ピー、ピー、と。
私のブレスを浴びて頭部を失った竜機兵が、規則正しいリズムで電子音を鳴らす。
無機質なその音は、周囲一帯を吹き飛ばす大爆発までのカウントダウンでもあった。
正面にフランシスカさん、足元には大爆発寸前の竜機兵が。
……やばい、どうしよう。
ぶっちゃけ、私は竜機兵の爆発は耐えられる。
フランシスカさんとの戦闘でかなりのダメージは受けてるけど、傷はどれも浅くて深手はないからね。
だけど問題は、竜機兵の自爆は火属性だということ。
そう、ロボットのお約束みたいな自爆機能のくせに爆破属性じゃない。
原作のボレアスの粉塵爆発じゃん……。アレも爆発って言ってるくせに実は火属性だし。
とにかく、不利属性の攻撃はあまり受けたくない。
目の前にフランシスカさんがいるのに、苦手属性の攻撃を受けたら一気に不利になるし。隙を晒すことに繋がるし。
だけど爆発を阻止しないと、周囲一帯が吹き飛ぶ。
無事で済むのは私とフランシスカさんくらいで、他の人は間違いなく死ぬでしょう。
大穴の中に戻ってくれたら助かるかもだけど、あの人達は我先にと前に侵入した街でも見た「車モドキ」に乗って逃げて行くし。
たとえイコールドラゴンウェポンなんて最悪な物を作った人達でも、私は見殺しに出来るほど非情にはなれない。
龍と人。
未だにどっち付かずで、中途半端。
我ながら優柔不断で情けないけど、前世は平和な日本で暮らしてた女子高生なんだよ。
弱肉強食のルールの下に狩りをするならともかく、それ以外の理由で人間を虐殺出来るような神経は持ってない。
どうすれば…………ん?
龍脈の流れが大きく乱れた。
かなり離れた場所だけど、誰かが凄い量の龍脈を一気に収束している。
何故か無表情で動く気配のないフランシスカさんに注意を払いつつも、龍脈が乱れている方角へと視線を動かす。
祖龍の視力は天体望遠鏡にも匹敵するからね。
どれだけ離れていても、遮蔽物さえ無ければ視認することが出来る。
……って、バルカン!?
信じられないことに、ラオシャンロンにも負けない巨体の竜機兵を2機同時に拘束して飛翔してる。
え、ええー?
流石に私達『禁忌』でもそれは難しい……あ、そうか、あの炎で推進力を確保してるんだ。ロケットと同じ原理かな。
確かにそれなら重い物を持っていても、ハイスピードを保ったまま飛ぶことが…………それだ!
足元に横たわっている竜機兵を後脚で掴み、バルカンを真似て一気に上昇する。
フランシスカさんの妨害があるかもと思って迎撃の用意してたけど、何故かあっさりと離陸に成功した。
あの人ちょっと様子がおかしかったけど、何かあったのかな?
いや、今は竜機兵に集中しよう。
フランシスカさんから受けた傷から出血し、空中に赤い軌跡を残すのも無視して加速する。
お願い、まだ爆発しないでよ……!
鳴動まで使ったので竜機兵を抱えた状態でも音速の壁を突き破り、かなりの短時間で雲の上まで辿り着いた。
よし、これで地上にまで爆発は届かない。
後はどうにかして、私自身もこの竜機兵から離れることが出来ればオッケーだ。
……どうにか、して?
このまま竜機兵を放したら、落下して地上がドカンだ。
チャージブレスでの破壊は……ダメだ、時間がかかる。間に合わないかも。でも一応は準備しとこう。
後どれくらいで爆発するか分からないから困る。
1秒後? 10秒後? 100秒後!?
もう爆発時間が間近なことに賭けて、思い切りぶん投げてみる? もう他にこの竜機兵をどこか遠くに飛ばす方法は思いつかないし。
いや、待てよ。
アルンとの戦いで強化された今の私なら、磁力の操作を使えば何とかなるかもしれない!
念のためにチャージブレスの用意もしつつ、レーダーを最大範囲まで拡大する。
サーチするのは、私がいる天空よりもさらに上。
宇宙空間だ。
普通のヤツじゃダメだ。
この星に近くて、しかも多量の鉄を含んでいるモノ……あった! 鉄隕石!
最大出力で磁力を放出。
ご都合主義展開もびっくりなほど早く見つかった鉄隕石をS極に、竜機兵が纏う鉄の鎧をN極に!
龍脈解放、磁力最大!
いっ、けえええええええええっ!
空中でバク転し、後脚で掴んでいた竜機兵を放り投げた。
私から離れた竜機兵は鉄隕石が放つ磁力に引き寄せられて、凄い速さで宇宙空間へ吹っ飛ぶ。
成層圏を突き抜けて、竜機兵と鉄隕石の距離が半分ほどになった頃。
起爆。
空の彼方がオレンジ色に光り、粉々になった竜機兵が流れ星のように落ちて行く。
あ、あっぶなー。
自爆まで本当に秒読み状態だったっぽい。
ちょうど今になってチャージブレスの用意が整ったから、こっちの方法だと間に合わなかったよ。
本来ならバッテリーに蓄積された紅雷を使って予備動作が無しで撃てるけど、フランシスカさんとの戦闘で切り札の『真・帯電状態』を解放してバッテリーが空っぽだったからねー。
それと、運良くこの星の近くを漂っていた鉄隕石に敬礼だよ。
普通の隕石だと祖龍が放つ磁力でも、S極の役割を果たしてくれなかったし。
とにかく、これで竜機兵は倒した。
北、西、南方向からも弟妹達が私の所に戻ってくる気配があるし、他の竜機兵も全て倒せたらしいね。
……はぁ、ここまで長かった。
いきなり竜機兵が出現した時はどうしようかと思ったけど、弟妹達のおかげで何とか生体兵器は殲滅出来た。
もうぶっちゃけ休みたい。
精神的にも、肉体的にもぐったりだよー。
今ならゴツゴツした地面の上でもぐっすり眠れそう。祖龍に転生してからは心労がヤバいわ。
でも、残念なことに休んでいる暇はない。
竜大戦が、始まった。
この事実だけは覆らないからね。
竜機兵は早い段階で全て壊すことが出来たけど、人間達は他にも色々な兵器を有している可能性がある。原作知識にある古代文明はこの程度じゃないし。
その辺りはララが対応してくれると思うから、他の兵器の情報入手はあの子に任せよう。
とにかく、今は弟妹達と自分を褒めよう。
頑張った! 偉い!
後は悪化する竜機兵に向けて『天秤』になるキラーズの捜索と、私達『禁忌』以外にも龍側の戦力が欲しいよね。
まぁ、とにかく竜機兵は止めたんだ。
私達に1日で破壊されたんだから、人間達もモンスターに効果は薄いと判断してこれ以上は竜機兵を作らないだろうし。
この猶予時間の間に、出来るだけ準備を。
そう考えて下を見た私は、自分がどれだけ甘かったのかを思い知ることになった。
たとえ祖龍の体と力があっても、私は所詮は平和な日本で生きてきた女子高生なのだと。
頭が良いとか悪いとか、メンタルが強いとか弱いとか。そんなことは関係ない。ただ純粋に理解が足りていなかった。
『戦争』というものがどれだけ残酷で、悲惨で、絶望的なのかを分かっていなかった。
モンハン史上で最悪の戦争――『竜大戦』が始まった。その意味を本当に理解することが出来ていなかったんだ。
雲より上の高さを飛んでいた私。
その2000メートルほど下の空域を、数えるのが嫌になるほどの竜機兵が埋め尽くす。
100や200じゃない。
数千単位の竜機兵がシュレイド王国だけでなく、世界中の国々からその姿を現した。
火球ブレスが森を、川を、平原を、山脈を、自然を焼き払い、大陸が火の海に沈んでいく。
竜機兵による空襲。
それは、どうしようもない蹂躙だった。
G級個体のシェルレウスやワイバーンレックスのような飛竜でも、あれだけの数の竜機兵が相手だと何も出来なくて当然だ。
『禁忌』にとっては雑魚でも、天災に匹敵する古龍種に食い下がれるほどの性能があるのだから。それが蟻のように群れて、数の暴力で攻めてくるんだ。
抵抗することすら出来ないに決まってる。
世界が焼け落ちる。
戦争だ。
天変地異とまで言われた、竜大戦だ。
……ダメだったのかな。
『私』は、祖龍の器に相応しくなかったのかもしれない。
原作の祖龍を追い越せるくらい強くなろうと、毎日努力した。自分の可能性と向かい合って、沢山の技も開発した。弟妹達に失望されないように私なりに頑張った。
でも、全部が甘かった。
これだけの竜機兵が作られていることにも気づかず、たった12機だけ破壊して危機を乗り越えた気になっていた。
それで、このザマだ。
私なんて間抜けが祖龍として生まれたせいで、数え切れないくらいの生命が奪われていく。
それ以前に、何万体の竜が虐殺されて竜機兵の素材にされた?
私のせいだ。
龍にも人にも振り切れず、中途半端で、目の前にあることしか見てなかった。
何が人とモンスターが共存する世界を作りたいだ。
弟妹達の前で大見栄を張ったのに、あれからたった7日で世界は炎に包まれた。
それでも、私なら。
祖龍の力を本気で発揮すれば、この竜機兵の群れを殲滅できる。
だけどこれだけの数を破壊するには1日や2日じゃ足りない。その間にどれだけの命が奪われる?
広範囲を破壊する技を使えば短時間で殲滅できるけど、私自身がこの星を滅ぼしてしまう。
これだけの数の竜機兵の製造を許した時点で、私の負けだった。
『『ギギガガガガガガガガガガガガガガガッ!!』』
耳障りな金属音が響き渡る。
私の存在に気付いた3体の竜機兵が上昇してくるのが見えたけど、迎撃する気力も湧いてこなかった。
それでも外敵を察知した本能がゆっくりと雷球ブレスの予備モーションに入って。
「―――――――――ッ!!」
大気を震わせる、鋭い咆哮があった。
「ソレ」は空の彼方から姿を現すと、竜機兵のマッハ7を上回るほどの速さで飛翔する。
一直線に。
恐れることなく。
それはまるで彗星のように、竜機兵の巨体へと突撃した。
『――ザザザザザザザザ!?』
ノイズのような断末魔。
信じられない光景があった。
頑強な竜鱗の上からさらに鉄の鎧を纏い、高い防御力を誇る竜機兵。
――その巨体に、風穴が空いた。
その速度から生まれる破壊力で、容易く竜機兵の体を「貫いた」その彗星。
私は「ソレ」を、知っている!
銀色に輝く鱗に覆われた流線型の体躯と、極めて特異な進化を遂げた巨大な翼脚。
天空を駆け抜けるその
翼の先端から放たれる真紅の光は、強大な龍属性を宿すこのモンスター固有のエネルギー。
『龍気』だ。
決して抗えぬ運命の証、大地を絶望に染め上げる凶兆、絶望と災厄の化身と恐れられるが、その最大の異名こそは『銀翼の凶星』!
さぁ、最速の古龍種の名を叫べ。
人はその彗星を、天彗龍バルファルクと呼ぶ。
「―――――――――ッ!!」
銀翼の凶星が空を舞う。
翼から放たれる膨大な『龍気』が赤い尾を引き、彗星のように再び竜機兵へと突撃する。
そして、貫通。
竜機兵の体に穴を空けて旋回するバルファルクのアギトには、脈動する心臓のようなモノが咥えられていた。
すっご……!
あの貫通、デタラメにやってるんじゃない。
正確に、竜機兵の内臓を抉り取っているんだ。
転生してから初めて見る本物の古龍種の迫力に見惚れていると、銀翼の凶星は私に向かって自慢げに笑った。
やっばい、めっちゃカッコいい。
これは惚れるわ。
だけど、これで終わりじゃなかった。
私の眼下で、今度は紫色の光が爆発する。
私とはまた違う色合いの光を放つ純白色の外殻と、身体を覆い隠すほどの巨大な翼が特徴的なその龍。
紫色の光を浴びた竜機兵はいきなりアギトから泡を吹き、不気味なオーラを放って暴れ狂う。
仲間であるはずの他の竜機兵に襲いかかり、次から次へと、まるでゾンビのように紫色のオーラが伝搬していく。
“天を廻りて戻り来よ”。
数多のモンスターを狂わせる、天空山の神。
天廻龍シャガルマガラが、その猛威を存分に振るう。
続いて雲が空を覆い、私でも気を抜くとバランスを崩すほどの暴風が発生した。一瞬で巨大な竜巻が無数に発生し、竜機兵を引き裂いて大地へ落とす。
鋼龍クシャルダオラ。
鉄とは比較にならないほど美しい黒銀色の外殻と、強靭な四肢を持つ古龍種の代表格だ。
その背後から、クシャルダオラと同じく暴風を従える龍が現れる。
霊峰に棲む“天の神”。あるいは“暴風と竜巻を従える龍”。
舞うは嵐、奏でるは災禍の調べ。
嵐龍アマツマガツチが激流ブレスを放ち、竜機兵を2機まとめて両断した。
終わらない。
大自然の反撃は、まだ終わらない。
陽炎龍、煉獄の主、炎帝。
様々な異名を持つ炎王龍テオ・テスカトルが、王妃であるナナ・テスカトリを伴って現れる。
竜機兵を焼くのは、紅蓮と蒼白の炎。
MHWでも多くのハンターを魅了した美しい連携攻撃が、生体兵器に鉄槌を下した。
大海原を割って、大海龍ナバルデウスが。
山脈の合間から、蛇王龍ダラアマデュラが。
砂漠の彼方から、峯山龍ジエン・モーランが。
樹海の奥地から、幻獣キリンが。
原作ゲームで私がハンターとして激闘を繰り広げてきたあの古龍達が、次々と竜機兵を叩き落としていく。
今まで姿を見せなかったのは、この時のために力を温存していたと言わんばかりに。
多種多様な古龍が、竜機兵へと牙を剥く。
あ、え、ええ!?
凄い、凄いけど、どうしてこのタイミングで、示し合わせたみたいに!?
竜機兵と古龍の激闘を眺めていて分かったけど、古龍種同士では絶対に争いが発生していない。
MHWでも、古龍種は縄張り争いをしていたのに。
あり得ない光景だった。
だけど、そのあり得ない光景を作り出した龍がいた。
『聞け、この星に生きる全ての龍よ! 本来は互いに命をかけて争う敵同士であっても、今は我らが始祖のためにその力を振るうが良い!』
『禁忌』の5番目。
竜機兵の他に兵器がないか確認するために、シュレイド王国へ向かっていた私の末妹。
煉黒龍が、ナバルデウスの隣から海を割って現れた。
『偉大なる姉上より与えられた我が名はグランミラオス。忌まわしい竜の贋作を滅ぼす、王の1人である!』
元孤島・現岩場で見せたあの大人しいララからは想像もできない凛々しい言葉(人にはただ咆哮しているようにしか聞こえない)に、私はついに驚ける限界を超えた。
呆然とララを見ていると、私に気付いたララは擬人化して、ナバルデウスの頭に着地。
そして私に向けて、渾身のドヤ顔と共にピースサインをしてみせた。
あ、あはは……。
嘘みたいでしょ?
ナバルデウスの頭の上でドヤ顔ダブルピース決めてるあの幼女が、この古龍達を呼び寄せたグランミラオスなんだよ?
ボレアスもバルカンもアルンも、本気になった時は『禁忌』の威厳みたいなのが発揮されてたけど……。
ララも例外じゃなかったってことかな。
まだ、終わってない。
私にはまだボレアスが、バルカンが、アルンが、ララが、そして共に戦ってくれる古龍種達がいる。
これなら、竜機兵は殲滅出来る。
――次は、
これにて第1章が終わりました。
次回から第2章です。
大切なものは――
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更新速度ではない、質だッ!
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質ではない、更新速度だッ!