天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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お待たせしました。
新大陸編スタートです。


第35話 鮮烈な歓迎

 絆石を巡る旅を終えた私は、久しぶりに本来の龍の姿に戻って大空を飛んでいた。

 大気に翼を打ち付け、音の壁を突き破って一気に加速する。

 やっほー!

 雲を吹き散らしながら上昇、下降、旋回と、好き放題に飛び回る。

 恐ろしいことに、私の体は未だに成長しているらしい。少し前までよりも飛行能力が上昇してる。

 もしかして祖龍って死ぬまで成長期だったりする?

 ……何それ怖い。

 ともかく、ここ最近はずっと擬人化してたから思い切り空を飛ぶのは久しぶりだねー。

 旅の道中はバルカンの背中に乗って移動してたから、私が擬人化を解除する機会は無かったし。

 うん、これはちょっとテンション上がる。

 

 ……まぁ、私の10倍以上はハイテンションな子が後ろにいるのだけれど。

 

『お姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とデートお姉様とわたくしだけでうふふふふふふふふふはははははは!!!』

 

 私が『新大陸』の探索に同行して欲しいとお願いした時から、アルンが完全にハイになってる件について。

 龍脈の循環まで乱れてるせいでさっきからアルンの周りが大変なことになってるし。

 具体的に言うと、天災同時多発中。

 竜巻、豪雪、爆炎、落雷とまるで災害のバーゲンセールみたいになってる。改めて『禁忌』の力がぶっ壊れてることが分かるよね……。

 今は高度1万メートルの上空にいるから被害は出てないけど、これが地上だったら確実に大惨事でしょう。

 

 このまま『新大陸』に着陸したら、そこに生息している古龍たちと協力するどころか縄張り争いになっちゃう。

 本末転倒にもほどがあるって。

 祖龍のスペックにモノを言わせてアルンの龍脈に干渉して強引に暴走をストップ。

 体内の龍脈に無理やり触れられたショックで、アルンのクールダウンにも成功した。

 

 アルン、そろそろ目を覚ましてね?

 もう目的地が見えてきたからさ。

 

『え、あ、もう到着ですか?』

 

 正気に戻ったアルンが少しだけスピードを落として私の横に並ぶ。

 確かに今まで私たちがいた旧大陸から『新大陸』まではかなりの距離があるけど、音速を余裕で超えるスピードで飛んでるからね。

 体感時間の圧縮でもしてないと、移動なんて本当に一瞬で終わる。

 

『残念ですわぁ。お姉様との初デートですし、目的地までの道のりをもっと堪能したかったのですが……』

 

 楽しみにしてくれてたのは嬉しいけど、遊びじゃないからね。

 決戦までの猶予期間もあまり残ってないから、少しでも早く『新大陸』の古龍と協力関係を築く必要がある。

 

『それについては問題ないのでは? お姉様のお姿を拝謁し、忠誠を誓わない龍など存在しません』

 

 そこまで祖龍(わたし)にカリスマがあるとは思えない件。

 しかも『新大陸』の生態系は独自のもので、その頂点に立つのは“古龍の王たらん者”と謳われるゼノ・ジーヴァ。そしてその完全体である、赤龍ムフェト・ジーヴァだ。

 私と同じく龍の王という称号を冠する以上、簡単に私に従ってくれるとは思えない。

 むしろ、玉座を狙ってくる可能性もあるでしょう。

 ムフェトの方はともかく、幼体のゼノは凶暴性が高くて目に入った外敵は全て排除しようとするし。

 

『お姉様、ご安心を! 仮にわたくし達に牙を剥くような無礼者がいれば、わたくしが悉く薙ぎ払って屈服させますわ!』

 

 それホントに最終手段だからね!?

 出来れば友好的でありたいし、力で無理やり従わせるのは好きじゃない。

 今は非常事態だから手段を選んでる場合じゃないけど、それでも力で脅すのは最後の手段にしたい。

 ……こういう甘い思考が私の駄目なところで、自分の中の『祖龍』を完全に受け入れられない原因なのかな。

 

 閑話休題。

 

 今は『新大陸』のことだけを考えよう。

 さっきも考えた通り、最大の懸念はゼノとムフェト。

 次に古龍を捕食対象にしてるネルギガンテだね。格上のゾラ・マグダラオスに喧嘩を売るほど凶暴だし。

 一応、最悪の場合でも全属性持ちでオールラウンダーなアルンがいるから、大抵のことは対処できるはず。

 

『あ、お姉様! もしかしてあそこが目的地でしょうか?』

 

 と、そこでアルンの声を聞いて思考を止める。

 視線を少しだけ下に向ければ、天体望遠鏡にも匹敵する祖龍の視力が巨大な大陸を捉えた。

 やっぱり“ワールド”の時代とは地形がかなり違うけど、座標は合ってるね。

 海、空、大地を循環する周囲の龍脈エネルギーが、全てあの大陸の中心……正しくはその地下に集まってる。

 なるほど、確かに多くの古龍がこの場所を目指すのか分かるよ。

 私も竜大戦を生き延びれたら『新大陸』に住みたいって思うくらい、ここの龍脈は豊富だ。

 まさに古龍の楽園って感じ。

 歴戦の個体が生まれるのも理解できるわ。

 これだけ龍脈エネルギーが豊富なら、古龍種はもちろん竜の成長にだって影響するよね。

 

『さっそく降りますか?』

 

 そうしようか。

 でも急に縄張りに入るのは争いの火種になるから、警戒されないよう浜辺に降りよう。

 

 大きく旋回してから、雲海を突き抜けて急降下する。

 そして地面に激突する寸前で上体を持ち上げ、翼を強く動かすことで一気に減速。大量に砂塵を巻き上げながら、浜辺に降り立つ。

 一拍遅れて、すぐ隣にアルンが着地した。

 

『本当に龍脈が豊富ですわね。意識をしなくとも、龍脈の方から入ってくるようにすら感じます』

 

 その分、ここに生息している古龍は強いから注意ね。

 『禁忌』ほど突き抜けている種はいないけど、油断してても勝てるほど弱い古龍もいない。

 “歴戦王”個体ともなれば間違いなく苦戦する。

 

『はい、お姉様。油断なく、慈悲なく、容赦なく、外敵を破壊しますわ』

 

 だから戦いに来た訳じゃないからね!?

 大量の龍脈エネルギーを得て気分が高揚したのか、戦意を漲らせる妹に再び釘を刺しておく。

 

 よし、まずは目の前の森林から探索しよう。

 まずは古龍を発見しないと始まらないし。

 もうすでに従ってくれている旧大陸の古龍たちと違い、ここの龍には人間の言語は通じない。

 それでも、龍の始祖である私ならある程度の意思疎通は可能だ。

 全力で戦意がないことを伝えれば、邂逅と共に戦闘開始になる可能性はまずない。……と思いたい。

 

 まずは電磁波レーダーを展開。

 森の中の生命反応を探知……わ、すっごい数。

 モンスターだけじゃなくて虫や普通の動物も探知するから、大量の生命反応のうちどのくらいが竜または龍なのかは分からないけどね。

 

 それじゃあ…………ん?

 

『これは――――ッ!?』

 

 森の中に入ろうとしたその瞬間、電磁波レーダーが高速で接近してくる生命反応を捉える。

 同時、総毛立つほどの敵意が向けられた。

 私は咄嗟に鳴動の高速移動でその場から離脱し、アルンは自分の周囲に氷塊を生成することで防御姿勢に。

 直後、私が立っていた場所と氷塊に大量の棘が突き刺さった。

 

「――ッルアアアアアアアアアアッッッ!!」

 

 空気が震えるほどの咆哮。

 それはまるで、放たれた弾丸のように私とアルンの前に現れた。

 自身も古龍の一種でありながら、同種全てを捕食対象と認識する“渇望の黒創”。

 

 

 ――その名を、滅尽龍ネルギガンテ。

 

 

『お姉様!』

 

 制圧する!

 貴重な戦力を私たちが潰すのは論外だよ!

 

 アルンに指示を飛ばしながら、即座に龍脈を充填。

 バックジャンプで距離を取って海に飛び込み、滅尽龍を観察する。

 ……強いな。

 間違いなく上位かG級個体。歴戦王個体かどうかは今のところ判断不能。

 いきなり襲ってくる理由も不明。

 運悪くこの浜辺がネルギガンテの縄張りだった、古龍種をすぐに捕食する必要があるほど飢えていた、もしくは……?

 可能性はいくつか思い浮かぶけど、これもはっきりとした理由は分からないね。

 

 それにしてもフラグ回収が早すぎるって。

 僅か数分前にネルギガンテの襲撃が怖いなーって思ってたら、ホントに着陸直後に襲われちゃったし。

 何はともあれ、まずはこのネルギガンテを迎撃しないと。

 

 一瞬で思考をまとめ、私は臨戦態勢に入る。

 同じくアルンも臨戦態勢となり、私たちの戦意を受けてネルギカンテが殺意を一段と高めた。

 状況はこちらが有利。

 ネルギガンテは強力な古龍だけど、私とアルンを同時に相手にして勝てるほどの力はない。

 大丈夫、やれる。

 

 角、翼、牙、爪、尻尾のバッテリーを起動。

 真・帯電状態へと移行し、バッテリーの蓄積量を超えて飽和した紅雷をドーム状に拡散する。

 それは竜機兵すら一瞬で消滅させるほどの威力を秘めた真紅の光だ。

 スパークが海を蒸発させながら突き進み、ネルギガンテに襲いかかる。

 同時にアルンも攻撃範囲に入っちゃってるけど、雷耐性の高いアルンなら簡単に防御できるでしょう。

 そもそも、この“広範囲放電”だと威力不足でアルンにはダメージが通らないし。

 雷属性でアルンを倒そうと思うなら、それこそ最大威力のチャージブレスか全体落雷が必要になる。

 

 一方で、ネルギガンテは雷属性が弱点。

 広範囲放電に被弾すれば大ダメージは免れないけど、どう対処する?

 

「――――――ッ!!」

 

 ネルギガンテが咆哮する。

 私の初撃に対して、滅尽龍が選択した行動はシンプルだった。

 その強靭な四肢で大地を蹴り、回転しながら飛翔する。そして一切の躊躇なく、紅雷のドームへ突貫した。

 

 ちょっと、冗談でしょう!?

 高電圧を浴びてネルギガンテの龍鱗が砕け、少なくない量の血が流れ、流れた血が紅雷の熱で蒸発するのも厭わずに、ただ私に向けて突き進んでくる。

 そのあまりに強引な行動に私が思わず硬直してしまった瞬間、ネルギガンテがドームを突き抜けた。

 かなりのダメージを受けたのにも関わらず、勢いを失うことなく滅尽龍が前脚を振り上げる。

 強前脚叩き付け。

 公式名称は滅尽掌。

 プレイヤーからはダイナミックお手とも呼ばれるそれを、私は紅雷を纏う尾で迎撃する。

 

 直後、衝撃。

 滅尽掌と尾撃が激突した余波で衝撃波が生まれ、周囲の海水が大量に巻き上がる。

 刹那の力比べの後、押し勝ったのは私だ。

 全力で尻尾を振り抜いて、尾のバッテリーからスパークを放出しながらネルギガンテを吹き飛ばす。

 

 ネルギガンテが砂浜に激突するけど、すぐに体勢を立て直した。

 身体能力の高さがやばい。

 流石は古龍としてのスペックを身体能力に特化させてるだけのことはあるよ。

 

 真・帯電状態をキープしたまま、翼を広げて飛び上がる。

 ネルギガンテのパワーは凄いけど、棘を射出する以外に遠距離攻撃の手段がないのは大きな弱点だ。

 私ってばスピードにはちょっと自信がある。

 機動力で距離を空けながら、ブレスで一方的に攻撃するのが最適解でしょうね。

 

 そして、私には頼りになる味方がいる。

 今のところアルンは静観してるけど、私が合図を出せばすぐに援護できるように準備してくれてる。

 まずはネルギガンテの注意を完全に私に向けよう。

 その後、アルンに指示を出してネルギガンテを奇襲してもらう。

 どれだけネルギガンテのパワーが高くても『禁忌』2体のパワーには到底敵わない。

 押さえつけることは簡単だ。

 

 龍脈をチャージ。

 雷球ブレスの用意。

 次にネルギガンテが動いた瞬間に、脚部か両翼を狙ってブレスを叩き込む。

 そして――…………あれ?

 

『な、ぁ……!?』

 

 私とアルンが同時に硬直する。

 

 ガクッ、と。

 私の元に収束していた龍脈エネルギーの流れが止まり、真・帯電状態が解除されてしまった。

 まさかと思ってアルンに視線を向けると、妹も首を振る。

 

 ……龍脈エネルギーの、封印。

 

 龍封力!?

 いや、待って、あり得ない。

 確かにそれは古龍の能力を一時的に抑制するものだけど、ネルギガンテが持っているものじゃない。

 というか、アルバトリオンに龍封力は通じない。

 原作でもそうだった。

 

 絶対におかしい。

 どうして…………!?

 

 混乱する私とアルンの眼前で、ネルギガンテが再び咆哮する。

 さっきの攻防で受けたネルギガンテの傷が凄いスピードで回復し、全身の棘が黒く染まっていく。

 ネルギガンテを象徴する能力の1つ、超再生だ。

 

『お姉様、また龍脈が!』

 

 アルンが叫ぶと同時に、今度は『新大陸』に集まる膨大な龍脈が大きく流れを変える。

 川で例えるのなら、それは大氾濫だ。

 『新大陸』の各所に異常なまで龍脈が流れ込み、さっきまで正常だった龍脈の循環が大きく乱れる。

 その果てに起きるのは、震度5を超える地震だ。

 『新大陸』が大きく揺れ、森から小鳥たちが一斉に飛び立っていく。

 さらに海までが大きく荒れ始め、龍脈の循環が加速的に乱れ始めた。

 

 何これどうなってるの!?

 自然災害が発生するほど龍脈が乱れるとか、それこそ『禁忌』クラスの古龍が全力で戦う時くらいだよ!?

 でも、私も弟妹たちもそこまでの力は使ってない。

 というか、弟妹がそこまで本気になったら龍脈が乱れる前に私が分かる。

 

 本当にもう訳が分からない。

 私とアルンが大混乱に陥る最中、一番初めに動いたのはネルギガンテだ。

 

 咄嗟に身構えるけど、ネルギガンテは私とアルンから視線を外す。

 そして不愉快そうに牙を打ち鳴らすと、私たちに背を向けて『新大陸』の中央に向けて飛び去ってしまった。

 

『…………追撃しますか?』

 

 ううん、大丈夫。

 だけど話が一気にややこしくなった。

 ただ『新大陸』の古龍と交渉して協力関係を築くだけの予定だったけど、この異常事態をスルーは出来ない。

 それに、龍封力を持ったあのネルギガンテも気になるしね。

 

 よし、決めた。

 私はこのままさっきのネルギガンテを追いかけるから、アルンは龍脈が暴走してる原因を探ってくれる?

 

『了解ですわ! 必ずや原因を突き止め、仮に元凶が存在するのなら首を落としてお姉様に献上致します!』

 

 殺す前にちゃんと報告してね!?

 意気揚々と飛び去っていくアルンに念押ししたけど、あの子ってばスイッチが入ると何するか分からないからなぁ。

 頼りにはなるんだけどさ。

 

 アルンを見送ってから、私もネルギガンテが飛び去った方向に向けて移動を開始する。

 猶予期間が終わる前に、旧大陸に戻れるかな……?

 

 

 

 

 積み重なる問題にため息をつきながら、私は『新大陸』の空を飛翔した。

大切なものは――

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