それは原作において脇役でありながら妙な存在感を放つとある男の物語……
海 軍
達筆な文字で大きくそう書かれている巨大な白き城壁。
三日月形の島の湾内には数多の軍艦が並んでおり、見るものすべてに重厚な威圧感を与えてくる。
そう、こここそは数百年の長きにわたり全世界の平和を守り続ける正義の要塞。
海軍本部、マリンフォードである。
「よく来てくれた、諸君。我ら海軍は君たちの入隊を歓迎する」
海軍の制服を身に纏った将校らしき人物が、目の前に整列する集団にそう告げる。
「諸君らも知っていると思うが、ここ数年で世界の状況は大きく変わった」
大海賊時代――――のちにそう呼ばれることになる海賊王ゴール・D・ロジャーの処刑をきっかけに幕を上げた騒乱の時代。
むろん海軍も手をこまねいて見ていたわけではないが、雨後の筍のように次々と現れてくる海賊たちのすべてを捕縛するにはとても手が足りず、結果として海は荒れ、今まさに世界から平和が失われようとしていた。
「我らの仕事は決して楽ではない」
「死ぬこともあるだろう、再起不能となることもあるだろう」
「――――命を懸けて守った人々に、なぜもっと早く来てくれなかったのかと罵声を浴びせられることもあるだろう」
「それらすべてを承知の上でなお海兵となる道を選んでくれた諸君らに、敬意を表するとともに、深く感謝しよう」
帽子をとって深々と一礼する将校。
そのまま数秒頭を下げ続けた後、体を起こすと帽子をかぶり直し
「ではこれからともに戦う仲間として、一人ずつ前に出て自己紹介をしてもらおうか」
まずはそちらの端にいる君からだ――――と、こちらに視線を合わせて言ってくる。
それに対しわかりました、と返答し集団の前へと進む。
大勢の視線が自分に集中する、もはや物理的な圧力すら伴ってそうなそれに怯むことなく、前を見据えて口を開いた。
「俺の名は――――」
◆
《十数年前》
転生した先がワンピースの世界だと気づいたのは、物心ついてすぐのことだった。
なにせ海軍がどうの海賊がどうの、
これでワンピースの世界じゃなかったらいったいなんなのだという話である。
だが、よくよく情報を集めてみると、どうやら自分が生まれたのは原作よりだいぶ前の時間軸らしいことがわかった。
ゴール・D・ロジャーはまだ処刑されていないどころか海賊王とも呼ばれていないらしい。
昔のことなので詳しい時系列を覚えているわけではないが、ロジャーが海賊王と呼ばれるようになったのは
そして処刑後に主人公の義兄であるエースが生まれていたはずだ。
エースは確か二十歳かそこらだったと思うので、つまり今は少なくとも原作が始まる二十年以上前、あるいはもっと昔かもしれないという訳だ。
「せっかくだし主人公と同じ時代を生きて見たかったが……まあこればっかりはしょうがないか」
残念ではあるが、逆に考えれば原作で語られていなかった過去の出来事をリアルタイムで観戦出来るかもしれない。
そう思えば悪いことばかりでもないだろう。
「何年後なのかわからないけど、取り合えずロジャーの処刑は見にいきたいよな……」
大海賊時代の引き金を引いたあのセリフ、どうせならばぜひ直に聞いてみたい。
そのためにも当面の目標はローグタウンまで行く手段と資金の確保だな。
あとは道中で海賊に襲われても自衛ぐらいは出来るように修業をしておかないと……いや、覇気のように意志の力が重要な意味を持つ世界だしどうせなら目標は高い方が良いか。
うむ、ここは目指せ海軍大将、いや四皇、いやいやそれすら倒せるような世界最強!としておこう。
出来るかどうかじゃない、やるかどうかだ!ってどこかのだれかも言ってたしな。
◆
それからしばらくの間は特筆するようなことはなかった。
賞金首を倒して金策をしながら修行を続ける毎日。
原作で語られていたやり方で覇気の修業も行う。
最初は上手くいかなかったが、近頃はなんとなくそれらしきことが出来るようになってきた。
そんなことを生活をしていると、ある日ニュース・クーが号外を運んできた。
『海賊王』ゴール・D・ロジャーが
そうか、もうそんな時期だったのか。
つまり、あと2年もしないうちにロジャーが……。
心が熱く燃えているような、あるいは静かに冷えていくようなよくわからない気持ちを胸に、俺はローグタウンへ旅立つ準備を始めた。
――――時代のうねりが、すぐそこまで迫っていた。
◆
ロジャーが処刑された。
海賊王と呼ばれた男の死は、自分を含め、あの場に居た全員に何かを残したように思う。
◆
あれから1カ月が経った。
海では今も海賊たちが暴れている。
次の海賊王に最も近いと目される四十八皇を筆頭に大海賊たちの勢力争いも激化しており、海軍も必死に対処しているが間に合っていないようだ。
……うん、四十八皇である。
もう一度言おう、
四 十 八 皇 で あ る 。
ロジャーの死後、
本来の四皇を知る身からすれば
……それにしたって48人はいくらなんでも多過ぎると思うが。
まあ数が増えた分、平均的な質は落ちているはずだし海軍だって無能ではない。
原作開始前にある程度は減るだろうからあまり気にしないようにしよう。
◆
さらに4年が経った。
あれから四十八皇は五十六皇にまで増えていた。
…………なんで????
いや理屈はわかる。
主人公のルフィたちだって2年間みっちり修行することで別人のような強さを手に入れたのだから、その倍も時間があれば新たな大海賊が生まれるのは仕方ない。
数が減らないのも、原作の四皇同様に下手にどこかの勢力に手を出して疲弊したところを狙われないよう、四十八皇の中では小物の方にも迂闊に手を出せないのだろう……と思っていたら、これは半分当たりで半分外れだった。
以前に平均的な質は原作より落ちているはず、と推測したがどうやらこれが間違いだったようで。
「立場が人を作る」などという言葉もあるが、四十八皇に選ばれた海賊たちはそれに相応しくあろうと努力した結果、大きく実力を伸ばしていたらしい。
そうして名に実が伴ってくると傘下に入る海賊も増えてくるわけで、どこもかしこも原作四皇並みの勢力を築いているのだとか。
だがそうなってくると割を食うのは海軍である。
長い物には巻かれよというが、海軍不利と見て海賊に転向する海兵が出てきたり、そもそも海軍に入ろうとする実力者自体がだんだん減ってきている。
名を上げるなら海賊になった方が手っ取り早いし、先の見えない組織に入りたいと思う人間は少ないのだろう。
その結果、さらに海軍の力が弱まり海賊がのさばるという悪循環である。
この分だとさらに皇の数が増えそうだ。
多分、原作開始時点で六十皇はいくんじゃなかろうか。
……そう、誰かがこの状況を変えない限り――――
◆
《時は戻り、現在》
「俺の名は、ヒグマ」
大きく息を吸い込み、世界に対し宣言する。
――――五十六皇殺しになる男だ
◆
これは、のちに『世界の守護者』と呼ばれることになる歴代最強の海軍大将――『五十六皇殺し』緋熊の物語である。
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* + うそです
n ∧_∧ n
+ (ヨ(*´∀`)E)
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