『禁忌』が全員集結してから7日が経過した。
その間に私が何をやっていたかと言うと、岩場となった孤島の上でただ怪我の回復に努めているだけだった。
いや、うん。
アレだけ格好をつけて宣言したのに、我ながら酷いなぁとは思うけど。
だけど私とアルンはお互いに傷だらけだったし、下手に動いて人間側を刺激する訳にもいかなかったし。
別にフランシスカさんが怖かった訳じゃない。怪我した状態であの人と遭遇したくないなー、とか考えてたりしてない。
ないったら、ない。
だけど、この7日間にも収穫はあったよ。
まず私はこの休養期間を存分に利用して、私は本格的に自分を鍛え始めた。そのおかげで、7日という短い時間で私の能力は飛躍的に向上してる。
特に細かいことが出来るようになったかな。
水を電気分解したり、生物の体内の電気信号に干渉したり、電気で原子に干渉してメルトダウンを起こしたり。
最後のはちょっとヤバかったけど、これからの結果から1つ分かったことがある。
祖龍の能力の本質は「電撃を発生させる」ことじゃなく「電気が関係するあらゆる事象を司る」ことらしい。
うん、
ゲームで見てるブレスや落雷なんて、祖龍の力のほんの一端に過ぎなかったってことだからね。
理系ならこの事実がどれだけ頭おかしいか一瞬で分かると思う。
汎用性が高すぎてほぼ無限大だし、今のペースだと私が自分のことを完全に理解するのは100年後になりそう。
だけど限界はまだ先ってことは分かったから、努力する甲斐があるけどね。
それと、私に関してもう1つ。
どうやら古龍種……というか、モンスターは瀕死の状態から回復すると力が増すらしい。
私の場合だと全身の龍鱗の厚さが増して防御力が上がったし、バッテリーの容量も増えた。しかも日が経つごとに傷の再生が早くなったし。
命の危険を感じた本能と肉体が「もっと強くなる必要がある」と判断するのか、怪我をする前とは比較にならないほどスペックが上がる。
これは私の予想だけど、こうして戦闘を繰り返して強くなった個体がゲームで言うところの『G級個体』になるんでしょう。
……2つ目は私だけの話じゃなくて、モンスター全体が頭おかしいよね。
この世界の生物のスペックが全体的に高すぎる件。
何なの瀕死の状態から蘇ったら強くなるって。
どこの野菜星の戦闘民族ですかー?
閑話休題。
次に弟妹達。
まずアルンは私と一緒にこの岩場でずっと休憩。
ボレアスとバルカンは大きな街の空を飛び回って、人里に近づくモンスターを減らしてもらってる。
軽く威嚇しながら周囲を飛び回って縄張りだとアピールすれば、大抵のモンスターは本能で実力差を悟って近寄らないからね。
2人とも夜には帰ってくるけど、今までずっと一緒にいたあの子達と長時間別行動するっていうのはまだ違和感があるね。
ララは飛べないから、海底を移動してとある島国の船を襲うモンスターを追い払ってる。
とにかくモンスターを人里から遠ざけて、キラーズと竜の戦いを減らすことが当面の目標。
今のところは順調らしく、弟妹達の報告によるとキラーズが狩りに出る頻度は減少してるらしい。
……だけど、ちょっと変な感じがする。
少し前までキラーズはモンスターを絶滅させようと躍起になってたし、アルンに無謀な戦いを何度も挑んだりしてた。
それなのに、モンスターを人里から遠ざけたくらいで各地の戦闘が落ち着くのかな?
考えられる可能性は……3つ。
1つ目は、私の理想通りモンスターの襲撃が減ったから絶滅まで攻撃する必要はないって判断になった。
2つ目は、どこかで古龍のような強大なモンスターから甚大な被害を受けて、龍に手を出すのは危険だと考えた。
3つ目は、何かしらの目標を達成して、モンスターへの攻撃を一時中断している。
ぶっちゃけ1つ目と2つ目の可能性は低い。
1つ目だと予想するのは流石に楽観的だし、禁忌クラスのモンスターに何度も攻撃していることから2つ目もないかな。
そうなると3つ目だよねー。
フランシスカさんと戦ったあの森の中で、私は素材が剥ぎ取られて解体されたモンスターの死体をいくつも見ている。
もしかしたら、キラーズは竜の素材が欲しくて乱獲してたのかも。
だって原作ゲームでも分かる通り、モンスターの素材で生産した武具は鉄製のモノより圧倒的に性能が上だからさ。
まずはキラーズ全員に高水準の武器を支給して、本格的な攻撃を仕掛ける準備をしていたのかもしれない。
だとしたら、人間が総攻撃を仕掛けるのは時間の問題で――……
「「「――――ッ!!」」」
擬人化状態で仰向けに寝転がり、夜空を眺めていた私が真っ先に反応した。
僅かに遅れて同じく擬人化状態で寝ていた弟妹達が起き上がり、夜空を翔ける
「何ですの、アレは……!?」
「人間共め、どこまでも我らをコケにするか……ッ!」
アルンが嫌悪と驚愕の声を出し、その右横でバルカンが怒りを露わにして拳を握った。
私は声も出せずに、呆然と飛んでいく
夜の闇に紛れるようなドス黒い竜鱗。
星の光を浴びて鈍い光を放つ鉄の鎧。
真体化した私達を上回るほどの巨体。
私は
竜大戦が残した悍ましい兵器。
公式設定によると成体の竜30体分の素材から、古龍を殺すために作られた人造の命。
イコール・ドラゴン・ウェポン。
私達の頭上で3機1組となった12体の竜機兵が、別々の方向へ飛んでいく。
「ボレアス、バルカン、アルン、今すぐ擬人化を解除してそれぞれアレを追いかけるよ! ララはシュレイド王国へ、アレが他にいないか確認して!」
反射的に弟妹達に指示を飛ばし、私は擬人化を解除して全速力で竜機兵を追う。
続いてボレアス達も龍脈を解き放って真体化し、私が追っている3機とは別の竜機兵の追跡を開始した。
私は南、ボレアスは西、バルカンが東、アルンが北へと向かい、ララは海底に潜る。
よし、これでひとまず人間側の動きはマークできるな。
それにしてもマズい、本当にマズい。
まさか既にアレが完成してるなんて、本当に予想外だった。
恐らくキラーズが素材を集めていたのは、アレを大量に生産する為だ。そして私の予想通り、ひとまず必要量の素材が集まって生産が安定したから各地の戦闘が落ち着いたってことか。
3つ目の予想が大当たりとか最悪だね。
アレが本当にイコール・ドラゴン・ウェポンなら、古龍に匹敵するほどの力を有していることになる。
1機でも十分に脅威なのに、私が確認しただけで12機も完成してるなんて。
単純計算で約360体の竜の素材が、あんな姿に……!
心の奥底から湧き上がる嫌悪感を押し殺し、私はレーダーで捉えた竜機兵の生体反応を分析する。
……っ。
なに、コレ?
見た目こそ整えられてるけど、中身はグチャグチャになってる。
何種類のモンスターをミキサーにかけて混ぜたものを纏めて、無理やり1つにしてるのは分かってた。
だけど、これは……!
恐らくモンスターから剥ぎ取った内臓を詰め込み、機械とかで補強して無理やり生命維持に使ってるんでしょう。
神経も全て人工物だし、本来は脳が体に命令を出す時に使う生体電気はどこか遠くの場所から送られてきてる。
なるほど、分かってきたよ。
恐らく竜機兵の脳は受信機のような役目を持っている。
それで人間からの命令を受信してから、人工神経を使って体を動かしているんだ。
でも、飛行速度は大したことない。
私の約300メートル先を飛ぶ竜機兵の速度は、恐らくマッハ7くらいかな。
最速の戦闘機と同じか、ちょっと速いくらいだね。
ラオシャンロン級の巨体が音速の7倍で飛ぶのは確かに大迫力だけど、これが全速力なら私基準だと遅いくらいだ。
鳴動を使う必要もなく追い抜けるし。
でも、他の古龍種からしたら厳しい速度でもある。
飛行速度に特化したバルファルクなら勝てるだろうけど、飛ぶのがそこまで速くない古龍にはキツイでしょう。
飛ぶのが得意な種で、しかもG級個体なら流石に勝てると思う。
下位個体で竜機兵を追い抜けるのは、それこそバルファルクくらいだよね。
……まぁ、私はまだ『禁忌』以外の古龍種を見たことがないから断言するのは無理だけど。
他のスペックも気になるけど……どうしよう。
念のために300メートル離れてるけど、アイツらが私に気付いている様子はない。
索敵能力はないのかな?
奇襲は出来そうだけど、竜機兵の目的も気になるしあと少しだけ様子見した方が良いかも。
と、そんな事を考えていると竜機兵が高度を落とす。
すぐに私も翼を動かして追いかけると、鉄の竜はかなり広大なジャングルの前に着地した。
……何するつもり?
空から竜機兵を観察してるけど、何故か着地してから数分経っても全く動かない。
そろそろ私の方が動こうかと悩んでいると、中央に立っている機体が鋼鉄のアギトをおもむろに開いた。
――直後、爆炎。
巨大な火球ブレスがマンシンガンのような速度で連射され、竜機兵の前方にあったジャングルが吹き飛んだ。
MHXに登場した新フィールドの古代林を想起させるジャングルが一瞬で炎に包まれ、私がいる高さにまで黒煙が上がる。
半分機械だからスタミナが存在しないのか、1発で街が灰になるほどの威力の火球を延々と連射し続けた。
そして炎から逃げてジャングルから飛び出してきたモンスターを、待機していた残りの2機がその巨体と鉄の爪牙で惨殺していく。
圧倒的だ。
統一性のない巨大な牙は飛竜の体をあっさり喰い破り、反対に鋼鉄の鎧と黒の竜鱗は敵の攻撃を通さない。
竜機兵の巨体が動くだけで、モンスター達の命が10も20もまとめて消える。
それだけの命を奪っておきながら、竜機兵はモンスターの死体を捕食する気配はなかった。それどころか竜機兵の後ろから現れた人間達が、竜の死体を回収している。
…………最悪、だ。
ここまでやられたら、もうモンスター側だって黙っていない。
確かに竜は人間より知能で劣るけど、だからって馬鹿じゃない。
転生者である私と違って生粋のモンスターである弟妹達は人の言葉を短期間で理解できるほど頭が良いし、原作ゲームのモンスターにだって知能が高い種族は存在する。
代表的なモンスターはアトラル・カとかね。
古龍種になればさらに知能は上がる。
つまり、こんなことを世界各地でやれば確実に古龍種は人間を自然界の害悪だと認識しちゃう。
その先は、竜大戦だ。
……ううん、もう竜大戦は始まった。
止められなかった。
もう、全員が幸せになるハッピーエンドの道はない。
だって人間達が、何の脈絡もなく突然に、総攻撃を始めてしまったんだから。
怒りがふつふつと沸き上がる。
モンスターが怖いのは分かるよ。
もしも身内がモンスターに襲われて殺されたら、私だって絶対に許せない。憎悪の感情だって抱く。
でもその感情は直接手を出した相手に向けられるべきで、モンスター全体に向けるものじゃない。
ましてや何もしてないモンスターを一方的に殺すなんて、どんな理由があっても許される訳がない。
私の脳裏に、2つの選択肢が浮かぶ。
竜機兵の攻撃を止めるか、止めないか。
数年かけて人前から姿を消して、出来る限り関わらないようにした。殺すのも殺されるのも嫌だったから。
それを台無しにしてでも、私は人前に姿を見せるの?
下手に姿を見せたら対策を立てられる可能性や、フランシスカさんが殺しに来る可能性もある。
だけど。
竜機兵だけは、イコールドラゴンウェポンだけはダメだ。
アレ自体はもちろん、その製造方法だって絶対に後世には残せない。
竜機兵の製造に関わった研究者はもちろん、研究データも全て抹消しないと。
人を、殺す。
殺人。
その言葉に体が震える。拒絶反応が起きる。
ボレアスやバルカンに、研究者の抹殺を任せることは出来るでしょう。
でも、それは最低だ。
私だけ手を汚さず、弟妹達に嫌な役目を押し付け、その上で綺麗事を言うことは許されない。
戦争の阻止は出来なかった。
人間側の攻撃がこれほど早く始まることを予想できなかった、私の失敗だ。
その上で私に出来ることは、被害を最低限に抑えて終戦を迎えることだけ。
他に道は、ない。
翼を閉じ、私は一気に急降下した。
未だに火球ブレスを連射する機体の前に着地して、雷球ブレスで迎え撃つ。放たれた紅雷は炎を蹴散らし、竜機兵に直撃してその巨体を吹き飛ばした。
『――――ギギザザザザザザザザザザザザガガガガガッ!』
残る2機が耳障りな金属音のような咆哮を発すると、虐殺する手を止めて私を睨む。
そして鉄のアギトを開いてあの連続火球ブレスを放とうとするけど、空から真紅の雷が降り注ぐ方が速かった。
落雷に貫かれた2機の竜機兵が煙を上げてダウンし、ピーピーという電子音が響き渡る。
だけど、竜機兵は1撃では倒れなかった。
体の各所から煙を吐き出しながらも、全ての機体が起き上がる。
頑丈だけど、関係ない。
ぶっ壊れるまで、一方的に蹂躙してや――
「――――ッ!」
何よりも速く。
本能に従って、私は二足歩行から四足歩行へと切り替える。
まるであの時のように。
私の首があった場所に、神速の斬撃が駆け抜けた。
「……よもや。これほど早く再会出来るとは思わなかったぞ、祖龍!!」
殺意と狂喜に濡れた凶相を浮かべ、私と竜機兵の前に漆黒の剣士が現れる。
は、はは、今年の私の運は「大凶」だね。
最悪の上に最悪を重ねるような展開に乾いた笑いが込み上げてくるのを感じながら、私は白衣を纏った人間達に向けて全力で咆哮した。
殺気を全開にしているところ悪いけど、フランシスカさんと戦うつもりはない。
竜機兵だけを破壊して、ここから離脱させてもらう!
――純白の龍が紅雷を纏って牙を剥き、漆黒の剣士が哄笑して太刀を抜く。
そして2つの最強が発する絶大な戦意に反応して、3機の竜機兵が金属音のような咆哮を上げた。
同刻。
世界各地で黒龍が、紅龍が、煌黒龍が、生命を冒涜した人間と竜機兵に怒りを向ける。
竜大戦が、幕を上げた。
【戦況レポート】
・祖龍VS竜機兵VSフランシスカ
・黒龍VS竜機兵&???
・紅龍&???VS竜機兵&???
・煌黒龍VS竜機兵&???
フランシスカのところだけ三つ巴になっているのがミソだと作者は思ってます。
次回は人間視点です。
大切なものは――
-
更新速度ではない、質だッ!
-
質ではない、更新速度だッ!