――懐かしい、夢を見た。
生意気で、世話好きで、口うるさい、幼馴染みとの約束を……
『アーサーは男のくせに弱っちいなぁ!』
うるせえ。
テメェくらいすぐに追い抜いてやるからな。
『アタシの夢はね、全部の『魔境』を攻略することっ! アーサーがもう少し強くなったら、その時は一緒に連れて行ってあげる!』
余計なお世話だ。
そのうちテメェの方が助けてくれって言うようになるぜ。
『国の偉い人からキラーズのスカウトが来たの! 人類の守護者になれるんだよ!』
そうかよ。
誰かを守るために戦うなんぞ下らねえ。
オレサマが武器を握るのは、ただテメェに勝つ為だ。
『大変だアーサー、ライラが龍の毒に……! このままでは1年も保たないと――……』
……あ?
『治療法はありません。解毒薬の作成には、ライラさんを襲った龍の血が必要です。それだけではなく、高価な薬品や売買が違法とされる薬草も……』
オレサマが何とかする。
『痛くて、苦しくて、辛いの。もう誰にも迷惑をかけたくないよ。このまま、死んでしまいたい……!』
ふざけるな。
2人で全ての『魔境』を攻略するって言っただろ。
あと少しだけ待ってろよ。
絶対に、助けてやる。
それで元気になったら、一緒に世界中を旅しよう。
――病み上がりのテメェの代わりに、オレサマが全ての『魔境』を攻略してやるから。
『約束だよ? 全ての『魔境』を攻略できる、世界最強のキラーズになっててね?』
――あァ、約束だ。
「――くそっ、たれ……!」
完敗だった。
アンセスと名乗る謎の少女が放った最後の一撃、それは反応すら許されない神速の拳打。
それまでの戦闘でアンセスが全力を出していないことは分かっていたのだ。だからこそアーサーは自分が優勢でも慢心せず、常に“全力”を警戒していた。
それなのに。
目を閉じれば、鮮明に思い出せる。
大地を踏み砕き、音を彼方に置き去りとし、衝撃波すら伴って放たれた純白の少女の“全力”。
『世界最強』に敗北は許されないというのに、何万人もの観客が見ている闘技場で負けた。
このままでは終われない。
まだ解毒薬の生産に必要な素材も、治療と手術を続けるための金も不足しているのだから。
「次はオレサマも慢心しねェ……本気でテメェを殺すぞ、アンセスゥゥ――ッ!!」
地下闘技場。
そのフィールドに空いた底無しの大穴に向けて、『世界最強』の称号を渇望する青年は絶叫する。
アンセス。
真名も知らぬ白の龍。
ソレを、絶対に乗り越えるべき『最大の強敵』であると見定めて。
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結論から言うと、アデルが持つライダーとしての才能は私の予想の100倍は凄かった。
原作である『モンスターハンターストーリーズ』でも、ライダーによる育成の効果は凄い。
オトモンは種族の限界を超えて強くなるからね。極論、アプトノスでもレベルを上げればリオレウスを倒せるようになる。
“絆石”のドーピング力にはかなり期待ができた。
けれども、この現実世界では『ストーリーズ』の設定がどこまで反映されているかは分からない。
期待値を下回る可能性もある。
だから、私はアーサーくんを絶対に一撃で仕留めるために全力でぶん殴った訳だけど……
「し、死んじゃうかと思いました……」
「まさか紐なしバンジーをすることになるとは思わなかったよ……」
簡潔に言うと、やり過ぎた。
確かに“絆石”のドーピングには期待してたけど、まさか龍形態の時と同等以上にまで身体能力が上昇するとはね。
さて、ここで問題です。
それほどドーピングされた状態で、祖龍である私が全力で攻撃すると何が起きるしょう?
答え、地形クラッシュ。
要するに祖龍が持つ物理攻撃モーションの中でも最大のダメージを叩き出す「滑空」と同等の威力が出た訳だ。
……まぁ、余波で周りは吹っ飛ぶよね。
しかも運が悪いことに賭博闘技場の下には洞窟のような広い空間があって、擬人化モードの私は無様に落下。
私を追いかけてきたバルカンとアデルと一緒に、3人で紐なしバンジー体験をすることになった。
結果、私たちは謎の大洞窟を探検してる。
「あの、アンセスさん」
「もう一時間くらい歩いてますけど……その、出口までどのくらいですか?」
あー、うん。
出口ね。
「……もうちょっと歩いたらきっと出れると思う」
「きっと!? 思う!? もしかして私たち迷子ですか!?」
「私のレーダーもここまで地中深くだと役に立たないの! 土で電波が遮断されるから!」
「迷子なら早く言ってくださいよ!?」
「だって聞かれなかったもん!」
「平然と歩き出すからアンセスさんは道を知ってると思ってたの!」
「知ってる訳ないじゃん! モンスターが地図見ると思う!?」
「本能とかで出口が分からないんですか!?」
「それが出来るならやってるし!」
そもそも私は方向音痴だ。
祖龍に転生した後は迷子になることは無かったけれど、それは天体望遠鏡クラスの視力とレーダーがあったから。
あれ?
それ以前に、目的地を定めて移動することが少なかった気がする。
……思い返すと、私ってばずっと行き当たりばったりで生きてきたわ。
「バルカンさんも何か言ってください!」
「姉上に間違いなどないわ。黙って歩くが良い。それでも出れぬ時は地上まで大穴を開けてくれる」
「絶対にやめて下さいよ!? もう、どうして2人とも平然としてるんですか……? このままだと餓死する可能性もあるんですよ?」
「「龍脈で生命維持できるからね(な)」」
「何でもアリじゃないですか……」
確かに古龍のスペックは万能すぎてヤバい。
もしも地球に古龍種が出現したら、それこそアメリカでも数日で滅びるよね。だって古龍種の出現=大災害と同じだもん。
超大型の台風や大地震や火山の噴火に襲われるのと一緒だよね。
……? じゃあ、それを武器1つで討伐するキラーズやハンターって何なの?
よし、思考停止。
これ以上はストレスで胃が痛くなる。
「ともあれ、ずっとこの大洞窟を彷徨うのはアデルが大変だからね。脱出方法を考えないと」
「姉上、出口が見つかるまで走るのが最善では? 我らの速さならば数秒で出口を発見できます」
「却下よ」
「何故ですか姉上ぇ!?」
私たち、擬人化状態でも普通に音速を超えるからね?
こんな地下でソニックブームを発生させながら走り回ったら、地上にどんな影響が出るか分からないでしょう。
大地震とか発生したらどうするのさ。
「とにかく…………ん?」
力技はダメと言いかけて、私は足を止めた。
同時にバルカンも龍脈の流れが変化したことに気づいて、暗闇に包まれた洞窟の先をじっと睨む。
古龍種の気配だ。
もしかしてこの大洞窟、古龍種が作ったモノとか?
……この仮説が当たっているのなら、大洞窟の創造主は間違いなく超大型のモンスターだ。
少なくとも、龍形態の私やバルカンよりも大きい。
「あの、2人とも、どうしたんですか?」
急に無言になった私とバルカンを見て困惑するアデルを抱き寄せ、私は静かに龍脈を収束させる。
闘技場の時と同じく地下だけど、周囲に人工物はゼロ。
これなら身体能力が低下する心配はない。
そして数秒後、大洞窟の主が姿を見せた。
『偉大なりしや我らが始祖よ。紅き雷霆を振るう真祖よ。大いなる命の母よ。そのお姿を拝謁出来るとは、この身に余る幸福でございます』
大地が震える。
世界が震える。
地中を流れる膨大な量の龍脈を、この龍はただ闊歩するだけで循環させている。
そして姿を見せたのは、巨大な龍だ。
棘だらけの甲殻、長大な首と尾、鼻先に生えた一本の角、そして6960センチに達する巨体。
『歩く天災』との異名を持ち、ある時には『動く霊峰』と謳われる大地の化身。
MHシリーズにおける、初代大型モンスター。
「老山龍……ラオシャンロン……!」
『母上よ。こうして言の葉を交わす機会を得られたこと、誠に喜ばしい限りでございます』
「母上!? アンセスさん、こんなに大きな子供がいたんですか!?」
「おいアデル、人間の尺度で判断するなよ。この星に棲む全ての龍は姉上の力で生まれている。つまり、全ての龍にとって姉上は命の母となるのだ」
「な、なるほど……?」
バルカン、解説ナイス。
無表情で受け流してたけど、私もどうして初対面で母上呼びされたのか分かって無かったし。
バルカン達が私のことをお姉ちゃんと呼ぶのと似たような理屈かな?
ポーカーフェイスをキープしたまま強引に理解していると、ラオシャンロンの視線が私の後ろに立つバルカンへと向けられた。
『おお……憤怒の体現者たる真紅の王よ、真祖様の供ですかな?』
「うむ、任を終えて帰還するところだ。良い機会だ、輩よ、我らが始祖を地上まで案内せよ」
『それは大任ですな、喜んでお受けしましょう』
ラオシャンロンの重低音な声が響くと同時に、巨大な頭部が私の眼前に差し出される。
うわぁ、凄い迫力!
イコールドラゴンウェポンと同サイズなだけあって、確かに動く霊峰の異名に相応しいよ。
頭だけでも小山だもん。
『母上よ、どうぞ背にお乗り下され』
「えっと、良いの?」
『勿論です。親孝行をして損はありませんからな』
おおう、彼氏よりも先に子供が出来たよ。
まだ転生してから数年しか経ってないのに、気づいたらお母さんになってるとか。
私の龍生マジで意味わからないね。
少しだけ遠い目になりながら、ラオシャンロンの迫力に負けて目をぐるぐるしてるアデルと一緒にジャンプ。
巨大な角の先端に着地すると同時にラオシャンロンが首を持ち上げて、視界が一気に上がる。
「す、凄いです、高いですよ、アンセスさん!」
「うん、流石は初代大型モンスター! これはちょっとテンション上がるかも!」
ラオシャンロンに乗って散歩とか、全無印プレイヤーが羨望の視線を向けてくること間違い無しだよ。
乗り攻撃システムが実装されたMH4には登場してないし。
これは凄いレアな体験じゃない?
『親孝行の甲斐があって何よりです。……ところで母上よ、その人間は?』
「そう言えばまだ紹介してなかったね。この子はアデル、私の大事な友達だから食べちゃダメだよ?」
『何と……! 母上の友ともお会いできるとは、光栄ですな』
「あ、その、私も光栄ですけど、ラオシャンロンさんも喋れるんですね!」
……確かに。
凄いナチュラルにバルカンと会話するから違和感もなかったけど、私と弟妹の他に言葉を理解して話すモンスターって初めて見たかも。
『これでも真祖の系譜を除けばもっとも古い龍でしてな。人間とは何度も接触しておりましたし、黒龍様にも嫌というほど教え込まれたので……』
「黒龍様? もしかして、ボレアスくんですか?」
ビクッと。
アデルの口からボレアスの名前が出た瞬間に、山のような巨体が僅かに揺れた。
『黒龍様をそのように……確かに、母上の友に相応しい胆力の持ち主のようです』
「……?」
はてなマークを浮かべるアデルの隣で、私は思わず苦笑した。
そう言えば、ラオシャンロンには「黒龍に怯え、逃げるように歩き去った」みたいな逸話があったね。
その設定もちゃんと反映されてるらしいけど……
「ラオシャンロン、ボレアスと会ったことあるの?」
『えぇ……煉黒龍様の呼びかけに応じて、人間が生み出した鉄の竜の掃討に参加したのですが……』
そこで一度言葉を区切ると、巨大な古龍は声を低くして続けた。
『この図体ですので歩く速度が鈍く、その後の合流に少し遅れまして。合流した時には、黒龍様と煌黒龍様による恐ろしい「人間の言葉学習会」が始まっていたのです。遅刻したわたしは色々と罰を受けて……』
何それ聞いてない。
確かに古龍たちに人間の言葉を教えてとは頼んだけど……ジロリと、私は隣に立つバルカンに視線を向ける。
「バルカン。私とララが王都に行った後、何か変なことしてないよね?」
「………………はい、姉上」
「バルカン、あの平原に戻ったら2回目の家族会議だから」
「違います姉上、9割ほどはボレアスとアルンの仕業でして!」
本当に何したの!?
これは平原に集まってくれている古龍たちにも話を聞く必要がありそうかも。
あぅ、また仕事が増えた……。
最近はちょっと体調が悪いから休みたいのに、また厄介なことになったよ。
少し憂鬱な気分になってため息をつく。
ラオシャンロンが私の核心を突いたのは、その直後のことだった。
『どうやら「暴」の側面がかなり強くなっているようですな。……偉大なる真祖よ。あなた様の自我が限界を迎えるまで、後どれほどの猶予があるのですか?』
その言葉を耳にした瞬間、ズキンッと胸が疼く。
私の心の奥底で、祖龍ミラルーツが目覚めの気配を察して獰猛に牙を剥いた。
大切なものは――
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更新速度ではない、質だッ!
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質ではない、更新速度だッ!