レポートという強敵を討伐していました。
来週あたりから更新速度が速くなりますので、ご容赦を。
全人類に対しての、宣戦布告。
それは総攻撃を予告するものであると同時に、人と龍の共存を提案するものでもある。
……これで戦争が終わる確率は、本当に低いけどね。
モンスターに恨みを抱いている人も少なくないだろうし、古龍達の怒りも本物だ。
というか、祖龍が『私』じゃなかったらもう既に決戦は始まってるでしょう。私がモンスター側を止めてるから、まだギリギリ猶予期間があるだけ。
この世界は、もうそのくらい崖っぷちだ。
そして、その猶予期間も1ヶ月。
1ヶ月が経過する前にシュレイド王国を筆頭に列強国が共存の道を選ばないと、竜大戦は最終決戦に突入する。
個人的にはもうちょっと期間を伸ばしたかったけれど、これ以上は古龍が許容してくれない。
竜機兵を生み出した時点でアウトなのに、大量の竜機兵で無差別攻撃されたからね。
古龍が怒るのも当たり前でしょう。私の弟妹達も人間に対する嫌悪感はマックスになってるし。
最終決戦は、恐らく避けられない。
国会とかを見てるとよく分かるけど、お偉いさん同士の会議は無駄に時間がかかるのよ。
誰も責任を被ってお金と権力を失いたく無いからさ。
戦争するにしても共存を選ぶにしても、ゴーサイン出して失敗した時が怖いから責任の押し付け合いが絶対に発生する。
1ヶ月で意見が纏まるかどうかは、かなり怪しいかな。
だけど、責任者がハッキリしてる独裁国家の決断は早いでしょう。
確かバルカンが担当した南の島国が独裁国家だったから、最初に大きな動きを見せるなら南国のはず。
今はララがその国を監視してるから、動きがあれば報告が来る。
人間側が動くまでは、こっちも色々な事態に備えて準備をしないとね。
何をするにしてもまずは調査からと言うことで、私は今イースターランの街に潜入している。
そう、私が初めてフランシスカさんと出会った場所なのです。
私の宣戦布告に対してシュレイド王国の国民がどのように思っているのか、それを視察してる訳だ。
王侯貴族の意思はそのうち嫌でも分かるから今は無視で。
「相変わらず空気の汚れた場所ですな、姉上」
「車が走っている以上は、どうしても排気ガスが出ちゃうからねー」
赤髪の青年に姿を変えたバルカンが隣で車モドキを睨み付けるのを見て、私は思わず苦笑した。
本当は私1人で視察する予定だったんだけど、バルカンがどうしても一緒に行くって言い張ったから、姉弟2人で街の中を歩くことになってる。
誰が私のお供をするかで小競り合いが発生したのは割愛だね。
今頃、ボレアスとアルンが頬を膨らませて古龍達の指揮をしているでしょう。
……後で吹っ飛んだ山脈をララに修復して貰わないと。
「……どうやら、姉上のご意向に賛同する者もいるようですな。人間にしては賢い部類でしょう」
「まぁ、戦争反対を掲げている大多数は龍の脅しに屈した人だろうね。本心から龍と仲良くしたいって思ってる人はゼロに近いかな……」
キラーズギルド・イースターラン支部。
立派なその建物の壁には「戦争反対」とか「武器を捨てろ」とか「龍を怒らせるな」とか、そんな文字が所狭しと書かれている。
ギルドに石を投げつける過激な人もいるらしく、全ての窓が割られていた。
ここは地方都市だけど、規模は大きいからモンスターの襲撃がそこまで酷くなかったのでしょう。
小型・中型のモンスターでは傷つけることすら出来ない頑丈な外壁。駐在する多くのキラーズ。周囲は森に囲まれているけど、大型の竜が縄張りにしてるのは最奥だけで、浅いところの危険性は低い。
……まぁ、大型の飛竜や古龍の恐ろしさなんて知らんよね。
「だからこそ、世界で最も安全と言われていたシュレイドの王都にボレアスが現れたショックは大きかった」
「巣の中でも我らに喰い殺される危険性があると、やっと理解したのでしょうな」
「要因はともかく、シュレイドの人が戦争反対を主張してくれているのは嬉しいよ。王侯貴族の中にも反対派が生まれる可能性がある」
「確かに、下僕の意を取り入れるのも上に立つ者の役目でしょうが……。竜の贋作を創造するような奴らが、今さら竜狩りをやめますか?」
「それは……」
「…………アンセス、さん?」
私の言葉に被せるように、背後から聞き覚えのある声が響く。
振り返った先に立っているのは、腰まで伸ばした綺麗な金色の髪と空色の瞳を持つ清楚な美少女。
「アデル!?」
「やっぱり、アンセスさんだ!」
思わずお互いに駆け寄って、手を繋いで飛び跳ねる。
久しぶりの再会に2人一緒にきゃーきゃーと騒いでから、アデルはバルカンの方へ視線を向けた。私もバルカンに視線を向けると、何故か苦虫を噛み潰したような表情でアデルから目を逸らす。
あー、そう言えばバルカンはイコールドラゴンウェポンとの戦闘時にアデルと会ってたね。
その時の話はザッと聞いたけど…………あ。
無表情となった私に、バルカンが深々と頭を下げる。
……アデルに私とバルカンの正体がモンスターってこと完全にバレてるやん。
ブワっと嫌な汗が背中を伝う。
しかも私達が今いる場所はキラーズギルドのすぐ近くだ。ここでアデルに私の正体をバラされたら、トラブルは避けられない。
既に王都で顔バレしてるから、キラーズ全体に私の姿が伝達されてる可能性もある。
髪型をポニーテールにして、メガネを付けて、服も白のドレスワンピからシャツ+ミニスカに変えてるけど、私と会ったことのある人なら一瞬で見抜けるレベルだ。
実際にアデルにもバレたし。
余談だけど、服装は擬人化の回数を重ねて練度が増せば変えれるようになった。
『姉上、逃げますか?』
『慌てて逃げたら余計にマズいって!』
視線だけで会話しながら、私は全力で思考を回す。
共存を呼びかけてる時に、人間の街に侵入してトラブル起こすとか問答無用でアウトだ。
間抜けなミスにパニックになる私とバルカン。
シリアスともギャグとも言えない微妙な空気を壊したのは、アデルだった。
「バルカンさん、あの時は助けてくれてありがとうございます」
「……我に礼を言うことを特に許す。存分に感謝せよ」
竜大戦の影響で荒んだ心が浄化されるほどの笑顔と共に繰り出されたお礼の言葉に、ヤケクソになったバルカンが何故か偉そうに答える。
……取り敢えず、私達が正体がモンスターだと知っても普通に接してくれたアデルに感謝すべきだと思う。
〜Now loading〜
微妙な空気の中、私達はゆっくりと話をするために近くのカフェ店に移動していた。
当然のように私の分までドリンクを奢ってくれたアデルには頭が上がらない。後で必ずお礼をしないと。
というか、戦争中なのに敵国のカフェ店でお茶してる私とバルカンもかなり頭が悪いよね。
そして現在、私はアデルからバルカンと竜機兵の激戦を詳細に説明されていた。
その中でも気になったのは、竜機兵と戦闘中のバルカンを奇襲したヴァルフラム・ベッカーという連続殺人鬼だ。
「不死身の狂人?」
「はい、王都でそう呼ばれている有名な犯罪者です。あくまで噂ですけど、銃で頭を撃たれても死ななかったとか」
何それ怖い。
モンスターハンターの世界は不思議なことが沢山あるけど、不死身の存在はプレイヤーハンターくらいだ。
まさか、そのヴァルフラムって人がプレイヤーの先祖とかじゃないよね?
考えられる可能性はアイテムの「いにしえの秘薬」や、お食事スキルの「ネコのド根性」とか……?
「その時、バルカンさんが魔法みたいに拳から炎を出してヴァルフラムさんを殴ったんです! そしたら……」
「おい小娘、もうその辺で……」
「いいえ、バルカンさんが凄いのはこの後なんですよ! 空まで飛んでいったヴァルフラムを追いかけてバルカンさんがジャンプして、大きな龍の姿に戻って!」
「これは、その、確実にトドメを刺すために真体化して……」
「山のような大きな鉄の竜をバルカンさんが咥えて、一瞬で雲の上まで飛んで! まるで太陽が2つに増えたみたいでした。あの時の炎の煌めきが、ずっと心に残っているんです」
空色の瞳をキラキラと輝かせて熱弁するアデルと、反応に困ってテーブルに突っ伏すバルカン。
バルカンの視点だと知り合いの少女が、実の姉に、自分の武勇伝をそれはもう笑顔で語っていることになる。
何それ普通に恥ずかしいな。
私は弟が
「話してくれてありがとね、アデル。バルカンってば報告書みたいに重要なところしか話さないから、色々と知れて面白かったよ」
私が熱弁を終えたアデルにお礼を言うと、純真な少女は花が咲いたように笑う。
幸せになって欲しい人ランキング断トツで1位だわ。
「おのれ小娘、よくもやってくれたな……!」
アデルの笑顔に癒されていると、羞恥心で顔を赤くしたバルカンが地の底から響くような声を出す。
それに対してアデルのリアクションは、
「えっと……バルカンさんが『我に礼を言うことを特に許す』って言ってくれたから話したんですけど、ダメでしたか?」
「………………」
悪気のないアデルに揚げ足を取られて絶句するバルカンを見て、私は涙を流すほど爆笑した。
〜Now loading〜
「この我が……人間の小娘如きに、口論で完敗した……だと……?」
「はー、はー、笑いすぎてお腹痛い」
最終決戦前の緊張がいい感じに解けたよ。
視察する街をイースターランにしたのは本当に大正解だったね。
呼吸を整えながら涙を拭いて、私は場の空気を戻すためにパチンと手を叩いた。
「ごめんね、急に笑い出しちゃって。本当はもうちょっと真面目な話をしようと思ってたんだけどさ」
「真面目な話、ですか?」
「うん。アデルはさ、私とバルカンが人間じゃないことに気づいてるよね?」
今までの穏やかな会話を断ち切るその言葉に、呆然としていたバルカンも意識をアデルへ向ける。
しばらくして、アデルは静かに頷いた。
「私達が人間に宣戦布告したのも、もちろん知ってるよね?」
「……知っています。今は国中がその話題で持ち切りですから」
「それじゃあ、どうして私に話しかけてくれたの? 近くにはキラーズギルドがあったのに、どうして駆け込まなかったの?」
「だって、友達じゃないですか」
間髪入れずに放たれたその言葉に、私は思わず目を見開いた。
友達。
確かにそうだ。
だけどそれは、アデルが私の正体を知る前の話で。
悲しいことだけど、友情は時としてあっさりと崩れる。そして竜大戦の最中で、私の正体を知るということは友情が崩れる理由としては十分なはずだ。
だって私は、もうすぐ大勢の人間を殺す邪悪な龍なのだから。
「アデルはモンスターが怖くないの?」
「……もちろん怖いですよ。知り合いが竜に殺されたこともあります。でも、私はアンセスさんに何もされていません。それに、バルカンさんは命の恩人です」
一呼吸置いて。
「私はアンセスさんもバルカンさんも、大好きですよ?」
きっとアデルは分からないだろう。
――その優しい言葉に、私がどれだけ救われたのか。
「アデル、今日から7日間のうちに予定ある?」
「……え? えーっと、特に大事な用事とかはありませんけど」
「それは良かった、じゃあ今から旅行に行こうか!」
「姉上!?」
「へ!?」
驚いて硬直するアデルをお姫様抱っこして、私は街の外に向かってダッシュする。
猶予期間は1ヶ月。
私には他にもやるべきことがあるけど、7日だけならアデルに時間を割いても大丈夫なはずだ。
列強国に動きがあれば、この星の何処にいても必ずララが教えてくれる。
「ちょっと待ってください! アンセスさん、旅行ってどこに行くつもりですか!?」
ぐるぐる目になって私の腕の中で叫ぶアデルに、私は満面の笑顔を向けた。
「旅行先は1000年後の未来で
「何処ですかそれぇ!?」
もちろん私も場所とか知らない。
厳密に言うと私が行きたい場所はハクム村じゃなくて、人と竜の絆を結ぶ不思議なアイテム――絆石が眠る場所だ。
タイムリミットは7日。
それまでに世界中を飛び回って、必ず絆石を見つけ出す!
宣戦布告して人間を大パニックに陥れてながら、自分は友達と旅行に行く祖龍ちゃん。
これは炎上案件です。
もちろん遊びではなく、真面目な理由があるのですが。
そして恐らく7日間はカットされる模様。
大切なものは――
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更新速度ではない、質だッ!
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質ではない、更新速度だッ!