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……マズいことになった。
目的である対古龍種兵器を目前にして、シュレイド王国のお姫様と遭遇しちゃうなんて。
しかもお姫様は訳ありで、キラーズで、実力は最強格のフランシスカさんに匹敵すると。
あっはー、笑えねー。
さて、どうしようかな。
これから激化する竜大戦を考慮すると、ここでシエルと戦って大ダメージを受けるのは避けたい。
だから私が取るべき選択は「逃げ」の一択なんだけど、わざわざ王都に侵入して収穫ゼロってのもなぁ……。研究データの削除までは無理でも、既に製造されている兵器の1号機くらいは破壊したいよね。
まぁ、本当にフランシスカさんと同格なら逃げられるかも怪しいけど。
一瞬だけ、背後に視線を動かす。
シエルは私の存在に気を取られて、まだ部屋の奥にララが隠れていることに気がついてない。
状況は2対1。
さっきの双刃刀による超連撃は確かに脅威だけど、数で勝る私達の方が有利だ。それでも擬人化状態だと苦戦するだろうし、何より私達クラスの実力者が戦闘すると王都が吹っ飛ぶ。
人類最大の国を潰して大量の死者を出したら、それこそ人と龍が共存する未来は完全に途絶えるでしょう。
必死で思考を巡らせる私の前で、シエルが口を開く。
「私は自己紹介しました。次はあなたの番ですよね、黒龍の
「今はアンセスって呼んで欲しいな、お姫様?」
かなり焦っていることを隠すために作り笑いを浮かべ、余裕の態度を演出して言葉を返す。
相対する私とシエルの距離は2メートルほど。
既にお互いの間合いの内側、きっかけ1つで殺し合いが始まる。
「まだ私の問いかけに全て答えていませんよ、アンセス。私はあなたが黒龍の言う『ルー姉』なのかと質問しましたが?」
黒龍の言う、ルー姉……?
私をルー姉と呼ぶのは、弟妹達の中でもボレアスだけだ。
つまりシエルはボレアス自身から、私の存在を聞き出したってことになる。……いや、もしかしてボレアスが自分から話した?
それにシエルが擬人化能力も知っていたのは、ボレアスが擬人化するところを見ていたからじゃないの?
そこまで推測した私は、無意識のうちに心からの笑みを浮かべていた。
ボレアスは人間嫌いだ。
私と会話する時も「人間の言葉」は最低限しか発しないし、普通なら絶対に人間と会話しようとしない。
基本的にボレアスもバルカンもアルンも、人間を下等な生き物だと見下しているから。自然を破壊して、星の命を蝕む害悪とすら思っている。
だけど――、
「……シエル、1つだけ確認させて。あなたはボレアスと会話したの?」
「ええ、そうです。ルー姉という存在は黒龍自身の口から聞きましたし、人に擬態する能力も彼が見せたものです」
「そっか」
言い逃れはさせないと厳しい表情を作るシエルを見て、私は安堵から大きく息を吐いた。
本当に……、良かった。
ボレアスは見つけることが出来たんだ。自ら会話したいと思える「人間」を。
希望はある。
ボレアスが人間に価値を見出してくれたのなら、共存の道は明るくなる。『天秤』が1つ完成した。
「…………!」
フッ、と全身から力を抜いた私を見てシエルが驚愕に目を見開く。
まさか敵対している人間の前で、完全に戦闘態勢を解除するとは思わないよね。
「どういうつもりですか?」
「シエルと戦うのはやめようと思ってさ。そっちがやる気なら仕方ないけど、お姫様ならここで私と戦うのは無理だよね。ボレアスを見たなら、姉である私の力は想像できるでしょう? ここで私とやったら、王族が守るべき国民がみんな死んじゃうし」
「……穏便に済むのなら、私としても喜ばしいです」
そう言うと、シエルも双刃刀を下ろした。
ちょっと意地悪だったかも。
表面だけ見ると私はとても平和的な提案をしてるけど、裏を返すとそっちが攻撃したら国民を皆殺しにすると脅迫してるからね。もちろん本当に皆殺しにするつもりはないから、ハッタリなんだけど。
フランシスカさんには人質とか意味ないけど、シエルは一目で分かるほど善人だ。
王都で暮らす国民を人質にされたら、戦うのは無理だよね。
ちゃんとボレアスのお姉ちゃんってことは認めたから、それでチャラにして欲しい。
「賢明な判断をしてくれて嬉しいよ」
「抗戦の選択肢を奪った張本人がよく言いますね。それで、何が目的ですか?」
戦闘態勢こそ解除したシエルだけど、私を睨む青の双眸には警戒と敵意の光がしっかりと残っている。
うわぁ……変なこと言ったら、次の瞬間には首落とされそう。
こっそり龍脈を収束させて急所部分の擬人化を解除し、龍鱗で防御を固めながら私は口を開いた。
「イコールドラゴンウェポン、もしくは竜機兵」
「……!」
「知りませんとは言わせないよ。もちろんシエルが考案・開発した張本人だとは思ってないけど、王族のあなたにも責任はあるよね?」
そう言って私が睨むと、シエルは一瞬だけ目を伏せた。
「……竜機兵が龍の怒りを買ったことは承知しています。しかし人類は外道に落ちなければ、龍に勝てない」
「あんなものを作ったりしなければ、そもそも戦争は起きなかったよ。私達は人類を滅ぼすつもりなんて無かったのに」
「数え切れない人達が、モンスターの犠牲になりました。モンスターは強大で、今までの兵器では時間稼ぎにもなりません。打開策が必要だったんです」
「シエル自身が人類の剣でしょ? あなたとフランシスカさんがいれば、龍が相手でも勝てると思うけど?」
称賛混じりの私の言葉に対して、シエルが浮かべたのは自嘲の表情だった。
「王侯貴族達や軍人は、キラーズを良く思っていませんよ。科学が発展した現代で、旧時代の武器1つで戦うんですから。陰では『原人』だとか『野蛮人』とか……色々と罵られることも多い」
「実力も成果も出してるのに?」
「上に立っている人ほど、龍との戦いに詳しくありませんから。彼らは報告書でしか戦場を知らない。刀剣や大槌を持った生身の人間より、鋼鉄の兵器の方が信用出来るのも分からなくはありません」
……確かに、シエルの言う通りだ。
偉い人ほど安全な場所にいるからモンスターの被害とは無縁だろうし、竜の力を正しく理解してないでしょうね。
私も『原作』ハンターの知識やフランシスカさんと戦闘経験が無かったら、生身の人間がギャグみたいな戦闘力を持ってるとか信じられないし。
だって……ねぇ?
どう考えても、雷速に迫る速度で走ったりする人間とかおかしいでしょう。
モンハン世界の人類がいくら地球の人類よりも身体能力が優れているとしても、限度があるし。
やっぱりあの人おかしいわ。
「少し話が逸れましたね。それで、龍の始祖である貴女がどうしてここに?」
「あー、えーっと……」
少し考える。
嬉しいことにシエルはフランシスカさんと違って会話が成立するし、極端にモンスターを憎悪している訳でもなさそう。
シエルがキラーズとして戦ってるのは、あくまで王族の1人として竜から国民を守るためって感じだし。
もしかしたら、もうちょい交渉出来るかも。
「ねぇ、シエル。取り引きしない?」
「……内容を聞かないと何とも言えませんが」
「私の目的はこの施設の地下にある兵器の破壊と、竜機兵を作り出したクソ野郎が誰か調べること。協力してくれたら、今日は何もせずに大人しく帰る」
「話になりませんね、こちらが不利過ぎます」
まぁ、そうだよね。
これからの主力になる兵器の破壊と、対古龍兵器を生産できる人物を失うのは人類にとって大きなデメリットだ。
今ここで新兵器とその開発者の2つを失えば、その後に人類が受ける被害は王都の国民全員よりも増える。
何より、私が本当に暴れないと言う証拠もない。
……流石に無理かなー。
「これからの戦争で、私が一般人と投降した人は殺さずに見逃すって約束を追加してもダメ? 私だけじゃなくて、私の弟妹達を含めても良いよ」
言外に『禁忌』の力が齎す被害は分かってるでしょ? 少しでも減らしたいよね? って伝えるけど、シエルは首を縦に振らない。
証拠ないもんねー。
まぁ、シエルが取り引きに応じなくても一般人や投降した人は見逃すんだけど。
ララが持ち帰った「リスト」にある新兵器を使用すると、この星が滅びるってことを説明すれば協力してくれる可能性はある。
でもその為には龍脈エネルギーのことから説明する必要があるし、何もかも説明する時間は流石にない。私の侵入はもうバレてるから、そのうち増援が来ちゃう。
やばい、焦ってきた。
もうララにシエルの足止めを頼んで、私は強引に兵器を破壊するべきか?
もしくは――
「シエルが死んで欲しくない人には、手を出さないとか?」
「――っ」
反応があった。
普通なら気づかないほど小さな反応だけど、私はシエルが僅かに動揺したのを見逃さなかった。
間違いない、シエルには大切な人がいる。
それが恋人なのか、友達なのか、家族なのか分からないけど、シエルには自分の命よりも大事な人がいるんだ。
少し間を空けて、シエルが掠れた声を出す。
「私は、この国の王女です。私情で人類全体が不利になるような行いは出来ない」
……ダメか。
ここまで言って無理なら仕方ない、交渉は決裂だね。
ボレアスに悪いから戦うつもりは無かったけど、会話で決着が付かないなら仕方ない。
私は全身に真紅のスパークを纏い、応じるようにシエルも双刃刀を構える。
「シエルには悪いけど、押し通る」
「この身に流れる王族の血に誓って、私はあなたの目的を阻止します。……たとえ共倒れになったとしても、私1人の命で敵将を討ち取れるのなら御の字よ!」
直後、施設の床が爆ぜた。
私とシエルの踏み込みで瓦礫や鉄屑が舞い上がり、落下する前に空中で静止する。
時間が止まった訳じゃない。
私とシエルの意識が通常状態から戦闘へ切り替わったことで、体感時間が数段上の次元へとシフトしただけ。
容易く音速を超える私達は、1秒間で何十日分もの行動が出来る。
私とシエル以外が停滞した世界で、紅雷と双刃が交差した。
――神速。
双刃刀から繰り出される連続攻撃は速すぎて、全方位から斬撃が同時に襲ってくるようにしか見えない。
視神経の電気信号を加速させて動体視力を強化し、私は紙一重でシエルの連撃を回避していく。
跳躍し、宙空で身を捻り、視界を埋め尽くす斬撃の間の小さな隙間を通り抜けて、シエルの側頭部を狙って蹴りを叩き込む。
着弾。
足の甲から伝わる命中の感覚、しかしそれは人体の感触じゃない。
「チッ……!」
「…………ふッ!」
鋭い呼気。
ギリギリで私の蹴りを双刃刀で受け止めていたシエルが、カウンターの斬撃を繰り出す。
私はまだ空中で回避は無理。
だから私は、横一閃に振るわれるソレを口で受け止めた。
「な――、ぁ!?」
ガキンッという鈍い音と共に、私の牙に挟まれた双刃刀が止まる。
擬人化してても、私は祖龍ミラルーツだ。
捕食者の強力な武器である牙と咬合力は、擬人化状態でも十分に発揮されるんだから。
シエルが私の想定外の動きに動揺して生まれた隙を突いて、私は咥えている双刃刀を思い切り引き寄せた。双刃刀と共に近づいたシエルの腹部に、私は拳を放つ。
だけど青の狩人は空いている左腕でガードすると、反撃の膝蹴りで私の腹部を狙う。バックジャンプで膝を躱し、私は擬人化したまま強引に雷球ブレスを撃った。
真紅の雷光が薄暗い物置部屋を照らして、荒れ狂う紅雷がシエルに迫る。
擬人化で威力は低下してるけど、それでもG級の飛竜を一撃で倒せるほどの威力だ。被弾すれば大ダメージは免れない。でも回避すればこの研究所が崩壊するでしょう。
シエルに残された手段は、1つ。
「はああああああああッ!」
凛々しい叫びと共に、シエルが手の中で双刃刀を回転させる。
それはまるで、斬撃の結界。
刹那の時に放たれる無限の連撃が、私のブレスを跡形もなく消滅させた。
真紅のスパークがバチバチと空間に迸り、停滞した時間が今になってやっと動き出す。
最初の踏み込みで浮き上がった瓦礫や鉄屑が落下し、私とシエルの攻防で発生した余波で物置部屋が吹き飛んだ。
シエルの斬撃が壁や床に無数の亀裂を刻み、周囲の物が木っ端微塵に砕け散る。
常人や弱いモンスターなら、この場所に立っているだけでバラバラになって死んでいたでしょう。
それだけの破壊の嵐の中で、無傷の私とシエルが睨み合う。
――ここまで、1秒未満。
僅かな攻防で、私もシエルも互いの実力を確認した。
他の人や建物に被害を出さないように注意しながら戦うのは、かなり難しいね。
出来るだけ周囲に戦いの余波が出ないように気をつけてもこれだけの被害が出ちゃうし。
戦いにくい状況だけど、これはチャンスだ。
シエルは私が周囲に配慮するとは思ってないだろうから、私が放つブレスや紅雷を回避せずに相殺しようとするはず。王族の責任感と正義感が強いシエルなら、私以上に周りの被害を気にするでしょう。
それを考慮すれば、有利なのは私だ。
擬人化して低下しているスペックも、この状況ならカバー出来る。
問題は、本来の目的の達成だね。
シエルとの戦いは、お互いに手加減する必要があるからどうしても長引く。
時間稼ぎされると不利なのは私だけと、私には隠し札であるララがいる。
レーダーは私とシエルが戦闘開始すると共に物置部屋の壁をぶち破って兵器が保管されている倉庫へ向かうララの反応をしっかり捉えていた。
元からシエルを殺すつもりはない。
ララが兵器を破壊するまでの間、シエルを足止めすれば目的は半分達成だね。
思考を終え、私は再び意識を戦闘へ切り替える。
そして再び世界が静止して、私とシエルは同時に相手に向けて踏み込んだ。
大切なものは――
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更新速度ではない、質だッ!
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質ではない、更新速度だッ!