ララを背中に乗せた私は古龍が大集合したあの平原から僅か数分で、目的地である王都の上空まで来ていた。
擬人化していてもグランミラオスだからねー。
普通の人を背中に乗せてる状態で音速を超えたら大惨事だけど、ララなら私も遠慮なくスピードが出せる。
そのおかげで、あっという間に到着する事が出来た。
フランシスカさんの気配は……うん、王都には滞在していないかな。
あの人には私が擬人化した姿がバレてるし、そうでなくても接近すると感知されそうで怖い。
短期間に何度も命のやり取りとか普通に嫌だわ。
だけど王都はキラーズの本拠地だから、少なからず強い人間が滞在しているでしょう。
油断は厳禁、だね。
それにしても警備が厳しい。
王都の周囲は平原だけど綺麗に道路(?)が整備されているし、かなりの数のキラーズや兵隊が巡回してる。
擬人化しても王都に入り込むのは難しいかも。
『ねぇ、ララはどうやって王都に入ったの?』
「擬人化して巣の周りを警備してる人間に話しかけたら、フツーに入れたよ?」
あー、なるほど。
擬人化したララは完全に幼女だから、私よりも警戒されないのか。
まさか最強クラスの古龍種がロリっ子に化けてるなんて誰も考えないだろうし。
幼女が1人で外から王都に来るのは少し怪しいけど、今はモンスターの襲撃で街が壊滅した事例もかなりありそうだからね。親を亡くした可哀想な難民の幼女だと思われて、保護されたのかも。
そうなると、ララと同じ方法を試すのはダメっぽいね。
警備している兵隊の中にララの顔を覚えている人がいる可能性もあるから、結構リスクが高そう。
うーむ、どうしたものかな。
「お姉ちゃん、ここから飛び降りたら簡単に入れるよ?」
マイシスターよ、私達がいるのは高度約1万メートルの上空だから。
この高さから紐なしバンジーしたら、擬人化状態だったとしても着地の時に周囲に凄い被害が出るからね?
空から少女だけじゃなくて幼女まで降ってきたら、空に浮かぶお城がメインの某映画の主人公もパニックでしょうに。
……いや、待てよ。
裏を返せば着地さえ何とかすれば、紐なしバンジー作戦はアリじゃない?
「あの、フワフワ浮かぶ力は?」
鉄製品があれば磁力を応用して浮力を得られるけれど、擬人化した時に自動で出現するドレスワンピースには鉄がないし……。
「じゃあ翼だけ残して擬人化すれば良いと思う」
……。
あー、あー、うん。
思いついてたよ?
もちろんお姉ちゃんもその方法を考えたけど、念のためプランBも用意しておこうかなーって。
でもずっと考えているのも時間の無駄だから、今の方法でさっさと王都に侵入しよっか!
私は翼だけ残して擬人化を行い、ララをお姫様抱っこして落下開始。
生身でのスカイダイビングを楽しみつつ、私は高い視力を活かして王都の中で人がいない場所を探る。
「ララ、兵器リストがあった場所は?」
「あそこ……お城の前にある大きい建物」
アレか。
原作ゲームでは黒龍ミラボレアスの専用ステージとして登場したシュレイド城。
ララが指差したのは、城の前にコの字を描いて建ち並ぶ施設の1つ。
対モンスターの決戦兵器を開発しているんだから、警備はかなり厳重でしょうね。それに開発施設(仮称)の隣の建物は、恐らくキラーズの本部だ。
全力で気配を殺せば大丈夫だと思うけど、キラーズ本部にフランシスカさんに匹敵する実力者がいたらバレる。
目視なら私も相手の力量を見抜けるけど、レーダーだと敵の強さまでは測定出来ないからねー。
「お姉ちゃん、あの建物に侵入してどうするの?」
「中にある兵器を全部ぶっ壊して、ついでに開発データも消すよ。そうすれば人間の戦力は激減するだろうし」
「作った人間はいいの? どれだけ壊しても、作る人間がいたら意味ないよ?」
「……あの兵器を考案・開発したバカは絶対に許さない。龍の始祖である
「……ん」
いよいよ地面が迫ってきたので会話を1度区切り、私は翼を広げて着地の準備に入る。
着地場所は、兵器開発施設の屋根の上。
最初は路地裏とかに降りることを考えていたけど、もうダイレクトに侵入するのが早いでしょう。
施設はかなり大きいから、屋根の上に着地すれば人目につかないはず。
3、2、1、着地。
自由落下の勢いで屋根に激突する前に翼を軽く動かして静かに着地した。
「お姉ちゃん、どうやって入る?」
「天窓は……ないか。よし、使えそうな入り口はないから作ろう」
翼を消す代わりに右腕の擬人化を解除し、前脚の鉤爪で屋根を一閃。頑丈な屋根を正方形にくり抜いて、私がギリギリ通れるくらいの侵入口を強引に作り出す。
「ララ、下に人は?」
「気配、ない。大丈夫そう」
「おっけー、行こうか」
完全に擬人化して、私は作ったばかりの侵入口から入り込む。
中に入ると、そこは床も壁も白い廊下だった。
ララの言う通り近くに人の気配はなく、長い廊下は静寂に包まれてる。
「バイオ◯ザードに出てくるウイルスの研究施設じゃん。確かに会社は同じかもだけど、もうちょっとモンハン要素が欲しいなー」
「バイオ……?」
「ただの冗談だよ。だけど油断したらレーザーでサイコロステーキにされるかもだから、気をつけてね」
「……? 分かった、とにかく気をつける」
まぁ、レーザーカッター程度じゃ私達には1ダメージも与えられないけどね。
今回は一応スパイみたいな隠密行動するつもりだから、警備システムには注意が必要だけど。
宣戦布告する前は派手に攻撃するつもりはないし。
ララと一緒に長い廊下を駆け抜けながら、私はレーダーを展開して頭の中に施設のマップを作る。
……うーわ、めっちゃ複雑だ。
侵入者の対策の1つとしてわざと複雑にしてるんだろうけど、これだと職員も迷うでしょうに。
この研究所の所長は間違いなく用心深い性格だ。
「お姉ちゃん、正面にドア」
「うん、見えてる。……電子ロックとか世界観が壊れるからやめて欲しいなぁ」
排気ガスばら撒きながら車が走っている時点でモンハンらしくないけどさ。
私は『モンスターハンター』の自然と人間が共存してるあの風景が好きだから、ここまでバリバリに科学だと少し悲しい。
いや、文明が発展するのは素晴らしいよ。うん。
「このドアどうする? これも壊す?」
「うーん……まぁ、騒ぎになる前に全て終わらせたら良いか」
分厚い自動ドア(?)の隙間に指を入れて、龍の腕力で無理やりこじ開ける。
「あれ? アラートも何もない? てっきり無理やり開けたらお約束みたいに廊下の電気が赤くなって、アラートが鳴り響くと思ったんだけど……」
「お姉ちゃん!」
ララの声に反応して、私は妹を抱えて咄嗟に跳躍。
貫手で高い天井を貫いてぶら下がるのと、遠くからバタバタと足跡が聞こえてくるのは同時だった。
うーわ、そういうことか。
大音量でアラートを鳴らせば侵入者も自分がバレたことがすぐ分かるけど、何も起きないと大丈夫だと思い込む。そしてまだバレてないと油断している侵入者のところへ、警備隊を送り込むって訳だ。
レーダーは施設のマップ形成に注力してたから、ララの注意が無かったら接敵に気づくのがワンテンポ遅れてたね。
『おい、誰もいないぞ!?』
『そんな訳ないだろ! 近くを探せ、絶対に誰かいるはずだ!』
そんな会話をしながら、手にゴツい銃器を持った男達が私の下を走り抜けて行く。
セーフ。
「ララ、今の人間達が戻ってくる前に進もう」
「道、分かった?」
「もちろん。マップは完成したよ」
天井から手を引き抜いて廊下に降り、ドアを抜けて再び施設内を駆け抜ける。
侵入者がいることがバレたので遠慮なく行手を塞ぐドアを遠慮なく破り、警備隊はマップの作成が完了して本来の性能を取り戻したレーダーで悠々と躱す。
途中で監視カメラみたいな物も見つけたけど、私は全てのモンスターの中でトップの雷属性の持ち主。お馴染みの紅雷でショートさせて完封。
屋根を破壊して侵入した関係で最上階からのスタートになったけど、十数分で兵器が保管されてるらしい地下1階にまできた。
順調だけど、警備隊が接近する度に隠れるのが怠い。
オオナヅチみたいに透明化の能力があれば簡単だけど、ミラルーツにそんな便利な力はないからねー。
というか、生態系の頂点に立つ存在に姿を隠す必要とかないし。
おっと、また人間が近づいてきた。
「えっと、どこに隠れようかな……」
「ん!」
私のドレスワンピースの裾を引っ張って、ララが近くにある部屋を指差す。レーダーで確認すると、物置部屋らしい。
ララが本当に有能な件について。
妹の対応力に驚愕しつつ、物置部屋のドアを開けて音を立てずに中へ入る。
うわ、埃っぽい。
ザッと高校の教室くらいの大きさの物置部屋を見渡すと、ジャンク品や鉄屑が山積みにされていた。
兵器開発の過程で発生したゴミをこの部屋に放置してるのかな。
この部屋を調べたら何か収穫がありそうだけど、人間が近くにいる時に音を立てる行動は論外だ。
淀んだ空気に耐えながら、ララと一緒に部屋の中で人間が通り過ぎるのをじっと待つ。
あー、早く通り過ぎて欲しい……ん?
何ということでしょう、通り過ぎるどころか物置部屋の前で立ち止まるじゃありませんか。
レーダーがバグってないなら、誰かこの部屋に入ろうとしてる。
今日は厄日かもしれない。
まさかこのタイミングで埃まみれの物置部屋に用がある人とエンカウントするなんて。
私とララが慌てて鉄屑の後ろに隠れた瞬間、扉が開いて薄暗い物置部屋に光が差し込む。
入って来たのは、汚い物置部屋が最も似合わないような人物だった。
まるで、絵本の世界のお姫様。
差し込む光を浴びて輝く美しい青の髪に、強い意志の光が宿るサファイアの双眸。
水色のドレスに身を包む、びっくりするほど可愛い人。
だからこそ、彼女が持つ3メートル超えの巨大な武器は異色だった。
双刃刀。
もしくはツーブレーデッドソード。
漫画やアニメではたまに見るけれど、現実的な視点では実用性が乏しく架空の域を出ない武器なので、私が弟妹達には教えなかったロマンウェポン。
キラーズ……?
「この中に隠れているのは分かっているわ。大人しく出て来なさい、モンスター」
え、えぇ!?
何でここに隠れていることだけじゃなくて、私達の正体までバレてるの!?
思わずララと顔を見合わせるけど、スーパー有能な私の妹もバレた理由が分からず首を傾げる。
私達の擬人化を見破れる人なんて、明らかに人間の限界を超えているフランシスカさんくらいで…………あ。
『私に匹敵するほどのキラーズは1人しか知らん。むしろ私と同格の力があるキラーズなど、こっちが教えて欲しいくらいだよ』
反射的に思い出す、あの人の言葉。
まさか。
「……ララ、ちょっと
「ん!」
ララと一緒に目を閉じて、ゆっくりと目を開く。
それだけで私とララの全身から凄まじい殺気が放たれて、私達と同じ地下の1階にいた人が次々と失神する。
一般人なら気絶。
上位クラスのキラーズでも恐怖で心がへし折れるレベルの威圧。
「…………、……」
けれど、青の美少女は微塵も揺らがない。
それどころか今の威圧でこちらの力量と居場所を悟ったのか、私達が隠れている場所を狙って双刃刀を一振り。
……いや、正しくは一振りに見えただけだった。
擬人化した私の動体視力では、刹那の間に放たれた無数の斬撃を視認することも出来なかった。
2つの刃から繰り出された斬撃が、この空間を埋め尽くす。
大量にあったジャンク品や鉄屑が一瞬で粉々になり、私とララが隠れていた屑鉄の山が跡形もなく消え去った。
は、速すぎる。
1撃の威力こそ低いけど、速度はあのフランシスカさんすら上回ってる。
間違いない。
この青のキラーズこそ、人類最強のキラーズが認めた『同格』の存在。
「……ララ、下がって」
私より体の小さいララを部屋の奥に隠し、反対に私だけ姿を見せた。
すると青のキラーズはサファイアのような瞳を見開き、驚愕の表情で唇を震わせる。
「人の形をした、モンスター……!? 人間に化ける能力と、今の圧倒的な威圧。まさか貴女が、黒龍ミラボレアスの『姉』ですか!?」
「………………!?」
おかしい、絶対におかしい!!
ボレアスの存在と名前どころか、どうして初対面の私の素性までバレてるのよ!?
え、なに、実はずっと監視されてたの?
森の中で軍隊に襲撃されてからはずっとレーダーを展開してたのに、それすら掻い潜って!?
お、落ち着け私。
クールになれ!
相手のペースに巻き込まれたら終わりだよ。
たとえ情報戦で負けていても、絶対に余裕の態度を崩してはいけない。
私は祖龍ミラルーツ。
誰が相手でも、威風堂々と振る舞うべきだ。
ちょっと意味不明な速度で振るわれる双刃刀も注意し、私は微笑を浮かべてキラーズの前に立つ。
「初対面の相手に素性を尋ねる時は、まず自分から名乗るべきじゃない? あなたが希望するなら、私が礼儀を教えてあげても良いよ?」
「……結構です、こう見えても礼儀作法は一通り理解していますから」
挑発的な私の言葉に、しかしキラーズは表情を変えずに武器を構える。そして臨戦態勢のまま、名乗りを上げた。
「シュレイド王国の第4王女、シエル・アーマゲドン。……王族でありながらシュレイドの姓を名乗らないのは、私が現国王と妾の間に生まれた隠し子だからです。偽名ではないので、悪しからず」
マジで、本物のお姫様やん。
しかも訳ありで。
低評価爆撃+リアルの事情でボロボロになってたメンタルが少し回復したので、今日から少しずつ更新再開したいと思います。
待っててくれた皆様、ありがとうございます。
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大切なものは――
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