天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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第34話 決戦準備

 ――『私』という人格が不安定になる前兆は、以前から少しずつ感じるようになっていた。

 そもそも『私』は戦うことが苦手だ。

 もちろん自分の命が危険に晒されることは怖いけれど、それと同じくらい誰かを傷つけるという行為を受け入れることが出来ない。

 

 でも、運命は残酷だった。

 私が転生したのはモンスターハンターの世界、弱肉強食が唯一にして絶対のルールである厳しい大自然。

 しかも、私はモンスターとして命を授かった。

 生きるためには他の生き物を殺すしかない、自分と大切な弟達を守るためには外敵を殺すしかない。

 今世でも私はお姉ちゃんだから。

 弟妹たちを守るため、そして龍の始祖である祖龍としての責務を果たすため。私は、竜大戦という最悪の殺し合いから逃げることは許されない。

 

 だから弱い『私』は、強い「私」に頼った。

 最強の龍ミラルーツの力と戦闘センスは、中身が軟弱な女子高生でも問題なく敵を排除できる。

 龍としての本能に心を委ねれば、命懸けの殺し合いでも平静を保てる。

 今の私はもう人間じゃない。

 眷属である竜種が繁栄するためなら、障害となる存在を一切の慈悲なく撃滅する龍の始祖なのだから。

 私の性根は、凶暴で残忍な龍だ。

 それを人間だった時の記憶と理性で、強引に抑えているだけ。

 

 そして、心の奥底から湧き出る古龍種の本能に抗うのも限界が近い。

 今では戦闘に入ると自動的にスイッチが入り、生き物を殺すことに躊躇いというものが無くなってしまう。

 『私』という人格が後どのくらい保つことが出来るのか私にも分からないけど、猶予期間が終わる頃にはギリギリでしょうね。

 それでも根性で押さえ込むけどな!

 竜大戦が終わる前に祖龍が持つ『凶暴性』や『残忍さ』が剥き出しになると、人類も古龍も凄い被害が出るし。

 だって、戦闘狂が指揮官なんて出来るわけないじゃん。

 理性を失った私が出せる命令なんて、それこそ「命ある限り人間を殺せ!」とかになる。

 

「まぁ、別に『私』が消えるわけじゃないからね? ただ性格と考え方が大幅に変わるだけだし。だから、えっと、大丈夫だから!」

 

「だってぇ……っ!」

 

 涙で可愛い顔を台無しにしちゃってるアデルの背中を撫でながら、私は必死で慰める。

 事実、私の『人間性』が限界を迎えたところで『私』は消えない。

 むしろ祖龍ミラルーツとしての在り方は、封じている『本能』が表出した後の方が正しいと思う。

 もしかしたら、弟妹たちのように『理性』と『本能』を完全に共同させることが出来るかもしれない。というか、それが理想だけどね。

 

「ラオシャンロンさん、バルカンさん、何か方法はないんですか!?」

 

「そんなもの我が知りたいわ! ……昔から姉上は優しすぎたのだ。龍の本能を押さえ付けてまで、全てを守ろうとした。その反動が間もなく訪れる、それをどうにか出来るのは姉上しかおらん」

 

『何より『本能』の覚醒は必須。……母よ、お気づきですか? 御身が『本能』と共に力の大部分を封じてしまっていることに』

 

「まぁ、ね……」

 

 ずっと違和感はあったからね。

 確かに、世界観の設定では祖龍ミラルーツは最強の古龍だよ。

 だけど、祖龍と同じ『禁忌』にカテゴライズされているバルカンやボレアスも祖龍に匹敵する力を持っていると思ってた。

 アルンと戦った時も、勝てたのは奇跡だと思えるくらいの接戦だったし。

 その時の私は同じ『禁忌』クラスのモンスターだから、力が互角なのは当然だと考えて疑問すら抱かなかった。

 

 だけど、ここで1つの疑問が浮かび上がる。

 本当に『禁忌』のモンスターの力が同等なら、どうして私は弟妹たちから異常に尊敬されているの?

 古龍種の上下関係は簡単に決まる。強い方が上になる。それだけ。

 全ての龍の始祖だからっていうのも理由の1つだろうけど、弱肉強食の前にそんなものはあまり関係ない。

 もしも本当に祖龍と他4体の力が互角なら、弟妹たちの性格的に本気で頂点の座を奪おうとするはずでしょ?

 私の前ではただの可愛い弟妹だけど、本当はそれぞれの異名に相応しい凶暴性を秘めた龍であることは知ってる。

 バルカンやアルンはプライドの塊だし。

 祖龍(わたし)以外には、絶対に頭を下げたりしないもんね。

 

 それじゃあ、どうして祖龍が頂点であることに誰も文句を言わないのか。全ての龍が私に忠実に従うのか。

 答えは単純。

 本当の祖龍の実力は、他の『禁忌』と比較しても遥かに上回るほど隔絶したものだから。

 私が今のところ弟妹たちと同レベルの力しか出せないのは、無意識のうちに自分で自分の力を封印していたからだ。祖龍の『凶暴性』と一緒にね。

 

「そういう訳だから、いつまでも今のままじゃダメなんだよ」

 

「そんな……私が“絆石”を使ってもダメなんですか!? さっきのキラーズさんを倒した時みたいに!」

 

「アデルの力を借りると、龍の中で不満が生まれる可能性があるからさ。自分たちの指揮官が敵の力を借りてたら、そりゃあ良い顔しないって」

 

「姉上の仰る通りだ。龍の中には血の気が多い種も無数に存在している。確かネルギガンテと名付けられた龍がそうだったか……」

 

 それに、今の私だとキラーズに勝てない。

 フランシスカさん、アーサーくん、シエル、少し考えただけで古龍種すらも倒せる実力者は3人も出てくる。

 私が知らない強敵だって、まだ何人もいる可能性だってある。

 1対1なら大抵の相手に勝てるけど、これから始まるのは史上最悪の竜大戦だ。

 モンスター側の指揮官である私は、最前線で戦う必要があるでしょう。万全の状態でフランシスカさんと戦える保証もない。

 何より、私の敗北は全モンスターの敗北になる。

 

 祖龍ミラルーツに、敗北は許されない。

 

「――だけど」

 

 無限に続くかと思えた大洞窟な終わりを迎え、前方から太陽の光が差し込む出口が見え始めた。

 久しぶりの陽射しを背に、私は頼れる長男に『もしも』を託す。

 

「私に何かあったら……その時はお願いね、バルカン」

 

「姉上の威光が陰ることはあり得ません。しかし、ご命令とあらば」

 

 弟妹たちには出来る限り弱いところは見せたくない。

 力こそを至上とする私の古龍種(けんぞく)に無様な姿を見せれば、それは威厳と信用の失墜に繋がるから。

 だけど、どこかで私がダメになってしまった時は。

 弟妹たちに人と、龍と、この星の未来を託すしかない。

 

 地下洞窟から脱出した私たちはラオシャンロンに別れを告げた後、アデルをイースターランの街に送り届けた。

 アデルはずっと泣いていたけど、別れ際には必ず人と竜が共存する場所を作ると宣言してくれた。

 “絆石”を手にした彼女は、立派なモンスターライダーだ。

 もう私が手を貸さなくても、ライダーとして順調に力をつけていくと思う。そのうち古龍種までオトモンにしたりして。

 

「姉上……その、洞窟でのお話なのですが……」

 

「問題ないよ、バルカン。決戦時には必ず始祖としての力を見せるから」

 

「――――……」

 

 虚勢を張った私に、バルカンは何て言ったのか。

 弟に決して弱みは見せないと無理していたその時の私には、そんなことを考える余裕もなかった。

 

 

 

 

 

 

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 アデルとの旅を終えた後は、かなり大忙しとなった。

 各地に離散していた古龍種から人間の国の情報を受け取り、それを元に戦略を組み立てていく。

 主な脅威は2つ。

 古龍種すら単独で討伐するトップクラスのキラーズと、龍脈エネルギーを使用した対龍兵器だ。

 対龍兵器のスペックは詳しく分からないけど、初号機を破壊してくれたララの推測では上位の古龍と同等の戦闘力があるらしい。

 うん、ぶっ壊れ性能だね。

 竜だと絶対に勝ち目はないから、古龍種の大部分はこの対龍兵器と戦うことになるかな。

 

 そして最大の問題であるトップキラーズたち。

 彼らの相手を出来るのは、古龍種の中でも最強格である私たち『禁忌』の龍だけだ。

 フランシスカさんは間違いなく私を狙ってくるでしょうね。

 流石にフランシスカさんと他のキラーズを同時に相手にするのは無理だから、そこは弟妹たちに頼る必要がある。

 

 言い方は悪いけど、残りの弱いキラーズは竜による物量作戦で対処しよう。

 戦争で「数」は強力な武器だからね。

 恐らく全世界のキラーズの総数よりも、モンスターの数の方が圧倒的に多いだろうし。

 これだけ「数の差」があるのに、未だ人類が平然と生存しているのは、フランシスカさんやシエルのような規格外のキラーズが戦線を支えているからだ。

 ……いや、僅か数人で人類を守れるとか何それ英霊(サーヴァント)

 

 余談だけど、あの平原に集結してくれた全ての古龍種は「ボレアスとアルンの、スパルタ言語教室」で全員が言葉を操れるようになっていた。

 その授業内容は、うん、普通にアウトだったね。

 ラオシャンロンがボレアスに本気でビビるのも納得だよ、死者が出なかったのが奇跡だってあれ。

 特にボレアスが酷い。

 あの子ってば天才型だから、他者に何かを教えるのが凄い下手くそなのよね。基本的に感覚で何でも出来ちゃうから。

 出来ない(ヒト)の気持ちが分からないって感じ。

 王は人の心が分からない……とは、ちょっとニュアンスが違うかも。

 

 閑話休題。

 

 そんな感じで決戦に備えた準備をしているうちに、人類に与えた猶予期間も残り半分を切った。

 各地で「戦争反対」を掲げる人も少しだけ生まれているようで、戦う意思が無い人々を保護する作戦も展開中。

 恐らく決戦場となるでしょうシュレイド地方から、遠く離れた場所へ移す方法を思案してるところだね。

 

 そして、現在。

 

「あぁ、姉上と2人きりのデートが出来るなんて。今日を全世界共通の祝日にしてやりたい気分ですわぁ!!」

 

「うん、お願いだから暴走しないでよ?」

 

 私の腕に抱きついて目をハートにしてるアルンから視線を外して、私は前方に見える『新大陸』を静かに睨む。

 そう、モンスターハンターワールドの舞台だ。

 もちろん今は『新大陸』とは呼ばれてないし、そもそも人類は発見すらしてないけどね。

 私が『新大陸』に向かう理由はあの地域だけに生息する古龍を仲間に加えるため。

 対龍兵器やイコールドラゴンウェポンのことを考えると、大きな戦力となる古龍種は少しでも多く仲間に欲しい。

 

「アルン。念のために言っとくけど、戦闘は最終手段だからね?」

 

「もちろん理解していますわぁ! つまり姉上に従わないクズなら殺しても良いということですわよね?」

 

 ダメだこれ。

 『新大陸』の古龍種が私に非友好的だった場合に備えてアルンを呼んだけど、連れてくる弟妹を間違えたよ。

 これ絶対に逆効果になるって。

 『古龍種の王』とまで謳われるムフェト・ジーヴァや、古龍を襲うことで有名なネルギガンテ、歌で竜を狂わせるアン・イシュワルダより、暴走したアルンの方が100倍危険かもしれない。

 仲間割れとか絶対にして欲しくないのに……。

 

 嫌な予感に冷や汗を流しながらも、私はアルンと共に『新大陸』に上陸した。

大切なものは――

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