天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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煌2話 魔境還りと神域の支配者

 吐息すら凍りつく氷の大地と、視界を遮る猛烈な吹雪。

 その過酷な環境であらゆる生命を凍死させる絶対零度の『魔境』――ノウス凍土。

 大陸の最果にて“神をも恐れさせる最強の古龍”と向かい合うのは、隻眼の英雄フーゴ・ヒルデブラントと異次元の狙撃手アレクシア・ディートリンデ。

 生態系の頂点。『禁忌』の龍。

 煌黒龍アルバトリオンの左目を奪うという戦果を挙げた2人だったが、追い詰められているのは彼らの方だった。

 

 ……対龍特攻弾。

 キラーズが討伐した竜種の中でも特に強力な個体の素材を利用して作られた、龍属性の弾丸だ。

 原作ゲームに登場する滅龍弾の原型と言えば分かるだろうか。

 上位個体クラスの飛竜すら1発で絶命させる威力を誇るソレは、当然ながら希少であり数は非常に少ない。

 アレクシアの手元にある対龍特攻弾は、残り3発。

 

 そしてアレクシアの使う銃もまた、他のキラーズの武器とは一線を画する力を持つ。

 バテュバドム樹海でキャロルによって回収された祖龍、黒龍、紅龍のタマゴのカケラ。それらから作られた3種の武器の1つがアレクシアの手の中にある銃だ。

 余談だが、残りの2つはフランシスカの太刀とシエルの双刃刀である。

 

 最高の銃と希少な弾丸。

 そしてアレクシアの隔絶した狙撃技術が合わさり、ようやく煌黒龍の左目に届いたのだ。

 いや、左目しか潰せなかったと言うべきか。

 

「竜機兵を囮にして、吹雪に紛れて気配を隠し、油断している状態を狙って、それでも初弾を躱されるなんて……」

 

「ははっ。あの一撃で仕留めるつもりだったとは言わねぇが、逃げるくらいのダメージは期待してたんだがな」

 

 冷や汗を流し、それでもアレクシアの前でランスと盾を構えるフーゴ。

 アルンの吹雪ブレスを真正面から受け止めてみせた隻眼の英雄だが、その代償は大きい。

 盾を持つ左腕の骨はヒビでも入ったのか鈍い痛みを発しており、盾もまた今のガードでかなりガタガタになっていた。

 

(片腕捨てるつもりで、何とか後2回はガード可能ってぇところか。嫌になるぜ。奴さんからすれば戯れの一撃が、オレにとっちゃ大災害だっつーの)

 

(残り3発。もう1発も外せない、中佐殿もこれ以上は私を守れない。失敗は許されないわよ、私……!)

 

 ――『魔境還り』

 その異名は主にフーゴを指すが、その実態はアレクシアとペアを組むことで本領を発揮するキラーズだ。

 あらゆる攻撃を防ぐフーゴという盾と、龍すら撃ち抜くアレクシア。

 最強の矛と盾が合わさって初めて、どんな地獄からでも生還する『魔境還り』となる。

 

 

 

 

 

 

 

〜Now loading〜

 

 

 

 

 

 

 

(……なるほど、ですわぁ)

 

 部位破壊された左目を完全に再生したアルンは、治ったばかりの目でフーゴとアレクシアを観察する。

 アレクシアの握る銃から、僅かに『禁忌(かぞく)』の気配があった。

 どこから手に入れたのか分からないが、どうやら本当に龍の素材を使用して生産された武具らしい。

 なるほど、それなら鉄で作られた銃とは比較にならない速度で弾丸を放てるだろう。

 

 竜機兵に意識を向けていた。慢心があった。油断していた。龍属性に弱い氷雷モードだった。吹雪ブレスが正面から防がれるとは思わなかった。そもそも狙いは狙撃手で、防御に特化しているらしい、ランサーの存在には気付いていなかった。

 左目を破壊された理由はいくつもある。

 しかし、そんなものは関係ない。

 あの狙撃手とランサーは運良くそれらの要因に味方されたのではなく、この場の全てを利用してアルンの隙を突いたのだ。

 

 なるほど、素晴らしい。

 あの人間達はアルンがこの場に現れることを知らなかった。

 それなのにアルンが最初の竜機兵を破壊している僅かな間にショックから立ち直り、観察し、狙撃するチャンスを作ったのだろう。

 それも初弾を外した時のフォローからカウンターまでの、サブプランまで用意していたのだ。

 

 『禁忌』やフランシスカのように、デタラメに強い訳ではない。

 ランサーの方はG級個体の古龍種が相手でも勝てそうだが、その上の存在にまでは届かないだろう。ガード能力は素晴らしいが、攻撃力が足りていない。

 狙撃手の方はさらに能力が偏っている。その狙撃能力はまさに異次元の領域にあるが、反面その他の能力は非常に低い。単独では下位個体の古龍種にも勝てない程度だ。

 

(でもペアを組むことでお互いの欠点をカバーしていますのね。なるほど、単体で完成しているわたくし達とはまた違う種類の強さ。力を合わせるという人間らしい強さ。……試してみる価値は、ありますわ)

 

 アルンの心から傲りが消える。

 今まで他の有象無象と同じ扱いだったランサーと狙撃手が、彼女の中で明確な『敵』として認識された。

 今の煌黒龍には油断も隙もない。

 ただの『雑魚』に向けた戯れの攻撃ではなく、敵を排除するための攻撃が放たれる。

 

 相手もアルンが「その気」になったことを悟ったのだろう。

 戦意と共に僅かな恐怖を滲ませながらも、格上の存在に対して逃げることなく武器を構える。

 

 そして、戦いが始まった。

 

「ッグルオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 最初に動いたのは、アルンの方だ。

 アギトから冷気を発生させると、9メートルにも達する巨大な氷塊を同時に3つ生成。正面に立つランサーを狙って、ガード出来るのならやってみろと射出する。

 弾丸を上回る速度で飛来する氷塊に対し、ランサーは盾ではなく槍を構えた。

 

「う、お、お、ああああああああっ!」

 

 雄叫びと共にランスを突き出し、最初の氷塊を真正面から打ち砕く。2つ目の氷塊は盾でカチ上げて軌道を逸らし、3つ目は槍をフルスイングしてホームランする。

 弾かれた2、3番目の氷塊があらぬ方向へと飛び、着弾した氷の大地に大穴を空けた。

 

(範囲攻撃ならば!)

 

 初撃を凌いだランサーに向けて、アルンは2度目の吹雪ブレスをぶっ放す。それも前のように戯れのブレスではなく、触れたもの全てを瞬時に凍てつかせる真の攻撃だ。

 それをただ一直線に撃つのではなく、右から左へと動かして横殴りの形で攻撃する。

 

「飛べ、アレクシア!」

 

 対して、ランサーは自分の盾に乗せて真上に放り投げるという暴挙に出た。盾を足場にアレクシアが10メートル以上も垂直跳びし、吹雪ブレスは地上に残るランサーのみに襲い掛かる。

 だが、絶対零度のブレスがランサーを凍死させるよりも早く。

 

「墜ちろッ!!」

 

(……ッ!)

 

 そんな叫び声と共に、狙撃手は空中で未だ吹雪ブレスを撃ち続けているアルンの翼を狙って弾丸を放った。

 重苦しい射撃音が響き渡り、音速の壁を突き破って弾丸が飛ぶ。

 咄嗟に攻撃を中断したアルンが身を翻して回避すれば、アルンの背後にあった氷山に弾丸が着弾。

 ……しかし、そこに先ほどまでの威力はない。

 

(私に傷を与えた弾丸と種類が違う、ダミーですの!?)

 

 1発目と2発目の狙撃で警戒心を与え、相棒を踏み台に空へと逃れた狙撃手が空中で撃つという大袈裟な演出からの、フェイント。

 狙撃のタイミングは見事だった。

 『禁忌』クラスのモンスターでなければ、間違いなく翼を撃ち抜かれて墜落していただろう。

 アルンですらそう思ったから回避したのだが――

 

(今の狙撃の目的はあくまでわたくしの攻撃をキャンセルさせること。その為にわざわざ絶好の狙撃タイミングを囮にするとは……!)

 

 見事に騙されたことに気がついて、アルンは思わず苦笑する。

 格下の相手に2度も踊らされた。

 その事実に対して、アルン自身でも意外なことに怒りの感情はなかった。それどころか可愛い悪戯をされたような気分になって、苦笑してしまう。

 

(やる気になったわたくしすら欺いたのは称賛に値するでしょう。ですが、今ので分かりましたわ。……わたくしにダメージを与えられるあの弾丸の数が、残り少ないことに)

 

 あの特別な弾丸に余裕があるのなら、今の狙撃はダミーである必要がない。むしろ当たる確率の方が高かったのだから、その特別な弾を撃つべきだったのだ。

 だが、撃ったのは威力の低いただの弾丸。

 アルンとて馬鹿ではないのだから、そこから特別な弾の数が少ないことくらい予想できる。

 

(何より、その特別な弾ですら1発ではわたくしの命には届かない。たとえ急所を撃ち抜かれても、ほんの数秒あれば再生可能ですわ)

 

 これ以上は相手に戦いの主導権は与えない。

 狙撃手が着地するタイミングを正確に狙って、アルンは姉も得意とする雷球ブレスを放つ。紅雷ではなく蒼白の雷であるが、その威力は祖龍のものに勝るとも劣らない。

 準古龍級生物ですら即死する高電圧の一撃だ。

 

「中佐殿!」

 

「任せろ!」

 

 防ぐのではなく、逸らす。

 飛来する雷球ブレスを斜めに傾けた盾で受け止めると、そこから上方向へと力を逃したのだ。ランサーの盾の上を滑るようにして、雷球ブレスの軌道が変化する。

 その結果、蒼雷は未だに吹雪を生み出し続ける分厚い雲を撃ち抜いて終わった。

 雷球ブレスを凌いだランサーの背後で、再び狙撃手が弾丸を撃つ。

 

(今度は……!)

 

 本物か、ダミーか。

 アルンの動体視力ならば『禁忌』の素材から生産された銃による狙撃でも、視認することは出来る。しかし普通の弾丸と特別な弾丸を見分けるのは不可能だ。

 どちらもビジュアルに差はない。

 

(どちらでも構いません、全て回避すれば問題な――)

 

 そこで。

 狙撃手の放った弾丸に気を取られていたことで生まれた隙を突いて、今まで防御に徹していたランサーが突っ込んで来ていることに気づいた。

 2度目のフェイント。

 先ほどのフェイントで本物の弾丸がダミーかに注意を向けた上で、これまでの攻防で完全に防御専門だと思わせていたランサーによる攻撃。

 弾丸を回避するために、滞空していたアルンは既に旋回のモーションに入っている。今から迎撃するのは不可能ではないが、そうすると狙撃は避けられない。

 このままではちょうど背中を向けたタイミングで、あのランサーが自分の元に辿り着く。

 

(もう、次の弾を)

 

 迫る弾丸。駆けるランサー。

 その背後で、狙撃手はもう次弾の狙撃準備を整えていた。

 チェックメイトだ。

 何をどうしても必ずどれかの攻撃は受けてしまう。全ての攻撃を完全に躱す手段はない。

 その事実を理解して、アルンは目を閉じた。

 

(――お姉様の言う通り、人間にも可能性があるかもしれませんわ)

 

 そう認めた上で。

 

「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 咆哮が炸裂した。

 超威力の衝撃波がドーム状に拡散し、氷の大地を隆起させながら弾丸と共にランサーを吹き飛ばす。

 そして、隆起した氷の大地の下から火柱が上がった。

 祖龍との戦いの時も使った、アルンの噴火咆哮。

 狙撃手とランサーの足元でピンポイントに噴火が発生し、2人まとめて打ち上げられる。

 そして滞空する自分の元まで吹き飛んだ2人を、冷気とスパークを纏わせた尻尾で殴打した。

 ランサーが咄嗟に盾でガードしたが、龍の力でその防御を強引に突破。狙撃手もろとも大地へ叩き落とす。

 

「が、はぁ……っ!?」

 

 背中から大地に叩き落とされたランサーが呻きながら血を吐き、同じく地面に叩きつけられた狙撃手は意識を失って凍土の上に転がる。

 完全決着。ゲームで言うなら3乙だろうか。

 ダウンは2人とも初めてなので正しくは2乙だが、まぁクエスト失敗の事実に変わりない。

 

 必然の結果だ。

 ランサーのガード能力も、狙撃手の射撃技術も申し分のない練度だった。

 実際にこの2人は『禁忌』の4、煌黒龍アルバトリオンと渡り合えるほどの強者だ。

 だが悲しいかな、致命的にスピードと力が足りない。

 どれほど見事なフェイントをしても、そんな小細工がどうでも良くなるほどの破壊力があればご覧の通りだ。

 綿密な作戦も、完璧な連携も、世界を滅ぼせるほどの力の前には何の意味もない。

 とんでもない理不尽だ。

 だがその理不尽という名の厄災の権化こそが古龍種であり、そして『禁忌』モンスターなのだ。

 

 しかし、アルンは思うのだ。

 もしも仮にこのランサーと狙撃手に、自分を殺せるほどの攻撃力があれば。もしくは雷速を超えた領域に踏み込めるスピードがあれば。

 負けていたのは、自分の方だったのではないかと。

 実際に天と地ほどの実力差があるというのに、全ての攻撃が手加減していた状態では回避不能なところまで追い込まれている。

 もしもアレほど見事なフェイントと連携を、自分に匹敵する存在が行ったのなら。

 戦闘能力とはまた違う。

 アルンとは戦いの「経験値」が桁違いなのだ。

 

 祖龍よりも、他のどの『禁忌』よりも、フランシスカよりも、シエルよりも。

 このフーゴ・ヒルデブラントとアレクシア・ディートリンデは、戦いの流れを掴むことに長けている。

 

(認めましょう。瞬間的な作戦立案能力に関しては、敬愛するお姉様よりも上だということを)

 

 それはアルンから人間に送られる最大の賛辞だった。

 流石に口に出して伝えるのは癪だったので、あくまで心の中でのみに留めたが。

 

 このままランサーと狙撃手を放置すると凍死するので、アルンは擬人化してゴスロリ少女へと姿を変える。

 そして無造作に敵対していたキラーズに接近すると、足元の氷を砕いて火をつけた。

 何も間違っていない。誤字でもない。

 氷に、火を点けたのだ。

 まるで枯れ木で焚き火を作るような感覚で。

 地球の科学者が見れば発狂するような光景だった。因みにシュレイド王国の研究者は発狂した。

 この世界の全ての属性を持つアルンだからこそ出来る、デタラメなコトだった。

 

「ほら、起きなさいな。寝るのはわたくしの問いに答えてからですわ」

 

「な、に……?」

 

「お前達を『天秤』と認めましょう。名乗りなさい。そうすれば大人しく撤退してあげますわ」

 

 仰向けに寝転んだまま、虚な目でアルンを見つめるランサー。

 数秒間ずっとアルンがランサーの目を見続けていると、やがて口から血と共に声を絞り出した。

 

「……フーゴ、ヒルデブラント」

 

「そちらの狙撃手は?」

 

「……レ…………アレクシア……ディートリンデ」

 

「フーゴにアレクシアですわね。確かに覚えましたわ」

 

 ランサーと狙撃手……いや、フーゴとアレクシアの名前を聞き出したアルンは頷くと上機嫌で背中を向けた。

 そして10メートルほど離れてから、龍の本性を剥き出しにした凶悪な笑みを浮かべて振り返る。

 

「偉大なるお姉様より賜った我が真名はアルバトリオン。ご機嫌よう、フーゴにアレクシア」

 

 そう言い残すと、優雅にターンして再び巨大な龍の姿へと姿を変えた。

 翼を広げて大地を踏み砕き、荒れ狂う吹雪の空へと飛翔する。

 

(おっと、本来の仕事を忘れるところでしたわ)

 

 と、そこで上昇を中断。

 空中で旋回すると、1機目の竜機兵を焼き尽くした爆炎ブレスの余波を浴びてダウンしていた残りの機体に向けて雷を落とした。

 凄まじい轟音と共に世界が揺れ、竜機兵がいた場所に巨大なクレーターが出来上がる。

 完全に竜機兵を消滅させたアルンは満足げに喉を鳴らすと、今度こそ吹雪の空へと姿を消した。

 

 『魔境還り』の異名を持つキラーズ達に、現代モンハン世界で最大の『魔境』である神域の支配者の名を残して。

 まるで、神域という名の『魔境』から生還してみせろと言わんばかりに。




「現段階」での強さ早見表。

祖龍(本能全開状態)=フランシスカ>禁忌、シエル>祖龍(劣化?)>>>(超えられない壁)>>>フーゴ>アレクシア

あくまで単純な戦闘能力での値であり、総合値や条件によって変動します。
本能全開状態は『蛇の湖』で軍隊に奇襲されて、ブチ切れた時のルーツ。

大切なものは――

  • 更新速度ではない、質だッ!
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