天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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祝・主人公回30話突破!


第30話 絆石を探す旅――前編

 ――闘技場。

 原作ゲームで登場したフィールドの1つで、クエスト、闘技大会、訓練所と訪れる機会はそれなりに多かった場所だね。

 ビジュアルは円形ドーム、またはコロッセオ。

 観客席は1万人の見物客で埋め尽くされ、大歓声と熱気が闘技場を包み込んでいる。

 そして大勢の視線を独り占めするのは、この地下闘技場の中心に立つ……私。

 

「イイ声で鳴けよ、小娘ー!」

 

「派手に喰われろ!」

 

「死ぬのは3分耐えてからにしろよ! 俺の賭け金を無駄にしたら許さねぇぞ!」

 

 四方八方から野次を飛ばす観客達。

 その中に不機嫌な表情で腕を組むバルカンと、不安げな表情で私を見つめるアデルを見つけて私はひらひらと手を振った。

 竜大戦。

 人と竜が種の存亡をかけて殺し合う、史上最悪の戦争。

 今は確かに猶予期間だけど、それでも敗戦すれば絶滅の危機すらある大戦争の真っ最中なのに。

 ……それでも地下闘技場で違法なギャンブルを開催するなんて、犯罪者っていうのは本当に強かな生き物だよね。

 

 アデルと一緒に『絆石』を探す旅に出た私が、どうして闘技場にいるのか。

 全ては、数時間前に遡る――。

 

 

 

 

 ――大陸・西部・海洋国家ローライン。

 その王都であるオセアンに到着したのは、アデルと一緒にイースターランの街を出発してから5日後だった。

 

「バルカンさん凄いです、私達オセアンにいますよ!?」

 

 白で統一された美しい街の景観。

 どこかギリシャのサントリーニ島を想起させるそれは、私も思わず息を呑むほど美しかった。

 いや、何これマジでモンハンの世界?

 竜大戦の真っ最中だから至る所にフル装備のキラーズがいるけど、むしろ狩人がいなかったら絵本の世界と間違うレベルじゃん。

 シュレイド王国の王都も凄かったけど、ローライン王国もヤバいわー。

 

「バルカンさんが飛ぶ速さ、本当に凄いんですね! たった1時間で大陸の北端から西端まで移動しました!」

 

「ええい、喧しいぞ小娘……ではなくアデル! 先ほどのが我の全力だと思うなよ、貴様を背中に乗せていなければこの程度の距離など数秒で移動できたのだ!」

 

「はい、気遣ってくれてありがとうございます!」

 

「ぐ、ぬぅ……」

 

 満面の笑みから放たれるアデルの純真な感謝の言葉に、バルカンが唸り声を上げて黙り込む。

 うわ、バルカンってばめっちゃ悔しそうな顔してる。

 龍は無駄にプライドが高くて負けず嫌いだから、どんなことでも自分より弱い相手に負けるのは悔しいよねー。

 特にバルカンは兄弟姉妹の中でも特にプライド高いし。

 まぁ、バルカンが勝手に負けた気でいるだけで何の勝負もしてないけど。

 

 『絆石』を探し求めて早5日。

 極寒の北国サザンドゥーラの帝都キャメロンの貧民街で、私達はついに『絆石』に繋がる情報を手に入れた。

 貧民街の情報通曰く、貿易が盛んな海洋国家ローラインで様々な宝石を扱っているキャラバンが訪れたらしい。

 まだモンスターライダーという概念が生まれていないこの時代では、誰も『絆石』の真の価値は分からないはず。ただ見た目が綺麗なだけの宝石として売られている可能性は十分にある訳だ。

 後はそのキャラバンに接触し、売り物の中に『絆石』がないか探すだけ。

 

 ……その予定だったんだけど、大問題が発生した。

 

「どうやって宝石が買えるだけのお金を稼ごう……?」

 

「ごめんなさい、流石に宝石を買えるほどのお金は持ってなくて……」

 

「悪いのは一文無しの私だからね? アデルが引目を感じる必要とか全くないからさ」

 

 私の声を聞いたアデルが笑顔から一転して暗い表情になるけど、我がままを言っているのは私だ。

 アデルにライダーとしての天賦の才能がある。人と竜を繋ぐ希望となる。

 だからこそ私はアデルに『絆石』を与えようとしているだけで、アデル自身が「ライダーになりたい」と思ってる訳じゃないからね。

 『絆石』の入手に必要な費用は、全て私が負担するべきでしょう。

 

 因みに、この5日間の旅行費はゼロだ。

 食糧は私とバルカンが狩りをすれば手に入るし、音より速く飛べるから移動費もゼロ。野宿だから宿代も要らないし、水浴びすれば衛生面も問題ない。

 高身長で目つきの悪いバルカンが恫喝すれば大抵の相手からは情報を聞き出せる。それでも喋らなかったら、私が脳波に干渉して無理やり頭の中を覗けるし。

 だけど、宝石はお金がないと手に入らない。

 

「うーん、まさか龍である私が金欠に苦しむことになるとは思わなかったなー」

 

「何を悩む必要があるのですか、姉上? 『絆石』を持っている人間から強引に奪えば良いのでは?」

 

「それ普通に強盗で犯罪だからね?」

 

 確かに弱肉強食が絶対のルールである自然界なら強奪はアリだけど、人間の世界で弱肉強食を実行するのは色々とアウトだ。私達は誇り高き古龍種であり、理性なき竜ではないのだから。

 しかも、今は私達が人間に終戦しようと呼びかけている真っ最中。

 トラブルはダメ、絶対。

 

「合法的に、手早く、大金を稼ぐ方法……」

 

 パッと思いつくのはギャンブルかな。

 例えばスロットとかなら、祖龍の動体視力を悪用して「目押し」することで無限に荒稼ぎ出来る。

 パチンコの玉も金属だから、私が磁力でイカサマすれば出玉は無限大だ。

 でも文明が異常発達している古代とはいえ、モンハンの世界にカジノとか存在するの……?

 そもそも、この国ってばカジノ合法?

 

「アデルは何か思いつかない?」

 

「え!? えーっと、頑張って働くとか……?」

 

 ダメだ、心が綺麗なアデルじゃ役に立たない。

 だけどバルカンは過激な案しか出さないだろうし、こうなったらもう最後の手段を使うしかないね。

 

「体を……売るしか……」

 

「姉上!?」

 

「アンセスさん!?」

 

 私の苦渋の決断を聞いたアデルとバルカンが顔を真っ青にして、怖いくらいの勢いで飛びかかってくる。

 

「姉上の決断と言えども、そのお考えに賛同することだけは出来ません! どうか考え直して頂きたい!」

 

「バルカンさんの言う通りですよ! いくらアンセスさんがその、アレでも、女の子なんですからもっと自分を大切にするべきです!」

 

「ちょっと待ってストップ! 絶対にすれ違ってるよこれ!」

 

 私を翻意させるために土下座しそうな勢いのバルカンを宥め、涙目で抱きついてくるアデルを引き剥がす。

 そして早とちりした2人の手を引いて、私は周囲の視線から逃げるように路地裏へと移動した。

 

「2人とも、体を売るってそういう意味じゃないから! 鱗とか角の欠片とか、素材を売却するって意味だから!」

 

 原作ゲームでも新しい装備を生産するお金が足りない時は、不要な素材を売却してお金を工面してたからね。

 誰も娼館で働くとか言ってないってば。

 私の解説を聞いてバルカンは安堵し、アデルは早計に顔を赤くした。

 

「アンセスさんが、その、凄く辛そうな顔で言うので……てっきり……」

 

「私の言い方も悪かったから、そんなに気にすることないって」

 

「しかし、姉上、我らの爪牙を人間に売るのも問題があるのでは? 人間共に強力な武具を作る材料を与えることになってしまいます」

 

「だから最終手段だってば。他に手早く大金を手に入れる方法があれば……」

 

 そこまで言いかけた時、路地裏の奥から男が現れた。

 少し前から常時展開しているレーダーで接近に気付いていた私はすぐに口を閉じ、人間の気配を察知したバルカンも同じく会話をやめて警戒態勢となる。

 私とバルカンの視線を受けて、しかし謎の男は作り笑いを浮かべた。

 

「どうも、お嬢さん方! 大通りにいる時から目立ってたぜ。察するに、旅行の最中に金欠に陥ったんだろ? 僅か1日で大金が手に入るオイシイ話があるんだけど、ちょっと話しない?」

 

「明らかに胡散臭い、姉上、無視しましょう」

 

「バルカンさんの言う通りです。アンセスさん、怪しすぎます」

 

「まぁ、完全にアウトだねこれ」

 

 悪事への勧誘にしても下手くそすぎるって。

 3人同時にフラれた犯罪者(仮)の男は口元を震わせるけど、すぐに復活した。

 

「本当に怪しいことじゃないからさ! この街で凄い有名な闘技場で、今ちょうど大会がやってるんだよ。俺がその大会のスタッフの1人ってワケ。そんで、ちょーっとだけ出場選手が足りなくてスカウトしてんの」

 

 ……ん?

 闘技場?

 

「そのお話が本当だとしても、私達は格闘家でもスポーツ選手でもありません! 他をあたって……」

 

「アデル、ストップ」

 

 強い口調できっぱりと断ろうとしたアデルを止めて、私は下手くそな勧誘を必死で続ける男の前に立つ。

 こう見えても、私の前世は財閥のご令嬢。

 腹芸なら、下手くそなスカウトよりも自信がある。

 

「お兄さん、私達ってばお金が無くて困ってるの。その大会のお話……もうちょっと詳しく聞かせて欲しいなー?」

 

 本当はさっさと躱すつもりだったけど、戦うことでお金が入るのなら話は別だ。

 この世界で祖龍(わたし)に勝てる可能性がある人間は、人類最強の異名を冠するフランシスカさんとシエルの2人だけ。

 「戦い」というジャンルなら、古龍の独壇場となる。

 合法でも犯罪でも……いや、むしろ善人を食い物にしている違法の大会の方が都合が良い。

 合法なら問題ない、ただ実力で勝ち抜いて賞金を手にする。

 だけど違法であるのなら……犯罪組織が相手なら、何も遠慮は要らないよね。悪いことして貯め込んだお金、全て力づくて奪い取ろう。

 

 スカウトした相手が悪かったね、お兄さん。

 あなたが声をかけたのは慣れない異国で困っているただの旅行客じゃなくて、人の姿に擬態した古龍だよ。

 

 

 

 

 

〜Now loading〜

 

 

 

 

 

 結論から言うと、私達の予想通り普通に違法(アウト)だった。

 私達に声をかけたのは、海洋国家ローラインの裏社会を支配する『犯罪組織アウグス』の下っ端の男。

 もちろん私が今いる地下闘技場は有名でも何でも無く、アウグスが管理する存在そのものがアウトな場所だね。

 アウグスの手口は単純。

 ローラインに慣れていない旅行客やスラムに住むような貧乏人を勧誘し、この大会に出場させる。莫大なファイトマネーで釣る訳だ。

 私も勝利すれば1000万て言われたし。

 

 そして私の対戦相手は――

 

『皆様、ご注目ください! 勇敢なチャレンジャーが戦う今回の敵は世界三大魔境に数えられるバデュバドム樹海の最奥『蛇の湖』を支配する怪物! タイラントサーペントだァァァッ!!』

 

 私が通った入場口の向かいから現れたのは、全身を鋼鉄の鎖で拘束された大蛇――タイラントサーペント。

 

 ……え?

 

 あの時の蛇じゃん!

 私らがまだ幼体の時に2番目の縄張りとした大きな湖、そこで主な獲物として食べまくったあの蛇だよね?

 体は大きいのに弱くて、しかも美味しいから獲物としては最高だったよ。だけど1週間くらい経った頃から、私を見るとすぐに湖の底に隠れるようになったんだよねー。

 そのせいで食糧不足に陥って、樹海の奥地にいた巨大なティラノサウルスもどきを襲ったんだっけ?

 うわー、懐かしいなぁ。

 今では龍脈で生命維持は出来るから、狩りの頻度は凄く減っちゃったけど。

 

「おい、出場を取り消すなら今のうちだぜ? その代わり契約違反として、友達と一緒に一生娼館で働いて貰うことになるけどなぁ?」

 

 思い出に浸っていると、安全な柵の向こうから私を勧誘したあの男が下卑た笑みを浮かべて何か言ってくる。

 そう、こういう手口って訳だ。

 お金持ちの観戦客に残虐なショーを見せて楽しませる。ついでに挑戦者が魔境の怪物を相手に何分耐えられるかというギャンブルもやる。

 入場料やらギャンブルやらでお金持ちの客から儲けて、出場者が女の場合はこうして身売りするように脅迫する。

 試合が中止になると客の機嫌を損ねるから、そこは私を性欲の捌け口として提供することで、チャラにする予定だったのかな。

 

 まー、出場取り消しとかしないけどね。

 

「はいはい、分かってるって。契約書の下の箇所に小さい文字で書いてたの知ってるし。ちゃんと戦うよ」

 

「は?」

 

 付け加えるなら、エントリー用紙としてサインさせられた契約書に「相手は人間ですよ」と書いていないことにも気付いてたし。

 やり方がありきたりで古典的すぎる。

 現代の地球でやったら誰も引っかからないよね、これ。

 ローラインの法律や憲法を知らないから断言は出来ないけど、よく今までバレずにやってこれたよね。モンスターの発生や竜大戦のパニックに乗じたのかな?

 

 きっと私がリタイアすると確信していたのでしょう。

 予想を裏切られて間抜けな顔をするスカウト男に背中を向けて、私はボロボロの両刃剣を片手に前へ進む。

 ぶっちゃけ武器とか要らないけど、素手でこの蛇を倒したら騒ぎになるかもだからね。もちろん紅雷も封印してる。

 

『何ということでしょうかッ!? アンセス選手まさかのリタイア無し、挑戦を宣言しましたァァッ!』

 

 実況者のノリがウザい。

 それはともかく、本当に主催者側がお金を用意しているのか怪しいのが問題だよねー。

 対戦相手にキラーズならともかく一般人だと絶対に勝てないバケモノを用意してるし、1000万を払うつもりとか無いのでしょう。

 ……あれ、出場する意味なくね?

 それなら犯罪組織のボスを締め上げて、電気で頭の中を覗いて、売上金の場所を見つけ出した方が……。

 うあー、失敗した。

 ショックだわ。

 

『おっと、タイラントサーペントを前にしたアンセス選手の顔色が悪くなりました! 流石に怯えたかー!?』

 

 誰が子供の時に食べてた蛇にビビるねん。

 実況者が煽り、私が及び腰になったと勘違いした観客が一斉にブーイングを飛ばしてくる。

 ノリが長い。

 さっさとスタートしてくれないかなぁ……。

 

 それ以降は実況の声を完全にシャットアウトし、無心でスタートを待つ。

 そして数分後、ようやく試合前の煽りが終わったのか、タイラントサーペントの体に巻きついていた鉄鎖が解かれ始めた。

 長時間拘束されていた大蛇が自由を取り戻し、溜まった鬱憤を目の前に立つ私へと向けてくる。

 一軒家すら丸呑み出来そうな巨大なアギトから、大量の唾液が溢れ出た。

 

「……拘束されて、餌も満足に貰えなくて、しかも人間の見せ物にされるとか。あなたも不憫だね」

 

 タイラントサーペントに言葉は通じない。

 ただ鬱憤と飢餓を解消するために、大蛇がその巨大な体をのたくらせた。

 尾の一閃。

 長大なリーチを利用し、しなりと遠心力を加え、常人が直撃を受ければ確実に肉片となるほどの強力な一撃。

 だけどそれは、ワイバーンレックスの突進にも劣る速度と威力だ。

 

 地面を踏み砕いて数メートル近く跳躍し、大蛇の攻撃を私は悠々と回避する。

 ジャンプした先は、もちろん蛇の頭がある場所。

 私の速度に反応が出来ず、自分の攻撃が避けられたことにも気づいていない蛇の頭部を錆びた剣で強打する。

 鈍の剣が砕ける音と共に、大蛇の頭部が地面に叩きつけられた。




次回でアデルとの旅行編は終わりです。
宣言通り9月からは毎日更新に戻れそうです。

大切なものは――

  • 更新速度ではない、質だッ!
  • 質ではない、更新速度だッ!
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