天地神明の真祖龍   作:緋月 弥生

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第7話 禁忌VS大蛇

 太陽の光を浴びてキラキラと輝く、森に囲まれた美しい湖。

 ミラルーツの優れた視力で対岸がギリギリ見えるくらい大きなこの湖に私達が到着したのは、つい先日のことだ。

 本当はこの森から離れるつもりだったんだけど、私達がいた森はかなり大きかったみたい。

 だってかなりの速度で飛べる私達が3日間飛び続けてもまだ果てが見えないからね。ちゃんと面積を計測したらどのくらいの数字が飛び出すのか想像もつかないよ。

 流石は太古のモンハン世界。

 大自然の規模が地球とは比べ物にならないわ。

 

 ミラ種のスペックで強引に森を突破するか、この森の中で最初の場所と同じくらい暮らしやすい場所を探すか。

 必然的にそんな2択に迫られた私は、この湖を見つけて後者を選ぶことにしたって訳だ。

 飲み水が豊富なのは良いことだし、何よりこの湖の近くは色々な生物がいるからね。レーダーで生体反応を探ってみたら、凄い数が反応したし。

 獲物も飲み水も豊富なこの場所を無視するのは勿体ないってことで、ちょっとした休憩も兼ねて暫定的な目的地にしたんだけど……

 

「――キシャアアアアアアアアアアッ!」

 

 鏡のように綺麗な水面をかち割って、湖の中からソレは現れた。

 目測で全長は30メートル以上。

 成体まであと少しってところまで大きくなった私より、さらにデカい。

 その全身は紺色の見るからに堅牢そうな鱗に覆われていて、頭部には大きなエラが。

 あの巨大狼すら一口で丸呑みに出来そうな巨大なアギトを開き、長い舌を出して私達を威嚇するのは、地球上ではあり得ないサイズの大蛇だった。

 一瞬、脳裏に「ダラアマデュラ」って単語が浮かぶけど、流石に蛇王龍ほど大きくはないね。

 

 それに、こうやって冷静に相手を観察できるくらい私には余裕がある。人間の頃の私なら、一目散に逃げてた筈なのに。

 つまり祖龍(わたし)は、目の前にいるこの大蛇を脅威として見ていないらしい。本当に危険ならミラルーツの本能が警鐘を鳴らすけど、それが全くないし。

 人間の『私』はこの蛇を見て強そうだって思ったけど、祖龍として見るなら敵ですらないってことだ。

 むしろ格下。ただの獲物。

 それどころか、ミラルーツはこんな格下に舐められたことで怒りすら感じている。

 『私』は人間の理性でその怒りを抑制できるけど――

 

「「――ッグルオオオオアアアアアアア!」」

 

 私の両側で大蛇と向かい合っていたボレアスとバルカンが、同時に牙を剥いて吠え猛る。

 格下に舐められたのがよっぽど気に食わなかったのか、怒り状態の一歩手前みたいになってた。

 ううむ……。

 本当は私が落雷でサクッと倒そうと思ってたけど、それだけ殺る気満々なら任せようかな。

 ストレス発散にもなるし、そろそろボレアス達も狩りの練習をした方が良いでしょう。

 相手が弱すぎると何の経験にもならないけど、この大蛇はそこまで弱くはなさそうだし。強すぎると危険だけど、ミラ種が命の危険を感じるほどの強さはないみたいだからさ。

 引越しする前の喧嘩を「狩りの成果」で決着を付けることになってたのもあるから、ちょうど良いや。

 

 ボレアス、バルカン、戦ってみる?

 

 試しに聞いてみると、私の体毛が逆立つほどの殺意と戦意が返ってきた。今すぐにでもズタボロに引き裂いて喰い殺してやると言わんばかり。

 なるほど、これはミラ種に共通する性格らしい。

 私達は全ての龍の原点であり、あらゆる古龍種の頂点に立つ、最強たる『王の種族』。

 他のあらゆる生物に畏怖されるのが当然なのに、モンスターですらない相手に喧嘩売られたら、そりゃあ腹立つよね。王者のプライドに傷がつくようなもの……かな?

 

 姉としては弟達が戦うのは心配だけど、弱肉強食が唯一にして絶対のルールであるこの世界で甘やかすのは禁物。

 可愛い子には旅をさせろ。

 ――行っておいで。

 

 私が低く唸ってゴーサインを出すと、漆黒と紅蓮の龍は猛然と大蛇に向かって突撃した。

 ちょ、いきなり突っ込むことないでしょ!?

 いくら格下相手でも、何も考えずに無闇に接近するのは良くないって。見るからに鱗は硬そうだし、初手は安全も考慮して物理攻撃じゃなくてブレスを選択すべきじゃない?

 絡みつかれて水の中に引き摺り込まれたら、流石に命の危険が……へ?

 

 溺死という最悪の展開に備えて龍脈をチャージしていた私は、その光景を目にして硬直した。

 真っ先に大蛇の元へと辿り着いたボレアスの爪が、敵の鱗をまるで紙切れのようにあっさりと切り裂いたのだ。大蛇は絶叫して身をよじり、溢れ出た鮮血が湖を赤く染める。

 いきなり痛撃を受けた大蛇は怒りを露わにしてボレアスの首に噛み付くけど、大蛇の牙は漆黒の龍鱗に阻まれ全く通らない。逆に反撃したボレアスに首に食いつかれ、大蛇は再び大ダメージを受けて悶絶した。

 

 ええー……?

 ボレアスってばいつの間にあれだけ硬くなってたっけ?

 確かにゲームのボレアスと戦うなら斬れ味は「白」じゃないとお話にならなかったけど、今のあの子が相手なら「青」でも通ると思ってたのに。だって私が叱る時に尻尾で軽く叩いても、まだボレアスにはダメージが入るからね。

 もしかして大蛇の牙って、あれだけ大きくて鋭いのに「青」にも届いてないとか?

 だとしたら、この世界のモンスター以外の生物はかなり弱いかも。

 ワールド/アイスボーンでも、モンスターじゃない普通の生き物はハンターの脅威になってなかったなぁ。

 下位個体のリオレウスでももう少し強力な噛み付き攻撃を繰り出してくるんじゃない?

 

 まさかたった2回の攻撃でここまで傷を負うとは思っていなかったらしい。

 今さら戦力差を理解した大蛇が湖の中へ逃げようとするけど、体に食い込んだボレアスの牙から大蛇は逃れられない。

 これは勝負あったかなー。

 って、ちょっと、ボレアス!?

 まさかその大蛇を咥えて持ち上げるつもりじゃ……?

 ストップ、流石に無理だって! 重量の問題もあるけど、何よりそれだけ長い体をした相手を強引に持ち上げたらバランスが!

 

 そして私の予想通りになった。

 バランスを崩したボレアスが持ち上げるのは無理だと理解して、転倒の勢いのまま大蛇を私の目の前に叩きつける。

 あ、あぶなー。

 もうちょっと前に出てたら、私ってばボレアスに大蛇でぶん殴られてたよ……。

 

 経緯はともあれボレアスの牙から抜け出せた大蛇は必死に湖に向かうけど、残念ながらあなたが逃げられる可能性はゼロだ。

 弟にゴーサインを出した私が言うのもアレだけど、ちゃんと敵の位置と数は把握しておいた方が良いと思うのよ。

 

 ――空から降ってきた紅蓮の星が、真上から大蛇に突き刺さる。

 ボレアスが大蛇に襲いかかると同時に飛翔し、空で龍脈を練り上げながら隙を窺っていたバルカンだ。

 成長した体と落下の勢いを利用して大蛇を押さえ付け、空でチャージしていた龍脈を一気に解放。収束された龍脈エネルギーはバルカンを通したことで、紅蓮の火柱として現世に顕現する。

 それはまるで、大地から噴き出したマグマのようで。

 

 自分ごと大蛇を炎に包み込むバルカンだけど、弟の体に火傷はない。うん、流石はミラバルカンね。

 ゲームでも火属性は通らなかったし、その設定は現実でもしっかり反映されてるみたい。そもそも自分が出した炎で焼かれるなんてカッコ悪いことないでしょう。

 

 このままだと手柄を取られると思ったのか、ボレアスも躊躇なく炎に突っ込むと大蛇に攻撃を叩き込む、

 やっぱりボレアスにも火属性ダメージはゼロか。

 そもそもバルカンも本気で力を解放してる訳じゃないし。バルカンの全力の炎ならともかく、手加減した炎でボレアスがダメージを受けるわけがない。

 ボレアスが猛炎の中で爪撃を繰り出して大蛇を切り裂き、バルカンがさらに爆炎の威力を上げる。

 紅蓮の火柱はさらに天高く昇り、何故か私まで巻き込まれた。

 

 熱いって!

 ミラルーツには火属性通るからね!?

 

 あー、祖龍のスペックが高くて良かった。

 私がミラルーツだから熱いで済むけど、そうじゃなかったら大蛇と一緒に焼死してたよ……。

 もう死体蹴りのような気もするけど、きっちりトドメを刺さないと思わぬ反撃を受ける危険もあるからね。大自然では無慈悲であることが推奨される辺り、本当に自然界ってのは殺伐としてる。

 大蛇はちょっと可愛そうだけど、喧嘩を売ってきたのはあなたの方だから。

 

 程なくして大蛇は完璧に動きを止め、バルカンとボレアスが攻撃をやめる。

 あー、熱かった。

 いや、まぁ、熱いなら炎から出ろよって話だけど、みっともなく逃げたら2人に侮られるかもしれないし。

 だから痩せ我慢して炎の中から動かず、お姉ちゃんはこのくらい平気だぞーアピールをしてた訳だ。

 ボレアスもバルカンも自分より弱い姉の言うことなんて聞かないだろうし。私は絶対に舐められる訳にはいかないんだよ。

 

 そんな事を考えていたら、こんがりと焼けた大蛇のお肉をバルカンが差し出してくる。

 攻撃しながら火加減を調節してたとは、成長したねバルカン。

 昔は力加減が出来ずに魚も周囲を焼き払ってたのに……。

 ボレアスとバルカンに灰にされた魚さん達も、これなら少しは報われるよね。多分。そう思っておこう。

 

 と、それはともかく。

 せっかく自分達で初めて仕留めた獲物なんだから、私に気にせずに全部食べても良いんだよ?

 そう言って断ったんだけど、バルカンはどうしてもとお肉を渡してくる。

 初めて仕留めた獲物だからこそ食べて欲しいとか、本当に良い弟を持ったよ……。ちょっと泣きそう。

 私なんぞ知ったこっちゃないと大蛇の尻尾に齧り付いてるボレアスも可愛い。アレで寝る時はくっついてくるから本当に可愛い。

 いっぱい食べて大きくなりな。

 

 弟達の成長に感動しながら食べた蛇肉は美味しかった。

 地球でも食用として食べてる国が存在してるだけはある。少なくとも狼肉よりはずっと美味しい。

 あー、幸せだわー。

 

 

 

 

 

 

 ……だけど、私は気づかなかった。

 弟達と一緒に大蛇を食べるのに夢中で、空に浮かぶ気球がずっと自分達を観察していることに。

大切なものは――

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