私が飛行練習を始めたあの日からそれなりの時間が経過した。
どうやら私が狩場にしてる川は大きな魚が沢山いるらしく、お腹いっぱい魚を食べることができる私も弟達も順調に成長してる。
産まれた時と比べたら、私も随分と大きくなった。
今なら前に戦った一番大きい狼が相手でも力負けしない自信があるね。
ゲームに登場する成体のミラルーツを100としたら、今の私は約60から70くらいかな。
サイズ的な視点では、大人まで後一息って感じ。
ボレアスとバルカンがもう少し大きくなったら、新天地へ引っ越しても良いかな。
それまではバルカンの能力制御の練習に集中しよう。
ボレアスの方は先に飛行訓練を始めても良いでしょう。あの子は結構センスがあるというか、天才型だから。
私がちょっと飛び方を教えたら、すぐにマスターしそうだわ。
バルカンはきっと努力で大器晩成する秀才タイプ。そうだと思う。多分。もうすぐ花開くでしょう。
けれど戦闘能力面では私達まだまだ未熟だね。
今の私が出来るのはゲームのミラルーツのモーションの模倣と、自分で作ったレーダーと帯電状態による物理攻撃くらいだし。
十分に見えるかもだけど、まだまだ改良の余地はあるからね。
もっと戦闘経験を積んで戦いに慣れたら、私だけの戦闘スタイルみたいなものが出来るかも。
単純にゲームのミラルーツを真似するだけじゃ、祖龍のスペックは完璧に引き出せないでしょう。
私が目指す第一の目標は『世界観設定のミラルーツ』だ。ゲームのルーツじゃない。
そして最終目標は、祖龍の限界を突破してその上の力を手にすること。
そのままでも十分強いのにその上を目指す理由は、前にも言った通り弟達が暴走した時に備えて。
流石のミラルーツでも、黒龍と紅龍を同時に相手にしたら勝てない可能性が高い。だから私はボレアスとバルカンの『お姉ちゃん』でいるために、もっと強くなる必要があるわけだ。
あと今は存在不明なアルバトリオンとグランミラオスね。
もしかしたらボレアス達と違って同じ『禁忌』でも私に友好的じゃないかもだし、強くなって損はない。
うーん。
目標は遠いけど、千里の道も一歩から。
祖龍のスペック、人間の知恵、そしてモンハンの知識を組み合わせたら、きっと届くはず。
そう信じるのよ、私。
「――――……」
なんて考えてたら、いつの間にか朝になってたらしい。
相変わらず私に密着して寝ていたバルカンが、朝日を浴びて眩しそうに目を開けた。そして大きく欠伸をすると、顔を私に擦り付けてくる。
はい、いつも通り可愛い。
でも動くと反対側で私に密着して寝てるボレアスが起きちゃうから、今はまだ静かにね。
しかし、また徹夜しちゃった。
“古龍種は疲労状態にならない”っていう設定があるからか、精神的にはともかく肉体的には全く疲れないからね。
考え事してたら夜が明けてた、ってことは結構あったりする。
ずっと何か考えながら龍脈の干渉とか能力制御の練習とかもしてるから、余計に眠れないのかも。
むむ、我ながらこれは問題だね。
いくら体が疲労しなくても、心の方が疲れてたら戦闘や狩りの時にミスする危険がある。
これから寝る直前は龍脈干渉をやめるべきかしら。
……ん?
そう思って龍脈干渉を中断し、ボレアスが起きるまでちょっと寝ようとした時だった。
密着しているバルカンの全身を巡る龍脈が、僅かにだけど感知できる。
……もしかして、これだけ密着してたらバルカンの体内を流れてる龍脈に干渉できたり?
バルカンの龍脈に干渉を試みると、案外あっさりと制御することができた。
「――っ!」
あ、ごめん、急に自分の制御下にある龍脈に干渉されたらビックリするよね。
いきなり横から体内に流れる龍脈に干渉されて驚いたのか、大きく体を震わせたバルカンを尻尾で撫でて落ち着かせる。
よーし、大丈夫だからね。
横槍入れてるのはお姉ちゃんだから怖くないよー。
……あ。
もしかして、今ならバルカンが能力の制御に失敗しても私が龍脈を制御して止められるかも。
バルカン、試しに炎放射ブレス撃ってみて。
「――――!」
私の指示に頷いたバルカンは龍脈を汲み上げ、口元に収束させる。
それはもう、この森を纏めて焼き払うつもりかと錯覚するほど莫大な量の龍脈を。
バルカン、ストォォォップ!
集めすぎだよ! もう十分以上だから!
私は慌てて横から
結果、バルカンのブレスの威力は大幅に減衰。
そのままだと防御力400(MH4基準)あるハンターですらキャンプに直葬しそうな炎放射ブレスは、せいぜい火炎放射器程度の規模となった。
あ、あぶねー。
面倒くさいとか思わずちゃんと川辺でやるべきだった。
もしも私が横から干渉するのに失敗してたら、間違いなく大惨事だったよ……。
今回は上手くいったから良かったけど、次からは気をつけないと。
反省。
因みにバルカンのブレスは枯れ葉を伝って少しだけ燃え広がり、それを私が落雷で消したせいでボレアスが起きちゃった。
安眠を邪魔されたボレアスにペチペチと尻尾で叩かれて、今日もまた1日が始まる。
……余談だけど、ボレアスもそれなりに成長して大きくなってるから尻尾で叩かれるとかなり痛かった。
もうペチペチじゃなくてバチバチだった。
〜Now loading〜
「「――――ッ!!」」
天空を切り裂くように飛翔しながら、お互いに牙と炎を向けて大迫力の空中戦を繰り広げるボレアスとバルカン。
ボレアスが放った3連火球ブレスが弾丸のような速度で放たれるけど、バルカンは華麗に旋回して危なげなくそれを躱す。標的を失った火球は私の足元に着弾し、私は爆風と爆炎に煽られた。
いやー、2人(?)とも成長したね。
今の火球ブレスとか、地面にちょっとしたクレーターが作られるくらいの威力だし。高火力過ぎて逆に燃え広がらないとは、これ如何に。
そんな高威力の火球ブレスの余波を浴びてもノーダメージな私の体。
傷も汚れもない純白の龍鱗と体毛が、この程度の炎熱で傷つくと思うなよと主張している気がする。
本当にスペックおかしいわ。
恐れ入ったよ。
「――ッオオオオオオ!」
バルカンが吠える。
地震が発生したのかと思うくらい地面が揺れる音量と、大木が折れるくらいの衝撃波。
高級耳栓じゃないと耐え切れないバインドボイス(大)と共に、青空を火炎が薙ぎ払う。
バルカンのメインウェポンの1つ、炎放射ブレスだね。
攻撃範囲が広いこのブレスを躱すのは流石に難しいと判断したのか、ボレアスは回避を諦めて自ら炎に突貫。
防御力も火属性耐性にモノを言わせて、強引にバルカンとの距離を詰める。
そして、激突。
もう十分に大型モンスターだと胸を張れるくらい大きくなった真紅と漆黒の龍が、その巨体をぶつけ合う。
そこから前脚の引っ掻き、尾を使っての殴打、角を武器とした頭突き、物理最大威力の噛み付きと、今度は肉弾戦が始まった。
たまにゼロ距離でのブレス直撃を狙って火球とかが飛ぶけど、私はそれを落雷で狙撃して対消滅させる。私に当たるならともかく、木に当たると森が焼けるからね。
ミラボレアスとミラバルカンの戦いというド級の光景を前に、私はため息をつく。
普段の可愛い仕草はどこへやら。
今のボレアスとバルカンは間違いなく恐ろしい伝説の龍って感じ。
……それなのに。
今日の夜どっちが私の横で寝るかっていう可愛い理由で喧嘩してるのがなぁ。
別に今までみたいに私の左右にそれぞれくっつけば良いじゃんって思うけど、どうやらそれはダメらしい。
私は寝る時によく鼻先と尻尾の先で円を描くように体を丸めるから、私の左側にいると私の顔が見えないとか。
確かに首を右に曲げるけど、そんなの誤差じゃん。
何でこうなったかなー……。
始まりは、新天地に引っ越すために私がボレアスとバルカンに空を飛ぶ練習を始めるよう言ったことだ。
私も含めてみんな十分に大きくなったからね。
まだ成体には至らないけど、もうこの森を離れても問題ないと私は判断した。
ボレアスとバルカンの飛行能力も問題なし。
むしろ私より飛べるようになるのが早かったくらい。
私ってば最初はちょっと浮遊しただけで焦ってたけど、元人間の私と違って彼らは翼で空を飛ぶのに先入観とかないからね。むしろ飛べるのが彼らにとっては当たり前のことだし。
全く苦戦せず自由自在に飛び回れるようになった弟達の姿に、私が少し悔しい思いをしたくらいだ。
圧倒的な敗北感でした。マル。
ここまでは順調だったけど、問題はこの後だ。
ボレアスがバルカンにどっちが早く飛べるか勝負しようみたいな感じで挑発した。
最初はバルカンに勝負する気は無かったみたいだけど、そこでボレアスが「勝った方が私の隣で寝れる権利がある」っていう賞品を提示したせいで勝負開始。
……今になって思い返せば、可愛い弟達に求められるという喜びで舞い上がって止めなかった私も悪いな。
それはともかく、意外なことに飛行バトルはバルカンの方が有利だった。
いや、まぁ、モンハンの設定的にバルカンの方が上だし。スペックで言ったら当然なんだけど、今までの勝負事は大体ボレアスが勝ちだったからさ。
いきなりバルカンが有利でちょっと驚いたのよ。
そして、負けそうになったボレアスは後ろからブレスでバルカンを狙撃した。
もちろん反則行為。
不意打ちされたバルカンが怒って、ボレアスも逆ギレ。
そして今に至るって訳だ。
あー、ヒートアップしてきたね。
あくまで兄弟だからお互いに本気で攻撃してないけど、彼らの本質は凶悪な龍だ。戦いとなれば、例えお遊びでもそれなり以上に本気になっちゃう。
そろそろ止めないと怪我するかもね。
私は観戦をやめて翼を広げ、一気に飛翔。
ぶつかり合うボレアスとバルカンの間に割り込んだ私は、まずはバルカンに単発の雷球ブレスを叩き込む。
バルカンは炎よりも速度で勝る私のブレスを避け切れずに被弾。大きく怯んで動きが止まった。
「――――ッ!!」
それをチャンスと見たのか、一気にバルカンへ突っ込むボレアスに体当たりし、前脚と尻尾でガッチリとやんちゃな弟の体を掴む。
――そして、放電。
威力は最小とは言え、それでも祖龍の雷撃だ。
ゼロ距離で受ければ冷静さを取り戻すくらいのダメージはある。
はい、そこまで!
あなた達がこれ以上やると洒落にならないからね。
そしてこれ以上やるなら本気で怒るぞ、って意味を込めて威嚇すると聡明な弟達は渋々喧嘩をやめた。
本当に良い子に育ったよ。
私なんかの言うことを真面目に聞いてくれるとか、本当に可愛い。
「「――――……」」
と、私はそこでボレアスとバルカンの不服そうな視線に気づく。
そんなに決着つけたいの?
……うーん、でもこれ以上の喧嘩は良くないしなぁ。
よし!
それじゃあ、次の狩りは私じゃなくてあなた達にしてもらおう。それで狩りの成果が上だった方が勝ち。
これでどう?
私の提案に異論はないらしい。
戦意を漲らせて、ボレアスとバルカンは睨み合う。
これで一件落着っと。
そうだ、ちょうど良いからこのまま引っ越そうか。
本当は今日は飛行訓練だけで出発は明日か明後日のつもりだったけど、もう全員飛んでるし。
狩りで対決と言っても、ここじゃ魚しかいないからね。
もっと獲物が豊富な場所に行った方があなた達の戦いも盛り上がるでしょ。
「――!」
ボレアスが歓喜で咆哮を上げた。
あぁ、うん。
好奇心旺盛のあなたからすれば、新しい場所に移動するのは嬉しいよね。分かったから急かさないで。
今から出発するから焦らなくても良いでしょう。
目的地は……取り敢えず、獲物が豊富で水辺の近く。
原作のフィールドで例えるなら『渓流』のような場所かな。それと人里には近づかないよう気を付けようか。
私は適当に方向を決めて、翼を強く大気に打ち付ける。
まだ見ぬ新天地に胸を躍らせながら、私達は雲を吹き飛ばして青空を舞った。
大切なものは――
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更新速度ではない、質だッ!
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質ではない、更新速度だッ!