天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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こちらが1話目です。


紅1話 イード火山での戦い

 ――大陸・東方・イード火山。

 シュレイド地方で最大の活火山が聳え立つその場所は、灼熱の地獄が人類の開拓を阻む『魔境』の1つだ。

 火耐性のないモンスターなら死に至る熱の風が常に吹き荒れており、植物の類は一切存在しない。常人を凌ぐ肉体を持つキラーズであっても、特殊な装備かアイテムがなければ活動不能となる領域である。

 それも当然だろう。

 大地に生まれた亀裂の間を、まるで川のようにマグマが流れているのだから。

 

(……鉄屑のくせに火耐性はあるようだな)

 

 噴煙に覆われた空を飛翔しながら、バルカンは自分の前を行く竜機兵を観察して牙を剥いた。

 気に食わない。

 竜機兵の全てが不愉快だった。

 古龍種の眷属である竜を虐殺したことも、竜の屍から人の手で命を作ったことも、その竜機兵がまともな生き物とは程遠い傀儡であることも。

 

(姉上は異常にあの鉄屑を警戒しておられたが……やはり、下等生物が作った贋作だな。大した脅威ではない)

 

 敬愛する姉からの命令ということで慎重に今回の獲物である竜機兵を観察していたが、イード火山の麓に着陸してモンスターを殺し始めた人造の竜を格下と判断した。

 火球ブレスの威力もボレアスやバルカンと比べれば線香花火のようなレベルだ。それどころか、火属性に特化している訳でもないアルンにも劣るだろう。

 それなりの数がいれば少しは脅威になるだろうが、僅か3機ならば上位個体の古龍種にも届かない。

 龍の王であるバルカンは、敵として見ることすら不愉快だった。アレはただの獲物だ。

 

 あのような鉄屑に時間を割くことすら忌々しい。

 油断なく、慢心なく、加減なく。

 紅龍ミラバルカンが有する力を存分に振るい、あの巨大な鉄屑を焼き尽くしてやるのだ。

 

(しかし、その為には近くにいる人間共が邪魔だ……)

 

 現在、竜機兵はイード火山の麓にいる。

 そこは『魔境』の入り口に近くマグマも流れていないので、人間達が大穴を掘ってその中に活動拠点を作ってしまっていた。

 竜機兵と人間の距離が近いので、バルカンのブレスでは威力が高すぎてどうしても巻き込んでしまう。

 そして、問題はそれだけではない。

 イード火山は恐ろしい『魔境』なのだが、その近辺には多数の温泉が湧き出ているのだ。

 その温泉を目当てに人間が集まっており、イード火山の付近にはいくつもの人間の街がある。温泉街というヤツだ。

 バルカン達が侵入したノースタウンとも比較的近い。

 

(あの大穴の中にいる人間共が死ぬのは構わんが、巣の中で大人しくしている人間まで殺すと姉上に叱られるかもしれん。……チィッ、どうせならばもっと火口の近くに移動すれば良いものを!)

 

 それならば火山ごと地図から消せるのに、と続けて思考したバルカンは怒りでアギトから炎を溢す。

 そして首を振って昂りを沈め、冷静に地形の分析を始めた。

 『魔境』の入り口に作られた大穴から、一番近い街までの距離は数キロほど。

 麓はマグマが流れ込んでいないが、よくもまぁ危険地帯の近くに(まち)を作ったものである。モンスター出現後の今ではあり得ない近さだ。

 温泉とはそれほど魅力的なものなのだろうか。

 

 とにかく数キロなどバルカンにとってはゼロ距離だ。

 特にボレアスと比べてバルカンは広範囲の攻撃に優れているので、少し能力を解放するだけで巻き込んでしまうだろう。

 火炎竜巻ブレスはもちろん、得意技であるメテオも封印だろう。

 特に大技のモーションが多い、四足歩行そのものが使用できない可能性まである。

 咆哮によるマグマ召喚もアウトか。

 

(そうなれば能力の60%近くが削がれてしまうが、あの鉄屑を始末する程度ならば何とでもなる。むしろ贋作如きに苦戦などすれば、姉上どころか他の弟妹にまで我が笑われる……!)

 

 忘れもしない幼少期の記憶。

 まだバテュバドム樹海で暮らしていた時は、それはもう弟のボレアスに馬鹿にされた。

 気が弱かったので勝負事にはずっと負けていたし、ボレアスに泣かされたことも1度や2度ではない。姉が獲ってくれた魚の半分近くを奪われたこともある。

 ボレアスもルーツにぴったりだったくせに、バルカンが姉にくっつくと笑うのだ。

 

(くっ、思い出すと今でも腹立たしい。ボレアスめ……!)

 

 閑話休題。

 

 失敗は許されない以上、慢心も油断もあり得ない。

 全力で竜機兵を破壊する。

 他の弟妹の誰よりも早くあのガラクタを破壊して、1番に姉の元へと帰還するのだ。

 

 思考を終えたバルカンは翼を広げ、大穴から最も離れている機体を狙って滑空する。

 口では色々と言っているが、やはりボレアスの兄弟か。初手に選んだ技は、偶然にもボレアスと同じ滑空攻撃だ。

 無印時代からMH2まで230という脅威のダメージ値で数多のハンターをキャンプ送りにした大技が、現実世界でも猛威を振るう。

 竜機兵のトップスピードであるマッハ7すら容易く追い越し、雷速に迫る速さまで加速した。

 破壊的な衝撃波が荒れ狂い、大地が隆起し、遠くで流れていたマグマすらもが天高く巻き上げられていく。

 

 そして、竜機兵の巨体がゴミ屑のように吹っ飛んだ。

 水切りの石のように何度も地面とマグマの上をバウンドしながら、数十キロ離れたイード火山に激突して――爆破機能が作動。大爆発が発生し、火山の一部が崩落する。

 その光景に、鎮静化していたバルカンの怒りが再熱した。

 

(よもや自分達が生み出した命に、爆破機能を付けるとは………! どこまでも命を冒涜するか!)

 

 それが自然に背く形であっても、自分の手で生み出した命を道具として扱うその所業。それは己の子供に爆弾を抱えて特攻しろと言っているのに等しい。

 改めて竜機兵とそれを作った人間の悪辣さに憤怒を宿し、バルカンが残りの2機へと紅の瞳を向ける。

 衝撃波を浴びてダウンしているが、かなり距離が離れていたので大ダメージにはなっていないようだ。

 流石にその図体に見合ったタフネスはあるということか。衝撃波を浴びた程度では壊れていない。

 

 竜機兵達がダウンから回復するのを待ってやる義理などない。

 今度は爆破機能ごと消滅させるために二足歩行で使える最高火力のブレスを選択し、龍脈を収束させていく。

 竜機兵は飛行速度こそ音速を超えるが、地上では巨体が仇となってそこまでの移動速度はない。ましてやダウンしている状態では、回避しようが無いだろう。

 これにて結着。

 自分の勝利を確信して、バルカンがそのアギトから紅蓮の奔流を――

 

「ヒ、ヒ、ヒャーーァハハハハハハハハハッ!」

 

 ……最初は、バルカンの威圧に屈した人間が恐怖で狂ったのだと思った。

 だがその直後に殺意が膨れ上がり、何かが凄まじい剛力でバルカンの下顎を殴打する。無理やりアギトを閉じられたことでブレスは不発し、バルカンが大きくのけ反った。

 

(何が……!?)

 

 頭に浮かぶ疑問に答えが出るよりも早く。

 2度めのインパクトがバルカンの胸部を叩き、その体が後ろへと運ばれた。咄嗟に後脚で大地を踏んでブレーキをかけ、バルカンは自分を吹き飛ばした相手を見る。

 そこにいたのは、狂人だった。

 火山地帯だというのに下着以外は何も着用せず、異常なまでに発達した筋肉に覆われた肉体を晒す男。その体は傷で覆われており、何故か白目を剥いて恍惚の表情を浮かべている。

 そしてその手にはグチャグチャになったヘヴィボウガンが握られていた。

 

(な、ん……?)

 

 相手の姿を確認したのに、今度こそバルカンは混乱した。

 どうして人間が耐熱装備もナシで平然と火山地帯で活動している? もはやスクラップ同然で使えない銃を持っている理由は? 恍惚の表情を浮かべている原因は? そもそも『禁忌』の一角であるバルカンをどうやって吹き飛ばした?

 脳裏に浮かぶ無数の疑問。

 答えは出ないが、そこからバルカンが狂人に抱いた感想は「気持ち悪い」というシンプルかものだった。

 人間は例外なく嫌いだが、コイツだけは特に近寄りたくない。というか視界に入れるだけで気分が悪い。

 竜機兵の方がまだ幾分かマシだった。

 

「あ、アー、最ッ高ォ〜! いいぜ、滾るぜ、テンション上がってキタぁ……!」

 

 口から涎を垂らしたまま、狂人はひしゃげて使い物にならない銃を担ぎ直す。

 その口調にいよいよテンションが下がったバルカンだが、そこで自分がどうして吹き飛ばされたのかを理解した。

 狂人が、銃でバルカンをぶん殴ったのだ。

 

(あの人間、銃の扱い方すら分からんのか? どうやら竜の素材から生産された銃のようだが、性能はそこまで高くないだろう。あの程度の武器で我を退けるとは……)

 

「5年ぶりの娑婆の空気はうめぇなァ……! 薬も効いてきたし、ノッてきたぜェ! ハッ、ハァァァッ!」

 

 人間離れした怪力に少し驚くバルカンへ向けて、狂人は正面から踏み込んだ。

 銃を握りしめる両腕の筋肉に血管が浮かび、哄笑を響かせて狂人が灼熱の地を駆け抜ける。

 

(愚か者が)

 

 防御も回避も考えない捨て身の特攻を罵り、バルカンは容赦なく前脚を横に一閃する。粉塵が舞い上がり、イード火山に吹く熱風に反応して連鎖爆発を引き起こした。

 粉塵爆発。

 竜すら吹き飛ぶ爆発の連続に、無抵抗のまま狂人は呑み込まれていく。

 ――しかし。

 

「ハッ、ハハハハハハハハハ、ハア!」

 

 全身に大火傷を負い、大量の血を流しながら、痛みなど感じないとばかりに狂人は爆発の中を潜り抜けた。

 瀕死の状態であるのに、狂人の動きは鈍るどころか加速する。

 

「――ッ!」

 

「イィィヤッホォーーーッ!!」

 

 絶句するバルカンに狂人が既にスクラップと化している銃を叩きつけた。1撃だけでは終わらず、高笑いしながら何度も。

 銃が砕け、バルカンの龍鱗にもヒビが入り、狂人の全身から血が流れ出た。どれだけの力で殴っているのか、攻撃している方の骨も鈍い音を立てる。

 それでも狂人は止まらない。

 殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打!

 狂ったように笑い続け、バルカンを後ろへ押し込みながらひたすらに銃を振り下ろす。

 

『ギギザザザザガガガガガガガガガガガッ!!』

 

(ぬ、う……!?)

 

 そこで竜機兵がダウンから復帰し、巨大な火球ブレスをバルカンに向けて乱射した。狂人に気を取られていたバルカンは回避が遅れ、火球ブレスをまともに受けてしまう。

 バルカンの巨体が再び後ろへ吹き飛ぶが、紅龍は火属性の頂点なのだ。どれだけ炎を浴びても、その体がダメージを受けることはない。

 むしろ近くにいた狂人の方が炎の中に消えた。

 

 ――しかし。

 

「きゃああああああああああっ!?」「おい逃げろ、怪物だ!」「やめて押さないで、娘がまだ!」「うるせぇ退きやがれ! 通れねえだろうが!」

 

(しまっ――……、)

 

 狂人の最初の2連撃とその後のラッシュでかなり後退させられていたバルカンだったが、竜機兵のブレスをまともに被弾したことで人間の街まで吹き飛ばされたのだ。

 突如として街を囲む外壁を破壊して現れたバルカンの姿に、平和な日常の中にいた人々が一斉にパニックになる。

 押さない、走らない、喋らない。

 日本では避難する時の基本として幼い頃から教えられるが、この世界の住民にそんな概念など浸透していない。

 お互いに押し合い、罵り合い、足を引っ張り合いながら、我先にとバルカンから離れようとする。

 観光名所だった温泉街は、一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図に変わった。

 

 すぐに飛翔して街から離れようとしたが、バルカンを追って2機の竜機兵が街へと突っ込んでくる。

 

(鉄屑め、創造主である人間ごと巻き込むつもりか……!?)

 

 竜機兵の全長は70メートルにも達するのだ。

 それほどの巨体を持つ鉄の竜が、2機も同時に街の中にいるバルカンへ突撃すればどうなるのか。

 そんなことは考える必要すらない。世界から都市が1つあっさりと消えるだろう。

 

(いや、むしろ好都合だ。我が率先して関係のない人間を殺すのは「約束」に抵触するが、あの鉄屑が人を巻き込むのは問題なかろう。人間が自分達の生み出したあの鉄屑に殺されるのを見るのも、また一興か――)

 

 バルカンの脳裏に、邪龍に相応しい凶悪な考えが浮かぶ。

 ルーツや弟妹の前ではどれほどポンコツになろうが、その正体は怒りの炎を纏う凶悪なモンスターなのだ。

 大地を揺らしながら迫る竜機兵をわざと引きつけ、自然とこの街が戦場になるようにバルカンは誘導する。

 これで「偶然」にも巻き込まれた街が消滅するという「事故」が起きるだろう。

 邪悪に嗤い、紅蓮の龍は虫ケラのように逃げ惑う人間達を睥睨して。

 

「皆さん、落ち着いて! 子供とお年寄りを優先して避難させてください! あと誰かこの子のご両親を知りませんか!?」

 

 パニックになる人混みの中。

 泣き喚く子供を抱えながら、必死にそう叫ぶ1人の少女が目に入る。まるで光のような金色の髪を伸ばした、小柄な少女だ。

 全ての人間が狂乱して逃げ惑っている中で、彼女だけが他者を優先して逃げ遅れている。

 普段のバルカンは、人間の1個体になど意識を向けたりしない。

 だがその少女だけは絶対に無視出来なかった。

 

(あの娘、姉上の「友人」の!?)

 

 人間の街に侵入した時、擬人化したルーツと会話していた人物。恐れ知らずにもボレアスの頭を撫でていた人間。

 アーデルハイト……愛称をアデル。

 ルーツとアデルが共に笑い合って、またどこかで会おうと「約束」していたのを思い出す。

 

 有象無象の人間ですら気遣うバルカンの姉。

 ならば、顔も名前も知っている人間が死ねばどれだけ心に傷を受ける? そしてアデルの死因がバルカンと竜機兵の戦闘だと分かれば、嫌われてしまうのではないか?

 ゾッ、と。

 バルカンの背筋に冷たいものが走る。

 

(マズい。このタイミングで竜機兵とぶつかれば、あの人間は簡単に死ぬ……!)

 

 後悔してももう遅い。

 人間の街を破壊するために、バルカンはわざと竜機兵を引き付けてしまった。

 今ブレスで迎撃すれば、バルカンが放った炎の余波で街が灰燼に帰す。

 

 

 

 

 ――予想外の要因で、バルカンは絶体絶命の窮地に立たされた。

大切なものは――

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