天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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第28話 禁忌咆哮

「煉黒龍……グランミラオス!?」

 

 堂々としたララの名乗りにシエルとジークくんが驚愕に目を見開き、その後ろで他のキラーズ達が困惑する。

 これで完全に形成逆転だね。

 いくら相手がシエルで私たちが擬人化状態でも、2対1なら負けない。しかもシエルの周りには足手纏いが一杯の状態だし。

 

「……っ」

 

 私と同じ考えに至ったのか、シエルが苦い表情で双刃刀を握り直す。

 うーん……シエルの性格から考えると、自分の命と引き換えにしても周りの人とジークくんは守るって感じかな。

 まぁ、善性の具現化みたいなお姫様だし。

 酷い言い方だけど、ジークくん含めた周りの人達よりもシエル1人が生き残った方が戦力的には理想だ。有象無象が1万人集まっても、シエル1人の力にも届かない。

 だから、シエルは周囲のキラーズを身代わりにしてでも逃げるべきなんだけど……。

 

「ジーク、早く他の方と一緒に避難して!」

 

「笑えない冗談はやめてください! 自分に貴女を見殺しにしろと言うのですか!?」

 

 やっぱり、最善の選択を選べないよね。

 その蕩けそうなほど甘い思考が私と似ているから、少し親近感を抱くのかもしれない。

 良く言えば高潔な自己犠牲の精神。悪く言えば盤面全体を見れない馬鹿。

 それじゃあ、最善の選択を理解していながら目を背ける私は大馬鹿以下だな。

 

 竜大戦を最速で終わらせる道筋は見えているのに、私は自分の手を汚すのが怖くて選べないのだから。

 

「シエル様もジーク殿もなぜ奴らを捕獲しないのですか!? 貴殿らに戦えぬ理由があるのなら、我らが侵入者を捕らえましょうぞ!」

 

「待って、戦わないで!」

 

 膠着状態に痺れを切らしたのか、シエルとジークくんの後ろにいる戦斧を装備した大柄な男性が声を上げた。

 身長2メートルを超える筋肉の塊みたいなその男が戦斧を振り上げてこちらに突貫し、その後に他のキラーズ達も続く。

 シエルが制止するけど、完全に戦闘態勢に入った彼らは止まらない。

 あー、うん。

 すぐ頭に血が上る人が多いなら、確かに野蛮人と言われても仕方ないかも。

 

「お姉ちゃん、獲物の方からご飯になりに来たよ?」

 

「いや、食べちゃダメだからね?」

 

「人間、美味しくない?」

 

「そういう問題じゃないけどさ……多分、美味しくないと思うよ」

 

「ん、じゃあ食べない」

 

 少しガッカリして拳を構えたララに苦笑しながら、私もまた拳を握る。

 

「お姉ちゃん、私が合わせるね」

 

「オッケー、ララ。いくよ!」

 

 頼りになる末妹と一緒に走り出し、襲ってくる数十人のキラーズを真正面から迎え撃つ。

 最初に私の元に辿り着いたのは、戦斧の大男。

 雄叫びを上げて巨大な戦斧を振り下ろすけど、その速度はシエルと比較するとナメクジ以下だ。スローモーションどころか完全に止まって見える。

 回避は簡単だし、ノーガードの状態で受けてもダメージにはならないなこれ。

 

「ほいっと」

 

「な……っ!?」

 

 人差し指で受け止め、デコピンで戦斧をバラバラに粉砕する。

 コミックみたいな光景に呆然とする大男の腹にララが拳を叩き込むと、2メートルを超える巨体がボールみたいに吹き飛んだ。

 大男は後続のキラーズたちの頭上を飛び越え、遠くの壁に激突して意識を失う。

 

「お姉ちゃん、のっくあうとさせた!」

 

「まだまだ一杯いるから、全部ノックアウトしようね」

 

「うん!」

 

 無邪気な笑顔を浮かべたララが右腕をぐるぐる回すと、先陣を切った仲間と同じ末路を想像して残りのキラーズが後ろへ下がる。

 さっきまでの威勢はどこへやら。

 屈強な大男たちが雁首並べてたった1人の幼女に震えるその光景は、控えめに言っても異常だった。

 大丈夫、大丈夫、命までは取らないから。

 兵器破壊の目的も達成したし、キラーズが減ると人間が竜の襲撃を防げなくなるし。

 

「いっきまーす」

 

「と、止めろォォォォォォッ!」

 

 ララの間延びした声とキラーズの絶叫が交差し、一瞬だけ停滞した戦線が動き出す。

 広い廊下を埋め尽くすようにキラーズが殺到するけど、お話にならない。

 最低でも音より速く動けないと、モンハン世界における最上位の戦闘を見ることも出来ないからね。

 G級になってから出直しなさいな。

 

 ララと背中合わせになりながら、同格が相手なら絶対に当たらない大振りの攻撃を繰り出す。私の拳がガードした大剣ごと鎧を突き破り、ララの蹴りが飛来する銃弾を薙ぎ払った。

 次々と打撃音が響き渡り、ガチガチに装備を固めた狩人たちがギャグのように吹っ飛んでいく。

 

 前からずっと思ってたけど、この時代の狩人って強さの幅が大きすぎるよね。フランシスカさんとシエルの2人が飛び抜けて強いだけかもしれないけど。

 まぁ、私が知らないだけで他にも強い人がいる可能性もあるか。

 

 嫌な可能性を推測して少し精神にダメージを受けながらも、肉体的にはノーダメージで何とか私とララを止めようとするキラーズを蹴散らしていく。

 紅雷を使う必要もない。

 適当に手足を振り回すだけで、仮にも王都の重要施設を護衛するキラーズが何も出来ずに戦闘不能になった。

 

「何だコイツら……!?」

 

「ひ、人の皮を被ったバケモ……」

 

 思い切り正解を言おうとしたハンマー使いの人が、ララに下顎を殴打されて首から上が天井にめり込む。

 うわ、今の人死んでないよね?

 咄嗟に微弱な電波を放って生命反応の確認。

 ……良かった、生きてるよ。流石はキラーズ、一般人とは比較にならないほど頑丈だわ。

 普通の人なら死んでるって。

 

「駄目だ、誰も相手にならねぇ!」

 

「ギルドからありったけの増援を呼べ! 近くの戦場に『魔境還り』がいたはずだ、あの2人が来るまで時間稼ぎに徹しろ!」

 

「無茶言うな! 誰が止められるんだよアレ!?」

 

「もう半数はやられたぞ!?」

 

「とにかくシエル様とジークの野郎だけでも逃す! 何も出来ないならせめて肉壁になれ!」

 

「攻撃やめてガードに専念するんだ!」

 

 うわぁ、どんどん大事になってきた。

 というかハイペースで倒してるのに何故か数が減らないと思ってたら、ギルド本部に増援を要請してたのか。

 百人組手やってる気分だよ。

 

「お姉ちゃん、これ以上は時間の無駄……かも……」

 

「だねー、正規ルートでの脱出は諦めよう。ララ、天井」

 

「がってんしょうち!」

 

「ねぇ、本当にどこで人間の言葉を勉強したの!?」

 

 私の問いを華麗にスルーしてララが跳躍し、その小さな拳からは想像出来ないパワーで天井を殴りつける。

 まるで地震のように施設全体が振動し、天井に穴が空いた。

 正規ルートで逃げられないなら、自分で新しいルートを作ってショートカットすれば良い。

 

「う、上の階の奴らに連絡しろ! 逃げられる!」

 

「駄目だ、間に合わねえ!」

 

 ランサーや片手剣使いなど盾を持った人を先頭に防御を固めていたキラーズたちが慌てて向かってくるけど、もう手遅れだ。

 そもそも私と彼らではスピードが違いすぎるから、先手を奪われることは絶対にない。

 

 ――ただ1人、シエルという例外を除いての話だけど。

 

 鈍足な増援の間を潜り抜け、体感時間を圧縮したシエルが神速で迫る。即座に上体を逸らした瞬間、私の首があった空間を双刃刀が両断した。

 

「……っと、ここで私と戦うつもり? ジークくんや他の人を巻き込んでも良いんだ?」

 

「あまり私を馬鹿にしないで下さい。今までの戦闘から、貴女も何かしらの理由でキラーズを殺さないことは分かりました。お互いに本気が出せないのなら、勝機は――!」

 

「お姉ちゃんを傷つけるのは、許さないから」

 

「――ッ!?」

 

 踏み込み、私に追撃しようとしたシエルの背後をララが襲う。

 敵意に反応したシエルが瞬時に振り返ってララの蹴りをガードするけど、今度は私を忘れてもらっちゃ困る。

 ガラ空きになったシエルの背中に、高圧電流を放つ。

 悪いけど、しばらく寝てて……

 

「させません!」

 

 私とシエルの間に、銀髪の青年が割り込んだ。

 身の丈ほどもある大剣を盾にして、ジークくんが電撃を受け止める。

 くそっ、やっぱりジークくんは地味に戦闘力が高い。

 大体のキラーズなら防御しても気絶するくらいの威力は込めたのに、真正面から防がれたね。

 

 シエルとジークくんが背中合わせに武器を構え、その前後を私とララが挟む。

 2対2。

 普通の状況ならジークくんは戦力外だけど、誰も本気を出せない今なら十分な脅威になる。

 いや、ジークくん1人ならそれでも制圧可能だ。

 ただシエルが間違いなくフォローするから、簡単に戦闘不能にするのは無理かな。

 

「真体に戻れば、一瞬なのに……」

 

 視線でララが擬人化の解除許可を求めてくるけど、私は無言で首を振る。

 シエルの相手はボレアスと決まっている。他ならぬ私の弟が自分の意思でそう決めたのだから、私とララが横取りするのは筋違いだ。

 いくら兄弟姉妹でも、獲物の横取りは許されることじゃない。

 

「情けないけど、これはもうチェックメイトかな」

 

「大人しく首を差し出す気になりましたか?」

 

 私の弱気な呟きに、シエルの青の瞳が力を取り戻す。

 戦意を高める青の狩人に、しかし私は笑みを浮かべた。

 

「悪いけど、ここから先は遠慮なくやらせてもらう」

 

 宣言すると同時に、私は真横の壁に向かって雷球ブレスをぶっ放す。

 今までのように手加減したブレスじゃない、擬人化状態で使える最高出力の紅雷だ。

 放たれた真紅の雷は壁を突き破り、余剰の威力で地中にリオレウスでも通れそうな道を強引に作る。

 それを見たシエルが顔を真っ青にした。

 

「まさか、地中を無理やり進んで王都から脱出するつもりですか!?」

 

「大正解! 行くよ、ララ!」

 

「おけまる!」

 

 ララに変な言葉を教えてるの本当に誰なの?

 他の弟妹は謎ワードは使わないから、犯人は自然と人間ってことになる。

 ……いや、こんな時に考えることじゃないか。

 今はこの王都から脱出するために、地中を全力で走破するのみ。

 

「それじゃあね、シエル」

 

「逃すとでも……!」

 

 自慢のスピードで追跡しようとするシエルに、私はひらひらと手を振る。

 これ以上の戦闘はただの蛇足だよ。

 地中に大通路を作ると地盤が緩んで惨事になりそうだから最後の手段にしてたけど、逆に言えばこれは絶対に逃げ切れる方法ってことだ。

 

 私がパチンと指を鳴らすと、ララが龍脈を収束させる。

 グランミラオスは大地の化身。

 その権能の1つには地形の大規模操作が存在し、ララがその力を発動すれば地図なんて一瞬で書き変わる。

 ララがその身に宿した龍脈を解放すると、大型飛竜でも通れる通路の入り口が完全に塞がった。

 

 ……地盤をいじくり回したせいで災害が発生しないことを祈ろう。

 

 

 

 

 

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「な、何とか逃げ切った……」

 

「あの人、しつこい……」

 

 龍脈によるバックアップでスタミナの概念がない古龍のはずなのに、私とララは肩で息をしながら他の弟妹が待つあの平原を歩いていた。

 双刃刀の連続攻撃で穴掘りして追いかけてくるなんて、流石に予想外だったよ……。

 あのお姫様、見た目によらずめっちゃ執念深い。

 

 足を引きずるようにして平原を進むと、遠くに弟妹の姿が見えた。

 その周囲にはイコールドラゴンウェポン掃討戦に参加してくれた、無数の古龍もいる。

 うん、ちゃんと人間の言葉を勉強してるみたいだね。

 古龍ってかなり知能が高いから、数十日あれば言語をマスター出来るでしょう。

 ……あれ? 普通に人間よりスペック高くない?

 

 と、そこで古龍達が私とララの帰還に気づいた。

 真っ先にアルンが駆け出し、その後ろにボレアスとバルカンが続く。

 ちょっと待って!?

 私ってばまだ擬人化してるから、真体状態のあなた達にタックルされたら普通にバラバラになるって!

 

 慌てて擬人化を解除し、元の姿に戻って可愛い弟妹たちの可愛くない凶悪なタックルを受け止める。

 もの凄い衝撃で吹っ飛び、4人揃って平原を転がる。

 いや、禁忌モンスター3体の同時突進攻撃を受け止めるとか普通に無理だから。

 子犬みたいにじゃれ合う祖龍、黒龍、紅龍、煌黒龍とか、モンハンファンが見たら頭がおかしくなる光景だわ。

 因みにララは巻き込まれないように回避した後、離れた場所で擬人化を解除していた。

 久しぶりに真体に戻ってご満悦なのか、大きく欠伸をして平原に寝そべるグランミラオス。

 

 何だこのカオスな状況。

 

『お帰りをお待ちしておりましたわ、お姉様ぁ! もうわたくし一日千秋の思いで……』

 

『アルン、姉上と我を踏んでいる! 我はともかく姉上を足蹴にするなど不敬にも程があるぞ!』

 

『そう。言ってる。バル兄。も。オレと。ルー姉。の。尻尾。踏んでる』

 

 平常運転で安心したけど、取り敢えずみんなどいてね。

 アルンの首を甘噛みして放り投げ、前脚でバルカンを押し除け、ボレアスの体に私の尻尾を巻いて横へズラす。

 うわぁ、これ懐かしい。

 まだ幼体だった時、私から離れようとしないボレアスとバルカンをこうして引き剥がしてたなー。

 今はアルンも追加されたけど。

 末妹であるララが一番しっかりしてる件について。

 

『何はともあれ、戻ったよ』

 

『はい、姉上。遠征の首尾は如何でしたか?』

 

『遠征ってそんな大袈裟な……。留守にしてたのは1日だけだよ?』

 

『我ら一同、一日千秋の思いでしたので』

 

 体感時間圧縮してたの?

 

『とにかく王都に行った甲斐はあったね。リストにあった新兵器のプロトタイプと、その開発施設も無力化出来た。これで決戦まで格段に時間が稼げる』

 

『相手の内側から攻撃し、戦力を大幅に奪った今こそが総攻撃するチャンスなのでは?』

 

『そうなんだけど、最後の戦いの前にもう一度だけ和解のチャンスが欲しい。……その提案すら跳ね除けられた時は』

 

 一度言葉を区切り、私は自分に言い聞かせるように宣言した。

 

『人間を、全力で攻撃する。もう龍と戦う余力すら残らないくらい、徹底的に文明を潰す』

 

 私の戦意が本気だと伝わったのだろう。

 ボレアス、バルカン、アルンも瞳に戦意を宿し、遠くでくつろいでいたララも巨体を起こす。

 その緊張感は他の古龍達にも伝わり、平原全体の空気が張り詰めた。

 

『これから宣戦布告と共に猶予期間の提示をする……けど、その前に』

 

 私は視線をボレアスの方へと向ける。

 

『ボレアス、あなたシエルの前でわざと擬人化を解除したでしょ』

 

 ビクリッと。

 全ての龍の中で最も凶悪で残忍と恐れられる伝説の黒龍が、私の声に体を震わせた。

 

『それだけじゃなく、シエルと会話して「天秤」って認めたよね?』

 

『………………つい、勢いで』

 

 観念したように自白したボレアスを、隣にいたバルカンが睨みつけた。

 

『ボレアス、自ら人間の前で擬人化するなど……! 姉上との約束を忘れたのか?』

 

『そんな訳ない。ただ。互角の。敵。見つけて。つい』

 

『つい、ではないわ! おいアルン、貴様もこの愚弟に何か言ってやれ!』

 

 バルカンがアルンに同調を求めるけど、珍しいことにアルンは話に乗ってこなかった。

 それどころかアルンまで私から視線を背けて、

 

『勢いなら、仕方ありませんわね。ボレアスも悪意があった訳ではないのですし』

 

『…………貴様』

 

『…………アルン』

 

 私とバルカンが同時にジト目になり、アルンがびくびくと大きな翼を震わせる。

 これは、同罪かな?

 

『アルンも人間の前でわざと擬人化して、堂々と名乗ったでしょ』

 

『…………勢いで、ですわ』

 

 間違いなく手分けしてイコールドラゴンウェポンを追跡した時だね。

 ボレアスだけじゃなくアルンまで「天秤」を見つけていたとは思わなかったよ。

 フランシスカさんとシエルだけでも大変なのに、禁忌に匹敵するキラーズがまだ存在してるなんてね。

 人間側の戦力もやっぱり侮れない。

 油断したら、簡単に首を獲られる。

 

 アルンとボレアスからは後で詳しい話を聞くとして。

 

『そう言えばバルカンも身バレしてたけど?』

 

『わ、我ですか!? 確かに我も人間との戦闘時に止むを得ず擬人化しましたが、真名を名乗ったりは…………あ』

 

 自分は違うと否定しかけて、バルカンが膠着する。

 あなたも思い当たる節があったの……。

 今まで責められていたボレアスとアルンが一転してバルカンを睨み、怒れる邪龍が冷や汗を流す。

 

『その、ですね。贋作の竜との戦闘時、近くに姉上の友人である人間がおりまして……』

 

 私と友達の人間?

 

『……アデルと会ったの!?』

 

『偶然ですが……』

 

 これは……バルカンからも詳しい話を聞く必要がありそうだ。

 3人とのO・HA・NA・SHIの予定も決まったところで、そろそろ本題に戻ろうか。

 息を吸い、私は全身から威圧を放って空気を変えた。

 

『今から人間達に宣戦布告する! 自然を穢した奴らに、龍の恐怖を思い出せてあげなさい』

 

『『『仰せの通りに』』』

 

 

 

 

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「おい、何だアレ……!?」

 

「どうして王都にモンスターが!?」

 

 シュレイド王国・王都。

 祖龍ミラルーツと煉黒龍グランミラオスの出現で混乱していた人類の本拠地は、更なる混乱に襲われる。

 上空に現れたのは、漆黒の龍。

 存在するだけで全ての生命に絶対の「死」を予感させる黒龍が地上を一瞥すれば、黄金の瞳に睨まれた人間は声も出せずに崩れ落ちた。

 大翼を広げ、シュレイド城の塔に巻き付くソレはまさにモンスター。

 

 大混乱になる人間を睥睨して、ミラボレアスがアギトを開く。

 

『『『この星に生きる全ての人間よ。今すぐ兵器を放棄し、竜に対する敵対行動を停止せよ』』』

 

 

 

 広大な大海原に浮かぶ、小さな島。

 年中陽気な雰囲気なのが有名なその南国は、今や静まり返っていた。

 全ての人々の視線は、この国の王が住む宮殿の屋根の上。

 正しくはその屋根に佇む、真紅の龍。その姿はあらゆる生き物に平等に恐怖を叩き込み、敵対するという考えそのものすら奪ってしまう。

 恐怖のあまり動くことすら出来ない人間達に、紅龍……ミラバルカンがアギトを開く。

 

『『『我々は人間の行う同胞への虐殺、および自然の破壊を黙認していた。しかし、貴様らは限度を超えた』』』

 

 

 

 永久凍土に閉ざされた、北の帝国。

 豪快な英傑が多く、モンスターすら鉈で討伐してしまう屈強な軍隊がいる国は、初めてモンスターの脅威に屈していた。

 吹雪の中、神々しくも禍々しい威圧を放って君臨するのは漆黒の天馬。

 その姿を目にしたある者は神として崇め跪き、ある者は悪魔と恐怖して助けを乞う。

 そんな人々を冷たく見下ろして、漆黒の天馬......煌黒龍アルバトリオンはアギトを開く。

 

『『『我らを自然の一員と見ず、私欲で生き物を殺すその強欲と傲慢さ。いつまでも許されると思うたか?』』』

 

 

 

 盛んな漁業と、発達した船であらゆる国と貿易する海洋国家。

 豊かな海と活気溢れる港が有名な国の周辺海域はマグマのように煮えたぎり、港は静寂に覆われていた。

 海から現れたのは、その巨体で国を覆い隠すのは大地の化身。

 終末の体現と表現して過言でないその姿を見た者たちは自然と死を悟り、諦めたかのようにヘタリ込む。

 せめて愛する者だけは......そう最後の祈りを捧げる人々を見下ろして、煉獄龍グランミラオスはアギトを開いた。

 

『『『今より猶予期間を与える。戦いを望まぬ者は投降せよ。戦意の無い者に、我らは牙を剥かぬ』』』

 

 

 

 そしてバデュバドム樹海の上空。

 世界の中心で、あらゆる龍の始祖にして頂点である祖龍ミラルーツが日輪を背にアギトを開く。

 

『『『猶予期間が終わり次第、我らは人間に対して総攻撃を行う。覚悟せよ、貴様らが自然と竜に働いた罪、その身をもって贖ってもらう』』』

 

 

 

 これまで人類優勢だった竜大戦は、たった5体の龍が牙を剥いたことで一変する。

大切なものは――

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