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これは2話目なので、前話を見ていない方は1つ戻ってからお読みください。
地響きを立てて迫りくる2機の竜機兵と、背後でパニックになる人々の中にいるアーデルハイト。
このままでは、竜機兵とバルカンが激突することで発生する衝撃波で全てが消し飛ぶだろう。
しかしブレスで迎撃しても、わざと引きつけたせいでもはや竜機兵との距離が近すぎる。バルカンが生み出した炎の余波がアデルを焼き殺してしまう。
ならば街から離れるか?
バルカンの全長は40メートル近い。竜機兵には劣るが十分に巨体なのだ。音速以上の速度で動けば周囲の被害は甚大となる。
(チィッ、まさかこの姿に頼ることになるとはな……!)
姉に指示されるのではなく、正体を隠すためでもなく、見下している相手の姿と力を自ら使うというその屈辱。
この上なく龍の頂点としてのプライドが傷つくが、姉を悲しませないことが最優先事項だろう。
体内を巡る龍脈を封印し、バルカンは擬人化を発動する。
紅蓮の龍から赤衣の青年へと姿を変え、逃げ遅れていたアデルの元へ一瞬で移動した。残像すら残さない高速移動だが、人間サイズまでスケールを落とせば衝撃波でアデルが死ぬことはない。
「え、あ、誰……きゃあっ!?」
いきなり目の前に人が現れたことに驚きつつも、咄嗟に腕の中にいる子供を庇うようにして後ろへ下がるアデル。
その腕をバルカンが掴み、子供と共に抱き寄せた。
「ひ……っ!」
「貴様を獲って喰うつもりはない! それよりもその幼子と自分の口をしっかり閉じておけ!」
擬人化したバルカンの身長は180センチだ。
いきなり男に抱かれて身を竦めるアデルを、バルカンが宥めながら忠告する。しかしその会話は地味に噛み合ってない。
アデルは性的に襲われる事を恐れているが、バルカンはアデルがそのままの意味で喰い殺される事を恐れていると思っているのだ。
このパニックに乗じた性犯罪者だと思われているなんて露知らず、バルカンは膝を曲げて一気に跳躍した。
「いやああああああああああ!?」
「ああああああああああああ!!」
「至近距離で騒ぐな、喧しい! 口を閉じろと言ったのが聞こえなかったのか!?」
ロケットさながらの勢いで50メートル近く飛び上がったのだから、一般人であるアデルと幼い子供が悲鳴を上げるのも仕方ない。というか当然だ。
アデルは一瞬で遠くなった地面を見て顔を青くし、次に街に向かって突進する竜機兵を見て気絶しそうになる。
それでもギリギリ意識を保ったのは、自分が抱きしめている幼子を守るためか。
因みに子供は気絶した。
「何が起きて……というか、あなた誰ですか!?」
「ふん、知恵を武器とする人間のくせに記憶力が乏しいようだな。僅か十数日ほど前に見た相手をもう忘れているとは」
「え、あ、もしか――……」
バルカンの言葉に改めて自分を抱く青年の顔を確認し、アデルはイースターランでの出来事を思い出す。
そして記憶に残る赤衣の青年の名前を口に出そうとしたが、その途中で事態が動いた。
竜機兵はバルカンが擬人化したことで標的を見失ったが、止まることなく街の前まで迫っていたのだ。
「平伏せ、下郎が!」
足の裏で爆炎を生み出し、それを推進力に飛翔したバルカンが竜機兵の鼻先に蹴りを叩き込む。擬人化して力が足りない分は、足裏で爆炎を生み出してブーストする。
ドッ、ゴッ、という凄まじい轟音があった。
バルカンの蹴りで竜機兵の巨体が崩れ、隣にいた機体と共に横倒しになる。膨大な量の土砂が巻き上がり、砂塵が街へと降り注ぐが、竜機兵はギリギリ街の前で停止した。
一連の攻防で発生した土砂や衝撃波からアデルと幼子を庇いながら、バルカンは再び炎を生み出して着地の威力を殺す。
「バルカンさん、キラーズだったんですか!? あれ? でもイースターランではキラーズのこと知らないって、確かお姉さんのアンセスさんが……。というか、今手から炎を出しませんでしたか!? 魔法みたいに!」
「ええい、質問が多いぞ貴様! まず我をキラーズなどと……」
――敵意。
続く言葉を飲み込んで、バルカンは高速で振り返った。
未だに残る砂塵を突き抜け、全身の肌が焼け焦げて無残な姿となったあの狂人が飛び出してくる。
龍形態の時は人間などみんな小さく見えていたが、いざ擬人化すると狂人の体格に驚かされた。
少なくとも2メートル30センチはあるだろう。
「見ィつけたぜェェエエ、モンスターァァァァッ!!」
涎を撒き散らし、血の涙を流しながら、それでも哄笑を上げて狂人が迫る。
その姿にバルカンですら気圧されて後退り、ゾンビ同然の姿にアデルが悲鳴を上げた。
使い物にならなくなったと判断したのか、狂人の手にあのヘヴィボウガンはない。代わりに鉄塊同然の巨大なハンマーが握られている。
「貴様、なぜ擬人化した我の正体を!?」
「目の前であのデケェ鉄のバケモンを蹴り飛ばしといて、人間のフリなんぞ出来るわけねェだろォ!?」
擬人化とは一種の擬態だ。
カメレオンが体色を操作して風景に溶け込むように、ルーツ達『禁忌』は人の姿に化けて相手を欺く。
しかしソレも、人外のような動きを見られていれば意味がない。
狂っているくせに意外と観察眼のあるキラーズ(?)に舌打ちしながら、紅蓮の龍の化身は振り下ろされる鉄塊を受け止める。
「ぐ……!?」
「オラオラオラ、どうしたァ!? やっぱり小さくなると弱くなるのか、アァ!?」
ハンマーを受け止めたバルカンが膝上まで地に埋まり、戦力差が縮まったことに気づいた狂人が勢いを増す。
バルカンも両腕でガードするが、擬人化した状態では身を守る龍鱗はない。防御力が低下したことで、僅かにだがダメージが入った。
知人が目の前で鉄塊で乱打されるという凄惨な光景に、アデルは言葉も出せずに震え上がる。
「どうせ人に化けるならよォ! 地味メガネより、色気のある美女にでもなってくれや! 男より女をぶっ叩いた方が楽しいだろ、なァ!?」
「あまり調子に乗るなよ、下等生物が!」
「お、ぶ……ッ!?」
ハンマーによる連撃の隙を突き、反撃に出たバルカンの拳が狂人の腹部を殴打する。肋骨がまとめてへし折れる音が響き、狂人の口から吐瀉物と共に赤色の液体が撒き散らされた。
2メートル超えの大男が吹き飛び、50メートル先にある家屋に激突して姿が消える。
手応えあり。
敵対者の排除を確信し、バルカンは背後にいたアデルへと視線を移す。
「……おい、いつまで蹲っている。一応は姉上に友人だと認められているのに、その無様な姿はなんだ」
そう声をかけながら立たせようと伸ばしたバルカンの腕を、アデルば震える手で握った。
「逃げてください! 今の人、あの程度じゃ……!」
「なにを……」
「バルカンさんが倒した今の人はキラーズじゃありません! 5年前に王都で100人以上の女性と、自分を逮捕するために派遣された憲兵を全滅させた『不死身』の連続殺人犯――ヴァルフラム・ベッカーです!」
「不死身……だと……?」
アデルの言葉に、バルカンが眉を顰めた瞬間。
背後から、バルカンの頭部にあの鉄塊のようなハンマーが振り下ろされた。防御力が大幅に下がっている擬人化で不意打ちを受けたバルカンの視界がブレて、軽度のスタン状態となってしまう。
膝をついたバルカンを見下ろすのは、既に死に至るほどのダメージを受けているはずの狂人だ。
「イ〜い拳だったぜ。アァ、タマンねぇな……!」
「…………、……」
『禁忌』の龍が、言葉を失った。
筋肉に覆われたその腹部に先ほどのバルカンの打撃の後をしっかりと残しているが、やはり狂人に揺らぎはない。
改めて焼け爛れた狂人の体を観察して、バルカンは目を見開いた。
「まさか貴様、あの時わざと竜機兵のブレスを受けたのか? 我の粉塵爆発で負った傷を、焼いて止血するために……!」
「あ、アー? モンスターのクセに頭イイじゃねェか。大・正・解ッ!」
笑顔で、狂人がハンマーを真横に振り抜いた。
バルカンは咄嗟に腕を立ててガードするが、膝をついた状態のせいで踏ん張りが利かずに吹き飛ばされる。
すぐに地面に手をついてブレーキをかけ、追撃に備えるために顔を上げて。
「お、ォ、なかなかキレイな顔した女がいるじゃねェか。獄中じゃ禁欲生活だったからなァ」
「ひっ」
こちらを無視して、獣欲で濁った目でアデルを見る狂人の姿があった。
バルカンの額に青筋が浮かぶ。
生態系の頂点。絶対強者。この星に生きる全ての生命に畏怖されるべき、龍の王。
『禁忌』の一角。
紅龍ミラバルカンを前に、獣欲に釣られるほどの余裕がある?
それは、バルカンの怒り状態を誘発するのに十分すぎるほどの挑発となった。
「随分と侮ってくれたな、ニンゲン」
紅玉の瞳に光が宿る。
封印されていた龍脈の一部分が解放され、擬人化が崩れてバルカンの頬に龍の鱗が浮かび上がった。
犬歯が伸びて牙となり、そのアギトから炎が生まれる。
「あ? 急にキレやがって。もしかしてテメェ、バケモンのクセして人間の女に惚れ」
――直後、炎を纏ったバルカンのアッパーカットが狂人ヴァルフラムの顔面を打ち抜いた。
加減なし。
古龍すらも屠る、紅龍の一撃が炸裂する。
「ぼ、はぁ、お お、ごおおおおぉぉッッ――……!?」
獣のような絶叫が響き渡り、狂人が天高く打ち上げられる。
それを追って跳躍したバルカンは空中で擬人化を解除し、狂人に向けて尻尾を一閃。
狂人の右足と右腕があらぬ方向へと捻じ曲がり、ばきんゴキンッ、という致命的な音が木霊する。
そして『不死身』の異名に相応しい生命力を見せた狂人は、地平線の彼方へと姿を消した。
――その代わり、擬人化を解除したバルカンに反応する敵が目を覚ます。
『ギ、ギ、ザザザザザザザザザザッ!』
(ふん、コイツらには擬人化が有効だったな)
沈黙していた竜機兵が再起動したのを見て、バルカンは苛立ちを露わに龍脈を収束させる。
竜機兵は単体ではそれほど強くないが、中途半端に倒すと爆破機能が作動して辺り一帯が消し飛んでしまう。それを防ぐためには木っ端微塵にするか消滅させるしかないのだが……。
街の方へと視線を移せば、未だに呆然と座り込んでいるアデルが目に入る。これほど手間をかけたのに、アデルが死ねば意味がない。
先手必勝。
竜機兵が完全に起き上がる前に、その背中を後脚でガッシリと掴む。そしてもう1機の首元にも喰らい付き、渾身の力で翼を動かす。
――山が、浮いた。
70メートルの巨体を誇る竜機兵を2機同時に拘束し、バルカンは飛翔する。
爆破を防ぐには、もはやこれしかない。
(お、おお、おおおおおおおおおおッ!)
全身に紅蓮の炎を纏いながら少しずつ加速して、暴れる竜機兵を押さえ込みながら雲の上にまで到達した。
「グルオオオオオオオオアアアアアアアアアッ!!」
まずは咆哮と共に火球ブレスを放ち、咥えていた竜機兵をブレスの威力で吹き飛ばす。そして空中でバク転し、先に吹き飛ばした竜機兵を狙って次の機体をぶん投げた。
空中で70メートルの巨体同士が衝突。
肉と肉、鉄と鉄がぶつかる凄絶な音を聞き届けて、バルカンは全力で龍脈を解き放つ。
――チャージブレス。
真紅の光が空を染め、太陽を想起させる超高熱が陽炎のように空間を歪ませる。
そして、紅蓮の炎が空を焼き尽くした。
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「綺麗……」
真紅の龍。
ミラバルカンが放つ最大の一撃は、地上から見上げると突如として空に現れた赤い星のようだった。
自然の理に背いた人類の罪を浄化する、裁きの炎。
それは。
結果的に紅龍によって狂人から救われた少女の赤色の瞳に、決して消えない光として焼き付いた。
【竜大戦/初戦/戦況レポート】
・祖龍VS竜機兵VSフランシスカ
・黒龍VS竜機兵&シエル・アーマゲドン
・煌黒龍VS竜機兵&フーゴ・ヒルデブラント&アレクシア・ディートリンデ
・紅龍&アーデルハイトVS竜機兵&ヴァルフラム・ベッカー
※お知らせ
どうしても3話目だけ今日の19時に間に合わないので、22〜23時頃に更新になると思います。
ご容赦を。
3話目はようやく主人公視点に戻ります。
大切なものは――
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更新速度ではない、質だッ!
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質ではない、更新速度だッ!