GATE -代行者 彼の地にて、斯く戦えり-   作:まぬる

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 どうもです!
 ここの主人公はアホの子ですが、初回は特にいろんな喜びからめっちゃくちゃアホになってます!暖かく見守ってあげてください!


#1 狩人、日本へ立つ

 私は『狩人』であり、そしてあの地にて『代行者』としての使命を見つけた。

 

 

 

 獣の病が蔓延し、数多の者たちが斃れるあの地にて、生きた者、死した者から武器を賜り、彼らに代わってその意思を果たす代行者として。

 

 

 

 ある時は教会の剣として、ある時は穢れた血族の眷属として、ある時は虫潰しの連盟として、ある時は地底の探究者として。

 

 

 

 しかしその先に一切の救いはなかった。

 

 

 

 幾度義足の老人に介錯され、幾度その彼を殺し、その先に待つ青ざめた血を狩ろうとも獣狩りの夜が明けることはなかった。

 

 

 

 気づけば私は部屋の中にあり、再び獣を狩り、神殺しを遂行するのだ。

 

 

 

 

 ならば、私は狩りに身を投じよう。

 私自身を忘れさり、私の前で斃れていった者達の意志を継ぎ、狩りを続けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、月の獣よ」

 

 

 

 

 

 

 何百回目か、最後の神を下した。

 用いていたノコギリ鉈同様に、黒の狩装束も血に塗れている。ああ、これぞまさに私が生きる証。

 

 同時に私の意識は暗転し、いつもの屋根と老人の顔が現れる───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───いや、違う? 

 

 

 

 

 

 私は戸惑った。

 いつも通り(…………)ならば私は再び血の治療を受け、獣を跳ね除けて狩人として生まれる筈だった。

 

 だが、今回は違う。

 

 

 背中の感触は木製の診療台のものではない。硬く、ゴツゴツとしていて、熱い石の床のようだ。

 周囲には見たこともない材質で作られた長方形の城のようなものが大量にある。

 そこらを歩くさまざまなデザインの服を身につけた者達には狂っている者は一切なく、私に好機の目を向けたり、珍妙な板をこちらへ向けたりしている。

 

 

 そして何よりも……

 

 

 

「ああ、太陽。長らく隠れていた陽の光がこんなにも……」

 

 

 

 明けぬ獣狩りの夜には決して見ることも叶わなかった太陽が、私の眼前で燦然と輝いていた。

 ああ、ああ、ああ、太陽、太陽だ。太陽なのだ。

 

 

「夜は明けた……我が太陽が輝いているのだ……」

 

 

 硬い石から体を起こすことも忘れ、太陽を掴もうと左手を掲げる。

 当然届く訳もないが、それでも掌に当たる優しい熱が嬉しくて堪らないのだ。

 

 

「ハハッ、ハハハッ、太陽万歳……」

 

 

 それ(……)は我らの上に輝く巨大な火の玉を讃える言葉だった。

 確かいつだか出会った別の夜の狩人が、また別の世界でとある男に聞いた言葉らしい。

 私は何百、何千、もしや何万年もの夜を超えて陽の光を得て、ようやくその信仰を知った。

 ああ、なんと素晴らしいものか……

 

 

 

「お兄さん、ちょっといいかな?」

 

 

 

 不意にかけられた言葉に返す余裕などない。太陽、太陽が目の前にあるというのに、つまらない言葉に耳を傾けるほどの余裕は私にはない。

 

 

 

「こんなとこでそんな服装で寝っ転がって、何してるの? ねえ、お兄さん」

 

 

 

 しかしその男はあまりにもしつこく絡んでくる。剰え太陽を遮るように私の上を覆い、肩を揺すってくる。なんなのだ。この男は。

 

 

 

「手を離してそこを退け。我が神たる太陽がようやく姿を見せたのだ。今は彼に祈る以外のことは必要ない」

「ようやく姿を見せたって言ったって……ここ数日は夏らしくずっと晴れだし、日食なんてのも起きてないよ? それよりもさ、なんでここに倒れてるのか事情を聞かせてくれない?」

「いや、むしろ貴公はあの太陽に祈らぬのか? ついぞ獣狩りの夜が明け、太陽がこの地を照らしているのだぞ? 宴の準備をするのだ。全ての人間で夜明けを祝う祭りを執り行う必要すらあろう」

 

 

 

 それほどまでに、あの太陽は有難い存在だと言うのに。

 私に話しかけてきた青い服を着た男は訳がわからないと言った顔をしているが、訳がわからないのは私の方だ。

 

 

 ……いや、この男近接武器は手にしていないが銃を腰に携えている……? 

 ……ハッ! もしやこの男も狩人の1人だと言うのか!? あの獣狩りの夜を超えても尚喜びに体を震わせることなく、次の夜へと牙を磨く強者だとでも言うのか!? 纏う雰囲気は常人と変わらぬが、あの夜には自らの強さを隠して動く狩人もいた! なんと言うことだ。私は夜明けと同時にこのように屈強な狩人と見えることができるとは! 

 

 

「そうか! 貴公も狩人か! その見たこともない服、随分と仕立てが良いが、名家の出でありながら義憤に駆られ獣狩りを遂行したのか? それともそんな者から衣を預かり代行者として戦ったのか? いずれにしても素晴らしいことだ! 私は尚更宴を行いたくなったぞ! さあ、まずは名を聞かせてくれ!」

 

 

 私の言葉を聞いた彼は、さらに訳がわからないと言った具合で目を瞬かせる。ほう、全てを忘れ白痴に堕ちた上で獣狩りに参じたということか!? なんと、なんと優れた狩人なのだ! 人は失うだけ得る。その点で言えば彼は凄まじい力を得たことだろう! 

 

 

「ああすまない! 名を名乗るならば私からが礼儀であった! ……と言っても、数々の夜のために私は自身の名すら忘れてしまったのだ……故に、私はただ自分を代行者と呼ぶ! 貴公もそう呼ぶといい!」

「え、ああ……私は佐藤だよ。とりあえず、一緒に署まで来てくれるかな?」

「"しょ"というのがどこかは知らぬが、構わないとも! 顔を合わせる機会はなかったやもしれんが、我らはすでに獣狩りという目的のもとに戦った戦友! 友の頼みとあらば代行者の名にかけてどこへでも駆けつけよう!」

 

 

 

 サトウ、と名乗った彼についていこうとしたとき……遠くから凄まじい叫び声と足を踏み鳴らす音が聞こえた。姿を見ずともわかる。軍勢だ。

 

 

「なっ、何が起こってるんだ!?」

「……サトウよ、どうやらこれは夜明けを喜ぶ声ではないらしい。なれば、この地に侵攻する敵どもと受け取るのが道理だろう。貴公は主なる獲物を持っていないようだが、その腰に下げているものは銃であろう。戦友を不完全な武装で敵と対峙させるのは気が引ける。ここは私が奴らと戦い、貴公が一般の民を逃すというのはどうだ? 私が心配か? 何任せろ。私は幾億の夜を超えた身。問題はないさ。ではそちらは頼むぞ!」

 

 

 戦友と別れ、声の方角へ向かう。しかし見れば見るほど不思議な建物達だ。もしや私は世界から隔離されてあの夜を過ごしていたのか? ならばこの変化も頷けるというもの。そう考えるとサトウが狩人と断定したのも早計だったか……? 

 いや、逆にここまで栄え、そこらをいく民達が短刀の一つも持たぬ時代に銃を持っていたのなら、間違いなく狩人の類いであろう。

 

 

 そうしてようやく敵の声のもとへと辿り着いた私が目にしたのは、数多の人間と異形達の軍勢だった。

 人間の方は言うところもなく、ただの人間だ。しかし随分と古めかしい鎧を着ているものだ。

 異形の方はと言うと、形は様々だが、私の見たことがある異形はおそらく含まれていなかった。獣狩りの夜にいた異形はどれも悍しく、啓蒙的な化け物達だったが、ここにいる奴らはまるで御伽話に出てくるような、随分と優しい見た目だ。

 

 

 

「兵どもよ! 何を道理にこの地へ侵攻する! 答えよ!」

 

 

 ノコギリ鉈を掲げ、叫んだ私を見て兵どもの間に困惑が伝播していくのがわかる。しかしやがて"侵攻"と結論を出したようで、私の解さぬ言葉を叫びながら歩みを進めてくる。

 

 

「そうか、それが答えか! ならば代行者の名とその意思を知れ! 私はこの地を守る者の意思を代行し、貴公らを討ち滅ぼさん!」

 

 

 ノコギリ鉈は獣狩りに優れた武器だ。名の通り、ノコギリのようにギザギザとしていて、そして曲刀のように円を描くような刃を持ち、折り畳んだ状態と開いた状態とで使用できる。

 多数を相手取る今回、選ぶべきは後者だ。ストッパーを外し、鉈を振るうと金属音と共に火花が散り、ノコギリ鉈は人の半身を超える程度の大きさへと変貌する。

 

 右手には鉈、左手には銃。狩人としてこれ以上ないほどに模範的な姿であろう。

 

 

「ハッハッハッ!」

 

 

 敵の軍勢に突っ込み、ソレを振るう。肉が切れ、骨が砕ける感触。そして私の手により命を奪う感覚。

 ああ、ああ、堪らない。獣狩りだ。獣狩りの感覚だ。

 

 

 敵の兵士が罵声と共に私の肩を槍でもって貫くが、蹴りによってその槍を半ばほどから破壊し、同時に左手に持つ散弾銃での射撃を見舞う。半分ほどは兜に塞がれてしまうが、その隙間から侵入した礫は確かに奴の顔面に新たな穴をこさえた。

 

 

 そして不思議なことに、肩に空いた穴が勝手に塞がっていくのだ。

 本来ならば狩人は輸血液を用いるか、敵の血を浴びることで自らの傷を回復させることができる。しかしこれは血が人体に働きかけるためではなく、狩人が血を得ると同時に生きている実感をも得るためだと言われる。

 生きている実感……そうか、太陽だ! 太陽が私に生を感じさせているのだ! 

 

 

「なんということか! 太陽は私の前に再び姿を表すだけでなく、この私に加護すら与えてみせるとは! そうか、これが太陽信仰というものなのか!」

 

 

 狩人としての力だけでなく、太陽の加護すら得た私は最早何者にも止められはしない。眼前の敵を切り、撃ち、数え切れぬ程の血を浴びる。人ならば切り裂き、小さき異形は踏み砕き、一際巨大な異形と対峙すれば足元を攻め、膝をついた時にすかさず腹を貫き、内臓を抜き取るのだ。

 

 

 しかしその時、私は空を覆う異形に気がついた。龍、あれは飛龍だ。背に槍持ちの兵士が跨っているところを見ると、どうやら馬のように扱っているらしい。

 

 

「そんなに美しい龍を乗り物扱いとは! なんと贅沢なことか!」

 

 

 なんとかして龍を殺さず兵士だけを殺して奪い取ることができないものか。散弾銃では龍を傷つけてしまうやも知れない。かと言って、この敵の軍勢の中で精密な銃を取り出して狙いをつける暇もないだろう。

 

 

「ならば秘儀だ!」

 

 

 秘儀ならば記憶の中のものを引き摺り出すだけで行使できる。手始めに私は『獣の咆哮』により周囲の敵を吹き飛ばし、次に騎兵に向けて『エーブリエタースの先触れ』を放つ。数本の触手を召喚して敵をなぎ倒すこれは、召喚者の技量によってはある程度精密なコントロールも効く。私の狙い通り騎兵をなぎ倒した触手は、龍を絡め取ると私の目の前まで引き摺り下ろしてくる。

 

 

「ハッハッハッ! 竜に挑むは騎士の誉れと言っていた別次元の狩人もいたが、ならば竜に跨るはそれ以上の誉れだろうな!」

 

 

 飛龍に跨り、手綱を引くと同時に触手から解放すると、龍は瞬く間に敵の頭上へ舞い上がって見せた。この龍には主人を選ぶだけの知能がないのか、あるいは敵兵を主人と認めていなかったのか、素直に私の手綱に従ってくれるようだ。

 そして敵の頭上にいるのならばするべきことは面制圧。即座に油壺と火炎瓶を取り出し、眼下の異形どもを火だるまへと変えてやる。

 たったそれだけでこの小隊は全滅してしまったようで、足を得た私は次なる獲物を求めて移動を始めた。

 

 

「しかし、見れば見るほどに凄まじい進化を遂げているものだ。そこらの建物一つ一つが城に匹敵するほどの巨大さに美しさ、精巧さを備えている」

 

 

 もう一つの小隊を見つけ、皆殺しにしてやろうと降下を始めるよりも前に、1人の男が敵兵を拘束し、敵の落とした武器を拾ってとどめを刺して見せた。近くにあるサトウと同じ服を着た男を庇っての行動だ。なんと素晴らしいことか。

 堪らず私は彼のそばに飛龍を下ろして話しかける。

 

 

「貴公! 貴公も相当の狩人だな! 私は代行者、貴公は何という名だ?」

「えっ!? お、俺は伊丹だけど……」

 

 表面だけを見れば覇気のない男だが。先程兵士を倒した時の身のこなしを見るに、十分な実力を持った狩人と見受ける。全くこの地には爪を隠すものばかりだ! 

 

「そうか、イタミというのか! まずは我が友、サトウの関係者を庇った行動に感謝と尊敬の意を示そう! そしてイタミよ、この敵兵を滅ぼすのに力を貸してくれ!」

「いや、滅ぼすよりも一般人を避難させるのが先だ! あんた、その龍を扱えるんだろ? 空から皇居へ避難するように呼びかけてくれないか?」

「ほう、狩りの喜びよりも民の身を優先するか! それもまた優れた狩人だ! よし、私も協力しよう! "コウキョ"とやらに民を誘導すれば良いのだな?」

「ああ! ただあんただけだと怪しまれるかも知れないから、自衛隊からの指示だとも伝えてくれ!」

「あいわかった!」

 

 狩人を背に、手綱を取り再び空へ踊り出す。建物よりも高く、すべてを見下ろせる高さから全体を見定め、小隊に襲われている民を見つければ降下し、敵を食い止めながらコウキョへの避難を指示する。ジエイタイとやらの名前を告げることも忘れない。

 しかし、ジエイタイとやらは随分と信頼されているようだ。私の姿を見て訝しんだものも、危機に追われていることもあってかジエイタイの名を聞くと納得してくれるのだ。

 

 

 

 

 そして敵へのちょっとした制圧や、民への誘導を一頻り済ませ、私もコウキョへ向かう民を追って飛龍を急がせる。当然私がコウキョの場所など知るわけもないが、民を避難させられる程度の広さと強固な防衛を持つ場所は、空から確認しても一箇所のみだ。

 

 

 

 巨大な異形の持つ木槌によって攻撃されている外側の門を超えると、そこには先程別れたサトウやイタミがおり、今まさに内側の門が開き民が避難するところであった。

 

 

「おお、サトウにイタミよ! 無事だったか! どうやら民の避難にも問題は無さそうだな!」

「あっ、代行者さん! そっちもどうやら変わらないようで!」

「うわっ、龍に乗ってる……」

「少しばかり拝借してな! 意外と素直なものだぞ!」

 

 

 背から降りるついでに、龍の喉をかいてやると気持ち良さそうな声を上げた。ほほう、どうやらこいつは私が気に入ったらしい。龍に跨る狩人などというのもいいだろう。

 

「して、門外の奴らはどう片付ける?」

「もうすぐに増援が来るそうだ……ほら、あれだ!」

 

 

 イタミが指差した先を見た私は、言葉を失った。

 何と、何ということだ。鳥などではない。飛龍とも違う。あり得ないことに、珍妙な形をした箱が空を飛んでいるのだ。鉄の箱はすぐに、下部から光と轟音を放ち始める。あれは私でもわかる。デュラの仲間の狩人が用いていたガトリング銃と酷似しているのだ。

 

「なんと! あれは素晴らしいな! 飛龍よ、私を門の上まで連れて行ってくれ!」

 

 しかしその威力や連射力はくらぶべくもない。その証拠と言わんばかりに、私が跨るそれよりも一回り巨大な飛龍はズタボロになって地面へ堕ちた。

 私はその勇姿をもっと近くで見たい。しかしこの龍に跨って飛び上がれば今度は私が狙わられるのがオチだ。ならばと妥協して、門の上で鑑賞することにしよう。

 

 

「おお……なんということだ……アレほどの軍勢が赤子の手を捻るように滅ぼされていく……」

 

 

 その上で見た光景は凄まじいものだった。砂煙を巻き上げながら走る馬無しの馬車。敵の鎧どころか盾も貫通するような巨大な銃。陣形を整えて射撃を行う者たち。

 戦力差は歴然。敵兵は瞬く間に数を減らし、撤退を選択した僅かな兵を残してこの場に残ったものは死体か捕虜となったようだ。

 

 

「おーい!! イタミ!! サトウ!! 私はあの捕虜を追うこととする!! 僅かな間ではあったが、貴公らと共闘できて嬉しかったぞー!!」

 

 

 戦友達に大声で告げ、飛龍を操って逃げ帰る者達を追う。

 しかし、見たところここは国境沿いでも紛争地域でもない。どうしてあそこまで大規模な兵を送り込めたのだろうか? 

 

 

 

 しかしその疑問は、直後に私が目にした光景で解決されることになるのであった。


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