私は俗に彼らが呼ぶところの【街】という存在だ。
彼らを見つめてどのぐらい経つのだろうか。
あの山から見下ろされ、この名前で呼ばれ、どのぐらい経つのだろうか。
彼らの喋る言葉が、彼らの服装が、彼らの仕事が、彼らの価値観が変わるのを私はずっと眺めてきた。
私の上を移動する彼らの手段が徒歩から馬へ、馬から自動車や電車に変わるのを眺めてきた。
そして彼らが産まれてくるのを、骸となり埋葬されるのを幾万幾億と見守ってきた。
-ここ最近よく【戦争】というものが起きるそうだ。
その度に何人もの彼らが電車に乗り私から離れていく。
しばらくすると、彼らを乗せた電車が戻って来るが、出ていく彼らの数と何度数えても合わない。
私にはそれが不思議でたまらない。
【戦争】とは、かつて起きていた【戦】や【革命】と呼ばれる物に近いそうだ。
彼らがお互いを傷つけ、そして自分の考えを通す。そういうもののようだ。
私にはそれが理解出来ない。
しかし、【戦】や【革命】の時には骸となっても私の元に戻っては来ていた。もしかしたら、彼らは骸への価値観すら変えたというのか。
彼らは、時が経てば経つほど理解し難くまるで別の生き物のようになってしまったようだ。
いつも私を見下ろしている小憎たらしい山の向こうから大きな鳥がこちらへ飛んでくる。
そういえば、この山も随分ハゲた物だ。
鳥をよく見ると中には彼らの仲間が乗っているようだ。遂に彼らは空すら移動手段のひとつに加えたようだ。
そうなると、彼らの事だからここから遠く離れた【海】さえも上手く移動しているのだろう。
久々に彼らに感心をしていると、私の上にいる彼らが騒がしい。大きな鳥に向かい鉄の塊を放つ。
何発か受けた鳥はそのまま爆発四散する。
歓喜の声を上げる私の上の彼ら。
しかし、その声をかき消すようにハゲ頭の向こうから大量の鳥が音を掻き鳴らしこちらへ向かってきた。
そうして、その鳥から落とされたそれは彼らの頭上と私の体へ降り注いだのだ。
あの日爆炎の中に消えていった、今は亡き故郷を想い筆を走らせていたわたしは筆を置くと、大きく息をした。
いつもの癖で遠くでぼんやりとしている山を見つめる。
いや、山のもっと向こう。
今はもう何も無い見えるはずのない、我が故郷を見つめていた。
この、爆煙の中では残らないであろう故郷の物語と、何年経っても終わらない戦争を呪った最後の一文を付け加えわたしは倒れ伏した。
人は同じ過ちを幾度も繰り返す。過ちを正そうとする者は何も残せないからだ。本当に人という物が理解出来ない。
実際の事件や歴史等には一切関係ございません。
特に思想もございません。