天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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第20話 再戦

 私と、竜機兵と、フランシスカさん。

 最初に動いたのは、予想通り狂喜の表情を浮かべた漆黒の剣士だった。

 腰の鞘から白金の輝きを放つ太刀を抜き放つと、大地を踏み砕いて私に突っ込んで来る。

 私は両翼のバッテリーを励起させ、風圧と共にスパークを前方一帯を埋め尽くすように放出した。真紅の光と土煙が視界を遮り、しかしフランシスカさんは太刀を一閃して全てを斬り払う。

 

「……ッ!?」

 

 息を呑んだのは、フランシスカさんだった。

 すぐに私の行動に気付いて振り返るけど、もう遅いよ。私は既にフランシスカさんの後ろ、つまり竜機兵の目前に移動しているんだから。

 トリックはとても簡単。

 私はスパークと土煙で視界を遮った直後に、鳴動を使って自分からスパークと土煙に突っ込んだ。

 本当にそれだけ。

 私とフランシスカさんは土煙の中ですれ違い、お互いのいる場所が入れ替わったということ。

 

 私の速度に反応する事が出来ず、リアクションが遅れた竜機兵の首に尻尾を巻きつけて振り回す。竜機兵は私よりもずっと大きいけど、祖龍の筋力の前に体格差なんて関係ない。

 私は約70メートルの巨体を何度も地面に叩きつけてから、鈍器のように使って他の2機を殴打し、最後はフランシスカさん目掛けて投げ飛ばした。

 簡単に避けられるだろうけど、時間稼ぎにはなるでしょう。

 その間に残りの竜騎兵もぶ……

 

「――邪魔だ、この鉄屑がッッ!!」

 

 は?

 

 私に投げられて高速で吹き飛ぶ竜機兵の巨体を、最強の狩人は刀の峰でホームランした。

 何の比喩でもなく、本当に。

 太刀を両手で握ってフルスイングして、70メートルの竜機兵を天高く打ち上げる。

 もちろん竜機兵は何も出来ずに、頭から地面に激突して沈黙した。

 

 い、いやいやいや。

 何をどうしたら、あの細腕で鉄を纏った70メートルのドラゴンをあの高さまで飛ばせるのよ。

 意味が分からない。

 絶対におかしいって。

 

 驚愕の光景を目の当たりにして絶句する私に、今度こそフランシスカさんが突っ込んで来た。

 人の形をした怪物が、私の首を撥ねようと刃を振るう。

 私の動体視力でも刀身がブレて見えるほどの速度で放たれた必殺の一撃を、バックジャンプして紙一重で躱す。

 あ、っぶない……ッ。

 首元に迫る「死」に喉が干上がるのを感じながら、私は反撃のブレスを用意して、慌ててキャンセル。バックジャンプの勢いを殺さずに利用して、さらに後ろへと下がる。

 

『ギュガアアアアアアアアアアアアッ!』

 

 その直後、まだ無事だった2機の竜機兵から火球ブレスが乱射された。

 ……マズい。

 竜機兵のブレスを相殺したら、フランシスカさんの追撃に対応できない。でも竜機兵のブレスも、直撃を受けると火属性が弱点の私はそれなりのダメージを受けてしまう。

 そして、火球ブレスに被弾している間にフランシスカに攻撃されたら終わる。あの人に隙を見せたら、一撃で首を落とされる。

 

 ……ッ。

 

 一瞬の迷いの後、私が選んだのは回避でも防御でも無かった。

 全バッテリーを最大励起。

 バッテリーの許容量を超えた龍脈が流れ込み、飽和した紅雷が私の全身を覆う。

 アルンとの戦いで、私のバッテリーは大幅に強化された。

 バッテリーが強化されるということは、切り札の1つである『帯電状態』の性能が上昇するということ。

 従来の帯電状態を飛ばし、その先へ。

 

 ――真・帯電状態!

 

 角、翼、牙、爪、尾が特に高出力な紅雷を纏い、純白の体毛が逆立つ。

 形態変化が完了すると同時に、私は飽和している紅雷をドーム状に放出した。初撃のスパークとは比較にならない破壊力を秘めた真紅の光は、竜機兵の火球ブレスを一瞬で消滅させて拡散していく。

 もちろん、膨れ上がるドームの先にはフランシスカさんと竜機兵が。

 

 さぁ、今度はあなた達が選ぶ番だ。

 回避か、防御か。

 どちらを選ぶにしても、アクションした瞬間に生まれる隙を狙って私の追撃が飛ぶ。

 私の攻撃パターンをある程度知っているフランシスカさんならそれでも対応するだろうけど、竜機兵には難しいでしょう。

 そもそも、今まであなた達が散々見せた火球ブレスの威力じゃ相殺することも出来ないよ。

 

「…………、は」

 

 私自身が放っている紅雷の爆音と、ドームに破壊されていく大地の音で何も聞こえないはずだった。

 それなのに、私の聴覚は確かにその音を拾い上げる。

 思わず溢れてしまったような、殺意に濡れた女の吐息の音を。

 

「……流石だ、それでこそ私の宿敵に相応しい! 良いぞ祖龍、もっと私を楽しませてくれッ!」

 

 フランシスカさんの黒瞳から理性の光が消え、代わりに凶悪な殺意が宿る。そして、黒の狩人が今まで秘めていた獰猛さを剥き出しにした。

 人類最強の本気が、来る。

 

「ふ、はは、ははははははははははははッ!!」

 

 タガが外れたような狂笑と共にフランシスカさんは跳躍すると、太刀を納刀して一番近くにいた竜機兵の尻尾を両手で掴む。

 ……まさか、意趣返しするつもり!?

 私の予想を肯定するようにフランシスカさんが笑い、太刀を手放した代わりに竜機兵を持ち上げる。

 そして私がしたように、私に向かって思い切り竜機兵を投げつけた。

 投擲された竜機兵は真紅のドームに直撃し、高出力の紅雷を浴びて炭化する。

 フランシスカさんがほくそ笑むのと、紅雷を浴びて完全に破壊された竜機兵の体内から、凄まじい光が溢れるのは同時だった。

 

 まず初めに、私が目眩しに使用したスパークの光量とは比較にならないほどの閃光が全てを白く染め上げる。普通の人間なら目が焼かれて失明するほどの閃光だけど、この程度なら私は目を閉じる必要もない。

 だからこそ、私にはよく見えた。

 凄まじい閃光をさらに塗り潰すようにして、ボレアスとバルカンの火炎竜巻ブレスにも匹敵する爆炎とキノコ雲が生まれる瞬間が。

 

 くっそ、壊れたら爆発とか昭和のロボットアニメみたいなことを……!

 しかもボレアスの技に匹敵する火力とか、大タル爆弾G数百個分に匹敵する破壊力じゃない。

 あのドーム放電は確かに大技だけど、所詮は『真・帯電状態』に移行する時に発生するおまけの攻撃だから。

 アレだけの火力をぶつけられると、相殺されてしまうのは仕方ない。

 だけど竜機兵を1つ完全破壊したんだから、ドーム放電を使った意味は十分にあっ――

 

「おい、いつまで花火を鑑賞しているつもりだ? 今のがそんなに気に入ったのなら、後2つはプレゼントしてやれるぞ?」

 

 ――ッッッ!!?

 

 もう何も考えずに首を振った。

 それだけで雷閃が発動し、首の軌道に合わせて真紅の光が横一文字に迸る。敵がいる空間を正確に射抜く雷閃に、手応えはない。

 回避も迎撃も遅れていた。

 私の喉元に僅かな痛みが走り、かなり浅いが確かな傷がつく。

 

 ……やったな。

 傷を与えられたことで祖龍(ほんのう)が怒りに震えて、命の危険に「私」の方もスイッチが入った。

 このままだと、竜機兵を破壊する前に私が死ぬ。

 まずは邪魔者を排除するために、ターゲットを竜機兵からフランシスカさんへ切り替える。

 だけど無理して決着を付ける必要はない。

 どれだけフランシスカさんの身体能力が高くても、体力と耐久力は無限じゃないでしょう。

 消耗戦なら、スタミナ無限で生命力も膨大な私が有利だ。

 まずはフランシスカさんのスタミナを削って、その後に全力のチャージブレスで竜機兵を一撃で破壊してやる。

 

 

 

 

 

 

〜Now loading〜

 

 

 

 

 

 

(気配が変わった……!)

 

 祖龍の全身から放たれる威圧感がようやく自分に向いたことに気付いて、フランシスカは凶悪に嗤う。

 そして仕切り直すように祖龍から一度距離を取り、改めて太刀を構え直す。

 

 今までの攻防で確信した。

 前回戦った時よりも、祖龍は強くなっている。

 全身に紅雷を纏うあの形態は前にも見たが、紅雷の威力が桁違いだ。もしも不用意に接近すれば、フランシスカですら即死するだろう。

 先程の首を狙った斬撃も、祖龍が纏っている紅雷が邪魔でまともに踏み込めなかったので、浅い傷を与えるだけで終わってしまったのだ。

 それにどういう理屈か分からないが、帯電状態になると祖龍の防御力は増すらしい。

 

(無策で攻撃するのは無理だな。勢いに任せて最初から飛ばしすぎた、流石に反省せねばならんか)

 

 両腕から伝わる軽い痛みは、祖龍が投げた竜機兵を強引に打ち返した挙句、意趣返しとして竜機兵を投げ返したことが原因だ。

 どうしても祖龍の注意を自分に向けたくて、己の存在をアピールするために無理をしたのだが、それが完全に裏目に出ている。

 ようやく相手がやる気になってくれたというのに、自分のコンディションが万全ではないとは。これでは本末転倒ではないか。

 

 しかし、今さら引く気はない。

 どのような経緯があれど、全力で戦った上で祖龍に殺されるのならば悔いはない。

 人生で初めて出会った「挑むべき壁」に、持てる力を全て使ってぶつかるのみだ。

 

 心の奥底から湧き上がる戦意を乗せて、フランシスカは大地を蹴った。

 音すら遥かに置き去りにする速度で疾走し、まずは祖龍の機動力を奪うために左翼の切断を狙う。

 しかし、本気になった祖龍はこれまでのように簡単に隙を見せない。

 すぐにフランシスカの動きに反応すると、全身から放電しながら雷球ブレスを発射した。

 視界を埋め尽くす紅雷の嵐を、フランシスカは斬撃で迎え撃つ。

 真っ先に迫ってきた真紅のスパークを身を捻って回避し、4方向から同時に迫る紅雷をまとめて斬り払う。

 

「るるああああああッ!」

 

 獣のような雄叫びを上げ、最後に迫る雷球ブレスを渾身の両断。

 祖龍の猛攻を前に勢いを落とさずに、トップスピードを維持したまま大地を駆け抜けて20メートル以上も跳躍する。

 狙いは変わらず左翼。

 常に纏っている紅雷の威力が僅かに緩んだ隙を突いて、太刀を振り下ろした。

 

「――オオオオオオッ!」

 

 今度は祖龍が猛る。

 フランシスカの斬撃を祖龍は前脚の爪で受け止めると、赤いスパークを放つ尻尾でカウンターを繰り出した。

 咄嗟に鞘で防御したが、足場のない空中での被弾。

 当然ながら踏ん張ることなど出来ずに、祖龍の力に負けて吹き飛んだ。地面に叩きつけられる直前に受け身をとったが、かなりの勢いで落ちたせいで着地点にクレーターが生まれた。

 

 背中を強打したことで息が詰まり、激痛で視界が明滅する。

 だが、このままのんびり寝ている暇などない。

 即座に跳ね起きて、追撃として空から落ちてきた雷を斬り払う。しかし落雷は1度で終わらず、フランシスカを正確に狙って何度も落ちてきた。

 駆け抜け、跳躍し、避け切れないものは相殺する。

 一体どれほどの破壊力を秘めているのか、真紅の雷が落ちた場所には次々と底が見えない穴が開いた。

 

 「死」の感覚がジリジリと肌を焼く。

 フランシスカが求めていたものは、これだ。

 祖龍と殺し合いをしている時だけが、自分が生きていることを実感出来るのだ。

 

 天空から降り注ぐ落雷の間を潜り抜け、1発で地図から街を消滅させる威力を誇るブレスを斬撃で相殺する。

 何度も何度も何度も何度も。

 飽きるほどそれを繰り返した果てに、ようやく祖龍へ攻撃を与えるチャンスが巡ってくる。

 祖龍の目前まで戻ってきたフランシスカは、相手の心臓を狙って刺突を繰り出した。空間すら貫く、フランシスカの珠玉の一撃。

 その刺突を、祖龍は容易く回避する。

 

「――は、はは。アーーッハッハッハッハッ! 良いぞ、良いぞ祖龍! 私の斬撃をここまで避けられるのは、この世界で貴様だけだよ!」

 

 渾身の一撃を避けられたフランシスカの心から湧き上がった感情は、喜びだった。

 全力を出しても、届かないというこの感覚!

 何かに挑むという興奮!

 それらの感情がフランシスカの闘志を加速させ、彼女を限界の先に導いていく。

 太刀を振るう速度が増す。斬撃が更に鋭く研ぎ澄まされる。

 祖龍と攻防を繰り返すたびに、フランシスカの力は際限なく極まっていく。

 初めてライバルを得たことで、頭打ちになっていた力の上限が解放されたのだ。

 

 しかし、祖龍もまた下がらない。

 戦いが長引くほど動きのキレは良くなり、紅雷を操る練度が高まっていく。

 

 その戦いを邪魔したのは、残っていた2機の竜機兵だった。

 祖龍が『真・帯電状態』となった時に放たれた凄まじい電撃により、電波で人間から指示を受けていた彼らは一時的に行動不能になっていたのだ。

 しかし、竜機兵のシステムは正常に回復した。

 改めて祖龍という敵を見据えて、恐怖を感じない兵器は最強と最強の戦闘に突っ込んでいく。

 

 戦いは、まだ終わらない。




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