――狩り。
それは大自然で生きていく上で必須なもの。
だけど私ってば今まで襲ってきた相手を返り討ちにしてご飯にしてたから、自分から生き物を殺して食べたことがないんだよね。
うーむ、どうしようか。
レーダーで周囲の生体反応を軽く調べてみたけど、私達のご飯になりそうな生き物は見当たらない。索敵に引っかかるのは虫とか小動物みたいな、捕食しても満腹になりそうにない生き物が大半を占めてる。
となると、残る選択肢は1つだけ。
川で魚を獲るしかない。
そんな訳で私は川に移動したんだけど、何故かバルカンとボレアスも一緒にくっついてきた。
だけど、私について来た理由はそれぞれ違うらしい。
バルカンの方は私から離れるのが寂しくて嫌って感じで、ボレアスは単に好奇心から付いてきたって感じ。
どうやらバルカンは甘えん坊で寂しがりや、ボレアスはやんちゃで好奇心が旺盛な性格みたいだねー。
私が川に入ると、弟達は何をするのか興味津々といった様子で見つめてくる。……うう、そんなに見られると緊張するな。
気を引き締めて、私は魚がいないか目を凝らす。
――いた。
大きさはコイくらいかな?
かなり大きめの魚が何匹も流れに逆らって泳いでる。
アオアシラにだって魚が取れるんだから、ミラルーツである私が出来ない訳がない。
せーの、えいっ!
一番近くを泳いでる魚に狙いをつけて前足を振り下ろしけど、魚は私の鉤爪の間を擦り抜けて遠くへ泳いで行ってしまった。
ぐぬぬ、思ったより難しいなこれ。
何度か同じように挑戦してみるけど、魚は私の爪先にも触れない。
そのうちボレアスは興味を失って川岸に飛んでいる虫を追いかけ始め、バルカンは丸くなって寝息を立て始めた。
あー!
イライラしてきた!
たかが魚の分際で、この私からちょこまかと逃げ回るなんて!
クルペッコの生態ムービーではジャギィですら簡単に魚を捕まえてたのに、どうして私には出来ないのよ! 身体能力は間違いなく優れてるはずなのに!
くそう、このままじゃ今日のご飯がなくなっちゃう。
……もういいや、電撃使っちゃえ。
龍脈を前脚に充填……開始。
チャージ率10パーセント!
両前脚を水に突っ込んで、チャージしていた龍脈を電撃として解放。真紅の光が水面を駆け巡り、川の水がまとめて蒸発して大量の水蒸気が発生する。
川岸で寝ていたバルカンが飛び起き、虫を追いかけ回していたボレアスを私の方を振り返る。驚かせちゃったかな、ごめんよ。
巻き上げられた川の水が雨のようにザーザーと降り注ぐ中、水面に感電した魚が次々と浮かび上がってきた。
いやっほー、大漁だね。
初めからこうすれば良かった。
私が上機嫌でぷかぷかと浮かんでいる魚を回収して戻ると、ずくにボレアスが駆け寄ってきて私を尻尾でペチペチ叩く。
はいはい、ちゃんと魚はあげるから。
……ん? 違うの?
てっきり食べ物を寄越せって言ってるんだと思ってたけど、どうもボレアスは私の紅雷の方に興味があるらしい。
やり方を教えろってことかな?
「――!」
私に意思が伝わったことが嬉しいのか、さらに強く尻尾を振り回すボレアス。
分かったよ! 教えるから顔をペチペチしないの!
ボレアスの場合だと出すのは電撃じゃなくて火炎だけどね。
まぁ、ボレアスが火を出せるようになってくれたら凄く便利だし、外敵との戦いを考慮しても早く力を扱えるようになった方が良いか。
そしたらこの魚も、生じゃなくて焼いてから食べられるし。
よーし、明日からはボレアスとバルカンに龍脈の使い方を教えよう。
……でも、こんな森の中で火を使ったらやばいよね。
念のためこの川の近くでしか使わないように強く言っておかないと。
〜Now loading〜
大地から組み上げられた龍脈がボレアスの全身を駆け巡り、少しずつ口元に収束していく。
ほんの少し、例えるならコップ一杯分。
集めた微量の龍脈を、ボレアスが自身が司る炎の力へと変換して解放した。
ボレアスの口から小さな火の粉が放たれ、川辺に置いた魚がこんがりと焼き上がる。
はい、上手に焼けました〜♪
ふわぁ、良い匂いがするね。
人間の『私』視点では初めてまともな食べ物。無意識のうちに涎が溢れそうになっちゃう。
めっちゃ美味しそう。
3日かけてボレアスに龍脈の扱い方を教えた甲斐があったよ……。
ここまで上達するまでに、かなりの数のお魚さんが跡形もなく灰にされちゃったんだけどさ。
かなり勿体無いけど、いくら何でも灰は食べられないからなぁ。
彼らには悪いことをした。だけどその犠牲は無駄にならなかったからね。許してください。
一方で、バルカンはなかなか龍脈の扱いが上達しなかった。
未だに莫大な量の龍脈から溶岩を生み出して周囲を火の海にしちゃうから、私が見ていない時に力を使うのは禁止してある。
弟に負けちゃってるけど、負けるなバルカン。
設定的な視点ではあなたの方が格上だから。ボレアスとの喧嘩にいっつも負けてるけど、あなたの方がスペックは上だから。
そのうち勝てるようになるさ。
では、そろそろ焼き魚の実食しよう。
まずは一口、いただきます。
……バカな……!? ……想像の10倍は美味しい……だと……!?
塩や醤油といった調味料は当たり前だけど一切使っておらず、ただ焼いただけなのにここまで美味しくなるなんて。
火は偉大だ。
私も電磁熱とかで魚やお肉を焼けないか真面目に練習しよう。それだけの価値があるよ、この焼き魚。
はぁ、美味しすぎて涙が出る。
産まれてから今までマズい狼肉しか食べてなかったから余計に美味しく感じるのかも。
あぁ、違うのよバルカン。
どっか痛くて泣いてるんじゃなくて、これはただの嬉し泣きだから。私の顔をペロペロしなくても大丈夫だから。
美味しいご飯を食べてお腹もいっぱいになったけど、幸せに浸ってばかりじゃいられない。
バルカンの大量の龍脈を集めるクセは何とかしないと。
川が近くにあったから本当に良かったけど、毎回辺りを火の海にされると流石に困るからねー。
私が電撃で川の水を巻き上げて消火するにも限度があるし。
あ、別に怒ってないからね!?
いきなり反省して落ち込んじゃったバルカンの頭を尻尾で撫でて慰める。
それとボレアスもむやみに火を吐かないでね?
あなたは龍脈の操作もかなり慣れてるから強く言わないけど、ちょっと加減をミスったら森が全焼しちゃう可能性もあるから。
私は雷属性オンリーで水属性とか使えないから、川の近く以外だと消火手段がないのが怖いのよ。
けれど、そこまでバルカンとボレアスの訓練を急ぐ必要はないでしょう。
バルカンは能力が使えなくても身体能力の高さは申し分ないし、私とボレアスなら大抵の相手には勝てるはず。
私が前に出て紅雷と速度で相手を撹乱して、ボレアスが後ろからブレスで援護する。これだけでもかなりの脅威でしょうね。
私も含めてゆっくりと力の扱い方を学んでいけば良い。
……っと。
そろそろ暗くなってきたし、弟達にもう寝るように伝えようか。
私達のタマゴがあった大きな木の下でバルカンとボレアスと身を寄せ合い、彼らが完全に寝るのを待つ。
そろそろ寝たかな?
2人(2体?)が寝息を立て始めたのを見届けてから、私はこっそりと寝床を抜け出す。
その理由は、いい加減に飛行能力を習得するためだ。
この森は確かに良い場所だけど、ずっとこの森に留まるつもりはない。
まだモンスターが私達以外に誕生してないみたいだけど、ここは私が大好きなモンハン世界なんだから。
せっかくモンスターに転生して自由に生きれるのに、この広い世界を冒険しないなんて勿体ないでしょ。
そして広い世界を見て回るためには飛行能力は必須。
だけど徒歩で長距離移動するのは非効率だから、必然的に飛ぶ必要があるわけだ。
その時に肝心の私が飛べないと意味がないからねー。
よし、覚悟は決めた!
私は飛ぶぞー!
という訳でまた川岸に。
下が水なら墜落してもある程度のクッションになるかもだし、気休めがあると精神に余裕が生まれるからね。
今まで出番がなかった翼に意識を集中して大きく動かす。
それなりに成長して大きくなっていた私の体が簡単に浮き上がった。
ちょっ、うわ、すご!?
反射的に足をバタバタと動かしちゃったせいでバランスが崩れかけるけど、長い尻尾で姿勢を制御して何とか態勢を整える。
飛べてる!?
私、飛べてるよね!?
どんどん遠くなっていく地面を見るのは怖いけど、それよりも「空を飛ぶ」という開放感がすごい。
最初は浮いてるだけで精一杯だったけど、体のスペックが高いこともあって思ったより早く飛び回れるようになった。
上昇、下降、旋回、滑空。
満月をバックに私は自由自在に飛び回り、何時間も連続で初めての空を満喫する。
やばい、これやばい。信じられないくらい楽しい。
ずっと飛んでいたいって思うくらい。
夜風が頬を撫でる感覚、雲を突き抜ける爽快感。
何もかもが新鮮で面白い。
それにしても全く疲れないこの体が凄いわ。
確かリオレウスやリオレイアの通常種でも何日も連続で飛べるらしいから、格上の古龍種である私はもっと長く飛べるのかな?
それなら短い時間で遠くまでいけるから嬉しいね。
そんな事を考えながら飛び回っているうちに、気づけば朝日が顔を出していた。
空から日の出を眺めながら、私は決心する。
ボレアスとバルカンがもう少し成長したら、この森から引っ越そう。
大切なものは――
-
更新速度ではない、質だッ!
-
質ではない、更新速度だッ!