天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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久しぶりの連続更新です。


第32話 絆石を探す旅――後編

 純白の少女の拳足と、剣の青年が振るう巨大な刃が幾度も交差する。

 共に極限まで集中力を高めることで数段上の時間軸へとシフトし、刹那の間に何百との攻防を繰り返していた。

 一般人の目には何も映らず、ただ闘技場の各所で衝撃波が拡散していることしか分からないだろう。

 しかし大地に刻まれる谷のような斬撃の後が。壁に大穴を空ける突風が。鼓膜が破れるほどの轟音が。

 全てが、常識を超えた戦いが行われていることを伝えていた。

 撒き散らされる破壊の余波で観客に死傷者が出ないのは、戦っている2人の配慮だ。

 

 その戦いを、唯一この場で『見て』いる者が1人。

 憤怒と獄炎の支配者である紅龍ミラバルカンは、観客席から姉とキラーズの戦いを見下ろして舌打ちした。

 隣でそれを聞いたアデルは、表情を曇らせてバルカンに問う。

 

「バルカンさん……アンセスさん、勝ちますよね?」

 

「……っ、このままでは無理だ。姉上に勝機はない」

 

「そんな……!」

 

 流血するほど強く拳を握り、バルカンが声を絞り出す。

 バルカンにとって祖龍ミラルーツは敬愛する姉であり、この世界で最強の龍であると胸を張って断言できる存在だ。

 5日という短い期間だが、共に旅をしたアデルには紅龍がどれほど姉の力を信じているか分かっている。

 そのバルカンが屈辱に耐えながら言うのだから、それは真実なのだろう。

 ……このままでは、アンセスに勝機はない。

 

「バルカンさんが手伝っても駄目なんですか!?」

 

「そういう問題ではない……! 姉上が全力を出すことが出来れば、我が加勢せずとも勝機はある。しかし今は派手に人間と争うことが出来んのだ! 姉上の象徴である雷も我の炎も使えぬ。挙句に大幅に力が制限されるヒトの姿で戦うなど、力の1割も出せない!」

 

 さらに付け加えるのなら、周囲が人工物で覆われていて龍脈の循環にも悪影響が出ている。

 そんな状態で、人類最強クラスのキラーズを倒すことはまず不可能だ。たとえバルカンが参戦したところで、劇的な変化は現れないだろう。

 

「……姉上の命が最優先だ。もはや猶予期間であることなど関係ない、我が炎で全てを――……」

 

 擬人化の解除を試みていたバルカンは、そこまで言って唐突に動きを止めた。

 紅玉の瞳が、隣に立つアデルへと向けられる。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「姉上から指示が入った。……アデル、貴様ならば姉上を勝利に導くことが出来るかもしれん」

 

 

 

 

 

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 どうやら、上手くバルカンに指示が出せたみたいだね。

 アデルと共に観客席から姿を消した弟を見送って、私は深く息を吐いて――……

 

「このオレサマとヤってる時に他所を気にするとは、随分と余裕じゃねェの?」

 

「――ッ」

 

 私の集中力が僅かに揺らいだ隙を突いて、アーサーくんが豪快に封龍剣を振り下ろす。

 その破壊力は、超大型モンスターの一撃に勝るとも劣らない。本当に人間とは思えないほどの膂力で、巨大な刃が眼前の全てを薙ぎ払う。

 ほ、本当に攻撃力がデタラメだね!?

 祖龍(わたし)の紅雷もちょっとおかしい威力してるけど、ただの筋力で龍と同等の破壊を生むとは笑えない。

 というか、封龍剣【滅一門】の生産にラオシャンロンの素材とか使わなかったっけ?

 もしかして、古龍種の討伐すら達成してるとか?

 

 嫌な想像に冷や汗が流れるも、もう集中力を乱して隙を見せたりはしない。

 首筋を狙った薙ぎ払いを紙一重で回避しながら、狩人の懐に潜り込んで掌底を放つ。胸部を圧迫するように渾身の力を込め、アーサーくんの体を吹き飛ばそうとして。

 

「そんな手加減した攻撃が、何度も通用すると思ってンのか?」

 

「く……っ!?」

 

 私の掌底に対抗して、アーサーくんの筋肉が膨張する。

 鍛え上げられた肉体は強靭な鎧と化し、私の攻撃を完全に受け止めてしまった。

 残るのは、敵の正面で隙を晒す間抜けな私だけ。

 ヤバい。

 擬人化での弱体化に加え龍脈の循環が不安定なせいで、身体能力がここまで低下して……!?

 龍の本能が、頭の中でうるさいほどの警鐘を鳴らす。

 

 ――直後に、視界が爆ぜた。

 

「が、はっ、あ、あああああああっ!?」

 

 フルスイングだった。

 大剣の腹で腹部を殴打され、私はボロ雑巾のように地面を転がりながら闘技場の端まで吹き飛ばされる。

 肺から酸素が絞り出され、大ダメージ受けたことで視界が揺れて定まらない。

 くっそ、マジで攻撃力が狂ってるよ……!

 原作ゲームでの数値で換算したら間違いなく1800は超えてるわ。下手したら2000オーバーかもね。

 そこに龍属性のダメージまで入るから、古龍種の私からすると洒落にならない。

 龍属性とか、思い切り弱点属性だっての。

 

 やっぱり量の少ない龍脈を収束させて、何とかダメージを回復する。

 だけど、そのスピードはめっちゃ遅い。

 受けたダメージの1パーセントすら回復しないうちに、アーサーくんが膝をついている私の前まで歩いてきた。

 

「テメェがこれっぽちも本気を出さねェから、オレサマも優しく封龍剣の腹で殴ってやったが……」

 

 研ぎ澄まされた剣のような威圧感。

 肌を突き刺すようなソレを放ちながら、鈍色の光を宿すアーサーくんの双眸が私を睨む。

 

「何で本気を出さねェ? まさかオレサマを相手に手加減して勝てると思ってンじゃねェよな?」

 

 言外に次は斬ると宣言して、アーサーくんが大剣を上段に構えた。

 

「ごほっ、けほ……っ! だから手加減とかしてないよ。ちゃんと本気でやってる」

 

「テメェ……!」

 

「嘘じゃないって。本当に、今出せる(・・・・)全力で戦ってるよ」

 

 私の言葉に、アーサーくんの表情が僅かに曇る。

 海洋国家ローライン最強と謳われるキラーズはしばらく無言で動きを止め、私はその間に立ち上がって体勢を立て直した。

 バルカンとアデルなら、きっとすぐに戻ってくるはず。

 それまで耐え切れば勝機が見える、この弱体化した状態でどれだけ時間稼ぎが出来るかで勝敗は決まる。

 

「そう言えば、さっきの私の質問に答えてないよね? どうしてローラインで最強とまで称えられている貴方が犯罪組織の傭兵をやってるの?」

 

「テメェには関係ねェ話だ」

 

「私には答えさせたのに、自分だけ黙秘するのはズルいと思うけど?」

 

「……まさか、テメェ、マジで金が無くてコレに参加したのか?」

 

「だからそう言ってるじゃん。無一文だって」

 

 私が笑顔でそう言い切ると、封龍剣【滅一門】の担い手は呆れたような表情を作った。

 

「馬鹿だろ、他にいくらでも金を稼ぐ方法があっただろ。綺麗な顔してンだから水商売でも稼げるし、このオレサマに匹敵するだけの力があるならキラーズとしても活躍が……」

 

 そこまで言って、アーサーくんが目を見開いた。

 あー、これはちょっとマズい。

 トップクラスのキラーズが相手だと正体がバレる可能性があることくらい、シュレイドで嫌というほど経験したのに。

 むしろ、今まで気付かれなかった方が奇跡なのかもね。

 

「そういうコトか……!?」

 

「しーっ! お願い、本当に、それをバラされたら終わるから!」

 

 どうやらシュレイド王国のキラーズギルド本部から、『禁忌』の龍は擬人化能力を有していることは伝わっていなかったらしい。

 前例を知っていれば、シエルみたいに気配だけで気付くでしょうし。

 キラーズギルド同士で情報の共有が出来ていないことが分かったのは大きな収穫だけど、それが台無しになるほどのデメリットを受けた。

 いや、でも、アーサーくんがいきなり私を指差して古龍だって言っても誰も信じない可能性はある。

 シュレイドの王都に侵入した時も、シエルの援護に来たキラーズは私が祖龍だって言われても動揺してたし。

 

「今のところ竜大戦は『猶予期間』だ。共存を提示してるテメェらは、人間の街の中で派手に暴れることが出来ねェって訳か」

 

「バレたのなら仕方ないね。……まぁ、その通りだよ」

 

 周囲の観客には聞こえないように小声で発した私の言葉に、アーサーくんの表情に陰が生まれる。

 

「チッ……! シュレイドの野郎共め、これだけ重大な情報を隠してやがったのか……!?」

 

 直後、自分が無数の刃に貫かれて死ぬ光景を幻視するほどの殺気が放たれた。

 観客席でも悲鳴が上がり、精神の弱い人が顔を青くして倒れてしまう。

 

「悪りぃがテメェは絶対に逃さねェ。持ってる情報、全部まとめて喋ってもらうぞ」

 

「お喋りがしたいなら喜んで付き合うよ? ……だけど、今回はもう時間だけどね?」

 

「――ッ!?」

 

 一転して不敵な笑みを浮かべる私に、何かを察したアーサーくんが観客席の方へと視線を向けた。

 その先にいるのは、炎を体現したかのような真紅の青年と純真な少女。

 

「アンセスさん! 絆石、手に入れました!!」

 

 息を切らしながら、アデルは手に握った小さな白い石を掲げる。

 ――絆石。

 それは人と龍の心を繋ぐ、不思議なアイテム。

 竜と共存する未来を選択したモンスターライダーのみが扱うことの出来る、絆の証。

 このアイテムが持つ力は無数にあるけど、その中で最も代表的な力は……!

 

「アデル、お願い!」

 

「はい! ……アンセスさん、負けるな!」

 

 言葉と同時、アデルの手の中の絆石が凄まじい光を発した。

 共鳴するように私の全身が白い光で包まれ、全てのダメージが一気に回復する。

 いや、それだけじゃない。

 龍脈とはまた別種の力が流れ込み、私の弱体化が大幅に改善されていく。

 

 モンスターライダーとは、竜を育てる存在。

 その本質は絆を結んだモンスター……オトモンの力を、限界以上に引き出すことだ。

 ライダーであるアデルが、私を友達だと認めてくれるのなら。

 モンスターである私は、どこまでも強くなれる。

 

 これが私の考えた打開策。

 アーサーくん以外に正体を隠したまま、擬人化した状態で格上を倒す唯一の方法だ。

 だからこそ私は、戦闘中に微弱な電波を放ってまるで電話のようにバルカンに指示を出した。

 私とアーサーくんの戦闘にこの場の全員が注目している隙を突いて『犯罪組織アウグス』のお金を盗み出し、それを使って絆石を手に入れて欲しいと。

 私が同行しなくても、ライダーとして突き抜けた才能を持つアデルなら宝石の中から絆石を見つけ出せると信じて。

 

「アーサーくん、貴方は本当に強いよ。この勝負は完全に貴方の勝ち」

 

「あァ……? 何が言いたいんだテメェ」

 

「だけど、まだ私は人間に負ける訳にはいかないからさ。……アデルから借りた力で、今から貴方を倒すね」

 

 その先に、もう会話はなかった。

 アーサーくんが今まで通り封龍剣【滅一門】を上段に構え、人間離れした膂力で振り下ろす。

 単純な動作だけど、その凄まじい破壊力はきっと古龍ですら一撃で屠ることが出来たでしょう。

 ただ、その攻撃力と反比例したアーサーくんの速度では。

 絆石で大幅にドーピングされた私の速度に、反応することも出来なかったというだけの話で。

 擬人化状態での限界どころか、龍形態での全速力に迫る速度で放たれた私の拳は。

 私の全力を知らなかったキラーズの不意を突いて、その意識を奪うのに十分な威力を発揮した。
















〜おまけ〜

アーサー「初登場した時くらいもっと活躍させろや」

アンセス「今回はアデル覚醒回だったから、ドンマイ!」

シエル「因みに速度特化の私なら最後の攻撃を避けることができます(ドヤァ)」

バルカン「攻撃力に極振りとか頭悪いことするからこうなるのだ」

※アーサーは本当にフランシスカやシエルに匹敵する実力者です。
ただ、アデルが持つモンスタードーピングパワーが頭おかしかっただけです。しかもドーピングした対象が祖龍なのが悪かった。



ー追記ー
次回の更新は9月4日の予定です。

大切なものは――

  • 更新速度ではない、質だッ!
  • 質ではない、更新速度だッ!
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