プロローグ はじまりの少女
何が美しくて、何が醜いのか。
あなたは考えたことがありますか。
それは肌の色だったり、髪の色だったり、顔の造形だったり――そういう表面的なモノだったり。
ところで、あなたは内臓を美しいと感じたことはありますか?
普通の人なら、そんなことはないと答えますよね。
内臓はとても気色が悪い見た目をしています。グチャグチャな感触で、グニョグニョに細長くて、おまけにブニョブニョしてますし。生き物にとって大切なものだろうなんだろうけど、あんな見た目なら吐き気をもよおしてしまうのも仕方ないことですね。
人は、外見よりも中身が大切だっていうけれど私には難しい価値観です。
え、そういう問題じゃないって?
まあ、いいでしょう。
そんなことより、あなたは内臓からどう思われているか考えたことはありますか?
私達が内臓を醜いと思うのなら、逆に内臓も私たちのことを醜いと思ってるのかもって。自分達と異なる姿である私達のことを普通の目では見られないはずだし、私達が内臓を見ると気分が悪くなるように、内臓も私達を見て気分を悪くしているかもしれないし。
でもね、私はこうも思うの。
その醜い姿こそが、本来の人の姿ではないかとね。
どんなに見た目が綺麗な人でも、どんなに穏やかな人でも、その中身はどす黒く汚れている。内臓のようにグチャグチャのドロドロなの。
心が真っ白な人間なんてどこにもいやしないのだから――
そもそも美しいものなんてあるのでしょうか。
そもそも醜いものとは何なのでしょうか。
その答えは私にも解りません。
もしかすると始めから、そんなものはこの世に存在しないのかもしれません。
こうなってしまった今では――
世界は、どこもかしこも死の臭いに満ちていました。
屍の山が――私の目の前で積み重ねられていました。
それは人間だったり、犬や猫などありとあらゆる生き物が混ざっていて統一性がありません。その顔はみな恨めしそうに白目を剥いていました。死者は何も語りません。ですが、陰惨な表情がやり場のない無念の思いを物語っています。
そしてすぐ近くには、私のパパとママだったモノが転がっていました。
訳も分からず、身体が震えます。その震えが身のすくむような恐怖からなのか、歓喜の感情からなのか、正体は分かりません。
私はパパとママの事が好きではなかった。自分勝手な都合で娘の人生を振り回してきた人間のクズでした。およそ正気を疑うような理由で、実の娘をゴミのようにポイ捨てする両親を憎まずにいられた日はありませんでした。
人として最低だし、これは当然の末路なのかもしれません。
だけど、私は無我夢中で叫んでいました。
死の世界を作り上げた、元凶めがけて――
「お前がやったのか――――!」
女がふり返った。
こいつは“女神”と呼ばれる存在でした。誰もが崇める希望の象徴。全ての人間の上に立ち、自分につき従う国民を導く救世主様でした。が――
「私に刃向かったから殺した。ただそれだけなんですけどぉ、何か文句でもあるんですかぁ?」
その女神は可笑しそうに笑っていたのです。自分の国民達の死体を前にして、恍惚に浸っているという女神にあるまじき行為。無数の屍の山を、自分の手で築き上げたという冒涜にたまらない快感を覚えているのでしょうか。
「……ふざけるな」
「ふざけるぅ? 何をぉ?」
「お前はっ、そんなふざけた理由で人を殺したのか!」
女神は吹きだしました。私の言葉が可笑しくてたまらないという風に。
「笑わせないでよぉ! この世界は弱肉強食よ。強いモノが弱いモノを食らう。人間が動物を管理するように、女神である私が人間共を管理しているのよ。飼い主に反抗を企てる、悪い家畜を駆除したとしても問題はないでしょう」
「いらなくなったらすぐに捨てるのかっ! 命をっ、命の重さをなんだと思ってるんだっ!」
「あらら、目元に涙をためちゃって。顔が真っ赤だけど、もしかして泣いてるのかしら、お嬢ちゃん」
「うるさいっ!」
私はすぐに目元をぬぐった。泣き顔を見られたという記憶をこいつの頭から抹消してやりたかった。こんな奴の前で涙を見せることが途方もない屈辱でした。
こいつは女神などではありません。
力に溺れた、ただの化物です。
「お前は女神等ではない! 血の味を覚えたケダモノだ!」
私は駆け出します。小さな手の平を――握った拳にありったけの力をこめて。
「はぁ!? この私とやり合うってのぉー?」
女神はやれやれ、と肩をすくめながらため息をついています。虫ケラでも踏み潰すかのよう無造作な動きで腕を振り上げて、
「こちとら多忙の身なんでね。子供の遊びには付き合ってらんないのよぉ。だ・か・ら――」
女神の腕に光の粒子が集束していきます。信じられない量のエネルギーが集まっているのでしょう。それは周囲の空間をねじ曲げてしまうほどの莫大な量でした。
やがて女は腕を振りかざし――超高密度の衝撃波を解き放っていきます。
「――あの世で遊んでなぁっ!」
目もくらむような膨大なエネルギー波が私めがけて飛んでいきます。私がそう視認したときには、全てを飲み込んでしまう程の光がすぐそこまで迫っていました。手で身体をかばうヒマさえありません。
私の身体が塵に還るかと思われたそのとき――
「プロセッサ・ユニット装着――……」
それをかき消すほどの光が、私の身体を覆っていったかと思うと――エネルギー波は跡かたもなく霧散していきました。全てを無に帰すような光の中から、私が姿を現したとき――
私の身体を覆っているのは、プロセッサユニットと呼ばれる女神専用の武装でした。
美しい装甲でした。
水晶のように透き通っていて、光さえも吸収してしまうような純白の鎧が私の身体を覆い隠していました。背部には白い翼が生えていて、天使のような神々しさがそこには顕現していたのです。
「なっ、女神化だと!? ちょっ、そんなの全然聞いてないんですけどぉ!」
女神は瞠目しています。無理もないでしょう。無傷どころか、自分と同等の力を持つモノがそこに現れたことに素直に驚きを隠せないようです。
私は挑発するように手招きをします。
「さあ、私と遊びましょう! あの世でみんなに土下座させてやる!」
女神の顔が耐えがたい屈辱で歪みました。
同胞の未知なる力への恐れと、さっきまで舐め切っていた無抵抗の少女への怒りが激しく葛藤しあっているのでしょう。やがて、わなわなと顔をひきつらせながら、
「生意気なんだよ。この、クソガキがぁぁぁぁぁぁっ!」
女神が怒り狂った叫び声を上げて、飛びかかってきました。
私はそれを迎撃するべく、大地を蹴りました。
手の平を握りしめながら自分の中に流れる力――女神としての力の奔流を実感。
こいつめがけて拳を全力で振りかぶり――
そして、己の持てる全ての力を解放しました。
力と力がぶつかり合い、まったき光が炸裂しました。爆発が広がり、全てを飲み込んでいきます。まるで、世界の終わりを告げるかのような轟音が鳴り響いて――やがてはそれも尾を引き、消え去ります。
こうして、世界は終焉を迎えたのです。
美しいモノも、醜いモノも――
全て、虚無へと還ったのでした。
※神次元ゲイムネプテューヌVを舞台とした作品です。一応、mk2とも関連性がある感じなので、mk2を知ってる人はもっと楽しめるかもしれません。