天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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第34.5話 対龍会議②

 ヴァルフラムの暴走で会議室が大破したことで、一同は被害を免れた隣の部屋へ移動していた。

 『大会議室』より規模は劣るが、この人数ならば十分な広さがあると言えるだろう。

 超越者たちが改めて円卓に着席するが、フランシスカは指定された自分の席ではなく先の戦闘で生まれた瓦礫の山に向かって歩いていく。

 

「いつまでそこで寝たフリをしている? 『不死者』とまで謳われる貴様が、あの程度のダメージでダウンする訳がないだろう」

 

 そんな言葉と共に、黒の狩人はその長い足で瓦礫を蹴り上げる。

 無数の巨大な瓦礫が石ころのように吹っ飛び、舞い上がる風塵の中から巨大な腕が飛び出した。視界が悪い状況を狙った、不意打ちのお手本のような拳。

 しかし、フランシスカは奇襲を予測していたように手首を掴んで受け止める。

 

「お遊びの時間は終わりだよ。……殺人鬼、続きは古龍を斃した後でやろう。それとも、今やらねば不満か?」

 

「……いいや」

 

 龍すら捻じ伏せる己の拳撃。

 それを正面から受け止めたフランシスカに、狸寝入りをやめたヴァルフラムは笑みを返す。

 その巨体に刻まれた傷は全て血が止まっており、高速で回復が始まっていた。

 人間という種の限界を超えた治癒能力。確かにそれは『不死』の異名に相応しい。

 実際、各国で最強の称号を冠する人並外れた超越者たちもヴァルフラムの回復力に瞠目した。

 

「噂に聞いてたぜ。『人類最強』の女がいるってな。実物を見るまではザコの1人だと思ってたが……悪くねえ」

 

 嗤う。

 己が『最強』であると疑わない殺人鬼が、強敵との邂逅に。

 

「納刀状態だったとはいえ、この私の斬撃をまともに受けて斃れぬその『不死』の能力、面白い」

 

 嗤う。

 己が『最強』であると疑わない狩人が、強敵との邂逅に。

 

「――お前とは至上の殺し合いが出来るだろうぜ」

「――貴様とは愉快な立ち合いが出来そうだ」

 

 極上のエサはとっておく。

 楽しみは、最後に回した方が良いのだから。

 つまみ喰い(・・・・・)は、我慢した方が良い。

 だから、戦闘狂である2人の捕食者は今だけその拳と刃を納めるのだ。

 ――決着の瞬間を、夢想して。

 

 小競り合いを終え、ようやく席に着いたフランシスカとヴァルフラムにキャロルは大きく溜息をついた。

 そして出席者が揃ったことを改めて確認し、キャロルは立ち上がって全員の視線を集めてから口を開く。

 

「定刻を2分オーバーしましたが……出席者が揃いましたので、これより『対龍会議』を始めます!」

 

 

 

 

 

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 『対龍会議』の開始をキャロルが宣言した後、真っ先に発言したのは、海洋国家ローラインの代表であるアーサーだった。

 意外と律儀なことに挙手して発言権を得てから、青年は事前配布された資料を指差して、

 

「まずは情報のすり合わせがしてェ。ここに書いてやがる『禁忌の龍』についてだ」

 

 『禁忌』というワードが出た瞬間、この場にいる全員の表情が変化する。

 人類にとって間違いなく最大の脅威。

 単独でこの世界を滅ぼすことも出来る古龍種。その頂点に立つ5体の怪物。龍の王たち。

 『禁忌』の打倒なくして、竜大戦の勝利はありえない。

 人類の未来を賭けた最後の決戦を前に行われるこの会議で、真っ先に『禁忌』の話題が上がるのは当然と言える。

 

「シュレイドが掴んでる『禁忌』の情報は、この配布資料に書いてることで全部か? ……まだ他に隠してることはねェだろうな?」

 

 問いかけるアーサーの脳裏に蘇るのは犯罪組織アウグスが擁する闘技場での戦い。アンセス――人の姿に擬態した祖龍ミラルーツに敗れるという、屈辱の記憶だ。

 この資料には『禁忌』が有する擬人化能力について詳細に記載されているが、情報伝達は完全に手遅れだろう。

 海洋国家ローラインは「猶予期間」の間に、擬人化した『禁忌』に侵入されていたのだから。

 結果的に被害を受けたのは犯罪組織アウグスのみだが、ローラインが大被害を受けていた可能性は十分にある。

 もっと早く……この会議が行われるよりもずっと前に、シュレイドが擬人化能力について公表していたら。

 あるいは、ローライン国の首都に祖龍が侵入することを防げたかもしれない。

 

 だからこその問いかけ。

 これ以上の情報秘匿は許さないという牽制も含む質問。

 それに対して、キャロルは動揺することなくアーサーに視線をぶつけて答えを返す。

 

「『禁忌』に関する情報の一部を秘匿し、早期に公開しなかったことは謝罪します。しかし、龍が人に擬態することを世間に発表すればパニックになる可能性もありました。正しい判断だったと私は思っています。そして質問の答えですが、これ以上の情報の秘匿はありません」

 

「オレサマの祖国が、祖龍によって更地にされてた可能性があったとしてもか? 王侯貴族の連中を介さず、ギルド同士でコッソリと情報伝達するって方法もあったと思うが?」

 

「キラーズギルドは軍の管轄下の組織。情報を伝達する時には必ず検閲が入るでしょう。……恥ずかしい話ですが、我が国ではキラーズは政府に信用されていませんので」

 

「そォかよ。オレサマの質問は以上だ。ま、終わったコトに今さら文句言っても意味ねェしな。次の話に進んでくれや」

 

 アーサーが視線を背けて会話の終わりを告げ、キャロルは咳払いして全員の意識を改めて自分に向けさせる。

 

「それでは『対龍会議』の主旨を簡潔に言います。――このまま龍と真正面から戦えば、人類は必ず負けてしまう。策が必要です」

 

 人類の敗北。

 そう断言するキャロルに、己の力量に絶対の自信を誇る超越者たちの視線が険しくなった。

 しかし、キャロルもまた怯むことなく言葉を続ける。

 

「皆様。まず、我ら人類にとって最悪の展開が分かりますか?」

 

「古龍による無差別攻撃。特に大規模な天災や超上空からの一方的な地上への攻撃が行われたら終わりでしょう」

 

 キャロルの問いに瞬時に答えたのは、青の狩人シエル・アーマゲドンだ。

 彼女の回答にキャロルは頷いて肯定を示し、王女の言葉を引き継ぐ。

 

「古龍の力は絶大です。彼らがその力を全力で解放すれば、世界中があらゆる天災に見舞われます。地震、津波、嵐、火山噴火、吹雪、落雷、大雨、神話のような天変地異が多発する。超人的な戦闘力を持つ皆様なら生き延びることも出来るかもしれませんが、人類の9割はこれで死ぬでしょう。少数が運良く生存しても、文明が崩壊した状態では生き残れない。こうなれば人類は絶滅です」

 

 つまり、人類は既に終わっているのだ。

 チェスで例えるのなら、完璧なまでのチェックメイト。

 

 だから――、

 

「この状態から人類が勝つには、もう盤面をひっくり返すしかありません」

 

 まず人類とモンスターでは勝利条件が違う。

 人類の勝利条件はもちろん、モンスターの絶滅。

 全ての竜と龍を駆逐することで、人類にとっての天敵をこの星から消してしまうのだ。

 

 それに対して、モンスターの勝利条件は人類との共存。

 要するに、古龍種たちは人類が絶滅するような大規模で無差別の攻撃を行うことはできない。

 モンスターは人類の継戦力を徹底的に削ぎ落とし、降参させる必要があるのだ。

 

「勝利の難易度がこれほど違うから、人と龍は戦えています。もしも勝利条件が同じだったのなら、既に人類はこの世界から消えているでしょう。龍の……祖龍の温情によって、私たちは生かされていると言っても良い」

 

 全ては祖龍ミラルーツの気分で決まる。

 ずっと祖龍が人類に寛大であれば問題ないが、龍の温情が永遠に続く保証はどこにもない。

 そんな不安定な平和と安寧に、人類全員の未来を託すことなど出来るわけもない。

 

「人類が繁栄する未来を勝ち取るには、全ての龍を斃すしかありません。策略で、知略で、科学で、そしてキラーズの力で。勝たなければ、生き残れない」

 

 もしもこの先、祖龍よりも強いモンスターが現れたら?

 そしてその新しい最強のモンスターが、祖龍とは違って人類の絶滅を望むような個体なら?

 今しかない。

 甘っちょろい理想を夢見ている『あの祖龍』が頂点である今しか、人類に勝機はないのだ。

 

「前置きは十分だキャロル。そろそろ本題に入れ。我らは貴様の演説を聞きにきた訳ではない。そうだろう?」

 

「……ええ」

 

 圧倒的な劣勢。

 その現実を突きつけられても、フランシスカはただ不敵に笑う。

 一度の敗北もない常勝の狩人は、視線だけで対等の友人と認めたキャロルに問いかけるのだ。

 もう、龍に勝つ策略を考えているのだろう? ――と。

 

 そしてキャロルも、親友の信頼に知略で応える。

 

「皆様、2つ目の質問です。龍との最終決戦において、最大の敵とは何でしょうか?」

 

「ああ? 『禁忌』とかいうモンスターじゃねぇのか?」

 

「いや、ソイツは違う」

 

 何度も分かりきったことを言うなと、会議に飽きていたヴァルフラムが不機嫌な声で答える。

 しかし、その答えを『魔境還り』の片割れを担うフーゴが否定した。

 

「――古龍だろ」

 

「正解です。流石は3体の『禁忌』が巣食う魔境から生還した大英雄ですね」

 

「お世辞はやめろ。鳥肌が立つ」

 

 キャロルの称賛を舌打ちして跳ね除けるフーゴの隣で、その大英雄を補佐するアレクシアが挙手した。

 

「ちょっと待ってください。どうして『禁忌』よりもその他の古龍が脅威になるのですか!?」

 

「冷静になって考えろよアレクシア。ここにいるメンツを見てみろ。オレたち以外はモンスター以上のバケモンばっかだ。この会議に出てるキラーズなら『禁忌』が相手でも単独で勝ちにいける。オレたちのように2人で組めば、その勝率は7割以上だろうな」

 

「確かに……! 流石は中佐殿です!」

 

「フランシスカやそこの……あー、アーサーだっけか。それとヴァルフラムはプライドの塊だから死んでも共闘とか受け入れねえだろうが、その他の奴らはそこまで『最強』にこだわりがないだろ。そっちの爺さんや嬢ちゃんは勝つためなら手段は選ばないタイプと見た」

 

「……初対面なのに凄いわね。少なくとも、私に関しては当たっているわ」

 

 最初にフーゴの性格診断に反応したのはキュレネーだ。

 無表情なのは変わらないが、その声には少しだけ驚きの感情が含まれている。

 

「お見事ですな、ヒルデブラント殿。確かに、私は祖国に勝利をもたらすためなら手段は問いません」

 

「やめてくれ。ただ少しばかり人事管理の仕事をした経験があるだけだ」

 

 キュレネーに続いてベネディクトも称賛の言葉を送ると、やはりフーゴは苦笑して褒め言葉を跳ね除ける。

 

「オイ、話がそれてンぞ」

 

「ああ、雑談なら後回しにしろ。キャロルもさっさと続きを話せ」

 

 少し脱線した会議をアーサーとフランシスカが指摘し、キャロルも手を叩いてまた全員の視線を自分へと向ける。

 

「話を戻しますが、我々の最大の敵は古龍です。フーゴが言った通り『禁忌』はこの場の戦力で対応できます。大陸各地で行なった『イコールドラゴンウェポン起動実験』と直近の『対竜種兵器開発研究所襲撃事件』で、シュレイドは5体の『禁忌』と接触しています。その時のデータから、私は1つの結論に至りました」

 

 そこで一度言葉を区切り、キャロルは確信を込めて言う。

 

「『禁忌』はプライドが高く戦闘狂です。フランシスカに似たタイプですね。そして、祖龍はフランシスカを筆頭に最上位のキラーズを危険視している。これらの材料から『禁忌』はフランシスカたちの迎撃を行うでしょう。その他の戦線には、少なくともあなた方との戦いが決着するまでは顔を出さない」

 

 要約すればこうだ。

 最終決戦では、まず超越者と『禁忌』がぶつかり合う。

 フランシスカは開戦と同時に祖龍を目指して突き進むだろうし、モンスターを蹴散らしながら戦場を駆け回る黒の狩人を祖龍は無視できない。

 『禁忌』が妨害しなければ、フランシスカ1人で戦線を1つ勝利に導けるのだから。

 そして、それは他も同じ。

 シエル、ヴァルフラム、キュレネー、ベネディクト、アーサー、フーゴ、アレクシアと、この会議に出席しているキラーズは他とは一線を画する戦闘能力がある。

 『禁忌』はこの場のメンバーを絶対に倒しに来る。

 

 そうなれば、トップ争いをしている横でその他の戦力がぶつかり合うことになるだろう。

 そこで問題となるのが古龍種だ。

 

「そして、今の観測結果から古龍種にカテゴライズされるモンスターは同種でも力に個体差があると分かりました」

 

「確かに。ギルドで発注してるクエストにも、ターゲットは同じモンスターなのに難易度が違うモンがあった」

 

「例えば同じクシャルダオラでも、個体によって強さが違います。まだ若い個体は弱く、反対に長寿の個体は強力です。弱いものを『下位個体』と、そして強いものを『上位個体』と呼んでいます」

 

「それで、オレサマたちが『禁忌』と戦ってる間に『上位個体』の古龍が襲来するとやべェってことか?」

 

「ある程度はイコールドラゴンウェポンや『対龍兵器』で対応できると思いますが、問題は『G級個体』の古龍種。つまり『禁忌』一歩手前の力を持つ個体が存在していることです」

 

「私、知ってるわ。サザンドゥーラの周辺に生息しているモンスターは、他の地域の個体と比べてとても強いもの。きっとそれが上位個体……もしくは、G級のモンスターなのね」

 

 キュレネーの言葉をキャロルは頷いて肯定する。

 

「G級のモンスターはあなた方でも短時間で討伐するのは難しいでしょう。竜のG級個体でも、並のキラーズならば10人以上必要となります。そして古龍種ともなれば、並のキラーズやイコールドラゴンウェポンでは束になっても勝てない」

 

 それに頼みの綱である『対龍兵器』は、2週間ほど前にグランミラオスと名乗る幼女に9割近く破壊されてしまっている。

 もちろん猶予期間を利用して復旧しているが、G級個体の古龍種を多数相手にして勝てるほどの数は用意できないだろう。

 

「そして、祖龍もただ黙って決戦の時を待っている訳がありません。猶予期間を使い、人類に勝つ準備をしているはずです。擬人化してローラインに潜入していたのも、何かの策略の用意でしょう」

 

 ルビーを想起させる赤い瞳を細め、キャロルは断言した。

 

「祖龍ミラルーツは怪物です。それは単純に戦力的な意味だけなく、策略家としても。10……いえ、100手先を予測して策を練らなければ勝機はありません」

 

 想像するのはチェスのボード。

 襲来する竜と古龍に対し、どのようにキラーズや『対龍兵器』を配置するか。

 どうやって超越者2人と『禁忌』1体という有利な構図を作るか。

 策を練るのはキャロルの役割だ。

 キャロルが策略で祖龍を上回ることが出来なかった場合は、本来の戦略差で人類は負ける。

 

(祖龍……貴女は、今どこで何をしているのですか……)

 

 かつて見た純白の龍を想い、キャロルは模索する。

 人類が勝利するための、必勝の策を。




最上位のキラーズが『禁忌』だけに集中してたら、その間に古龍種がキラーズぶっ飛ばすよってお話です。
古龍とイコールドラゴンウェポンの力関係はこんな感じ。

下位個体<竜機兵<上位個体<G級=対龍兵器<禁忌

G級個体の古龍は喋れます。
喋れる古龍の戦闘力はレベル200のギルドクエストに出てくる古龍くらい強いと思ってて下さい。
要するにぶっ壊れです。

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