、人間の最大の武器である「知恵」を有するモンスターが存在するということになってしまう。

 しかも人間の姿に擬態できるなら、容易に街の中に侵入が可能になる。

 そのモンスターがもしも街の中で元の姿に戻って暴れたら、それだけで街が1つ壊滅するだろう。

 いや、竜種と戦う為に必須な施設が全て揃っているこの王都でやられたら……?

 それだけでシュレイド王国は……人類は敗北するのではないか?

 

「貴女、そのモンスターの姿は憶えていますか!? 出来るだけ詳細に教えて下さい!!」

 

「う、うむ。分かったからそう大声を出すな」

 

 いつもの冷静で物静かなキャロルからは想像も出来ない剣幕に、流石のフランシスカも気圧されてしまう。

 肩を掴んで揺さぶってくるキャロルから距離を取ってから、漆黒の剣士は改めて口を開いた。

 

「まず人に化けた時は少女の姿だった。髪色は白で、服装はまるで花嫁衣装のような純白のドレスだな。全体的に真っ白だったが、瞳の色だけは血のような真紅だ」

 

 脳裏に焼き付いた宿敵の姿を思い浮かべ、フランシスカは順に特徴を伝えていく。

 

 

「本来の姿は巨大な白龍で、凄まじい威力の落雷を無限に生み出す能力を持っている。名前は祖龍ミラルーツ……おっと、これは秘密だったか」

 

「祖龍……ッ!?」

 

 本日2度目の驚愕に見舞われて、キャロルの顔が真っ青になった。

 ソレは竜種観測隊の中でも最大の機密だ。

 その存在を知っているのは、キャロルを除けば僅か数人しか存在しない。

 『蛇の湖』で観測に成功したイザベル副隊長とその観測任務に同行した少数の隊員、そして壊滅した軍の生き残りであるフーゴとその部下数名のみである。

 

 ――祖龍ミラルーツ。

 世界で初めて観測された原初のモンスター。

 全ての竜の始祖である可能性が高く、その説を裏付ける痕跡がいくつか発見されたことから『祖龍』の名を冠された王。

 フーゴ・ヒルデブラントが持ち帰った情報から、人類では対処不可能な脅威として『禁忌』指定された存在。

 3年前にイザベルが観測してから、1度も姿を見せなかった幻の龍。

 当然だ、人に擬態しているなど考えつくものか。

 

「フランシスカ、祖龍の名は誰から?」

 

「その情報を聞き出した時の条件が匿名希望だ。私の口からは言えんが、貴様ならすぐに分かるだろう。その反応を見るに、祖龍の存在を知る人間は少ないようだからな」

 

「私としては、貴女がその匿名希望の方のように口が軽くないことを祈るばかりですが」

 

「まさか。祖龍は私の獲物だ、その存在が隠されている方が横取りされる心配が無くて都合が良い。……尤も、この私以外にアレを殺せる存在などいないと思うがな」

 

 ――1人だけ。

 フランシスカと互角の力を持つキラーズがいるが、彼女と祖龍では恐らく相性が合わない。削り合いで押し負けるだろう。

 『魔境還り』もあの有能な狙撃手の部下と共闘すれば、多少は戦える可能性はある。しかし、最後は純然たる実力差で祖龍が勝つ。

 祖龍の命に手が届くのは、フランシスカ・スレイヤーただ1人だ。

 

「キャロル。もし祖龍の討伐任務(クエスト)を出す場合は、必ず私に依頼しろ」

 

「それが口止め料ですか?」

 

「ああ、そういうことにしておけ」

 

「……分かりました」

 

 竜種観測隊の機密情報を握ったのだから、それこそ地位も大金も要求出来るというのに。

 フランシスカが望むのは、強敵と殺し合う権利のみ。

 相変わらず“壊れている”友人にキャロルは溜息をついて、意識を祖龍から次のことに切り替えた。

 

「それにしても……フランシスカ、もう少し服装に気を配るべきですよ。これから王侯貴族の前に出るというのに、いつもの戦闘服じゃないですか」

 

「放っておけ、私はこれが気に入っているんだ。それに私ほどの美人になれば、何を着ても格好がつく」

 

 そう言って胸を張るフランシスカは、戦っている時とは違い艶やかで色香があった。

 服装も髪型もいつも通りなのに、少し所作を変えるだけでこれだ。

 普段は自分の容姿に頓着しないキャロルですら、彼女の隣に立つと何故か気後れしてしまう。

 

「あー、あー、良いですねぇ。自分の容姿に自信がある人は」

 

「私には敵わないが、貴様も大概に美人だぞ? 確か観測隊の中で貴様に想いを寄せている男がいたな。確か名前はガ……」

 

「わー!? 今ガイルは関係ないでしょう!? 私のことは良いんですよ!」

 

「今年で26になるというのに、まるで生娘のような反応をするな貴様は」

 

「同い年で独身かつ恋愛経験がないのはお互い様でしょう!」

 

 少し皮肉を言っただけなのに、凄まじいカウンターを食らったキャロルが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 それから慌てて咳払いして持ち直すと、今度はキャロルが反撃に出た。

 

「そういう貴女はどうなんですか? シャルロットくんとは随分と仲が良かったですが」

 

「うむ、アレはなかなか見所があるぞ。そのうち『魔境還り』を追い越すかもしれん」

 

 次の手合わせが楽しみだと頷くフランシスカに、思わずキャロルは転びそうになった。

 

「今の流れからどうして戦闘力の話になるんですか!? そこは恋愛的な視点で返答するところでしょう……」

 

「ああ……? 恋愛……?」

 

「本当にもう貴女は……!」

 

 人の色恋には機敏なくせに、自分のことになると亀より鈍くなる人類最強な友人にキャロルは頭を抱えた。

 これ以上はキャロルの方が一方的に火傷するだけなので、話を最初に戻す。

 

「とにかく、ドレスコードを指摘されても知りませんからね」

 

「むしろ追い出された方が喜ばしいくらいだ。……随分とつまらん用件で私を呼び戻したな」

 

「キラーズに入ってからは、退屈だから任務を寄越せとずっと言っていたじゃありませんか。これも任務の1つですよ」

 

 ──イコールドラゴンウェポン。

 通称を竜機兵。

 キラーズ……というよりフランシスカが怒涛の勢いで竜を殺したことで必要量の素材が集まり、ソレは予定よりも早く完成したらしい。

 フランシスカは竜機兵がどんなモノか知らないし興味もないのだが、製作に大きく貢献した1人として、完成品の発表会に呼ばれたのだ。

 もちろんキャロルも協力者の1人であり、揃って出席するように言われている。

 

「オモチャの発表会に付き合わされるくらいなら、雑魚モンスターと戯れる方がまだマシだな」

 

「それ、開発者の前では絶対に言わないで下さいね」

 

 愚痴を零しつつ招待状を提示して会場に入ると、目が眩むような豪華な装飾が目に入った。

 天井には黄金のシャンデリア。壁には億の値がつく絵画がいくつも飾られていて、並べられた円卓の上には庶民が見たこともない豪華な料理が山積みにされている。

 会場内で談笑しているのは、政治に興味を示さないキャロルやフランシスカでも顔と名前を知っているほどの上位貴族達だ。

 自らの権力と財力を示すかのように自慢の一張羅を羽織り、宝石で己を飾り立てている。

 かなり酒が入っているのか、アルコールで赤ら顔になっている男達が獣欲に漲った視線をキャロルとフランシスカに向けた。

 

「おっと、間違って新車の発表パーティに来てしまったようだ」

 

「私を置いて逃げたら一生恨みますよ」

 

 いきなり帰ろうとしたフランシスカの後ろに回り込み、キャロルは人類最強を盾として使う。

 貴族達に気に入られて権力で無理やり愛人にされるのだけはごめんだ。

 

「……裏切ったのは私を盾にした貴様ではないか?」

 

「貴女なら暴力でいくらでも厄介事を解決出来るじゃないですか」

 

 事実である。

 圧倒的な暴力の前では権力も財力も役に立たない。

 フランシスカならシュレイド王国を丸ごと相手にしても勝つだろう。

 本当に危険なのは3年間大人しくしていた祖龍よりも、生粋の戦闘狂であるフランシスカの方かもしれない。

 

「ははっ、凄え光景だな。世界中を見渡しても、人類最強をそこまで雑に扱えるのはお前だけだろうな」

 

「中佐殿、お願いですから離れないで……っ」

 

 会場の端で男達の視線を避けていたフランシスカ達に声をかけたのは、屈強な隻眼の男。

 その大きな背中には、会場内の雰囲気に呑まれた榛色の髪の美女がくっついてる。

 『魔境還り』の異名を持つ軍の英雄フーゴと、その英雄を補佐する異次元の狙撃手アレクシアだ。

 

「何だ、貴様も呼ばれていたのか?」

 

「お前さんほどじゃねぇが、オレもそれなりの数のモンスターを討伐したんでね」

 

 そう言って懐から招待状を出したフーゴを見て、フランシスカは眉を寄せる。

 

「まさか上位のキラーズは全員呼ばれているのか?」

 

「それこそまさかだな。オレら上位陣がまとめて戦場から抜けたら、街の防衛はガタガタになっちまう。今はシエルの嬢ちゃんがオレらの代わりに戦場へ出てるだろうよ」

 

「……まぁ、この私の代理が出来るのはシエルくらいか」

 

「ご歓談のところ申し訳ありませんが!」

 

 今までずっとフランシスカの後ろにいたキャロルはいきなり会話に割り込むと、フーゴの胸ぐらを思い切り掴んだ。

 

「おいおい、急にどうしたんだよ」

 

「フランシスカに祖龍のことをバラしたのは貴方ですね……!」

 

「げぇっ!? フランシスカ、お前!」

 

「私は約束通り貴様の名前は出さなかったぞ。匿名希望から聞いたと言っただけだ」

 

 そう言ってフランシスカはそっぽを向き、フーゴの視線から逃れた。

 いつもはフーゴの味方になるアレクシアも今は会場内の雰囲気に呑まれていて援護は見込めず、孤立無援となったフーゴは冷や汗を流す。

 

「アレはフランシスカと祖龍の戦闘を止める為に仕方なくで! オレが横槍を入れてなかったら、それこそノースタウンが地図から消えてた可能性もあるんだぞ!」

 

 ギギギギギ……ッ、と。

 今度はキャロルの視線がフランシスカに向いた。

 

「フランシスカ……? 私、貴女が祖龍と戦ったなんて報告は受けていませんが……?」

 

「チィッ……! 『魔境還り』め、余計なことを!」

 

「先に約束を破ったのはお前さんだろ!」

 

「2人とも、コレが終わったら私の執務室でそれぞれ詳しく話を聞かせて貰いますからね!」

 

 いよいよ三つ巴が激しくなり、人類最強と軍の英雄が責任の押し付け合いを始めようとした時だった。

 会場内が一気に暗くなり、舞台の上に立つ老人だけが照らし出された。

 全く着飾らず白衣を着ているのを見るに貴族ではないことは分かるが、フランシスカが知っている顔ではない。

 

「おいキャロル、あの老いぼれは何者だ?」

 

「テオス・ウェルトー様です。イコールドラゴンウェポンの開発者で、その他にも竜に有効なアイテムや兵器を次々と生み出している方ですよ」

 

「最近は国中で名前が報道されてるぜ、マジで知らねえのか?」

 

「ほう、アレがか……」

 

 少しだけ興味を示したフランシスカが目を細め、会場にいる全ての人間が舞台上に立つテオス・ウェルトーへ視線を向けた。

 

『定刻になりましたので、これよりテオス・ウェルトー様による新兵器「イコールドラゴンウェポン」の発表を始めさせて頂きます!』

 

 拡声器で増幅された司会者の大声が会場内に響き渡り、テオスの背後にある真紅の幕が上がる。

 ライトに照らされて姿を現したのは、薄緑色の液体で満たされた巨大な水槽だ。その水槽は屋敷と呼べる規模の建物すらあっさりと収まってしまうほどに大きい。

 そしてその中に入っているのは、無数の管に繋がれた真紅のドラゴン。

 

 ――竜機兵。

 対龍用決戦兵器・人造竜イコールドラゴンウェポン。

 

 ラオシャンロンに匹敵するその巨躯は黒い竜鱗で覆われており、その上から更に鋼鉄の鎧を纏っている。頭部にはナバルデウスのような湾曲した巨大な角。ゴグマジオスの如く爪が備わった翼脚に、胴体と同じくらい長い尻尾。そして背中には鋸のような刃が並んでいる。

 これこそが成体の竜の素材30体分から作り上げられた、龍を殺す為の決戦兵器。

 

 竜機兵の迫力に会場からは大歓声が上がるが、その中でキャロルとキラーズの面々だけは静かだった。

 生命を冒涜する悍ましい兵器にキャロルは口元を押さえ、フランシスカとフーゴは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。アレクシアに至ってはすぐに視線を逸らしてフーゴの背中に顔を埋めた。

 

「随分と気持ちの悪いモノを作ったな。本当に生きているぞ、アレは」

 

「あァ、マジで竜の死骸から生命を創造しやがった……」

 

 多種多様な、それこそ30種類以上の竜の血肉から生まれた歪な命。

 間違いなく生物でありながら兵器でもあり、人の支配下から離れると自力での生命維持も出来ずに死んでしまう。

 そんな、生物に必須の機能すら奪われた存在。

 人工生命体。

 竜機兵の機能を朗々と解説するテオス・ウェルトーと、人類の勝利を確信して熱狂する権力者達。

 彼らは気付かない。

 生命を冒涜するこの禁断の行為こそが、大自然を本気で怒らせることに。

 

 その光景を眺めながら、崩れ落ちそうになるキャロルを支えてフランシスカは確信する。

 これで今までのような小競り合いは終わり、種の存亡をかけての戦争に発展するなと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──平和を願う1人の少女を嘲笑うように。

 本当にあっさりと、史上最悪の血塗られた戦争が幕を開けた。





※次回からインフレの第1波が来ます。
主人公最強タグの活躍を期待している皆様、お待たせしました。
こっから先は強キャラがひたすら暴れ回り、その更に上の次元で主人公とフランシスカが暴れます。

大切なものは――

  • 更新速度ではない、質だッ!
  • 質ではない、更新速度だッ!
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